上 下
3 / 35
第0章

ジョンはドラゴンを知らない

しおりを挟む
「あ。」

森の真ん中でちょこんと三角座りで俯いている俺の名前はジョン、11歳。今俺は魔力無しの穀潰しとして実家を追い出されている。
この世界では家事や仕事に色んな魔法を使う。一部の属性魔法が苦手な人や複雑な魔法の補助のために魔道具も幅広く生み出されているが、それを使うためにも魔力が必要だ。
特に幼い頃から働き手を必要とする田舎において俺は飯代だけかかるゴミ。と全国魔力検査の日から毎日のように両親に詰られていた。
あっという間に噂が広がる村で俺の事情を隠せるはずも、また受け入れてくれるはずもなく、すぐさま村八分にされて路頭に迷っている所だった。

だった。

そう、この瞬間俺は自分の前世を思い出した。俺はかつて日本に住むなにもかも平凡な高校生だったが神の手違いで死んでしまった。
徐々に当時の会話が鮮明になっていく。
そういえば、神様は俺に
「生まれた時から知識無双とかも出来ちゃったりするぞぉ。」
とか言ってなかったか?いや、思い出したの今なんだが。11年のラグはいくらなんでも大きすぎないか。
あの時は知識無双ってなんだろうと思っていたが、今ならわかる。前世の知識があるという事は11歳の子供にとっては大きな利点だ。と、言っても前世だって16年しか生きていないので、専門知識などあるはずもなく……大丈夫かな俺。

とりあえず街に行って魔力無しの子供でもできる仕事を探そう。

脳内を整理し終えたので
立ち上がってぱしぱしとお尻を払い、気を取り直して町を目指すことにした。
それにしても今日の朝は晴天だったはずなのにどうしてこんなに暗いんだ?

まあ、いいか。と思った瞬間俺は恐ろしいことに気づいてしまった。

空は、晴天だ。

俯いていたから気づいていなかったが、暗くなっているのは俺の周りだけ、もっと言うとそれは何かの形をした陰だ。つまり俺の後ろには……

ぎぎぎ、と恐怖に震えながら俺は後ろを振り返る。

そこには、

深い青色の目をした銀色のドラゴンがいた。
奴はじぃ、と俺を見つめている。

田舎育ちで学校に行ったこともない俺がこの世界の常識を知っているはずもない。せいぜい木の切り方や獣の狩り方、そして最低限の家事程度だ。
しかし今の俺は凡太郎の知識がある。おかげでこいつがドラゴンだということを理解できた。やった!知識無双とやら万歳!!!

いや、全然万歳じゃないが?
そもそも前世でドラゴンなんて生き物は架空生物。俺はファンタジー小説をほとんど読んでこなかったのでドラゴンはでかくて空を飛んで火を吹くぞ!ということくらいしか知らない。対処法とかあるのかな?
くそう、こんな事なら同級生のオタクくんこと鳳凰院くんのマシンガンオタトークの内容を真面目に覚えておくんだった。……でもあいついつもツンデレ美少女?の話しかしないから覚えていてもあんまり役に立たないか

「人間。」

うう、終わった。なぁにが知識無双だ、俺はこいつの今日の晩御飯になって終わる、それが運命。

「おい、人間。聞いているのか?」

でももう少し生きていたかったよ。だって16年と11年、あわせて27年しか生きてないんだぜ?やりたいことだって今から見つけるはずだったんだ。

「いい加減に!話を!聞け!!」

低い男性の声が聞こえた、
と思えば突如どぉん、という音とともに俺の真横にドラゴンの腕が振り下ろされ、地面が抉れる。あ、あはは、知ってるぞ俺の妹が言ってた床ドンってやつだ。妹と一緒に恋愛ドラマを見ていた時何度も首を傾げる俺を見て
「お兄にはキュンキュンとか胸がドキドキするって気持ちとかわかんないよねー」
と馬鹿にされた思い出がよみがえる。妹、お兄やっとわかったよ、今めちゃくちゃ胸がドキドキしているんだ。これがキュンキュンって感情なんだな。

「(こいつ、青ざめて怯えていたと思ったら絶望で諦めた表情をして、かと思いきや急に満足気な顔をしている。一体何なのだ。)」

そういえば、腕を振り下ろしたきり動きがないな?もしかすると隙を探せば切り抜ける術があるかもしれない。
俺は勇気を出してもう一度ドラゴンの方を向く。するとドラゴンはさっきと違い物凄く奇妙な生き物を眺める目を俺に向けていた。

「あのう。」

「ようやく我の話を聞く気になったか。」

「えっ、何か話そうとしてたのか?」

「…………………はぁ。」

まずい、隙を探すはずが普通に話しかけちゃったしなんなら向こうはさっきから俺と会話するつもりだったらしい。つまり俺はさっきまでドラゴンをガン無視していた訳で、

「ごめんな?」

「我は今、腹が減っている。縄張りにノコノコやってきた人間に貢物をさせようかと思ったが気が変わった。今日の晩ご飯はヘラヘラした不敬な態度の下等生物にしよう。」

「もうっっっしわけございませんでした!」

俺は流れるようにジャパニーズ最大の謝罪、土下座を繰り出す。今こそ前世の知識を活かす時っ。

「?なぜお前は寝そべっている。さっきから本当におかしな奴だな。」

全然効かなかった!というかドラゴンに土下座とかわかる訳ないのは当たり前だわ俺の馬鹿!

「……まあいい。お前に構っていてもキリがない、我は今夜の獲物を狩ってくる。お前はもう好きにしろ。」

「は、はぃ。」

土下座のポーズを続ける俺を尻目にドラゴンは飛び立って行った。もしかして俺生存成功?
よし、この最大のチャンスを逃す訳にはいかないんだ。まずは立ち上がって……

ぐううううう

突如大きな音が森中に響き渡る。これは何か?そう、これは俺の腹の音。そして最悪の事実に気づいてしまう。

「やばい、お腹空きすぎて全然動けん。」

追放されてから丸一日、俺は全く何も食べていない。それに加えてドラゴンと遭遇する緊張感と命が助かった安心感。その気の緩みから元に戻る事ができるほどの体力や気力がたった11歳の小柄な少年にあるはずがないのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

鬼畜なエロゲ世界にモブ転生!?このままだと鬱ENDらしいので、ヒロイン全員寝取ってハピエン目指します!

ぽんぽこ@書籍発売中!!
ファンタジー
「助けて、このままじゃヒロインに殺される……!!」 気が付いたら俺はエロゲーム世界のモブキャラになっていた。 しかしこのエロゲー、ただヒロインを攻略してエッチなことを楽しむヌルいゲームではない。 主人公の死=世界の崩壊を迎える『ハイスクール・クライシス』というクソゲーだったのだ。 ついでに俺がなっちまったのは、どのルートを選んでも暗殺者であるヒロインたちに殺されるモブキャラクター。このままではゲームオーバーを迎えるのは確定事項。 「俺は諦めねぇぞ……トワりんとのハッピーエンドを見付けるまでは……!!」 モブヒロインの家庭科教師に恋した俺は、彼女との幸せな結末を迎えるルートを探すため、エロゲー特有のアイテムを片手に理不尽な『ハイクラ』世界の攻略をすることにした。 だが、最初のイベントで本来のエロゲー主人公がとんでもないことに……!? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

異種族ちゃんねる

kurobusi
ファンタジー
ありとあらゆる種族が混在する異世界 そんな世界にやっとのことで定められた法律 【異種族交流法】 この法に守られたり振り回されたりする異種族さん達が 少し変わった形で仲間と愚痴を言い合ったり駄弁ったり自慢話を押し付け合ったり そんな場面を切り取った作品です

ブラフマン~疑似転生~

臂りき
ファンタジー
プロメザラ城下、衛兵団小隊長カイムは圧政により腐敗の兆候を見せる街で秘密裏に悪徳組織の摘発のため日夜奮闘していた。 しかし、城内の内通者によってカイムの暗躍は腐敗の根源たる王子の知るところとなる。 あらぬ罪を着せられ、度重なる拷問を受けた末に瀕死状態のまま荒野に捨てられたカイムはただ骸となり朽ち果てる運命を強いられた。 死を目前にして、カイムに呼びかけたのは意思疎通のできる死肉喰(グールー)と、多層世界の危機に際して現出するという生命体<ネクロシグネチャー>だった。  二人の助力により見事「完全なる『死』」を迎えたカイムは、ネクロシグネチャーの技術によって抽出された、<エーテル体>となり、最適な適合者(ドナー)の用意を約束される。  一方、後にカイムの適合者となる男、厨和希(くりやかずき)は、半年前の「事故」により幼馴染を失った精神的ショックから立ち直れずにいた。  漫然と日々を過ごしていた和希の前に突如<ネクロシグネチャー>だと自称する不審な女が現れる。  彼女は和希に有無を言わせることなく、手に持つ謎の液体を彼に注入し、朦朧とする彼に対し意味深な情報を残して去っていく。  ――幼馴染の死は「事故」ではない。何者かの手により確実に殺害された。 意識を取り戻したカイムは新たな肉体に尋常ならざる違和感を抱きつつ、記憶とは異なる世界に馴染もうと再び奮闘する。 「厨」の身体をカイムと共有しながらも意識の奥底に眠る和希は、かつて各国の猛者と渡り合ってきた一兵士カイムの力を借り、「復讐」の鬼と化すのだった。 ~魔王の近況~ 〈魔海域に位置する絶海の孤島レアマナフ。  幽閉された森の奥深く、朽ち果てた世界樹の残骸を前にして魔王サティスは跪き、神々に祈った。  ——どうかすべての弱き者たちに等しく罰(ちから)をお与えください——〉

陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました

夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、 そなたとサミュエルは離縁をし サミュエルは新しい妃を迎えて 世継ぎを作ることとする。」 陛下が夫に出すという条件を 事前に聞かされた事により わたくしの心は粉々に砕けました。 わたくしを愛していないあなたに対して わたくしが出来ることは〇〇だけです…

処理中です...