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今日は俺が7時のお知らせをする番だった模様

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 ……翌日。

 ……白いレースのカーテンがフワリと俺の顔を優しく撫で、可愛らしい雀の鳴き声が聞こえてくる。

 ああ……朝か……。

 それにしても、風が少し湿っぽく感じるのは、初夏になったからだろうか?

 俺の名前は栗原悟くりはらさとる、今年祖父の経営するから独立し、事務所を構えた東京在住の社会人25歳。

 家の前の立て札にも書かれているが、「栗原会計事務所」を1人でやりくりしている身だ。

 高校時代から大学時代まで小銭を稼ぐために、祖父の会計士としての手伝いをしていた俺。

 経営者の祖父からも「お前、会計士としてのセンスがあるから公認会計士としての資格を取っとけ」と有難いアドバイスも受け、大学時代には、この就職難の時代に確実につける職を考えていたら自然とこうなった訳で……。

 学生時代からコツコツやっていた経験の積み重ねもあったし、『数字のチェック後の難解なパズルを解いた達成感が俺は好きだった』から、天職かな? と自分では思っていたしね。

 それは置いといて、何やら胸元が重く感じるのだが?

 ……えっと……ま、まさか……?

 俺は柔らかい布団をそっとめくり、胸元にのしかかる正体を見極めようとする。

 ああ……なるほど、やはりお前か……。

 白井心愛しらいここあ……いや、シロが丸くなり俺の胸元を枕代わりにし、すやすやと気持ちよさそうに寝ていたワケで……。

 ……ただし、昔のように可愛らしい猫の姿でだ。

 あ……い……いや⁈ 今も十分魅力的で可愛らしいのだが、やはり猫の姿には……ね……という意味で。

 俺はカンの良い、白井に言い訳出来るように心の中で考えをまとめる。

 ……でも、これがもし人の姿で、白井だったなら俺はどうしていただろうか……?

 ……しばらく悶々もんもんとした思考が俺の脳裏を支配する。

 い、いやいや……俺と白井はまだそんな関係じゃないし、いらんことしようもんなら、「同居する時の契約違反だ!」とか言われ、きっと俺がひどい目に合うだろうし、ね、ねえ……?

 な、ないわー……絶対にないわー……。
 
 ……おっと、それはそうとして……俺はふと、白壁にかけられている壁時計を見る。

 時計の針が射す時間は、6時30分……まだ、いつもの7時じゃない……。

 そう、まだ、30分の時間の猶予があるじゃないか……。

 俺は少し首を動かし、俺の胸元で寝ているシロをまじまじと観察する。

 閉じた目と口が、満足そうにへ文字になっている姿はとても幸せそうだ……。

 それに、もふもふしたお腹が静かに上下し、安らかに寝ているその姿は……そう、まるで人のようにも見える。

 こいつは、た、たまんねえ……。

 ふむ、どれどれ……久しぶりにシロでモフらせていただきますか……。

 1年ぶりのシロとの再会に、猫愛好家魂に火がついてしまい、俺は片手で優しくシロの頭を撫でる。

 どれくらい優しくかというと、例えるなら、豆腐が崩れない程度の力加減でそっと……である。

 その為か、耳を澄ますとゴロゴロと喉を鳴らすネコ特有の喜びの行動をするシロ。

 ……ああ、本当に懐かしいな……このシロの反応!

 1年ぶりのシロのこの様子を見て、思わずほっこりじんわりときてしまい、思わず涙目になってしまう俺。

 ……じ、じゃあ、次は昔の様に肉球をいじらせていただきますか……!

 俺の猫愛は留まる事を知らず、シロの外側に投げ出された四本の足の裏側のプニプニを優しくそっと撫でていく。

 う……うおお……若干しっとりとしたその肉球……。

 な、なんというか、その微妙に柔らかく体温を感じる触り心地がもうたまらん!

「い、イタッ!」

 その時、突然のアクシデントが起きる!

 猫を飼っている方はもうお分かりだろうが、そうなのだ! 猫は気持ち良かったりすると、なんか知らないけど収納されている爪がニュッと伸びて来るのだ!

 んで、今はその伸びて来た爪が、俺の中指に思いっきり刺さった状態になってしまったっていう……。

「あ……」

 更にアクシデントは続く。

 何とシロのその細長い目が、完全に開き、アーモンド形になっているではないか!

 ゆっくりとだが、パチパチと開閉するシロのまぶた……。

 恐ろしいことにその目が完全に細まり、俺を睨みつけている。

 や、やっば……!

「……あ、あの……これはですね?」 

 思わず俺は目をきょどらせ、彼女への言い訳を探す。

 すると不思議な事に、瞬きしているその一瞬……。

 シロの姿が、元の人間の白井の姿に戻ってしまう……。

 いつの間にか白服の半袖パジャマを着ているのは、摩訶不思議現象なのだが……?

 おいおい……一体どんな原理なんだよコレ⁈

 い、いや……ッ! それは置いといて……人間の姿の彼女の頭が俺の胸元にのしかかっている⁈

 白パジャマ姿でこのシチェーションは、絵面的にヤバイ!

 輝く銀糸のようなその髪……撫でると柔らかいまるでシルクような手触り……。

 て……はっ、しまった! お、思わず猫……いやシロと同じ感覚で撫でてしまったッ⁈

 ま、まずい……白井との同居契約の時の約束その1「許可なしに白井に触れない事」を破っちまった!

 俺は再び、シロ……いや白井の顔色をおそるおそる伺う。

 あ……あれ? 何やら柔らかいホッペを俺の胸元にこすり付け、真珠のように白い肌がほんのりと紅色に染まっていますが……?

 えっと……もしかして……白井の奴……まだ頭の中は半分寝ているのかな……?

 これ、白井というよりは、猫状態のシロが俺に甘えにくるクセだしね。

 という事は、これはもしかしてノーカン? ってことはOK?

「……あ、いたっ!」

 その時、俺の体に再度痛みが走る!

 その痛みの場所は、今度は中指じゃなくて、俺の右肩なんだけどね……。

 良く見ると、白井の手の爪が恨めしそうに食い込んでいるのが分かる……。

「え、えっと……?」

 訳が分からず言葉と共に白井をおそるおそる見つめる俺。

 この感じ……ヤバイ……。

 1年間白井と同棲生活して、経験則による雰囲気で感じ取る俺。

「……えっとじゃないでしょ? 貴方っ! 私との約束、今破ったよね?」 

 何やら金色の目を大きくし、怒りを露わにしている白井。

 ひ、ひえええ……!

 瞳の中の黒い色彩が細長くなっているのが、スッゲー怖いんですが? こ、これ絶対にキレてますよね?

 ど、どうしよう……。

「あ、あの……お言葉はごもっともですが、そもそも最初に俺の布団の中に入ってきたのは……」
「う、うるさーい!」

 猫の時と同じ仕様なのか、白井の手の伸びた爪が俺の右肩に深くぶっ刺さる!

「ぎ、ギャーーーーーーーーーーーー! す、すいませんでしたーーーーーーーーーーーー!」

 俺のごめんなさいの絶叫と共に、白壁にかけられた時計は丁度7時を指すのだった……。

 俺の悲鳴は目覚まし時計かよ……。
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