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第一夜 俺達フォロー推進課

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第一夜 俺達フォロー推進課



「ああああ、終われよ、クソがぁぁぁ。」

「はいはい。ほら、汗、早く拭きなよ。」

 はい、とタオルを渡されてダラダラ流れる汗を拭う。そのまま首に引っ掛け、うつ伏せから横向きに体勢を変えた。
 暑い。暑さにぐったりと体を投げ出す。
 このテント、もう少しどうにかならないものか。
 一応このテントは最新型らしく、床は地形に左右されずフラットで柔らかいし気温もテントの素材効果である程度は調整されているけれども!
 テントはテントなんだよなぁ、やっぱり。
 …アウトドア用のポータブルクーラー買おうかな。

「しかし、ホント元気だね…。もう1時間くらい?」

 そう言って隣りに腰を下ろしペットボトルに口をつけながら、勿論俺にもペットボトルを渡し会話している気遣いのメンは、相棒のエルだ。
 金髪碧眼長身の三揃いイケメン。さらに言うと気遣いヨシ、仕事ヨシのイケメンバフかけ過ぎて、嫉妬も一周回って全てが無になるレベル。
 そうして無になった時、仕事以外にぽつぽつとお互いの事を話す余裕ができ、実は結構ウマが合うヤツになり今は心許せる相棒だ。

「あー、そうそう。よーやるよな、こんなムッシムシの熱帯夜によぉ。元気が過ぎんだよ、コッチの王子サマ。いい加減赤玉出て死んで。」

「王族が絶倫テンプレ、マジで迷惑だよね。採用やめて欲しい。ところで他の連中は? 不寝番が立ってないけど、まさか不寝番のアイツらが青姦してる?」

「せーかい。しかもテントの奴ら、王子にスリープかけられて爆睡。マジ、世の中舐めてる。俺はもう知らん。寝る。」

 監視対象の状況をざっくり伝え、よっこいしょと立ち上がり手に持っていたタブレットをエルに押し付けた。

「セーフエリアは?」

「500メートルで設定。一応ステルスはかけてある。範囲内に引っかかってんの雑魚しかいねえから、あのバカ共でも死なねえだろ。あ、終わったら洗浄忘れんなよ。うっかり途中で孕まれたら始末書モンだからな。」

「わかった、わかった。セーフ内に残敵ありで、事後処理了解。時間になったら起こすよ。おやすみ、サイ。」

 タブレットをいじりながら、金髪碧眼のイケメン優男は目もあげずおやすみと声をかけた。多分、俺のお小言を聞くのが面倒になったと思われる。横っ面にそう書いてる。
 普段は猫被って笑顔対応だが、勝手知ったる相棒の俺にはたまに塩気味なのだ。
 だが、わかればよろしい。

「おー。おやすみー。」

 ひらひらと手を振って、背後にある出入り口のチャックを開けた。
 仮眠時間だ。時間いっぱいぐっすり寝てやる。
 
「まず寝る前に風呂だな…。」

 テントの先に繋がる『マイルーム』に設置されたバスルームに入った。はあ、風呂がある幸せ。マイルームのグレード最高まで上げてて良かった!



 ーーー『フォロー推進課』

 俺ことサイ、実名は斉藤大和やまとと相棒のエルはこの課の所属である。
 横文字混ぜ系で詳細を誤魔化すタイプの課で、業務内容は世界が破綻しないよう後方から支援また問題箇所を修正する事を業務とする。
 ざっくりすぎる。
 一瞬、どこぞの役所かと思ったが全然違った。


 まさかの神様機関だったわ…。


 俺やエル、また課の他の連中は大体騙されてこの課に来ている。神様機関なのに詐欺られてな。

 色々あってリアルで死に(俺は災害死、エルは病死らしい)、例の白い空間テンプレで『アナタは特別な選ばれし者…、どうか世界を救う手助けを…、』と煽てられ、イエスした瞬間無事フォロー推進課に終身(?)雇用。課の連中もだいたい同じ轍を踏んづけてる。みんな心に中二が住んでるからな…。

 そしてワクワク白空間から飛ばされての第一声は、俺(私)、勇者(聖女)じゃないんかーいッ!はお決まりの挨拶定型文だ。
 俺も叫んだわ。はじまりの村スタートかと思ったら普通のオフィススタートだったからな…。しかも役所の端っこにある小さなカウンターみたいな所でスーツにネクタイ姿のちょっと小太りなオジサン(課長)から業務内容の説明聞いてサインするスタート。ラノベ展開期待した俺、死んだ魚の目だ。
 業務内容やら出張についての説明、福利厚生労災云々など…、会社か…、ここは会社なのか…と一気にテンション落ち込んだね。騙されたってなるわ。マジ選ばれし者詐欺。

 ちなみに詐欺詐欺言ってるが、選ばれし者はちゃんと選ばれし者であってそこは詐欺ってない。
 選ばれし者、それはMMORPGゲー『ナイツオブミリオン』で100位以内ランカーもしくはレア称号持ちを指す。アクティブユーザー万超えの100位以内は完全に選ばれし者なのだ。わかる。そして俺はとある隠しイベントを最初に攻略した『青月あおつきの賢者』ってレア称号持ち。このゲームの中で1人しかいない。めっちゃドヤれる。
 …ドヤったが実はこのナイミリ、神様が用意したこの課の採用試験会場だったってさ…。内定確定よなぁ、ソレ…。

 ゲームと言う世界で強者また賢者である俺らは、ゲームに似た世界でも問題解決が出来る人材だそうで、課の業務内容の『世界が破綻しないよう後方から支援また問題箇所を修正する』にうってつけってワケ。尚、お仕事にはこのナイミリで培ったステータスや装備で行きます。ちなアバターも使用可。状況によって素顔と使い分けできる。(何故かって言うと、出張先によって種族が合う合わないがあるからさ!)

 例えばこの前行った出張先。
 最近ラノベにハマった神が推し異世界転移ラノベを無理矢理移植した世界で、そこのやらかしを俺らフォロー推進課が修正した、だ。
 
 出張先のこの世界は破滅の魔王の手から世界を救う俺TUEEE勇者系ラノベ、召喚されたチート勇者と仲間達が冒険の末、魔王の辛い過去(※コピペした神による捏造)に絆され魔王をギリギリ倒さず救済の為浄化作用がある石へ全ての力を振り絞り封印。そして力を失った勇者はその後を見届けられない未練を残しつつも、未来を仲間に託して地球、元の時間軸に戻るちょい切ない系ハッピーエンドストーリーをなぞる。
 尚、神が与えたもうた封印術は100年かけて魔王を浄化し清浄な姿に戻す。が、しかし浄化は実は不完全で魔王は再び…ってバカかーーーッ!! やらかし神がまた勇者召喚ラノベ再現見てえだけじゃねえかーーーッ!! そこの世界の住人も魔王も、完全にただ当て馬じゃーーーッ!! おっと、うっかり私情が…。話を元に戻す。
 おかげで世界が破綻するレベルの魔王が毎回百年に一度発生し、ズタボロになった世界を救う為異世界の罪なき一般人がランダムに車に轢かれ直前召喚とか言うクソシステムが世界に刻まれてしまっていた。もうソレを彼此かれこれ7回くらいやってるらしい。

 もう色々無茶苦茶だが、この話の一番のやらかしはラノベコピペ世界ではなく『異世界召喚』だ。

 終わったら無事勇者クンが戻ってくるけど、勝手に召喚がダメ。許可なくひとんちのモノ勝手に何回も持ってっちゃダメってやつ。縄張り荒らされた神様ブチ切れな。ならば、戦争…なんて神v.s.神のとんでもねえ事態もアリな訳で。
 それを防ぐ為、修正しに現地入りするのが俺らの仕事で。

 基本的に今ある世界観を壊すのは、世界が保たなくなるので今回の勇者召喚をラスト召喚にするストーリーに修正、また勇者職に過剰な期待がつかないよう悲惨なイベントをマイルド修正もする。
 勇者達にバレないようそこの世界の住人Aなりきりしたり会社支給道具でステルス機能などフルに使ったり、または実力で勇者パーティーの命の安全サポートして魔王戦までストーキングですよ。んで、封印術のこっそり最後の最後くらいに俺達が魔王をステルスでかっ攫って倒して終わり。
 尚、やらかし神の処遇については俺らの仕事じゃないから知らん(多分、上位の神にメッされる
じゃないかな!)

 

 …まだ意味がわからないって?

 俺も未だわからないよ…。
 わからないまま今に至りますよ…。
 尚、今回も召喚勇者が魔王を倒す世界だが、今回やらかし神がやらかしたのは、神による違法召喚。帰還方法の不確立。勇者にセックスをさせて魔王を倒す力を得る加護付与。そして女性を世界から消した。…その意味はわかるな?
 やらかし神曰く、BL最高。愛され勇者総受最高。…全く意味がわからねえよ。神サマにメッされろ。
 女性の件は俺達現場組ではどうにもならないなで、今回は勇者が無事帰還できるように安全をサポートしつつ、勇者が子宝(※男性妊娠あるらしいよ!)に恵まれないようにシモのサポートをしつつ、そっと魔王滅殺である。魔王、恨みはないが滅殺だ。俺はもうアンアンする勇者♂は見たくない。



<次回予告>

俺達は騙されていたが、実は騙されていなかった…。
そして世界を越えて彼を救う旅が今始まる。
次回、勇者絶対絶命?『第二夜 レイド戦』
お楽しみに。

「俺達の出張はこれからだ!」

※次回予告はあんまり本編に関係ありません。
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