幸運の最強錬金術士 - 幸運を極めた真の最強錬金術師は雑草からでもポーションを作る!

かわち乃梵天丸

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クラウスさんとの晩餐

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 錬金台の属性付与の錬金が終わると、クラウスさんとの夕食に招かれた。
 単なる夕飯を想像していたんだけど……これはどう見ても晩餐といったレベルで夕飯と言っていいものじゃない。
 クラウスさんは満面の笑みで席に着くのを勧めてくる。
 見たこともないような豪華な食事が並んでいて、賓客《ひんきゃく》扱いだ。
 かしこまった口調でクラウスさんが話しかけてきた。

「やあアーキ、いやアーキ君。君が娘のメアリーの為にわざわざリタリフの町まで戻って来て手伝ってくれて助かった。ありがとう、感謝している」
「いえいえ。メアリーさんにはいつも助けて貰っていましたし、これぐらいのことじゃ恩返しにもなっていません」

 実際、今回はメアリーさんを助けたというよりも、リサさんに頼まれたことだしな。
 それあくまでもリサさんの錬金術ギルド運営の一環でメアリーさんのためじゃない。
 メアリーさんにはちゃんと別の機会をつくってお礼をしないといけないと思っている。
 でも、クラウスさんは僕の言葉を別の意味で取ったようでとんでもない話をしだした。

「では、錬金台を作るのが恩返しにならないと言うのなら、メアリーと結婚してくれるかね?」

 ぶはっ!
 いきなりの話で思いっきり紅茶を噴き出してしまった。
 テーブルクロスに茶色い染みが広がる。

「けっこん?」

 クラウスさんは真顔で僕に詰め寄る。

「君はメアリーの婚約者だろ。結婚を拒む理由もあるまい! それとも、もしやメアリーの他に付き合っている女がいるのかね? そんな女がいたら、縁を切ってもらう為に手切れ金を用意しないとならんな」
「付き合っている女の人なんていませんけど、クラウスさんは僕とメアリーさんが付き合うのに大反対していましたよね?」
「そうだな」
「それなのに付き合うのを認めるどころか、結婚を勧めてくるんですか?」

 ちょっと前に僕とメアリーさんの婚約を破談にした上に『娘と結婚してやる』と無茶苦茶な話をほざいていたのに。
 クラウスさんは「すまなかった」と頭を深く下げて僕に謝る。

「メアリーに諭されて目が覚めたんだ。アーキ君はメアリーの理想の結婚相手だと気が付いたんだよ」
「そうです、お父様。アーキ様は私の理想の結婚相手なのです」
「娘を助けてくれた恩人であるし、今や大賢者の弟子という素晴らしい社会的地位も持っている。しかもメアリーに優しいときている。これ以上、メアリーの結婚相手としてふさわしい男がいるだろうか?」

 メアリーさんも「アーキ様以外いませんわ!」と復唱。
 父娘の仲がいいのか、息がぴったりだ。

「どこの馬の骨かわからない成金にメアリーが札束で顔を殴られるのは見ていられないし、どこの馬の骨かわからないチャラい男と結婚して浮気されまくってメアリーが泣くのも見ていられないし、どこの馬の骨かわからない乱暴な男にメアリーが乱暴を受けるのも見ていられないし……」

 クラウスさんにとって、僕以外の結婚相手は『どこの馬の骨かわからない男』のようだ。
 クラウスさんは拳《こぶし》を握りしめてさらに力説する。

「もう、メアリーに俺の出番はない。メアリーはアーキ君にくれてやる。早く幸せになって孫娘を生んでくれ!」

 力説はさらに続く。

「絶対に孫は娘だからな。息子は許さん! 孫娘が生まれたら今度こそ結婚するぞー!」

 結婚?
 なにそれ?
 娘大好きパパから、孫娘大好きジージにジョブチェンジしただけじゃないか!
 しかも、結婚前提のかなりやばい方向に!
 このおっさんは一体なにを考えているんだ?

「ということで、メアリーとの正式な婚約、婚約の盃《さかずき》を交わして欲しい」

 メアリーさんがワイングラスにワインを注ぎ一口飲み、残りを僕が飲み干す。
 この国に伝わる婚約の儀式が交わされた。
 これで、婚約は正式に成立だ。
 これ以降は男女ともに浮気は許されない。

「これでアーキ様の正式な婚約者となられました。あとは成人となる日を待つだけ、すごく楽しみです」

 メアリーさんは僕の瞳を見つめ、僕の気持ちを聞きたがっていたので答えた。
 当然、嬉しいに決まってるじゃないか。

「僕も楽しみですよ」

 その言葉に満足したのかうっとりとした目で僕を見つめるメアリーさん。
 でも、僕なんかがメアリーさんと婚約なんてしていいのかな?
 もっとふさわしい人がいるような気がするんだけどな。

「さ、アーキ様。私の部屋へいらっしゃって下さい。ぜひともお見せしたいものがあります」

 メアリーさんは僕の手を引いてメアリーさんの部屋へと誘《いざな》う。
 初めてメアリーさんと治療で出会った部屋だ。
 あの時のメアリーさんは呪いを受けて大変な状態で死臭を放っていた。
 でも、今の部屋はそんな過去を微塵も感じさせない花の香りが漂う女の子らしい部屋になっている。
 メアリーさんは部屋に入ると僕をベッドに押し倒し僕の胸に顔をうずめた。

「すーはー、すーはー、えへへへ」

 な、なにしてるの?
 顔を見ると恍惚な表情。
 目の焦点が合っていなくて、口もだらしなく開けていてよだれが垂れていて少しヤバめ。
 僕はメアリーさんを現実へと引き戻す。

「見せたいものがあったんじゃないんですか?」
「そ、そうね」

 するすると服を脱ぐメアリーさん。
 なにをしてるんだ?
 下着姿を露《あらわ》にする。
 以前は呪いで痣《あざ》が浮いていた肌だったが痣はすべて消え、今は真っ白な陶器のようでとても美しい。

「婚約をしたので私の身も心もアーキ様のもの。生まれたままの私の姿を見てください。ここから先はアーキ様がリードしてくださいね」

 それって僕が下着を脱がせってことなの?
 メアリーさんは顔を赤らめてうつむきかげんに僕を促す。

 こ、これって初夜だよな?
 基本的に初夜は結婚式の日に迎えるものだけど、婚約をした日に迎えるってカップルも稀にいると聞いたことがある。
 つまり、男と女の関係になるということ。
 メアリーさんとそんなことをしちゃっていいの?
 賢者の弟子をしている僕はサラマンダー討伐のような危険なことに巻き込まれることも多いだろう。
 これからなにが起こるかわからないし、いつ死ぬかもわからない。
 しばらくのあいだ会えないことで疎遠となり婚約解消になる可能性がなくもない。
 女の子から誘われてるんだから手を付けるのが男としては正解なんだろうけど、僕が事故か何かで死んだ後のことを考えると今ここでメアリーさんに手を出すのはさすがにまずいかな……。
 グダグダと理由を付けてヘタレなことを考えていると、メアリーさんが僕に馬乗りになった。
 どこかであったシチュエーション。
 誰かを思い出しそうなデジャブ感。
 大切な誰かを……。
 たぶん、その人が気になってメアリーさんに手を出せないでいた。

「本当はアーキ様にリードしてもらって初夜を済ませたかったのですが、やはりアーキ様はお優しすぎて私に手を出せないようですね。でも、既に対策を済ませてあります」
「たいさく?」

 口から洩れる抑揚のないだらしない声。
 なぜか、舌がもつれる。

「婚約の盃のワインの中に痺れ薬を仕込んでおきましたわ。そろそろ薬が効いて指も動かせなくなる筈です」

 えっ?
 嘘だろ?
 って、本当に身体が痺れて動けない。
 起き上がることも無理で、もう逃げられないようだ。

「今日のこの日この瞬間の為に、痺れ薬を作るために錬金術を覚えたのですよ」

 この痺れ薬はメアリーさんが作ったものなのか。
 魔物用の痺れ薬ならともかく、人間用なんて危険な物はお店じゃ売ってない。
 身動きが取れなくなった僕の初夜はメアリーさんに食べられてしまうようだ。
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