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健全黒字経営目指します!
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しおりを挟む第60話 大きい
黒騎士は店舗前の歩道、馬車道と分けるよう敷いてある石畳を無視し広場を真っ直ぐ抜けようとしている。
うわ、広場入口まで最短距離ってどんだけ効率厨だよ…。馬車きたら危ないじゃん…。
と、思ったら真ん中の駐車場の馬車に来て熊車の御者に声を掛けた。ビシィッと直立不動で黒一色の自衛隊っぽい服が軍人さんっぽい。…黒、ま、まさか…!
「準備を始めろ。」
「ハッ!直ちに準備致します、将軍閣下!」
…軍関連だった!!お触り禁止案件じゃん!!
しかもラノベ騎士団長じゃねえ、将軍様だった!確かに我が祖国の時代劇じゃ将軍様がお忍びで街のその辺ウロウロしてるけどさぁ!!
将軍って異世界もその辺うろつく職業なのかよ…。ううう、暴れん坊じゃない事を願う…。
コンコンコンッ
「キアニグ皇子、例の者でございます。」
「おお、待っていたぞ!」
バアアアンッ!
中東の王子様風のヒラヒラした白い服を靡かせてキアニグ皇子様とやらがドアをぶち破る勢いで熊車から飛び出て来た。…あ、あの時目が合った気がした金髪の人だ。
皇子が飛び出た勢いを殺し切れず、ドア付近にいた俺の方へ抱きつくようにつんのめる。
ドフッ
「…ウグッ!!」
が、間一髪黒騎士将軍様が俺に激突寸前の皇子を救出。ちょっとゴンと鈍い音がした気もするが、俺と一緒に地面に転がるよりはマシだろ…。
「キアニグ皇子、戸は従者が開けるまで勝手に開けてはなりません。本日の護衛は私しかおりませんので、御身を市井に晒すのはお控えください。あと不埒な行為もこの様な往来では慎みください。」
保護と言うか捕獲した皇子を熊車に淡々と押し込む黒騎士将軍様。有無を言わさない感じで手際が良いな。さすが効率厨、じゃなくて軍人さんって感じ。
コホンとひとつ咳払いが聞こえ皇子がドアから黒騎士将軍様に声をかける。どうやら仕切り直しのようだ。
「ハロルド、その者を中へ。侍る事を許す。」
「承知致しました。しばしお待ちください。」
黒騎士将軍様改めハロルド将軍がドアの前で一礼しこちらを振り返る。
「武器、荷物は全てこちらで預かる。出せ。」
「ええええ?!?!」
ちょっと待って、展開に全然ついてけない!!
「皇子のお側に侍るのだ。そなたは身ひとつしか許されない。無駄な時間を取らせるな。」
早く、と圧をかけてくるハロルド将軍。めっちゃ無表情で睨んでくる。この人もレオさん並みにデカいので正直近寄られると恐怖しかない。コッチきてからこんなデカい男ばっかりで、そろそろ『デカい男性恐怖症』を発症しそうなんですけど!平均身長170センチの日本が恋しいです…。
だが!怯えていてはダメだ!!バックパックにはタブレットが入ってる!!ヤバいタブレットが入ってるんだよ!!!!
バックパックの肩紐をぐっと握りしめる。
「だ、ダメですッ!!これだけは渡せません!!渡さないとダメって言うなら…、」
「言うなら?」
え、え、ええと…、
「レオさーーーんッッッ!!助けてーーーッッッ!!!!」
"お"は大声を出す、だ!!
俺の叫びは広場に響き渡り、何事かと店舗から村人が何人か顔を出した。
「おいっ!ハロルド、お前何してるんだ?!」
皇子も大声に驚きまた外に飛び出てきた。
しかしハロルド将軍閣下様は、慌てず騒がす俺の手を捻り上げ地面に押し付けて拘束した…。あのよく、犯人確保ーッ!って警察の人が馬乗りになってるヤツ…。
「痛たたたたたたぁぁぁッ!!」
折れる!折れる!腕折れちゃううう!!折れちゃううう!!!!
「黙れ。抵抗すれば折る。」
「ヒッ…!!」
ガチで折られる?!?!
捻り上げられた腕が悲鳴をあげているが、リアルの悲鳴はぎりぎり飲み込んだ。だが痛すぎてかわりに涙が溢れてくる。
「おい!ハロルド、やりすぎだ!泣いてるではないか!離してやれ!」
皇子がオロオロしながら離せと命令しているが、将軍には一向に解放する気配がない。
「御身を傷つける意思がある者を離す訳ないでしょう?これを可哀想と思うならば皇子はさっさと中へお戻りください。」
「くっ、戻るからその者を、「離せよ、将軍様。」…、レオナルド!丁度良い所に!」
レオさん来たーーーーッ!!
地面からレオさんを見上げると、めっちゃお怒りの形相だった。不良の人がメンチをきるみたいにちょっと斜めに首を傾げ、手にはあのデカいククリナイフを下げている。助けてに来てもらって何だが、ヤのつく武闘派反社会勢力の人かな…?
「やはり来たか、アーロ公。」
「俺はアーロ関係ねえって言ってんだろうが。今のアーロはお前だ、アホ。とりあえずその人を離してもらおうか。俺の大切な契約主だ。これ以上その人を傷つけようもんなら、そこのキアニグもおんなじようにヤんぞ?」
レオさんがクイッと首を斬るジェスチャーをする。
「は?!私?!」
…皇子、完全に巻き込まれ事故である。
「…相変わらずであるな。ではレオナルド殿、その物騒な物はしまって頂こう。私にも護衛義務があるのでな。」
レオさんはナイフをしまいつつも、メンチを切るのはやめなかった。怖ええ…。
ナイフがしまわれるのを確認すると将軍は俺の上から退けた。すぐにレオさんが駆け寄り、俺を抱き起こして怪我はないかと確認される。捻られた腕はまだジンジンするが、他は怪我らしい怪我はしていなかった。
大丈夫と答えレオさんの手を借り立ち上がると、巻き込まれ皇子が将軍の背後から顔を覗かせニッコニコな笑顔で手を振っている。先程までの修羅場はどこに行った…。
ちなみに将軍の背後にいると言っても、皇子もまあまあデカいヤツだった。あれ180はあるな…。クッ、この世界の平均身長は何センチなんだ…。
「レオナルド、久しぶりだな!良かったら中で話そうではないか!」
…この皇子、懲りねえな。
「だってよ、ハロルド。」
お手上げポーズのレオさんに、将軍はため息をついた。
「…レオナルド殿が同席であれば許可する。但し、私も同席だ。」
「おう、じゃあついでにリオガまで送れ。次の便があと2タトしねえと来ねえんだ。」
「ははは、リオガと言わず城に来い。私がもてなすぞ。そうだ、兄上達も呼んで歓迎会を開こう!」
将軍の脇からするりと皇子が抜け出し、レオさんの肩をバンバン叩く。レオさんは心底うんざりだと、将軍に皇子を押し付ける。
「誰が城なんて行くか。俺はリオガに用があんだよ。ハロルド、コイツちゃんと躾しろ。自由にも程があんだろうが。」
「私は教育係ではない。さあ皇子、これ以上は面倒なので中にお入りください。」
ばっさり。
…何だろう、皇子に対して不敬しまくりなこのやり取り。皇子って一国の主の息子さんだよな?レオさん敬語すらないんだが?
…と言うか全員顔見知りなのか??
「(レオさん、知り合いなの?)」
「(…それ後でな)」
小声でレオさんに聞くが、苦笑いで誤魔化された。ワケありって事?
最初に皇子が楽しそうに熊車に乗り込み、後にレオさんが続いたので俺も乗り込んだ。
将軍が乗り込む前に御者さんが声を掛けてきた。
「将軍閣下、いつでも出発できます!」
御者さん、あの騒動の中しっかり働いてたらしい。えらいな…。
「よろしい。目的地はリオガだ。乗車後、直ちに出発せよ。」
「ハッ!承知致しました!」
熊車はトズからリオガへ向け走り出した。
…とまあ、走り出したのはいいんだが、熊車の中はミッチミチに男が詰まってめっちゃシンドい。
熊車の中は座席が向かい合わせで、広さは軽自動車サイズと想像してほしい。そんな中に180超えの男3人と普通の男1人(俺は168です…)、内2人は筋肉と鎧。
どう考えてもキャパオーバーです。ありがとうございました。筋肉と鎧に膝が擦り合う距離感辛いです。
そんなムンムンな男祭りの中、皇子がご機嫌で話し始める。
「やっと会えたな。ハロルドに頼んで熊車を飛ばした甲斐があったぞ。途中通り過ぎてハーナキまで行ってしまったがな!はっはっはっ!」
「わざわざこんなど田舎に何の用だ。さっさと話せ。」
し、塩対応!めっちゃ塩対応すぎんか、レオさん!
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