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第四話 領都サンロゼ
しおりを挟む「……デカいな」
壁に囲われた街の入り口から、門と奥に広がる街を見上げる。
広いし、デカい。
なんというか、前世ほどの高層ビルはもちろんないにしろ、他の街と比べて高い建物が多くある。都会の証拠だな。辺境とは言え、領都はしっかりしているらしい。フローリアの生家がやり手なのだろう。
ウィンドローズ領に到着して最初に案内された街。
屋敷からはそれほど離れておらず、徒歩で来ることができた。だいたい40分ほどくらい歩いただろうか?
屋敷の者が馬車を手配すると言っていたが遠慮しておいた。
領到着後の2日目にギルドや商店が集まる場所を大まかに案内してもらっていたが、時間も限られ馬車の中からだった。
街の入り口には守衛がおり、出入りする冒険者もなかなかにレベルが高そうだ。
……ということは、一定数領内には常に魔物がいるわけだな。
守衛の役割はおもに大きい荷物を持つ商人や武器を持つ人物への職質。
まぁ、商業ギルドの登録か、冒険者登録をしているかの確認だろう。
地元民ぽい、荷物がほとんどない者には声掛けしていない模様。
「────そこの者」
「俺か?」
「そうだ。その外套にローブ、……短剣もあるか。冒険者だな?」
屋敷ではもう少し華やかさのある服を着ているが、今はただの冒険者として街に来ていた。
冒険者スタイルで門をくぐろうとすれば、まぁ声はかけられるよな。
肩と胸辺りを覆う軽めの鎧に身を包んだ守衛の男は、初めて見るであろう俺を怪しんでいる。
「そうだな。……ギルドカードの提示でいいのか?」
「あ、あぁ」
冷たく言ったつもりはないのだが、いかんせん今世の俺は目つきが鋭い。
守衛はどこか気圧されたようにギルドカードを手に取って確認した。
「ふむ……モルドラン・タナシス、────『魔導師』!!??」
「通っていいか?」
「きみ、いや、あっあなたは……!」
「最近用事があって、王都からこっちに来たんだ。しばらく世話になるだろうし、よろしく頼む」
「え、えぇ。あなたが居てくだされば心強いです」
この驚きように、素直な賛辞。
どうやら『あの噂』は知らないようだな。
「では」
「はい、どうぞお通りください」
ふう。
冒険者として名を呼ばれたのはそれほど前ではないはずだが……。
今の俺は『せんせー』にやりがいを感じ、楽しんでいるのだろう。
どこか他人事のように思える。
「ギルドへ行くか」
ウィンドローズ領は肥沃な大地と国境に連なる山脈。山から吹く風、適度な降雨。
主に農作物が特産品として挙げられ、一番有名な薔薇の花がそこら中にあふれている。
店で数種類の彩りをそろえた花束を売っているかと思えば、民家の玄関先には壺に植えられた花々。
前世と違うのは、この世界には魔力があるために季節にかかわらずいろんな種類の花が咲くということだ。
その土地の特産品をゆっくり眺めるなど……。
パーティに居た頃には、そんな余裕なかったな。
「ここだな」
北の入り口から入り、そのまま目抜き通りを進むと中央広場のような大きな場所に出た。
その一角、事前に場所を教えてもらっていたギルドへと到着。
王都ほどではないとはいえ、国内有数の大きなギルドはもちろん多くの冒険者でにぎわっていた。
パっと見で三階建てほどの建物。
人の流れに沿ってすでに開かれている木製の扉をくぐると、中はやはり広かった。
王都と同じく、受付、依頼ボード、待合所に閲覧専用の資料室。
冒険者に必要な機能が一軒にまとまっていた。
──おい、あれ。新人か?
──いや……待てよ、まさかな?
……この街では新顔だからか、やや注目を浴びている。
俺は密やかな声が聞こえるのも無視して、お目当ての依頼ボードを覗き見た。
ランクCと書かれた依頼書には、『風舞の花』という文字と花の絵。その花の特徴と分布地が載っていた。
ふむ。この地域の固有種である『風舞の花』。
簡単にいえば花まで緑色をしたバラだ。
茎や葉には地属性、花びらには風の魔力が豊富に含まれていて、散った花びらは風で遠くの場所まで風の魔力をもたらすことからその名が付いたという。
10本納品か。なら、少し多めに採って自分用のストックとしよう。
にしても、ランクC。
ただの採取にしては、ややランクが高い。危険な場所か、あるいは見付けるには精霊の助けが必要なのだろうか。
場所は資料室で調べるとして、ランクCであれば例え危険があったとしても対処できる。
依頼書を持ったまま、受付の列に並んだ。
「──次の方、どうぞー!」
「これを受けたいんだが」
茶色のショートヘアが似合う、元気な受付の女性に依頼書を提出する。
「えっと、……お一人ですか?」
「そうだが、問題があるか?」
「いえ、そういうわけではないのですが……。
ひとまずギルドカードを拝見しても?」
「ああ」
ギルドカードを素直に渡す。
すると女性の顔は、みるみるうちに驚愕の表情へと変化する。
「っっっっええええええええぇぇぇ!!!???」
う、うるさい……。
「不備があるか? 特にパーティ専用とも書かれていないはずだが」
「とっとっとっ、とんでもない!!!!
まままさか、あなたがあの、『滅竜』の魔導師様だなんて!!!!」
元のパーティ名を受付嬢がバラした瞬間、ギルド内が一瞬静まり、そして火が点いたようにどよめいた。
『滅竜……だと!?』
『ってことは、あの黒いのはモルドランってヤツか?』
『やっぱりな! そうじゃないかと思ったんだ!』
『ってか王都にいるんじゃないのか?』
みな思い思い声を挙げる。
「はぁ、……声がでかい」
「はわ!? す、すみませんっ……」
しかし、やはりというか。
『あの噂』について話す者はいないようだ。
まぁ王都に出入りしている冒険者は、基本的に報酬がウマい王都周辺を根城とするだろうしな。
「────ソイツが、エセ魔導師のモルドラン、……だって?」
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