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健全黒字経営目指します!
あの帽子だ
しおりを挟む第71話 あの帽子だ
胸に手を当てカッコよく紳士のお辞儀をキメるレオさん。
…おわあ貴族! めっちゃお貴族サマだわ! 前もサマになってるなって思ったけど、元本職?だもんなあ。そりゃ、サマにもなるわ。
「アリガトウザイマス。レオナルド様。」
とりあえず感謝のお辞儀、角度30度だ。ペコリ。
「…おい、様はやめてくれ、様は。あと、俺は貴族じゃねえからいつも通り普通にしてくれ。変に畏まられるとゾワゾワしちまうだろ。」
苦笑いしながらポンポンと肩を叩かれる。
「いいの? 周りに変に思われない?」
「周りって…。斡旋所の奴らもエイトールも普通だっただろ? 大体、俺がここに住んでたのはガキの頃だけだし、帝都で貴族の真似事してたのを知ってる奴はリオガにゃほとんど居ねえよ。安心しな。」
「そっか。まあ今更敬語に戻すのも変か。じゃあレオさんはレオさんで!」
「それでいいさ。さて、もてなしの茶でも出してえところだが、まず着替えちまうか。部屋に案内するな。」
中に入ると吹き抜けの玄関ホールで、流石に団体さんがまるっと収まるお城レベルではなかったが高級マンションのエントランスくらいは広かった。天井からはシャンデリアが下がり、奥の正面には大きな階段と、まさに絵に描いたようなお屋敷である。
だがレオさんが中はすっからかんと言った通り、よくお屋敷にある絵画や壺のような華美なインテリアは全くなく、人の気配がないお屋敷はどことなく物寂しげな雰囲気が漂っていた。
玄関ホールから左右に続く廊下を抜け、奥の突き当たりに立派なドアが現れた。
「客間はここだ。」
レオさんが部屋の重そうなカーテンを開ける。カーテンの下から現れた大きな窓からは陽の光が注ぎ、薔薇の花が咲く庭が見えた。
通された客間はソファーなどは埃を除ける布がかけられていたがダークブラウンのアンティークな調度品で纏められ、ラベンダーカラーの壁と相まってとても品が良かった。
「ふえ、ホテルのスイートルームか。すごい。」
「すいーとるーむって部屋は何かわかんねえが、客間だから見栄張ってたのさ。じゃあ隣りの寝室で着替えてくれ。着替えたら、ちょっとここで待っててくれよ。俺もすぐ着替えて戻ってくる。」
そう言ってソファーから埃除けの布を取り座れるようにして、レオさんは部屋を出て行った。
「さあ、俺も着替えちゃいますかー。」
隣りの寝室(ここもすごくスイートルームでベッドはキングサイズだった!)で、ゴソゴソ着替え客間に戻る。
レオさん待ちの間、ソファーでちょっと休憩だ。バックパックからペットボトルの水を取り出しゴクリと飲む。
やっぱ3時間ぶっ通し歩くのは足にくるなあ。バックパックの重さも地味に効いた。仕事だと重いサンプル持って3時間歩くのは普通の事だけど、少し歩いては営業先で座り、また歩いては座りだから結構休み休みなんだよねえ…。
うーんとひとつ伸びをして、ソファーに背を預ける。レオさんちとは言え、他人の家だからダラダラ横になれないのがしんどい。
あー、今夜はしっかり横になって休みたい。宿のベッド、柔らかいといいな。
コンコンコン。
レオさんが戻ってきたようだ。
「はーい、どーぞ。」
「すまん、待たせたな。」
戻ってきたレオさんは、俺と同じようなオフホワイトのカッターシャツにスリムなカーキ色のパンツに着替えていた。胸元は広く開けてラフな感じに着崩している。胸筋のいい感じの見せ具合がラテン系セクシーイケメンっぽい。
はー! これだから筋肉イケメンは!そのセクシーはしまいなさい! 俺の心の風紀委員会の取締り対象です!
そんなセクシー違反なレオさんはドスっと俺の隣りに腰掛けた。
「いやあ、ちょっと探しモンしてたら遅くなっちまった。」
「探し物?」
「ああ、コレを探してたんだ。俺が昔使ってた拡張鞄な。量は全然入らねえがコウの神器くらいは入る。さすがにその背嚢は貴族の格好にゃ合わねえからな。」
レオさんの手には二つ折財布くらいの小さなポーチがのっていた。
あー、確かにこんな高校生みたいなバックパック背負った貴族はないな。
「わー、ありがとう。遠慮なくお借りします。あ、でも入りきらない荷物はどうすんの?」
「ここに置いてけばいいさ。どうせ夜はここに泊まるんだ。」
宿に泊まるんじゃないんだ、って自分の家があるから当たり前か。と言う事はあのキングサイズのベッドが今夜の寝床! やったー! めっちゃ伸び伸び寝れるぞー!
「了解!」
レオさんからポーチを受け取り、タブレットとスマフォを詰める。ついでに首から下げてた財布がわりのサコッシュも詰めるとポーチの中に隙間は無くなった。
よし、ベルトに通して装着だ!
ふふーん、拡張鞄装着ってなんか冒険者っぽい気分になるな!
「ん、準備できたな。あとはな…、」
レオさんは席を立ち、隣りの寝室に入って行った。
あとは?なんだろ?
が、深く考える前にすぐ戻ってきた。
「コレ被っていくぞ。」
「…えええ、コレ被るの?」
ソレは女優帽であった…。
レオさんが寝室から持ってきたのはつばが大きく広がった女性用の生成り色の帽子、俗に言う『女優帽』だった。しかも淡い水色のリボン装飾付きである。
「客用に置いてある日除け帽だ。顔隠しにはもってこいだし貴族っぽく見える。あとコウに似合う。」
似合うって…。レオさん、センスいや目は大丈夫か?女優さんの幻影見てない?
「…もうちょっと男性向けの帽子はない?つばがもっと控え目なヤツ。」
「俺はあんまり帽子被らねえから男向けは正装用しかねえな。あれは飾りがゴテゴテしてるし、街歩きで正装用被ってると頭がおかしいヤツと思われるぞ。」
…マジか。この女優帽のリボン飾りよりゴテゴテなのか。しかも頭がおかしいヤツ認定されるようなデザインなのか。
「…それでいいデス。」
レオさんから女優帽を受け取りバフっと目深に被る。せめて顔隠しはしっかりだ。
「ほら、もう少し上げないと前が見えねえぞ。」
微笑ましい物をみるようなニコニコ顔のレオさんにくいっとつばを引き上げられ、あっさり顔隠しの技破れたり…。
「よし、行くか。昼の市は人波に揉まれる場所もあるから、そん時ははぐれ無いよう俺の腕に掴まれよ。」
「はーい、迷子にならないように気をつけまーす。」
引率よろしくお願いします! レオナルド先生!
レオさんと連れ立って市へ向かう。途中、レオさんのマーシナリー仲間っぽい人達と何組かすれ違った。彼らはニヤニヤしながらレオさんを小突いていったり、何かを揶揄うスラング?をかけたりしていった。レオさんは、そんなんじゃねえとか、アホか、とか揶揄う人達をシッシッと追い払っていた。
いいなあ、そう言う感じ。レオさんの地元って感じがする。
「はあ、バカばっかりだ。コウ、あんなの気にすんなよ。」
「ん?楽しそうな人達だったじゃん。マーシナリーの人達って結構フレンドリーなんだね。今度、俺も一緒に飲みに行こうって言ってたよ。」
「は?誰だ、声かけてきたヤツは。」
「弓を背負って髪の毛を結ってた人。」
「…アイツか。わかった。」
何がわかったんだろうか…。
市の飲食店が集まっているエリアに着いた。辺りは肉の焼ける香ばしい匂いやドーナツ屋さんのような甘いスイーツの匂いなど、俺の小腹を泣かすには充分すぎる美味しい匂いに包まれていた。
「さて、まずは名物からいくか。コウはパスタ知ってるんだったよな。ここの名物は巣場鳥の煮込みをかけたパスタでホロホロってヤツだ。ちょっと辛味はあるが、鳥の旨味があって美味い。ちなみに俺はあの店のが1番美味えと思ってる。」
レオさんが指差したのは何人か列を作った小さな屋台だ。カウンターとベンチが一緒になっていて、日本の屋台村の屋台によく似ている。
「いいね、そのホロホロから食べたい!」
列に並び少し待つと直ぐにカウンターに入れた。カウンターには白髪をお団子に纏めたおばさんがいて、彼女が店を切り盛りしていた。
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