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健全黒字経営目指します!
地元テンションですか?
しおりを挟む第74話 地元テンションですか?
「いや、そんな寝てねえよ。1タト半ぐれえだ。」
おふう、1時間半も寝落ちてた!
しかもレオさんの抱っこで…。う、埋めて、レオさんいっそ地中深く埋めてくれぇぇ…。
「もう、早く起こして…。」
「ははは、あんまり気持ちよく寝てるからよ。無理矢理起こすのは偲びなかった。少しは疲れ取れたか?」
「…うん、かなり楽になった。」
抱っこはアレだけど、ソファーに足を上げる体勢になってたから血の巡りが良くなってラクになってたんだなぁ…。だが居た堪れない…。
「なら良かった。ああ、そうだ。教会は明日でもいいか?教会自体は夜中までやってんだが、像がある礼拝所は夕方で閉まるんだ。いまから急げば間に合うが…、あの像はそんな急いで見る価値はないと思うぞ。」
あっ、教会の事すっかり忘れてた!
異世界の教会も気になる事は気になるが、神様の像って言っても大仏らしいもんなぁ…。頑張って見なくてもいいかな…。
「オッケー。俺もそこまで興味ある訳でもないから後ででいいよ。」
甘くした茶を飲みきり使ったティーセットの片付けを申し出るが、客なら大人しく座ってるモンだと笑われソファーに戻された。お手数をおかけしすんません…。
手持ち無沙汰で、買ってもらったミサンガの飾り紐をポーチから引っ張りだす。
あの斡旋所の3つの命環を紐に移しとこうかな。同じ契だから纏めてあったほうがわかりやすいし。
「命環、命環っと。」
服からネックレスを引っ張りだし首から外そうとした時、
「("契。主コウ・スズキから、我レオナルドへ「今より陽が三度沈む間、主命を重んじ守護する事」を契の楔とす。)」
頭の中に突然契の文言が流れた。
「えっ、どうして? "復唱"してないのに??」
首から急いでネックレスを外し鎖に下がった命環を見てみると、ひとつだけ銀縁から黒縁に色が変わったリングがあった。
な、なんだ、コレ…?
ガチャリ。
タイミングよくレオさんが部屋に戻ってきた。
「あ、レオさん! なんか命環が変なんだけど!」
ソファーにやってきたレオさんに、コレ! っと変色した命環を差し出す。
「丁度さっき陽が沈んだからな。」
「え? 陽?」
「期限切れ、って、そうか。説明してなかったな。仮契約は期限が切れる時に、"知らせ"があって終わりの証に色が変わるんだ。わかりやすくていいだろ?じゃあ、その命環をこっちにくれ。ちょっとやる事があんだ。」
「あ、うん。」
レオさんに変色した命環をネックレスから抜いて渡す。一応、何が始まるかわからなかったので他の命環がついたネックレスはテーブルの上に避難させた。
「色が変わっちまったままじゃ使えないが、中身を戻してやればまた使えんのさ。」
レオさんが右手に命環を乗せて、その上から左手を乗せる。
「了、全ては成った。還れ、レクトス。」
レオさんが文言を唱える。特に何も起きなかったが、レオさんが左手を開けると命環は銀縁のコイン状に戻っていた。
おー、まさに異世界ファンタジー!
「ある意味使い捨ての仮契約だからコレで終わりだ。本契約なら契約主をたててやる。」
「命環すごいな…。」
実は魔道具の中でもすごい魔道具なんでは…?
「すごい、ねぇ。いつも使う道具だからあんまり気にした事なかったが…、確かに魔道具の中じゃ異色かもなあ。」
マジマジと掌の命環を見つめるレオさん。
あー、そう言う物よなー。普段使ってる物って普通だと思ってたら、別な場所じゃめっちゃ普通じゃない。例えばスマフォとかね。…ええ、これ、俺の異世界経験の話なんですけどね。
「へへ、異世界人の俺には魔道具自体すごいんだよ。また不思議な道具あったら教えてね。」
「そうか、そう言えばコウの世界には魔道具はないんだよな…。こんなので良ければまた見せてやるな。」
「ありがと! 楽しみにしてるわ!」
「…ところでコウ、もう一度契約していいか?」
「ん?契約?いいよ~。」
さっきのヤツの再契約かな? あの仮契約は熊用にしたヤツだからあんまり必要もない気がするけどな。
どうぞと、レオさんに左手を差し出す。ソファーから床へレオさんが跪き、差し出された手を恭しく取り自分の左手へ重ねる。
「契。我レオナルド・リ・アーロイスは「今より我の命が尽きる間、コウ・スズキの命を重んじ守護する事」を契の楔とす。刻め、レクルト。」
「え?」
カッと左手が一瞬熱くなり、レオさんに契約は刻まれた。
「…れ、レオさん、いまなんて…?」
「よし、これでいい。これからコウ専属だ。ああ、斡旋所挟まなくてすまんな。アイツらうるせえからここで済ませちまった。」
レオさんは笑いながら床から立ち上がりソファーにドスっと座った。
「ちょ、専属って!! なんで命尽きるまで契約しちゃってんの?!」
レオさんマジ何やってんの?! 地元でテンション上がりすぎたの?!
「報酬たんまりもらったからな。まあ細けえ事はいいだろ。ほら、飾り紐に命環つけてやるよ。」
「いや、アレ、年契約じゃ…、」
俺の抗議をスルーするように、レオさんが俺の膝の上にあった飾り紐をするりと取って、テーブルの上の命環を飾り紐につけた。ネックレスには先程の命環だけを通して俺に手渡してきた。
「飾り紐は止め結びしてベルトループに通して輪になってるとこに入れるんだ。長さは結びで変わる。ジャラジャラして邪魔なら鞄に入れとくのもありだ。」
「…あ、うん。つけてくれてありがとう。でも…、」
ストップと言うように、レオさんが俺の唇近くに人差し指と中指の二本を立てる。
「俺はコウの護衛。それは譲るつもりはねえ。神様だってそう言ったんだ。何かあっても神様がなんとかしてくれるさ。それにこんなイイ男誘っておいてその気になったら素気無く断るなんてよ、なかなかの性悪だぜ?」
そのまま立てた指で俺の唇をチョンと軽くつつき、流し目でパチンっとウィンクをキメる。
くっ、セクシーでゴリ押しか! セクシーラテン系め! つーか性悪って何だよ、もう!
「…ノリ軽すぎだから! 何かあったら上司に頼んですぐ契約解除するから!」
「ははは、解除されねえよう神様に祈っとくか。」
レオさんはふざけて神様に祈る真似をした。
そんなこんながあったが、日も暮れてしまったので夜のリオガへ繰り出す。相変わらず女優帽装備だが!
途中の市は昼と様子が変わり、奥の商店街は道端の露店も引き払われ、ぽつりぽつりとしか灯りはなくひっそりとし、手前の飲食街だけが夜食を楽しむ人々で穏やかに賑わっていた。屋台の軒先に吊るされた様々なランプの灯りがノスタルジックで、レオさんに頼み込んで壁になって貰いこっそりスマフォで撮影してしまった。へへ、旅の思い出ってね。
斡旋所があるストリートまで来ると、ここはまた別の意味で賑わっていた。マーシナリーっぽい人やこの近辺で働く職人さんみたいな人々が、昼間は閉まっていて気づかなかった酒場へ流れていく。呼び込みのお兄さんやらおねえさんもちらほらといた。
「へえ、こっちは酒場が多いんだね。」
「そうだな。街の規則で市は夜半まで店は出せねえから、市はメシ屋中心でな。酒は…、ここいらにいる連中が酒飲みばっかりだから、自然に酒場が集まったって話だ。まあ、マーシナリーや職人が集まる所はどこでもそんなモンだな。」
「仕事終わりに一杯、ってヤツだね。」
「そんなモンだな。」
俺の貴族スタイルのせいか、呼び込みには全く声もかけられずすんなりオルトロスの看板の元に着いた。
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