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剣と魔法とありがとう

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この度晴れて騎士団への入団試験を通った俺は、入団初日から国王の御前に1人で来いと言われてしまった。

昨日は城下町の露店で売ってた[王族への謁見AtoZ~元宮廷魔導師が教える真の礼節~]なんていうタイムリーな本を購入して、店主のいかにも宮廷魔導師です!みたいなローブ着た人に本にサインまでしてもらって一晩中読んでいたわけで。

翌日真新しいピカピカの鎧を緊張でカチカチ鳴らしながら、それでも胸を張って赤く分厚い絨毯を踏みしめながら王の前に膝まづいた。

「よくぞ参った、新米騎士ルッツよ。先日の騎士団試験は御苦労であった。」

「いっひぇ!っいえ!勿体ないおこっとばにございましゅふ。」
めっちゃ噛んだ。死にたい。

「ほっほっほ!堅くならんでよろしい。早速だがそなたに初の任務として王女の部屋の護衛の任を与える。」

一瞬何言ってるかわからず口を開けてほほ笑む王と見つめ合った。よだれが垂れそうになった。
いやいやいやいや、ありえん。まずは堀の清掃とかだと思ってたのに最初から姫の護衛とか無理無理×infinity

「くぁwせdrftgyふじこlp;」
なんかわからないけどどうやったら断れるかと思ってさっきより更に噛みながら色々と自分の悪口を言ったが、もう決定事項らしく王女の部屋を案内された。

向かう途中で御同行いただいたヒゲボーボーの大臣様より事の概要を説明された。
王女は長く部屋に閉じ込められていると、理由は王女にかけられた呪いであると。
この時点でおだやかじゃねえ。

その呪いとは
【王女が「ありがとう」と言うたびに国が滅んでいく】
というもの。

王女が幼い頃に、子供によくある純真な悪口を東の森にすむ魔女に言い放ったのがきっかけらしい。
以来城の施錠された一室に王女を監禁し最低限の世話をしているそうだ。
自分が呪われていると本人が知れば王女は死ぬ。
よって王女には病気の為外気になるべく触れぬようにしていると伝えているということだ。

「王女に対しては絶対的に粗相ある対応をするように。間違っても感謝されることはしないよう、かつ護衛に徹するのだ。」

なんだそれ大臣。昨日買った本が既に何の役にも立たなくなった瞬間である。ふざけている。
なんでも俺の履歴書に[親父がこの城の門番してました]って書いてあったのが大抜擢の理由らしい。
ちょっとでも受かるようにと書いた一文で初仕事がこんなとんでもない面倒くさい事になるとは思ってもみない。
いやでもこの仕事を何とかこなしたら出世のチャンスなのか…?とモヤモヤ自問自答しているうちに城の最上階、王女の部屋の前についた。

ゴツゴツとノックされ、重そうな南京錠に太い鍵が差し込まれる。
かすかに女性の声が中からしたような気がした。

「新しい護衛をお連れしました、御挨拶させますぞ。」
私に話すよりもドスの聞いた声で大臣が話す、いや怒鳴っている。
扉が重厚故か、もう粗相ある対応が始まっているのか。

「お前も手伝え」と言われ、2人で重い金属の扉を押し開ける。
まるで宝物庫ではないか、まあ国の宝だと言えば間違いではないが。
この先に呪われた王女が居ると思うとまた違った重さがあった。

扉を開けると更に少し廊下があり、王の間と同一と思しき絨毯が敷かれている。
「よくお越し頂きました。」
廊下の程奥、絨毯の中央に白いドレスが見えた。

そこに立っていたのはなんとも形容しにくい美しい女性
この世界にまだ女神が住まうとすればこの方がそうではないかというほどの、金色の光る髪、真珠のような肌に天鵞絨の瞳が輝いて俺を見つめているのだった。

呪いなど忘れてしまうほどの御姿にただ俺は見つめるばかりで、何かを察したのか大臣は俺の肩を叩きながら話す。
「今日から王室の入り口の番をするものです、下賤な者故、決して余計な会話はなさらぬよう。」

少し姫は悲しそうな顔をして
「そう、わかりました。あなた、お名前は?」

と近付いて俺を覗き込んだ。
(美人すぎヤヴァイ)
そう心が叫んだあと、沸騰した頭と真紅に染まった顔で俺は言った
「本日より王室の番に就きます、王都騎士団のルッツと申します!王女様は大変見目麗しく、この大義大変光栄に与ります!」

どうだ、昨日読んだ本のテンプレセリフをバッチリ言い放ってやったぞ。
だがここは呪われた王女の前。粗相ある対応を求められる場ではさっきのセリフは王家に反逆するがごとく最高級の粗相であったのだ。

横目に見ても顔が真っ青な大臣はそれでも顔は静かに王女にバレぬよう俺の二の腕をギュっとつねった。
「あら、ルッツお上手ね、礼を言わせて。」
ああ素晴らしい、笑顔もきれいだ。
だが王女は今礼を言うと仰った。やばい。
俺の買った800ゴールドの本の知識で今、国が滅びようとしている。
ここは粗相ある対応で取り繕わなくてはいけない。

「いえ、嘘です!王女はとんでもねぇブスです!鏡をご覧になれば毎日がお化け屋敷です!」
言ってやったぜ。大臣の顔は青いままだがな。

王女の顔色が一変する
「この…こんの…無礼者!」
ああ…怒った顔も美しい…。だが怒った王女は何処からか弓矢を持ちだして俺に向けた。
弓術も嗜まれるのですか、さすがの教養です…ああ…キュンという弓を解き放つ時の音も美しい…
と見惚れているうちに矢は皮の鎧の胸に刺さった。痛い。そのまま王女は部屋の奥に御隠れあそばされた。

「まあ少し言い過ぎだがそんな対応でいいだろう。」
大臣はほっと胸をなでおろし、慣れた手つきで俺に刺さった以外の矢を拾い集めた。

大臣が去った後、部屋の前に腰をおろし、ひとまず俺は自分の今までの経験からの粗相ワードを脳内で検索していた。
なるほど、結構あるじゃないかと自分の教養の無さと粗暴さを再確認して1人で少し笑った。
なんとも先が思いやられる。

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