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幸運の実
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「この実をアーキさんは大量に食べられたのですね?」
メレスさんは念を押すかのように聞いてきた。
「ええ。間違いありません」
僕の幸運は日没寸前にもかかわらず、ボーゲンに薬草を採って来いと無茶ぶりされたのが始まりだ。
僕は暗闇の森の中で薬草を集めようとするが迷子になってしまった。
そして目の前に現れたのがこの七色に光り輝く幸運の実だった。
「この実に幸運を上げる効果があったのか」
どうりで、あれ以来怖いぐらいにつきまくっていたんだな。
父と母を殺したボーゲンに復讐をし、ポーションを作れるようになり、ハイポーションだけではなくエリクサーも作れるようになり、終いには大賢者の弟子にまでなれた。
常識ではありえない程の幸運の大連続だ。
そしてなんといっても大きかったのは、マイカ姉ちゃんに、リサさん、メアリーさん、師匠にホム、そしてシルバーさんたちの、信頼できる仲間が出来たことだ。
「私は予知の大賢者と呼ばれていますが、実は未来の出来事を見ることは出来ず過去に起こったことしか見れないのです。弟子のホレスがアーキさんのもとに向かった時、過去にこの実と同じものを食べた事実と、なぜかここにある実をアーキさんが食べる未来が見えたのです」
どういうことだ?
メレスさんは『幸運の実によってホレスも私もここに引き寄せられた』と悲しい目で呟いた。
「アーキさんは幸運の実を手に入れて幸運が宿りました。でも私には幸運の実を食べる資格はなく、幸運が宿らないどころか不幸の連続が訪れたのです」
メレスさんはさらに悲しそうな目をする。
病弱な母親の為に幸運の実を手に入れることが出来たメリスさん。
喜び勇んで家に戻ると急変するはずのない母親の容態が悪化し亡くなって使う機会を失った。
この実を使おうとするとメレスさんに食べる資格は無いというかのように、必ずと言っていいほど不幸が訪れる。
手放すことも出来ず、まるでこの実がメレスさんの手から離れるのを嫌っているかのように……。
そして不幸は連続し、まるでメレスさんがホレスの父親となる大貴族と結婚するのを導かれるかのように……。
「きっと幸運の実は私とホレスに幸運の実をアーキさんの元に運ばせる使命を授けたのでしょう」
幸運の実とはなんと恐ろしいものなんだろう。
もし、あの木で大量の幸運の実を食べなければこのような不幸が襲ってきたのかもしれない。
いや、ボーゲンに命令されて森に入るよう、幸運の実が僕の父と母を殺した可能性も……。
考えみると全てが幸運の実に操られていた気がしてきた。
メレスさんはホッとした表情を向けてくる。
「私の役目もこれで終わったようです」
そういうとメレスさんはホレスを連れてポータルの先へと消えていった。
*
沈黙に包まれていた重い空気をリサさんが打ち砕く。
「大賢者が怖い話を残して帰って行ったんだけど、これをどうする?」
メアリーさんは僕の袖をつかみながら震えていた。
「あの話を聞いた後だと、アーキ様だけに食べて頂くわけにもいきませんね」
「私とリサでどこか遠い海の底にでも捨ててくるか?」
「いや、さっきの話だと、深海になんて捨てたらポセイドン迷惑そうに持って帰ってきそうな気がするわ」
伝説の海魔神が現れて地上を歩いてくるなんてことになったら、戦争どろこじゃない大騒ぎになる。
マイカ姉ちゃんがとんでもないことを言い出した。
「じゃあ、取っておくのも怖いし、一番頑張った坊ちゃんだけに食べさせるのも悪いしみんなで食うか?」
しかも、その無茶な案にみんな乗り気だ。
「悪いことはみんなで分ければいいとホムは思う」
「アーキ様の為なら、婚約者であるメアリーはこの身を捧げます」
「俺も仲間たちも食ってやるぜ」
「老い先短いわしも弟子の為に食うぞ!」
「じゃあ、みんな、賛成だな。死ぬ気で食えよ!」
「おー!」
「まかせろ!」
みんな……、すまない。
ということで僕が切り分けてみんなに配った。
シルバー空挺団のみんなも食べられるように20個以上に切り分けた。
一口サイズになってしまったのでこれを食べても大きな影響はなさそう。
口にすると……。
「なにこれ? おいしい!」
「じゃりしゃりじゃな」
「この舌触りがとてもいいわね」
みんな大絶賛だ。
それまで黙っていたホムが僕にお願いごとをしてきた。
「アーキ、ホムはその幸運の実の芯が欲しい」
「こんなもの貰っても硬くて食べる場所なんて無いぞ」
「食べるんじゃない。ホムはその芯から種を取り出して育てる」
「え? 育てるの?」
ヤバいような気もするんだけど?
不幸になる実を育てるのってまずくない?
「不幸にならないぐらい食べまくればいい」
たしかにそんな考え方もあるな。
実際僕も食べまくったから不幸にならず幸運を身に宿したんだし。
ホムは芯から種を取り出し庭に蒔いた。
リサさんの特製魔石パウダーも肥料として撒いたことで翌日には幸運の実が実りまくった。
嘘だろ?
早すぎない?
その実からさらに種を取り出して……。
マーリンの隠れ家は幸運の実の一大生産地となったのであった。
ただ、残念なのは幸運の上昇効果は育成地から来てるものらしく世代を経るにしたがって幸運の上昇効果が激減し栽培期間も徐々に長くなっていった。
4世代目ともなると一年に一度しか収穫できない上に、幸運が1だけしか上がらないただの果実になってしまった。
でも、味の方は相変わらず美味しく、バーナリア産の新果実として輸出もされるぐらい人々に受け入れられたのだ。
『幸運の上昇効果が殆どなしの幸運の実』として最初は呼ばれていたけどあまりに長いので気が付いたら『大賢者の果実』やら『幸運のなし』という名称で人々に愛されたのであった。
僕の最悪の人生から、幸運を身に宿し大賢者の弟子になった話はここで終わりだ。
大賢者の弟子になった後の話も機会があればまた語りたいと思う
では、またな。
メレスさんは念を押すかのように聞いてきた。
「ええ。間違いありません」
僕の幸運は日没寸前にもかかわらず、ボーゲンに薬草を採って来いと無茶ぶりされたのが始まりだ。
僕は暗闇の森の中で薬草を集めようとするが迷子になってしまった。
そして目の前に現れたのがこの七色に光り輝く幸運の実だった。
「この実に幸運を上げる効果があったのか」
どうりで、あれ以来怖いぐらいにつきまくっていたんだな。
父と母を殺したボーゲンに復讐をし、ポーションを作れるようになり、ハイポーションだけではなくエリクサーも作れるようになり、終いには大賢者の弟子にまでなれた。
常識ではありえない程の幸運の大連続だ。
そしてなんといっても大きかったのは、マイカ姉ちゃんに、リサさん、メアリーさん、師匠にホム、そしてシルバーさんたちの、信頼できる仲間が出来たことだ。
「私は予知の大賢者と呼ばれていますが、実は未来の出来事を見ることは出来ず過去に起こったことしか見れないのです。弟子のホレスがアーキさんのもとに向かった時、過去にこの実と同じものを食べた事実と、なぜかここにある実をアーキさんが食べる未来が見えたのです」
どういうことだ?
メレスさんは『幸運の実によってホレスも私もここに引き寄せられた』と悲しい目で呟いた。
「アーキさんは幸運の実を手に入れて幸運が宿りました。でも私には幸運の実を食べる資格はなく、幸運が宿らないどころか不幸の連続が訪れたのです」
メレスさんはさらに悲しそうな目をする。
病弱な母親の為に幸運の実を手に入れることが出来たメリスさん。
喜び勇んで家に戻ると急変するはずのない母親の容態が悪化し亡くなって使う機会を失った。
この実を使おうとするとメレスさんに食べる資格は無いというかのように、必ずと言っていいほど不幸が訪れる。
手放すことも出来ず、まるでこの実がメレスさんの手から離れるのを嫌っているかのように……。
そして不幸は連続し、まるでメレスさんがホレスの父親となる大貴族と結婚するのを導かれるかのように……。
「きっと幸運の実は私とホレスに幸運の実をアーキさんの元に運ばせる使命を授けたのでしょう」
幸運の実とはなんと恐ろしいものなんだろう。
もし、あの木で大量の幸運の実を食べなければこのような不幸が襲ってきたのかもしれない。
いや、ボーゲンに命令されて森に入るよう、幸運の実が僕の父と母を殺した可能性も……。
考えみると全てが幸運の実に操られていた気がしてきた。
メレスさんはホッとした表情を向けてくる。
「私の役目もこれで終わったようです」
そういうとメレスさんはホレスを連れてポータルの先へと消えていった。
*
沈黙に包まれていた重い空気をリサさんが打ち砕く。
「大賢者が怖い話を残して帰って行ったんだけど、これをどうする?」
メアリーさんは僕の袖をつかみながら震えていた。
「あの話を聞いた後だと、アーキ様だけに食べて頂くわけにもいきませんね」
「私とリサでどこか遠い海の底にでも捨ててくるか?」
「いや、さっきの話だと、深海になんて捨てたらポセイドン迷惑そうに持って帰ってきそうな気がするわ」
伝説の海魔神が現れて地上を歩いてくるなんてことになったら、戦争どろこじゃない大騒ぎになる。
マイカ姉ちゃんがとんでもないことを言い出した。
「じゃあ、取っておくのも怖いし、一番頑張った坊ちゃんだけに食べさせるのも悪いしみんなで食うか?」
しかも、その無茶な案にみんな乗り気だ。
「悪いことはみんなで分ければいいとホムは思う」
「アーキ様の為なら、婚約者であるメアリーはこの身を捧げます」
「俺も仲間たちも食ってやるぜ」
「老い先短いわしも弟子の為に食うぞ!」
「じゃあ、みんな、賛成だな。死ぬ気で食えよ!」
「おー!」
「まかせろ!」
みんな……、すまない。
ということで僕が切り分けてみんなに配った。
シルバー空挺団のみんなも食べられるように20個以上に切り分けた。
一口サイズになってしまったのでこれを食べても大きな影響はなさそう。
口にすると……。
「なにこれ? おいしい!」
「じゃりしゃりじゃな」
「この舌触りがとてもいいわね」
みんな大絶賛だ。
それまで黙っていたホムが僕にお願いごとをしてきた。
「アーキ、ホムはその幸運の実の芯が欲しい」
「こんなもの貰っても硬くて食べる場所なんて無いぞ」
「食べるんじゃない。ホムはその芯から種を取り出して育てる」
「え? 育てるの?」
ヤバいような気もするんだけど?
不幸になる実を育てるのってまずくない?
「不幸にならないぐらい食べまくればいい」
たしかにそんな考え方もあるな。
実際僕も食べまくったから不幸にならず幸運を身に宿したんだし。
ホムは芯から種を取り出し庭に蒔いた。
リサさんの特製魔石パウダーも肥料として撒いたことで翌日には幸運の実が実りまくった。
嘘だろ?
早すぎない?
その実からさらに種を取り出して……。
マーリンの隠れ家は幸運の実の一大生産地となったのであった。
ただ、残念なのは幸運の上昇効果は育成地から来てるものらしく世代を経るにしたがって幸運の上昇効果が激減し栽培期間も徐々に長くなっていった。
4世代目ともなると一年に一度しか収穫できない上に、幸運が1だけしか上がらないただの果実になってしまった。
でも、味の方は相変わらず美味しく、バーナリア産の新果実として輸出もされるぐらい人々に受け入れられたのだ。
『幸運の上昇効果が殆どなしの幸運の実』として最初は呼ばれていたけどあまりに長いので気が付いたら『大賢者の果実』やら『幸運のなし』という名称で人々に愛されたのであった。
僕の最悪の人生から、幸運を身に宿し大賢者の弟子になった話はここで終わりだ。
大賢者の弟子になった後の話も機会があればまた語りたいと思う
では、またな。
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