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健全黒字経営目指します!
優しさと筋肉でできている
しおりを挟む第29話 優しさと筋肉でできている
「…よし、見えた。」
覆面は見開いていた目を細め、片目を手で隠した。
ア、アレだ…。思春期の中学二年生が患ってしまう事があると言う、あの邪な片眼が疼く有名なポーズだ…。覆面ストーカー殺人鬼に中二病なんて盛りすぎじゃ…。
目の前の覆面はそんな俺の不安など露知らず、細めた片目で辺りをゆっくり見渡す。
「…ここからあちらの方向に、魔力が動いている。ふむ、これは…。君、安心していい。どうやら私の師匠と君の探し人が一緒に行動しているようだ。」
「師匠??」
おい待て、覆面の師匠って、また覆面が増えるのか??
俺、パニックホラー映画通りこして、覆面パンデミック映画の世界に転生した??いや、そんな映画なんてないけど、マジ覆面師匠登場すんの??
「ああ、偉大なる剣聖の称号を賜っている方だ。有難い事に私は神官長の恩情でその方に剣事の師事を頂いている。」
「へえ、剣聖様が師匠なんですか。凄いですね。」
しかし有難い割には目も口元もスンとなって無表情ですが…?もしやその偉大なる剣聖師匠は覆面も表情を無くすくらいのめっちゃ厳しい人なのだろうか…。うう、あんまり怖い人に遭遇したくないな…。
「彼らがここから少し離れて行くのを感じたから、こちらから追いつこう。」
覆面め、微妙に話の矛先変えたな。そんなに師匠が苦手なのか 笑。
まあ、厳しい先生(師匠)なら仕方ないな。少しだけ覆面に親近感がわいたよ。小指の爪先くらいの親近感な!
覆面がとっとと歩き出したので、俺も後ろに着いて歩く。
が、まだ足がそんな動かなかった…。30代、これ程走りのダメージが回復しないとは…。つら…。
少しずつ差が、足のコンパスの差も相まって、俺と覆面の距離が開き始める。
追いつこうとスピードを気持ち小走りまで上げるが、悲しい事にまた少し息が切れてきた。小さく息を荒げながら覆面の背中を追う。
「………。(ハアハア)」
「………。」
ピタリと覆面が足を止めた。
「…ど、…どうしたん…です?(ハアハア)」
「………。」
覆面が後ろを振り返り、少し距離があった俺に歩み寄る。
「無理はいけない。神殿は弱き者に手を差し伸べる。しばらくきついかもしれないが、少しの辛抱だ。」
ヒョイと俺を抱き抱え、そのまま肩に担いだ。
「?!?!」
俵 担 ぎ。 (2回目)
異世界は俵スタイルがデフォなのか?!?!
と言うか何故この世界はすぐ担ぐのか?!?!これ普通なのか?!?!
しかし俵スタイルに抗議するには、俺の足さんはポンコツでもう行軍は無理と泣きが入っていた…。
「…すいません、少しだけお世話になります。」
「君は謙虚だな。神殿でも謙虚さは美徳だ。私はそんな君を好ましく思う。」
…あれ?まだホラーフラグ立ってるんです…?なんか微妙にストーカー殺人鬼復活してません?
見えない怪しいホラーフラグを立てまくりながら、覆面は俺を俵に再び歩き始めた。
しばらく森を進むと、レオさんのウォールが現れた。
「あっ、これ!目印のウォール!」
「ん?このウォールは目印なのか?」
「そうなんです。迷ってしまったから何枚目かわからないんですが、これを辿るよう言われていて…。」
何枚目かはわからないがこの場所は見た事がある。小さな白い花が咲いた薮が丁度ウォールを挟んでいて、よく地球にある記念碑っぽくなっていたのが記憶に残っていた。多分、チェックポイントに近い最初の方のウォールだ。
「なるほど、なかなか小手先がきく護衛のようだ。分れ道を塞いで出来るだけ真っ直ぐに目的地へ導いているのだな。」
確かにそうだった。行きはウォールの間隔と枚数ばかり気にしていたが、よくよく見ればウォールと平行に獣道があり、ある意味一本道を形成していた。確かに誘導って言ってたもんな。レオさんって見た目脳筋だけど、実は結構計画的な人なのかもしれん。
「でも、何故か4枚目は見つからなかったんですよ…。実は三叉路だったのかな…。行きは一本道に見えて、帰りは分れ道みたいな、」
「………。」
不意に覆面の足が止まった。心なしか覆面の体がぴくっとした気がした。
ちょっと覆面さんや、動かなくなったがどうした?エネルギー切れか?降りたほうがいいか?
「…君の探していた4枚目だが、多分、多分だが、私の師匠が壊した、…かも知れない。」
「は?」
剣聖師匠がなんだって?あと今、なんで「壊した」のトコだけ小声早口で言った?
「師匠は少し茶目っ気がある方で、面白そうな事柄を見つけるとほんの少しだけ干渉したくなるそうなんだ…。師匠曰く明日を生き抜く為の試練との事だが…。」
「…は?」
「…いや、師匠が壊したとは…限らんな!よし!では先を急ごう!」
「ちょ、ま…、うぐっ!」
俺の制止を振り切るように、覆面は先程よりも速いスピードでぐんぐん歩き始めた。
コヤツ…、事件は何も起きなかった事にしたぞ…!剣聖師匠、明らかにやらかしてる!
俺の心の中の名探偵が、犯人は…剣聖師匠、お前だ!と高らかに宣言した。
しばらく無言の道中が続いたが、ウォールに沿って覆面が歩いているのに気づいた。
「もしかしてあの二人、この誘導路の先にいるんですか?」
「ああ、そうみたいだな。多分向こうもこの道筋を辿って君を探してるんだろう。」
おー、これならもう少しで再開出来そうだ。
「ありがとうございます。あ、そろそろ降ろしてもらって大丈夫です。大分、楽になってき…、」
ザッ!!!!
突然覆面が腰を低くし、腰の剣を引き抜く…、のを体全体で感じた瞬間!
「「!!!!」」
チャラついた厳つい人がニヤニヤしながら担がれた俺の顔の前にいた。そして覆面の首に短剣を突きつけていたのだった。
「はい下僕ぅ、クソ雑魚すぎぃ。殺すぞ?」
「クッ!!」
な、何?!この殺るか殺られるか的な状況?!
しかもこの輩っぽい人、いま下僕って言ってたよ?!?!
「なあ、かわい子ちゃんもコイツ雑魚すぎ包茎野郎って思うだろ?」
輩っぽい人が俺の耳元に顔を寄せ、覆面を煽りまくりな暴言を囁く。
「はヒッ?!?!」
なんで俺に振ってきた?!しかも包茎野郎とかそれ本当にコメントに困るヤツだから!!かなりセンシティブな問題だから!!
「…師匠、私は下僕でも包茎でもありません。あまり下品な話をなさらないでくださいと、前にお話しさせて頂きましたがッ!」
一瞬覆面の体がぐっと膨らんだ気がした。
と思ったら、俺は宙を飛んでいた。
比喩ではなく文字通りに。
「はええええええーーー?!?!」
天高く俺吹っ飛ぶ異世界かな。
…って、何故ーーーッ????なんで俺、ボールみたいに投げられてんのーーーッ?!?!
気づけばもう目前に木が迫ってくる!
「ぶつかるううううううう!!!!!!」
ドン。
「ぐへっ!」
「大丈夫か?」
この声は!!
「レオざああああんんん!!」
「おう。泣くな、泣くな。なんだ、どっか痛かったか?」
「痛ぐないいい…。」
着地地点には俺のナイスマッチョ護衛サマ。
ええ、しっかりと受け止めて下さいました。そりゃ、いきなりぶん投げられたら普通の人は涙目必至ですからね。でもユーのおかげで怪我ひとつありませんよ…。筋肉クッションありがてえ…、ありがてえ…。
「クッ!!」
不意にうめき声が下から聞こえた。
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