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健全黒字経営目指します!

マナーは大事

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第100話 マナーは大事



「……、…は任せた。しばらくは……だ。」
「…い。かしこまりました。……のように。」

 気づけば頭の上でボソボソと会話が聞こえる。
 気になるけど寝起きでまだ怠かったので目を瞑ったまま、枕にグリグリと頭を擦り付ける。
 んん、なんだか少し窮屈なんだが…?

 パチリと目を開けた瞬間、初老な執事さん風の方がこちらを微笑ましい動物動画を見る目で見ていた。

「お、目が覚めたな。」

「そのようですな。では私は準備へ戻ります。半タト後、食堂へおいでください。」

「ああ、わかった。」

 執事さんは美しい一礼をして客間を出て行った。
 
 しかし俺は挨拶どころかパクパクと口を開くしか出来なかった。何故って…、

「どうした? 喉でも渇いたか?」

「…ち、違ーーーうッ!!」

 違う、全く違う! そうじゃなくて!

「なんで抱っこしてんだよーッ!!」


 なんでレオさん、俺の事お膝抱っこしてんだよーッ!!

 …そう、俺はソファーでレオさんを人間ソファーにして寝ていた…。しっかりすっぽりお胸枕に抱かれながらな…。

「…うーむ。それはなあ…、アルフと一緒に戻ってきたらコウがソファーで落ちかけながら寝ててな。このままだと体全部が床に落ちそうだから抱き上げたんだが、意外にもコウがすっぽりハマってしまってな。起こすのも偲びなかったから、そのままソファーに座った。」

「起こして! そこは起こして!」

 あ、あの執事さんはやはりアルフさん…。お客さんな俺とんでもねえモン見せてしまったァァァ…。

「いや、なんか幸せそうな寝顔でな…。アルフも無理に起こすなっ、てよ…。まあ、いいじゃねえか。」

 良くない。良くないです、アルフさん!
 この人、止めて!
 ああああ、俺もうここんち来れないよ…。ただでさえ寝込んご迷惑おかけしてるのに、ご当主様を人間ソファーベッドなんて…、無礼な客すぎるわ…。

「…はあ、もうレオさんち、ムリだ…。」

 恥ずかしくてムリすぎる。

「お、おい、そんなアルフがダメか? これからはコウの前に姿見せないよう宣誓させるっ。」

 レオさんがオロオロしながら俺を覗き込み、とんでもない事を言いだした!

「違ーーーうッ! 逆、逆だから! 俺がアルフさんに姿見せないようしますからーッ! こんな恥ずかしい格好もう見せらんないよ…。」

 つーか、お膝から下ろしてくれ。これが恥ずかしいデス…。
 
 慣れっこになってしまった介護抱っこの合図の腕タップして、隣りにおろしてもらう。

「…なんだ、そんな事まだ気にしてたのか。コウは本当に控えめだな。」

 は、と笑顔でひとつ息をつき、ポンポンと頭を叩く。

「貴族っぽく堂々としてりゃいいって教えたろ?  我が家の客、つーか、俺の大事なあるじって紹介してるから、コウは気にしない。いいな?」

「いや、でもさぁ…、こんなだらしない客でレオさんの面子めんつってのも…、」

「面子って…。行儀見習いにきた令嬢じあるまいし、エイトールくれえマナーがぶっ飛んだ奴じゃなきゃ、俺の面子とやらは潰れねえよ。あと多分エイトールもまだアルフの許容範囲だ。」

 えっ、師匠は許されるレベルなん?
 いやレオさんちで師匠が何したかわかんないけど…。

「…そうなの?」

「そうだ。と言うか、アルフ達はコウを気にいってるっぽいから、ハナから心配いらねえって事。」

「え? なんて?」

 わんもわぷりーず??

「理由は…、わからん。が、俺がコウに対してなっとらんとアレコレ説教してきたからな。ヘレナにはケツ叩かれる寸前だった。」

 しかめっ面でやれやれとオーバーアクションでお手上げポーズをとる。
 説教の上ケツ叩かれる寸前って…、どんだけ接客NGだされたの、レオさん。
 でもまあ、レオさんの駄目接客(?)で俺の残念客モードが誤魔化されたっぽいから…、うん、ここからお行儀良くしよう! やらかし、すぐフォロ&リカバー、これチームの鉄則。レオさんとチームはなんか違うけど 笑。

「そっかぁ…。なんかレオさんに色々ひっ被せたみたいだ、ゴメン。ここからは心機一転、アルフさん達に愛想をつかされないよう行儀よく大人しくするね。勿論、家主のレオさんの面子も死守!」

「コウ、そうじゃないぞ…。」

 レオさんが半眼で小さく何か呟いた。

「え? なんか言った?」

「いや、何でもねえ。とりあえず、そろそろメシだ。食堂に案内する。」

「はーい。その前に! 寝間着は着替えます! …服ってあの買った服でも失礼はない?」

 あ、食堂にお招きされてるからお貴族っぽい服の方が良いかな?

「ははは。ウチの夕メシなんて、給仕がいる晩餐会でも高級店でもねえからどんな服でもいいさ。あ、ついでにマナーなんてモンも気にしなくていいからな。コウは外国人ってふれ込んでるから、気楽にメシ食ってくれ。」

 うーむ、それでいいのか。

「貴族のマナーとかわからないから助かる。一応聞くけど、コッチの一般常識で食事で絶対やっちゃダメなのはある? 俺の世界だと、国よって食事中は話しちゃダメとか、左手は使っちゃダメとかあるんだ。」

 特に宗教的マナーはマジでおっかないからな!

「話さないとか使う手に制限とか…、コウの世界の食事マナー厳しすぎないか?」

「あ、国によってだよ。全部が全部そうじゃないからね?」

「そうなのか…。うーむ、俺の国なら何だろうな…。メシでそこまで気にした事ねえからな…。貴族のマナーだと落としたカラトリーは拾わないくらいじゃねえか? あと出先でさきのメシは不味くてもひと口くらいは食うふりする。勿論食わなくてもいいが、口に運ぶ真似はするは最初に習った気がすんな。」

 なるほど、なるほど。フランス料理のマナーとかで良さそう。あとひと口マナーは、うん、ひと口で許されるって最高だな!
 接待でキワモノなメシを食べる苦痛…。あれは本当に苦痛。俺的にはどぜう鍋だった。まさか生きたドジョウが鍋に…、ダメ、思い出すだけでもシンドイ。アレを若い方にはとても珍しい料理だから是非どうぞと接待先に笑顔で勧められて、食わざる得ないと笑顔で…。うおお、思い出しぬ。心が。
 しばらくトラウマでドジョウ系なウナギまでダメになった。勿論、上司には今後どぜう鍋はNG料理とガチめにキレながらお断りしてる。絶許ぜっゆる、部長。

「…りょーかい。多分、俺の世界のマナーと通じてるっぽい。」

「なら良かった。どれ、服を着替えるの手伝うか。ほら、腕あげて。」

「オッケー…って、着替えぐらい自分するから!」

 あ、あぶねー、あぶねー! すっかりレオさん介護が染み付いて、普通に着替えさせて貰うトコだったー!!

 服を着替えるからちょっと待ってて、とレオさんをソファーに待たせ、寝室にひとりで戻り着替える。レオさんがいつも着てるようなチュニックと、チノパン風のパンツ。あと街の人達も巻いてた端に植物の刺繍が入った帯をキュッと結んで完成。

「ふふっ、アバター変えって気分だな。顔とか変わってないけど。」

 現地服を着たら異世界ファンタジーの住人になった気がするのは、絶対俺だけじゃない筈!


「お待たせー。着方はこんな感じでいいかな?」

 じゃーん、と効果音をつけレオさんの前でくるりと回って衣装公開した。

「お、似合ってるな。そんな感じでいいぜ。」

 とか言いつつレオさんは俺の帯をさっと解き直して、こう結ぶんだと解説しながら結び目を少し変えた。
 ほー、帯は片リボン結びじゃなくてネクタイのシングルノットか。これは慣れてるからすぐ出来るな。

「外に出る時にはベストでも羽織れば完璧だな。」

 うんうんと頷きながら、レオさんが合格を出してくれた。
 よしっ! ならば食堂へ出陣だー!


 連れ立って2階の食堂へ向かう。
 本来の客用食堂は1階。俺がお邪魔してる客間の逆の位置にあった。食堂の手前は広間で、大人数のパーティーなどに食堂と続き間で使う。普段は使わない無駄にただっ広い部屋なんだそう。今はパーティーする住人もいないから広間はお役御免で、調度品もないすっからかんの空き部屋との事。
 ちなみに食堂の奥のエリアに厨房や使用人用の場所が集中してる。尚、住み込みの使用人の居住エリアは1階、2階、屋根裏に分かれていて、執事やメイドなどはすぐ主人の元へ動く必要がある為2階に、厨房や外関係の雑用を受け持つ者は1階、屋根裏は屋根裏まであがる元気がある年若い者など、なんとなく仕事別に分けられてる。これはレオさんちだけじゃなく、お貴族様宅でも結構普通の事らしい。仕事内容重視で役職が偉いからどうこうではないってのは、中世っぽいこの異世界ではなかなか面白いなと思った。

 そんな雑談をしてたら2階の食堂に辿り着いた。
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