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健全黒字経営目指します!

全てはうろ覚え

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※冒頭から魔獣扱いの動物の殺生シーンがあります。
動物の殺生に対して嫌悪感を感じる方は今話は中程くらいからお読みください。もしくは次話までお待ちください。

ーーーーーー

第26話 全てはうろ覚え



 壁から身を乗り出し侵入口になる森の切れ目を伺う。
 ちょっと先の木々が大きく揺れ、たまに鳥が空に飛び立っていく。それがどんどんこちらに向かって近づいてくるのがわかる。

「こっち来る!!」

 熊だ!熊が来たら身を低くしろって言われた!
 慌てて体を避難小屋へ引っ込め、出来るだけ小さくなるよう屈みピッタリ壁に引っつく。

「…ぅらあああ!!"ロックス"!!」

 地鳴りに混じってレオさんの叫び声が聞こえる!多分、あと少し!
 祈るようにバックパックを抱きしめる。

ドガッ!!バキバキィ!!ドドオオ!!

 間近になった何がぶつかる音、木々が折れる音、地鳴り。そして、

「落ちやがれえええ!!"ロックス"!!」


ズオオオオオオン!!!!


 大きな何かが穴に落ちる音!!

「(…よぉぉしっ!!絶対いま熊落ちた!!)」

 まるでサッカーのゴールが決まった瞬間のように興奮して、小さく叫んでしまった。
 
 だが待て!俺!
 まだ勝利確定ラインじゃないぞ!!
 レオさんがオッケー出すまでは待機だ!!


「"ロックス"!"ロックス"!」

「ガァァァァァァッ!!」

ドゴッ!ボギャッ!

「グギャァァァーーーッ!!」

 獣の咆哮とロックスの掛け声に混じり、何がぶち当たったり潰れたりするような音が聞こえる。

「………。」

 その生々しい音を出来るだけ聞かないよう手でギュッと耳を覆う。
 何の音か考えたら負けだ。アーッ!アーッ!アーッ!聞こえなーいッ!聞こえなーいッ!、……きっこえな~~~い♪あの日の君の好きぃ~~~♪……フフンフ~ン♪……フフ~ン♪……
 頑張って流行りの歌を脳内スピーカーに流すが、歌詞を忘れた為サビ以外ほぼ鼻歌に…。いいんだ、別に…、いまここで生歌を披露する訳じゃないから…。
 そのまま脳内ヒトカラ大会(鼻歌参加もOK)を始めて3曲目に差し掛かるあたり、やっとレオさんのロックスの掛け声が止まった。
 あたりにはカラン、コロンと何個か石が深みに転がり落ちる音だけが聞こえる。

 終わった…かな?

 でもまだここから顔は出せない。
 俺はレオさんのオッケーがないと不用意に動いちゃダメな護衛対象だ。大丈夫、レオさんは大丈夫。さっきまでちゃんと声がした。まだ飛び出すな。落ち着け…、落ち着け…、
 呪文のように落ち着け落ち着けと小さく口の中で唱える。


コンコンコン。


「よう、待たせたな。赤足討伐終了だ。」

 頭の少し上の土壁がノックされ、パッと見上げれば、イケメン傭兵が壁縁で頬杖をつきながらこちらを覗きこんでいた。勿論、あの得意気な笑顔を浮かべて、だ。

「よ、よがっだああああレオざんだああああ…」

 レオさんの顔をみたら一気に緊張が緩み、ついでに涙腺も軽く緩んでしまった。
 ヘナアアアと地面に座り込んだ。

「怖かったか?ほら、もう大丈夫だ。よく声あげなかったな、偉いぞ。」

 レオさんが壁をヒョイと乗り越えて、隣りに座りそのまま俺の頭をワシャワシャした。
 
 くっ、また頭を!!
 でもめっちゃ安心したから今は許す!!今だけだ!!

 ワシャワシャが緩くナデナデになった頃、やっと気持ちが落ち着き、情けなくなってた目元をゴシゴシと袖で拭った。

「…レオさん、無事で何よりです。」

「おう。熊狩りはよくやるから今回もなんも問題ねえよ。ちょっと走ったから疲れたくらいだ。」

 確かに走ったせいか、後ろに流していた髪が少し乱れてちょっとワイルドラテン系になった以外は怪我とか無さそうだ。あ、でも半袖だから腕に細かな切り傷がある。

「腕、ちょっと怪我してる…。」

「ん?ああ、流石に薮に突っ込めばちょっとくらいは掠るからな。こんなの後で傷薬でも塗ればいいさ。あー、でも回復しゅくらいは飲みてえな。ロックスぶっ放しすぎたから疲れた。」

「回復酒…?」

「俺が根城にしてる斡旋所名物さ。なんと安酒やすざけに回復薬ぶっ込んだだけのヤツ。やたらあたりがキツいが、効果はすげえんだぞ。次の日は二日酔いなんだか元気なんだかわかんねえんだ。」

 そう言ってゲラゲラ笑う。
 
 いや、それ、次の日までに酒が残ってる酔っ払いの効果ですよね…。

「レオさんはいま魔力がない状態なんですか?」

 そう言えば、さっきから回復薬とか魔力とか言ってるが、この世界ってゲームみたいにMP的なものがあるんだろうか??
 レオさんの話っぷりだと、体力と同じ扱いっぽいけどな??
 うーん、気になるな!魔法能力!

「いんや、まだ余裕はあるなあ。一日中ぶっ放し続けたわけじゃねえし、ちょっと休めば熊公のもう一頭くらい…、」

ギャー!ギャー!ギャー!ギャー!

「!!!!」

 あたりに響き渡る鳥の声。
 あれ、この鳴き声は…。

「あ、なんかオレンジ鳥が結構近くにいるみたいで…、「おい!!いつからあの鳥騒いでた?!」…、え?」

 レオさんがガバっと立ち上がり、壁を乗り越えて外に飛び出る。

「え、えっと、レオさんが熊とこっちにくるちょっと前…?え、あれ?」


ズズズズズズズズズズズズ!!


 地鳴りだ。
 聞き覚えがある地鳴りだ。

「クソッ!!さっきの赤足あかあしは子供か!!どおりで小せえと思ったわ、クソがッ!!」

 は?子供?え?どう言う事????

「コウ、逃げろ!!例の場所だ!!行け!!」

 壁から引っ張りあげられ、背中をどんと押される。

「レオさんッ?!」

赤足あかあしの親ともう一戦だ!次は正面からぶつかる!ここはヤバいから早く行け!!」

「は、ハイ!!!!」

 鬼気迫るレオさんに押され、バックパックを急いで背負って誘導路に走り出す。

 赤足あかあしの親?!正面?!
 な、何?何が起こってる?!
 何が何か全然わからないよ!!!!

 混乱のまま森を走り、誘導路のウォールを辿る。
 …ウォール1枚目、また走る、…ウォール2枚目、また走る、…ウォール3枚目、また走る…、

 が、4枚目が一向に出てこない。

 足を止めグルリと辺りを見回す。だが、目に入るのは似たような森の木々だけ。
 確かウォールは全部で8枚。…なのに4枚目が見当たらない!!

「ハアハアッ、4枚目、4枚目がないッ!!ハアハアッ、まだ半分も来てないッ!!でも、4枚目がッ、4枚目がッ!!ハアハアッ、な、何でッ?!」


ドガァァァン!!!!


 窪地の方向から何かが爆発するような轟音が聞こえた。音に少し遅れ地面が僅かに揺れる。俺は思わず頭を抱えてしゃがみ込む。

「ううっ!!なんだよ、コレ!!」

 どうしよう?!一旦3枚目まで戻るか??
 でも、3枚目に戻る間に熊が近づいてきたら??4枚目を探すほうが安全牌か?!

ガサガサッ!

 突然後ろから薮をわけいる音が聞こえた。

「ヒッ!!」

 ヤバい!ここはヤバい!やっぱり次に行かなきゃ!!
 
 なり振り構わず転がるように立ち上がり、また走り出す。出来るだけ大きな獣道を見定めて進路をとる。ウォールは大きな獣道にあった筈だから。
 しかし軟弱な30代の体は、もう心臓がバクバクと壊れそうなくらい早く脈打ち、息も切れすぎて上手く新しい空気が吸えない。段々と頭が朦朧もうろうとしてくる。
 
 だが、走らなきゃ…!あの針葉樹に行かないと…!

「うあっ!!」

 とうとう足がもつれ、無様に獣道に転がる。

「ゼェゼェ…、い、痛え…、マジ、ゼェゼェ…、痛えんだよッ!チクショウッ…!!ゼェゼェ…」

 なんとか立ち上がろうとするが、悪路を慣れないブーツで走ったせいかもう膝が笑って上手く立ち上がれない。

「…や、イヤだ…、ゼェゼェ…、こんな、ゼェ…、こんな所で…グスッ、早く、助けろよ、グスッ、バカレオ、ッ…!」

 自分の体が全然言う事を聞かない。悔しくて悲しくて、突っ伏したまま地面を叩く。

「…大丈夫か?」

 ガサリと茂みを掻き分け、誰かが近づいてきた。

「ッッ!?」

 ガバっと渾身の力を込め起き上がる!

「ま、待て、無理をするな。私はお前の敵じゃない。」

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