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第五話 竜を討伐せし者

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「……」

 わざわざ嫌な言い方をする。
 まぁ十中八九、王都での噂を耳にしたヤツだろうな。
 屈強な体つきの男は、大剣を携えている。
 パーティでも前衛を担っているのだろう。

「なんだ、図星で声もでねぇのか?」

 さて、どう返す。
 俺はどう言われてもいいんだが、仮にこの噂が領内中に広まった場合。
 そんなエセ魔導師を雇っているデュナメリ家、という構図ができてしまう。

 かと言って強く言い返せばプライドの高い者なら激高するかもしれない。
 面倒だ。

「……いや。初対面でいきなりそう言われたのでは、誰でも驚くだろう」
「あーぁ、なるほどな? Aランクパーティのおこぼれにあずかっていたお前にゃ、Bランクであるおれのことなんざ知らねぇのも無理はないってもんだなぁ?」

 おこぼれ……ねぇ。
 見守る聴衆の中には、徐々に俺へ疑念の眼を向ける者も現れる。

 赤髪をヘアバンドで逆立てた男は、どうやら名のある冒険者らしい。
 俺にとって冒険者とは、あいつらが全てだったからな……。
 正直、他の冒険者のことはあまり知らない。
 だがBランクということは、相当な腕の持ち主だろう。
 そいつが王都の噂話を言うんだ。周りが信じるのも無理はない。

「俺のことはどう言ってもらってもかまわない。
 だが、『魔導師』の称号は間違いなく国王陛下から直接たまわった。
 ……その名を愚弄ぐろうすることだけは、やめてもらえるとありがたい」
「──チッ」

 男が嫌がりそうなところを突けば、やはりそれ以上の罵倒ばとうはなくなった。
 一歩間違えれば不敬にあたる発言だからな。
 不満そうに大きな足音を鳴らしながら、取り巻きと共に去っていく。

「あ、あのぉ~」
「すまない。……それで、依頼は受け付けてもらえるのか?」
「は、はいっ」

 受付済みの依頼書を返してもらうと、資料室へと向かう。
 すれ違う冒険者たちからは、好奇の目にさらされた。
 俺はいいが、……デュナメリ家の者に迷惑をかける訳にはいかないな。
 どこかのタイミングで高ランクの依頼を受けるべきか……。

 簡易的な図書館、ともいえるスペースには冒険者にとって役立つ本の並んだ本棚がいくつかと、中央には机と椅子が並べられていた。
 机と椅子を囲うように並べられた本棚は、棚ごとに分類されているようだ。

 植生と地形についての本棚より目当ての本を抜き取ると、中央の閲覧スペースで中身を確認する。

「……なるほど。ソードプラントがいるわけか」

 植物型の魔物。
 オスは蔓や葉を鋭い剣のように見立てて切りかかり、メスは体が小さい代わりに風魔法を使う。
 風舞かぜまいの花が咲く土地との魔力の親和性が高いのだろう。

 たしかにこの魔物が出るのならば、Cランク相当で間違いない。
 まぁ、俺には関係ないが。

 調べた内容を頭に入れ、本を元の位置に戻そうと立ち上がると、

「──なぁ、」

 机を挟んで向かい側より声を掛けられる。

「? なんだ」
「あ、あんた……ほんとうにあの、魔導師モルドなのか?」
「まぁ」
「! た、頼む!! 俺もその依頼、一緒に行かせてくれ!」
「? ……なぜだ?」

 ここで理由も聞かずにイエス、と答えるほど俺は他人に甘くはない。
 まして、元のパーティのことを思えばなおさらだ。
 この依頼を狙っていた冒険者の一人だろうか。

「あんたは、この街に来たばかりで知らないかもしれないが……。
 最近は風舞の花も数が採れなくなってきていて、希少なんだ。その、魔物がいるってのもあるが……」
「やはり、精霊の箱庭に咲いているんだな」
「! さすがだな、その通りだ」

 精霊の箱庭。
 精霊が気に入った花や場所、物なんかを、人と精霊との魔力感知能力の差を使って隠している状態のことだ。
 今回の場合だと、風舞の花の群生地には居ついている精霊がいて、人の目から隠すように花たちを魔力のヴェールで覆っているのだろう。

 しかし、すべての風舞の花を隠すほどの精霊がいるとは思えない。
 根気よく探せば見つかるとは思うのだが。
 やはり、そこは魔物のせいなのだろう。

「報酬は要らない、俺は、その花さえあればいい!」
「……」

 何か裏があるのだろうか。
 先ほどあんな現場を見たばかりだと言うのに、だ。
 あの赤髪の剣士の取り巻きでないとも限らない。
 さてどうするか。

「……」
「……」

 ずいぶん、必死な眼だ。

「…………はぁ。自分の身は自分で守ってくれよ」
「!? あ、ありがとう! 恩に着る! えっと」
「モルドランだ。モルドでいい」
「ギースだ、よろしく頼む!」

 改めて青年を見れば、短髪の柔和な顔つきをした男だった。
 腰には片手剣を携えている。

「それで? 見たところ剣を使うようだが」
「あ、……その……」
「魔法は得意ではないわけだな」
「す、すまん」
「いや、いい。それより、精霊の箱庭を看破かんぱできる使い手はみな王都に行っているのか?」
「そうだな。あっちは魔法学校もあるし、国境警備の魔法師たちは冒険者に指南するような暇もないだろうし……」
「ふむ」

 なるほど、もしかすると俺がここに呼ばれたのは、そういった経緯があるからか?
 領主は領内視察で屋敷を空けることも多い。
 俺はあくまでレイクに付くことになっているから、領主と会う機会もない。
 なかなかちゃんとした理由が聞けずにいたが、次に会う機会があれば聞いてみよう。

「すぐ発てるか?」
「あぁ!」
「では行こう」

 さすがは冒険者。
 条件の合う魔法師がいればいつでも発てるよう準備はしていたのだろう。

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