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サラマンダーを狩るもの

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 クリスタル鉱床には炎を纏《まと》った大トカゲのサラマンダーが住み着いていた。
 これだけデカいとドラゴンとほとんど変わらない。
 火を吐くとこまでドラゴンとそっくり。
 ついさっきまで僕一人でなんとかしようと思ってたけど、これは僕だけの力じゃどうにかなる敵じゃない!

「あれを倒さないといけないんですよね?」
「そうよ。マーリンの弟子になるぐらいなんだからあれぐらい楽勝でしょ? あれぐらい倒した経歴がないと、後で同業者の賢者に舐められるわよ」
「いやいやいや、あれは無理ですよ。僕は賢者じゃなくて単なる錬金術士だからあんな強そうな敵なんて倒したことないし、ゴブリンとさえ戦ったこともないんですよ」

 加えて言うと、つい最近まで錬金術士でもない単なる薬草採りだったしな。
 一般人のなかで比べても戦闘力はかなり下の方だと思う。

「錬金装備や薬品を使えばアーキ君でも楽勝と思うけど……。まあ、無理に自分だけでなんとかせずに仲間となる傭兵を雇って補助役に徹するっていうのも賢者の戦い方よ」
「じゃあ、ウィスダムさんに傭兵をお願いしていいですか?」
「私はダメよ。立会人だもん」
「立会人?」
「賢者試練の試験官なの」

 なるほどね。
 ウィスダムさんは代わりに傭兵の募集の仕方を教えてくれた。

「王都バーナリアに戻って冒険者ギルドで傭兵の募集を掛けましょう。あそこなら腕利きの冒険者が沢山いるから、依頼料さえケチらなければすぐに集まるわ」

 ということで、僕らは王都の冒険者ギルドへと向かうことになった。

 *

 王都バーナリアの冒険者ギルドで、運よく懐かしい顔と出会った。
 リサさんとマイカ姉ちゃんだ。
 マイカ姉ちゃんはなつかしさ余って僕を抱きしめてきて、ホムが泣きそうに僕の腕にしがみつき小声でつぶやく。
 
「アーキにまたホムのライバルが現れた……なんでこんなにライバルが多いの?」

 そんなホムを気にせず、マイカ姉ちゃんは僕に聞いてくる。

「久しぶりだね、坊ちゃん。大賢者の弟子になったと聞いたんだけど、どうしてる?」
「まだ正式な弟子じゃなくて、今弟子になる試練を受けています」
「試練か……大変だね」
「大変な試練で、クリスタル鉱床に棲みついたサラマンダーを倒さないといけないんですよ」

 それを聞いたマイカ姉ちゃんとリサさんは顔を見つめあって驚いている。

「それってもしかして、クリスタルパレスの?」
「ええ、なんで知ってるんです?」
「話は長くなるんだけど……。錬金術ギルドの仕事ばかりして、冒険者ギルドの仕事をサボっていたらライセンス取り上げどころか捕まりそうになってね。普通、そんなことで捕まるなんてある?」

 マイカ姉ちゃんに続いて、リサさんも文句を言う。

「たぶん、ワーレン逮捕に手を貸したのをギルド長が気に入らなかったんだろうね。あいつ、なんだかんだ言ってワーレン派だったから」
「でね、今月中にライセンスの維持をしろっていうから本気出して依頼をこなしてたら、頑張りすぎちゃってランクアップしちゃったのよ」
「ランクアップですか? おめでとうございます」
「ありがとう」

 ランクアップなら喜ばしいことなんだけど、リサさんは『ありがとう』と言いつつもあまりうれしそうじゃない。

「でもね、ランクアップでギルド証を作り直すので、ステータスの鑑定をしたら私たちが強いのがバレちゃってSランクになったのよ」

 Sランクっていえば、国のトップ冒険者だぞ。
 マイカ姉ちゃんもリサさんもそこまで強くなかったはずなんだけど、いつの間に強くなったんだろ?
 そこまで強くなれれば冒険者としては立派なステータス。
 胸を張っていられると思うんだけど、リサさんもマイカ姉ちゃんもあまり浮かない顔。

 もちろん、アーキの幸運に引っ張られたとはアーキもリサもマイカも知らない。

「でね、Sランク冒険者は本国の冒険者ギルド預かりだからリタリフから移ってきたんだけど、それだと錬金術ギルドはどうするって話になってね。今はメアリーにギルド長代行をしてもらってるんだけど、一人じゃ無理だろうからね……。うまいこと冒険者を辞めるか、ランク維持分のノルマのポイントを稼ぐかなやんでたのよ」
「いろいろ悩んだ末に冒険者を続けてランク維持のポイントを稼ぐ方針で決めたので、3年分のノルマポイントを稼げるサラマンダーを狙ってたって訳なんだ」

 なるほどね。
 リサさんとマイカ姉ちゃんがSランクなら、サラマンダー討伐の助っ人を頼んじゃっていいかな?
 身内みたいなものだし、僕が倒したのとあんまり変わらないよね?

「リサさんとマイカ姉ちゃんにサラマンダー討伐の傭兵をお願いしていいですか? もちろん報酬は多めに出します」
「あ、一緒にサラマンダーを倒すなら私たちはギルドの依頼を受けるから報酬はいらないよ」
「でも、サラマンダー討伐は2つの困ったことがあるんだよね。多分今の私たちじゃ倒せない」
 
 困ったこと?
 Sランク冒険者2人でも、サラマンダーは結構厳しい敵なのかな?
 あれだけ大きい敵なので、もう少し人数が必要だったりするのかな?

「倒すのは2人だけで行けると思う。むしろ冒険者が増えすぎると貰えるランクポイントが減るからこまるかな?」
「うんうん、二人で余裕だね」
「問題は人数じゃなくて、耐火装備が必要なことなんだ。サラマンダーの炎に耐えられる耐性装備を作れるのは大賢者のマーリン様しかいないらしいんだけど、最近忙しくて連絡が取れないらしいの」
「ものすごい大錬金術士でアーキよりもすごいらしいよ」

 それを聞いた師匠は若い女の子二人に褒めちぎられたので、白髭を弄りながら女の子のようにもにもにと身悶えしている。
 冒険者のおっちゃんが師匠を見て気持ち悪がってるので、人前で悶えるのはやめてほしい。

「そ、その大賢者マーリンとはわしのことじゃ」
「えー? ぼっちゃんが弟子になったのって、マーリン様だったの?」
「ええ」
「ぼっちゃん、すごいじゃん!」
「えへへへ」
「マーリン様、装備の耐火錬金をお願いしていいですか?」
「それなんじゃが、わしは出来ない」
「えー、なんでなんですか? そんなに忙しいんですか?」
「いや、そういうことじゃなくて、サラマンダー討伐はアーキの試練なのでわしは一切の手出しをせずにすべてアーキにやって貰う。アーキの錬金術の腕はわしよりも高いのは間違いない。それでいいかの?」
「ええ、それでお願いします」
「僕は耐火錬金とかしたことないのにいいのかな?」
「アーキはエリクサーを作れるんだし、アーキなら出来る。ホムは楽勝だと思う」
「ありがとう、ホム」

 キラキラとした目で僕を見上げるホム。
 ホムに褒められて少し自信が付いた。

「ところで、もう一つの問題は?」
「クリスタルパレスに向かうにはスピリタス・フォレストっていう精霊の森を超えないといけないんだけど、あそこにはフェアリーが住みついていてね。私たちが飛竜で通り抜けようとしたら『森に入るな』足止めされたんだ」
「邪魔だから、飛竜で突っ切ったら何匹か弾き飛ばしちゃったので激怒しちゃって、魔法撃たれまくりで逃げ帰って来たのよ……」

 僕たちが受けた精霊の森の手厚い歓迎って……リサさんとマイカ姉ちゃんが原因だったの?
 僕らも飛竜に乗って通り抜けたんだけど、リサさんとマイカ姉ちゃんが舞い戻ってきたのと思ったのかも。
 なんとなく、あの騒ぎの原因がわかったよ。

 こうして僕はリサさんとマイカ姉ちゃんとサラマンダーを倒しに行くことになり、二人の錬金もすることになった。
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