上 下
66 / 101
健全黒字経営目指します!

推して良し

しおりを挟む

第66話 推して良し



「はぁ、お前ら朝っぱらから元気だな…。まだ酒場開けてねえのに来んじゃねえよ。」

 カウンターから少ししわがれた声が聞こえた。

「朝っぱらじゃねえよ、もう昼間だ。ジジイ。」

「よっ、オヤっさん。相変わらずシケたツラしてんなあ。そろそろお迎えでも来るんじゃねーの?」

 仲良し2人組が振り返り、カウンターの声の主に挨拶?をする。
 俺もカウンターに振り返ってみた。

「うるせえな、小僧共。で、何の用だ?つまらん話だったら寝る。夜の仕込の時間までまだ2タトはあるんだ。寝かせろや。」

 カウンターには寝起きで少々襟元をだらしなく着崩したナイスシルバー。顔に刻まれた皺と白髪混りの髪から多分初老のオジ様と思われる。
 オジ様シリーズで言うなら、上司であるイケオジがキラキラ系で、こちらのナイスシルバー様は重厚系。師匠並みの良いガタイで、片目は黒の眼帯で隠されており、その頬には大きな目の傷跡…!
 はわああ、古参の戦士感!!Sランク冒険者を引退した冒険者ギルドマスター感!!…控え目に言わなくてもカッコイイしかないだろ、眼帯オジ様キャラは!!

「…コウ、ジジイがどうかしたか?」

 うっかり憧れの眼差しでガン見してしまった!

「ええと、カッコいいなって思って、つい。あの人が所長さん?」

「なっ、カッコいいだと?!あの草臥くたびれたジジイがカッコいいだと…?」

 レオさんが激しくショックを受けた顔でこちらを見た。同時に師匠も似たような顔でこちらを見た。
 え?普通にカッコイイだろ、眼帯オジ様キャラ。

「お、ちまいのは見る目あるな。そうだ、俺が所長のジュードさ。ほら、こっち来い。菓子でもやろう。」

 ワハハと笑い、俺をちょいちょいと手招きする。
 んも~、ちまいと菓子なんて子供扱いかよ~!でもジュードさんなら全然許すね。オタク諸兄の推しの概念がわかった気がする。ジュードさんは可愛いアイドルじゃないが、眼帯オジ様キャラで推せる。
 ふへへ、調子に乗ってお菓子貰いに行っちゃおうかな…?

「…所長!未成年を菓子で釣るとか所長がやると犯罪スレスレですからって、そうじゃなくて!…レオナルドさん、アレの件を所長に説明してください。」

 ニックさんが何故かヨロヨロしながら、カウンター奥の扉から出てきた。

「ニック、やっと復活したか。お前もうちょっと鍛えないとそろそろ死ぬぞ?」

「…いや、所長が寝ぼけて俺を絞め落とさなきゃいい話ですけど。と言うかそろそろ殺す気なんですか?斡旋所組合に訴えますよ?」

 …何故だろう、推しからレオさんや師匠と同じ気配がする…。推してはいけない気がしてきた…。

「おいおい、人聞きが悪りぃな。部下の身体能力把握は所長の仕事の内だろう?まあ仕方ない、ニックにも菓子をやろう。これでも食べて機嫌直せよ。」

 ジュードさんはガサゴソとカウンター下を漁り、おひねりみたいな小さな包みをニックさんへそっと手渡した。

「いや、コレ俺の菓子ですから。ふざけんな、クソ所長。マジで訴えるぞ。」

「菓子のひとつやふたつ、こまけえ事は気にすんな。で、レオナルドが何したって?」

 レオさんがカウンターに立つ。俺もついていくと師匠ももれなくついてきた。

「エイトール、お前ついてくんな。大事な話すんだからよ。」

 しかし相変わらずのお下品中指ポーズ。

「やあだね!その面白そうな未払い手形、見んだけならタダだろ?黙っててやるから見せろよぉ。」

 師匠のそのお顔…。めっちゃワクワク(クズ)センサー反応中ですよね…。

「チッ、めざといヤツ。だが、ダメだ。コレの話は契約に被ってんだ。ニックと遊んでな。」

「業務に支障が出るのでお断りします。」

 ニックさんは小さな包みからお菓子、多分煎った豆らしきものを一粒づつポリポリしながら秒でお断りした。支障でるのわかるわー。
 レオさんにはシッシッと追い払われるが、師匠はどこ吹く風と言う顔でニヤニヤしながら目にピースサインを当てた。なんの合図や、それ…。

「はーい残念、もう中身は俺サマの目には見えちまってんだよねえ。オメエの契約違反かな~?の割には何も反応ねえよな~?つー事は契約違反じゃねえから、俺もお話しに混ざって大丈夫って事だぜえ、レオナルドくぅん?」

 …師匠、そんなワクワク(クズ)センサーが反応してるんか?

「は?バカか?俺の…、「うっせえ、小僧共。いいから早くしろ。俺はねみいんだ。」…、チッ。」

 流石にジュードさんが仲良し漫才に痺れを切らした。めっちゃ不機嫌顔でカウンターを指でトントンしてる。穴が開きそうだ。

「…クソッ。おいジジイ、別室に入れてくれ。このアホはもう仕方ねえが、知らねえヤツにゃ聞かれたくねえんだ。」

 レオさんはとうとう折れたらしい。

「ちまいのも一緒か?んじゃあ、俺の執務室あけるか。ニック、ちまいの用にリンゴ水出してやれ。小僧共のは無しでいいさ。」

「はい、かしこまりました。」

 ニックさんが残りの豆菓子をザラザラと口に突っ込み、ボリボリしながら受付カウンターの横の扉から繋がる別なカウンター、バーカウンター席みたいな方に抜けて行った。
 よく見れば壁の棚にはびっしり酒瓶が並んでいた。奥は厨房っぽい。そう言えば夜は酒場になるみたいな事言ってたな。下ばっかり見てたから気づかなかった。
 こちら側は少しアンティークっぽい色合いで揃えてあって如何にも大人なバーと言った感じだ。…と言っても、バーは部長のお供で一回しか行った事ないんだけどね…。
 
「開いてるから入っとけ。奥の突き当たり右だ。」

 ジュードさんがカウンター横のドアを顎で指し、出てきたドアへ戻って行った。

「おー、俺執務室なんて初めて入るわ。オヤっさん、執務室で仕事なんてしてんのかよ。」

「俺もだ。貴族絡みで応接室は入った事は何度もあるが、ジジイの執務室なんて案内された事もねえ。」

 所長さんなら執務室で仕事するのは普通の事だと思いますが…。でも今回は特別扱いってヤツなのかな?
 2人はぼやきながらドアを抜け、奥の執務室に入る。

「…豪華だな、ここ。」

 レオさんが渋ツラでポツリと溢す。
 執務室は深い色のアンティーク調でまとめられていた。
 壁には装飾が美しい長剣が飾られ、横にはこの国?の地図。書棚もハードカバー本が彩よく綺麗に並んでいる。応接用のソファーはモスグリーンの布張りで、ローテーブルには葉巻の入った木箱とガラス風の灰皿もある。
 映画なんかに出てくる貴族って感じの部屋だった。
 
 但し、執務机は除く、だ。

 机の上、未決と書かれた木箱に書類の山が突っ込まれてる。ちなみに床にも同じ箱があり、やはり同じように山になっていた。決と書かれた木箱もあるが、そっちはさらっとしか入ってなかった…。繁忙期かな…?

「所長って儲かるのか。随分いい葉巻じゃん。」

 師匠はソファーにどかっと座り、勝手に葉巻をケースから取り出して吸い始めた。レオさんも座り、こっちだと俺を端っこに座らせた。葉巻の煙から遠ざけてくれたようだ。流石、気遣いの男。
 …まあ、葉巻は直でニコチンくるから離してくれて助かるけど、俺は元タバコ喫煙者だからタバコ平気なんだぜ…。ちな値上がりして辞めたクチです。あとタバコはオッさん臭って電車で女子高生達が言ってたから潔く辞めましたね!脱オッさん!!

ガチャリ

 ドアが開き、ジュードさんとニックさんが部屋に入ってきた。ジュードさんは少し身なりを整えたようで、シャツの襟元は先程と同じく緩いままだが、3つボタンの襟ぐりが広いベストを羽織って若干フォーマルな感じになっていた。
 …おお!胸筋があるから襟ぐりの広いベストがとても似合ってらっしゃる!やはり推していい眼帯オジ様!

「おいジジイ、何洒落気しゃれけづいてんだよ。」

 レオさんがジュードさんをジト目で見ている。

「なあに、の格好さ。ほれ、ちまいのリンゴ水でも飲んで寛いでくれ。お前らには水だ。勝手に飲め。」

 笑いながらジュードさんがドスっと向かいに座ると、ニックさんが飲み物を給仕してくれた。師匠がコップを掴みごくりとひと口いくと、真顔でマジで水じゃねえかと文句を垂れた。
 確かに2人のは水だった 笑。
 ニックさんは給仕を終えると一礼して部屋を出て行った。

「んじゃまあ、話を始めるか。この部屋は防音の魔道具があるから好きに話せよ。つまんねえ話だったら水代取るからな。」

「…はあ、ほんとクソジジイだぜ。」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

気まぐれ店主ののんびり?生活

朝比奈和花
BL
週に3日だけ開くカフェ。 周りには気まぐれカフェとして知られている。 メニューも1種類だけでシェフの気まぐれでメニューが決まってしまう。 のんびり生活することを目指す店主がいつの間にかあれやこれやと過ごしていく、オチなしヤマなしのほのぼの話です。

薄幸系オメガ君、夜の蝶になる

Q.➽
BL
見た目は繊細な薄幸"風"美青年なのに、天然で雑な性格ゆえに大事なとこで突っ走る危うい系主人公・白川 蛍(しらかわ けい Ω)。 中学で父を亡くした蛍は、体の弱い母が倒れた事を機に、経済的困窮を理由に高校進学を断念して製菓会社の工場に就職する事を決めた。青春を謳歌する同世代達を尻目に、大人ばかりの職場で頑張る蛍。 だが勤続5年目のある日、不況による業績悪化を理由とした人員削減の憂き目に遭ってしまう。しかし、落ち込む暇もなく再就職先を探す日々が始まった。が、学歴とバース性を理由に、なかなか採用にならない。 (このままでは母子2人、食い詰めてしまう) 思い詰めた蛍は、とうとう目に止まった怪しげな夜の店の募集広告に応募。面会で即採用となり働き始めるが、そこは男性客が男性客を接待する高級クラブだった。 営業が始まり、蛍はαのイケメンVIP客・羽黒の個室席に行くよう言われるのだが、部屋のドアを開けた途端に空腹と貧血で倒れてしまう。幸か不幸か、それを機に羽黒のお気に入りとなった蛍だったが...。 ◆白川 蛍(しらかわ けい)20歳 Ω 受け 色素薄い系。天然ウェーブの茶髪、茶目。 容姿は母親似の線の細い美形。しかし性格は何かと大雑把だった父親似。 ただ、基本的には良い子なので、母を支えなければとの責任感から突っ走りがち。 ◆羽黒 慧生(はぐろ えいせい)28歳 α 攻め 黒髪黒目長身筋肉質、眉目秀麗にして性格は温和で優しくスーツが超絶似合うという、おおかたの女子とオメガが大好物な物件。誰にでも人当たりが良いのだが、実は好みが超絶うるっさい。何かとおもしれー男が好き。 ※更新頻度はゆっくりです。

とある腰痛持ちと整体師の話

つむぎみか
BL
酷い腰痛を患った26歳男性の、あまり公言したくない秘密とは? ちょっとしたコンプレックスを持った腰痛持ちの会社員が、ゴッドハンドと噂される整体師の施術を受けて、ガチガチになった心と身体を解きほぐされるお話。

生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい
BL
 転移した異世界でアキトが出会ったのは、ハルという名の幽霊だった。優しいハルに異世界事情を教えてもらいながら領都を目指し、何とか無事に冒険者になることができた。この世界でも異質な幽霊が見える力は誰にも内緒――の筈だったのに、何でこうなった。  この世界にはかつて精霊がいて、今では誰も見ることはできず話すこともできない。うっかりハルに話しかけているのを見られてから、精霊が見える人認定されたアキトの異世界生活。  ※幽霊は出てきますが、オカルト要素は強くないです  ※恋愛要素が出てくるまでは長いです

王様ゲームで弄ばれる話

ミツミチ
BL
飲み会のあとに立ち寄った後輩の家で、後輩らに王様ゲームで弄ばれるチョロ先輩の話 (冗長没カットのおまけの初夜 https://mitsumichi.fanbox.cc/)

俺はモブなので。

バニラアイス
BL
冷酷な第二王子×悪役令息の取り巻きモブの話です! ちなみにモブが溺愛されます! 初めて書くので誤字脱字お許しください💦 似ている作品があるかもですが先に謝っておきますごめんなさい🙏💦

職場では怖いと噂の旦那さまに溺愛されてます♡

おもち
BL
旦那さま×ハニーの新婚バカップルのあほえろ タイトルが『♡』のものがスケベです。 こういうのだけを摂取して生きていたい… 旦那さま⇨スパダリ、無自覚に束縛をしている厄介、お仕事はちゃんとできる有能 ハニー⇨聖母、ぴゅあぴゅあだったのに旦那さま色に染められている、束縛されている自覚は無い、太陽 なんとなく名前は出さないようにしたい気持ち

断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy
BL
病魔に倒れ命を散らした僕。あんなこともこんなこともしたかったのに…。 と思ったら、あるBLノベルゲー内の邪魔者キャラに転生しちゃってた。 断罪不可避。って、あれ?追い出された方が自由…だと? よーし!あのキャラにもこのキャラにも嫌われて、頑張って一日も早く断罪されるぞ! と思ったのに上手くいかないのは…何故? すこしおバカなシャノンの断罪希望奮闘記。 いつものごとくR18は保険です。 『チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する』書籍化となりました。 7.10発売予定です。 お手に取って頂けたらとっても嬉しいです(。>ㅅ<)✩⡱

処理中です...