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第二十八夜 点と点

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第二十八夜 点と点



「待ってくれヤマト、「ヤマト禁止。」…、ええとサイ、どうかこれを持っていてくれ。」

 アサヒは部屋から出ようとした俺の手を掴み、何かを手に握らせてきた

「ん? これ指輪?」

 さっきまでアサヒがつけてたゴツめの金指輪だった。

「今、それに俺の魔力を込めた。これがあれば魔国で職質されないぞ。公的機関は顔パスだ。あとそれを転移陣の触媒にすれば俺の城まで転移できる。ほら、ナイミリのテレポーターは一度行ったところしか飛べないだろ? って、こっちでテレポーター使えるかわからんが…。」

 ニコッとアサヒが前世のアサヒっぽい笑顔で笑った。
 前世でも憎めない爽やか笑顔とクラスの女子評価が高かったが、今世の魔王様フェイスだとイケメンがイケメンすぎてヤバいな。女子ならキュン死確定だろう…。残念ながらこの世界に女子はいないが…。

「サンキュ。一応テレポーター使えるけど触媒は使えるかわからんから、こっち産の転移陣でありがたくコレ使わせてもらうな。…って、これめっちゃデッカいな?! すげえスカスカだわ。」

 ありがたく指に嵌めてみたが、魔王様サイズの指輪は思ったよりデカくて俺には親指すらブカブカだった。
 うーむ、これは紐通して首から下げるしかないかなぁ?

「どれ、貸してみろ。」
 
 アサヒが手を出してきたので指輪を渡すと、アサヒは指輪に人さし指を当て小さく何か呪文っぽいのを唱えた。

「サイズ合わすから、利き手じゃない方をこっちに。」

 お、さすがアサヒ。細かいとこに気が回る。利き手にそのゴツい指輪は邪魔になるぞって事だよな。

「ん、よろしく。」

 アサヒは俺が差し出した手をふんわり支えた瞬間、凄い速さで指輪を嵌め魔法を発動させた。

シュッ

 指輪は魔法で一瞬光ってから俺サイズに縮んでぴったり綺麗に嵌った。

「はあああああ?! 何しちゃってんの、アンタああああ?!」

 俺が驚きで声を発するより先に、隣りのエルが大声をあげた!

「指輪を嵌めただけだ。何か問題でも?」

 ニヤッとアサヒが前世の腹黒アサヒっぽい笑顔で笑った。

「「問題しかない!!」」

 何故って、嵌めた先、指輪の位置は…、


 だからーーーッッッ!!


「これは俺の魔力が籠った指輪だから、無くさないように大事な指に嵌めたんだ。一応するっと抜けないよう固定魔法はかけてるが、…ふふ、大事にしてくれよな?」

「え、うそ?! ………うわ、これマジで抜けないんだが?!」

 ぬんっと気合い入れて力技で指輪を引き抜こうとしたが、よくある指輪が関節の太い所に引っ掛かって以前に、指輪はまるでそこにデザインされた彫刻のように薬指から微動だにしなかった。

「キツくないだろ?」

「…キツくと言うか付けてる感も全然ない。」

「座標固定みたいな感じだからな。こっちで手枷などに付与してるのを少し改変してみたんだ。あ、あと元のサイズくらいまでは自動的に拡張するから、そうだな、…多分10キロくらい太っても平気だぞ。」

 いや、何その座標固定魔法…。手枷に付与ってそれは犯罪者用の魔法では…?

「ふざけんな、このサイコパス魔王。コイツやっぱ退治しなきゃダメだ。悪の魔王は滅するに限る。今すぐヤろう。そうしよう。」

 エルがぐっと身を乗り出し拳を握る。
 アサヒもやるか? おん? と見下し姿勢で仁王立ちだ。

「ああああ、もーッッ!! お前ら!! エル、いい加減昔馴染みだからってじゃれつくのやめい! アサヒ、お前もふざけすぎだ! 指輪は後で何とかして貰うからな! ハイッ、終わりおわり、解散!」

 解散を宣言してエルの首根っこを引っ掴んだ。
 ホントめんどくせえ! 今度こそ帰るぞ!

「…ヤマト、「ヤマト禁止!」…、ーーーサイ、またな。駄犬、しっかりサイを守れよ。」

 アサヒはフッと笑って、片手をあげた。
 
「おう、またな。」

 俺はその片手にパンっとハイタッチし、そしていつものように拳をぶつけた。ナイミリでもよくやるフィストバンプモーションだ。
 うん、今は見た目魔王だけどやっぱ中身はアサヒだな。
 ちなエルは中指の下品ハンドサインだった。マジキッズ勢…。

「んじゃ、俺はお義母様…じゃなくてヘルメーウ卿に挨拶して帰るわ。」

 ヒラヒラとアサヒに手を振り、今度こそ部屋を出た。


 お義母様と宰相さんは身の危機を感じたらしく、続きの間ではなく廊下で待っていた。

「騒ぎを起こしてすいません。魔王様とは無事話し合いが終わったのでこれで解散しますね。あ、ヘルメーウ卿、ほんのちょっとだけお話ししたいので、お時間いいですか?」

「はい、問題ないです。では、この前の部屋で。」

 お義母様はまるで騒ぎなんて何もなかったと言わんばかりのキラキラ笑顔対応してくれた。
 宰相さんにお辞儀をしてお義母様と移動しようとしたら、宰相さんに呼び止められた。

「…魔王様と君達の関係は、『良好』と考えていいのか?」

 …あー、さっきまでのアレな。

「良好と取って頂いて構いません。詳しくは申し上げられないですけど、魔王様と俺達はある一点で繋がりがあるので。一応、会談では中立の立場は取りますが双方が平和的解決に至るよう尽力します。勇者エルもああ見えて実は平和を愛する男なんで。」

 プッと宰相さんが吹き出した。

「アレで平和を愛す男か。…ははは、君は中々面白い物言いをするな。無事、事が収まったなら私の元で働いて貰いたいものだよ。では、私も平和的解決に向けて尽力するか。ヘルメーウ、そちらが終わったら城で寝ずの会議だ。コーヒーをしこたま用意して待ってるぞ。」

「ふふふ、宰相様の寝ずのお誘いとあれば、私も良い茶葉を持って駆けつけなければ。」

 魔国トップ達がスマートに残業予告をしておられる。ブラック徹夜会議な筈なのになんかカッコいい…。さすがエリート階級のお仕事現場は違うわ…。

「では、これにて失礼させていただく。」

 アサヒの元に戻っていく宰相さんを見送り、俺達もお義母様の応接室に移動した。

「魔王様との会合お疲れ様でした。ところで、私に話しとは?」

 応接室でまた美味しいお茶とお菓子のおもてなしを受け、ひと息ついたところでお義母様が話を振ってくれた。

「ああ、ヘルメーウ卿に事前にお伝えしたい事がありまして…、」

 俺はお義母様にこの前話した俺達が魔族ハーフの件は実は事情があってフェイクだったと謝罪し、エルの正体は実は異世界の勇者、でも魔王様には敵対しない意思があるなど和平会談に必要なネタを伝えた。

「…なるほど、そう言う事情が…。しかし、サイ様達に感じた少しの違和感が繋がりました。…ふうむ、少し前提が変わってしまいましたね。まあ、外交面で根底が崩れる程大きな路線変更ではないので大枠はこのまま進めましょう。ところで人族側の調整はどうされますか?」

「そちらは今からですね。…一度、勇者パーティーに国へ戻ってトップに和平を触れ回って貰うつもりです。」

 アイツらには触れ回ってもらわないとな。

「それは…、時間は大丈夫なのですか? 人族の国は広いし、国も一つや二つじゃないですが…。」

 そこは無問題。

「大丈夫です。実はこちらの勇者様には特別な転移陣があるので、パーティーの誰かが一度行った国には飛べる仕様ですね。行った事がない国には同盟国などのツテを使って通信を送ろうと考えてます。大陸広しとは言え、国は小国含め十には満たないと聞きました。ただ、渡りをつけるのに一週間ちょっと頂きたい。国のトップがごねての期間延長はなんとも出来ないので。」

「ははは、わかります。私達の国も似たような物ですからね。ではそちらの調整は二週間を目処にしましょう。」

 お義母様も苦笑いだ。どこも一枚岩では無いだろうからな。

「ありがとうございます。こちらの勇者パーティーはある意味人族代表、国と宗教はある程度握っていますから外交面の落としどころ次第かと思います。お互いの不利は少なくが理想ですが、やはり譲れないところも多々あるかと。そこは現段階でクリアを目指すのではなく、不可侵条約など結んでから後々に引っ張っていくカタチで、」

「…サイ様はどちらかの国で政治に携わっていたのですか?」

 おっと、ちょっと過干渉すぎた。
 …政治はね、国経営ゲームで齧っただけです。素人知識で大口叩いてすいません…。

「異世界で勇者にくっついて戦争国を周った事が…。そこの聞き齧りですから、余計な事を…。すいません。」

 異世界人ネタで誤魔化しちゃう…。

「いえ、そんな謙遜なさらず。参考になります。確かにその場で全て決めてしまうのは、この移ろいやすい世すぐ綻びが出るでしょう。ふふ、宰相様がお誘いするだけありますね。私も是非お仲間にお誘いしたいです。」

 おっふー、スカウトきたー!
 俺、魔国でエリートになっちゃうヤツー!
 異世界知識無双主人公しちゃう?!

 なーんてな。魔国の人、マジで社交辞令がすごい上手いよな…。

「とても嬉しいお誘いですが、俺達は異世界人でいずれこの世界を去る者。俺達の世界には立つ鳥跡を濁さずと言う言葉があります。渡り鳥の引き際は美しくあるべきと。」

 …立つ鳥のことわざってそんな意味だったよな? 

「そちらの世界の言葉はとても美しいのですね…。サイ様がお帰りになる前にまた異世界の素晴らしいお話しをお聞き出来たら幸いです。」

 ニコッとお義母様がキラキラ笑顔を見せてくれた。…やっぱ外交長官、返しが上手い。百点。

「ではまたお茶会でもしましょう。今度は魔族、人族一緒に。」

「それは楽しみですね。世界で一番の美味しいお茶を準備してお待ちいたしますよ。」

 こうしてお義母様とのお茶会は和やかに終了した。ちなみにエルは、前と同じく始終菓子を美味しく頂いて蚊帳の外を決め込んでいた。お前…。



「さあて、明日から全国行脚和平ツアーだ。今から勇者君に会ってざっくり説明すっぞ。尚、説明役は先輩勇者のエルな。」

 部屋に戻りだらっとエアー感覚ソファーへ怠惰の罪に落ちる前にエルのケツを叩く。

「ええー、めんどくさいー。いつものお手紙でお告げにしようよー。」

 エルは仕事が出来る気遣いイケメンなくせにこういうとこはすぐサボりたがる。雑だが時短できる代案を持ってくるあたりは仕事出来る男なんだが。

 だが、今回は雑に神様からのお告げはNGですから!

「うっさい、俺のお告げ無駄使いすんな。つーか、今回神は出しちゃダメだからな。勇者が自らの意思で立ち上がるシナリオじゃなきゃ、魔王討伐イコール神頼みはなくならん。人の世の中は人が作るべきってナイミリでも言ってただろ。」

「あー、済度さいどの神聖帝国か。あれも神様ネタだったね。」

 ま、アッチは強火な一神信仰の無茶な神託で民が虐げられるネタだったけど、本来の主役は民であるって話は今回にも通じると思う。

「今回は勇者君達を自力で世界を救った勇者語りでアゲて、あとはお義母様にふった和平ネタでいい感じにまとめろ。大体お前さっき俺が説明してる間、菓子食ってダラダラしてただけだろ? それくらいやれ。以上。」

「サイ~、それ結構情報量多いし~。もっと簡単なプレゼンにしようよ~。」

 エルがひーんと言いながら抱きついてきた。何故かついでに尻を揉まれている…。

「こら! 尻を揉むな!」

「いまサイ不足が深刻。」

 意味がわからん!

「そんな不足、」
チャラチャラチャラーン♪

「お、電話…、って、あ!……はい、もしもし。お疲れ様です。サイです。」

 うはぁ、課長からだ…!

 そう言えば課長と連絡とるって話だったわ…。すっかり忘れてた…。



<次回予告>

繋がる思い。小さな点に線が伸び、大きく絵を描く。
しかし神は叫んだ。まだだと。
次回、彼らは走る。 『第二十九夜 最善とは』
お楽しみに。

「伊達に繁忙期は見てねーぜ!!」

※次回予告はあんまり本編に関係ありません。

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