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職人の名はバグナバグナ

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 ゆったりとした坂道の天然の岩壁と同化した店、「ガウガルン」。

 バグナム族の男が言うにはバグナム語で装飾アイテム屋という意味らしい。

 俺は薄暗い店内に入ろうと思ったその時、急に周囲が明るくなってびっくりする。

 その明かりの発生源、即ち天井を見ると、何と明々とライトっぽいものが爛々と輝いているではないか⁈

(うーむ、この世界にまだ電球はなかったハズだが?) 

「はっはっは、驚いたか! これは俺の発明品「岩ボタルの蛍光ランプ」だ!」
「す、凄いですね! 一体どんな原理なんです?」

「透明球体ガラスの中に岩ボタルの発光する魔力を閉じ込めてある! ちなみにその魔力は人のマナで簡単に補充できるので、この装置が壊れない限り永久に使える優れものだ!」
「……俺でも使えますか?」

「勿論だ! 特殊体質の奴以外はこの世界ではマナを大なり小なり使えるハズだからな。ちなみにこの横のボタンを押すとマナが遮断され、蛍光ランプは切れる」
「な、成程……これは凄い……」

(というか、この人物凄い技術者兼発明家なんじゃ……? まあ、お金にというか商売に無頓着そうなんで察するけど……)

 とりあえず、指輪を先に購入しますか……。

「あの、貴方の技術が素晴らしい事が理解出来たし、とりあえず指輪を買いたいのですが? あ、あと貴方のお名前を教えてくれませんか?」
「ふむ、名前は俺は信用した者しか教えていないので断る……」

(うーん、めんどくさいな……。あ、でも、「名前を教えて貰ったら信用出来る者になる」という事か……。ふむ……じゃあ……)

「これも女神様の御導きです……。俺の名前は杉尾。貴方のお名前と住まいと趣味は?」

 俺は仕方なく超久々に【オートナンパスキルレベル7】を使う、というか相手が男でも使えるんか……。

(仕方ない、これも大商人になる為、許してつかさい……)

「ん? 俺の名前はバグナバグナ! 住まいはここ。趣味は実益を兼ねて、装飾品や魔道具を作っている。ん……というか、杉尾だと……何処かで聞いたことあるような……?」

『①職業チャラ男スキルの内訳 【オートナンパスキルレベル8】相手の名前と、住所と、趣味を聞きだせる』

(あ、このスキル思ってたより使えるな……。色んな意味で口説けるという事か……)

 それはさておき、俺の名前に反応しているが……。

(この人職人肌だしな……。ふむ……ごり押しして見るか)

「あの実は俺、アグニスギルド長と共に7魔将水魔龍エウムを討伐したものでして……」

 俺は胸に下げていた銀の女神様のベンダントをバグナバグナに見せる。

「な、なに⁈ それを下げているという事は……あのアグニスギルド長の知人かつ、7魔将水魔龍エウムを討伐した勇者だと⁈」
「え? ええ、まあ……?」

 俺は頭をかき、少し照れる。

(この反応ビンゴだ! 職人気質の人って、弁が立っても実行が伴わない者を毛嫌いする傾向にあるしね) 

 だから、さりげなく実力をチラ見させる必要はあった。

「こっ……これは大変失礼な事を……! アグニスさんの知人とは知らず……」

 バグナバグナはジャンピング土下座し、固い岩肌に床に額をこすり付ける。

「え? ええっ! いや、そんな? ちょっと辞めてください!」

 効果は俺がドン引きするほど抜群だった……。

 それからしばらくして……。

「……なるほど、バグナバグナさんはギルド長の知人でしたか……」
「ですね……。俺はあの人がいなければこの店を開けなかった……。俺は見ての通り、かなり人見知りをするものでね」

「なるほど、ギルド長にこれらの装飾品や発明品を買っていただいていると?」
「はは……お恥ずかしいですが、それらが俺のメインの収入源になってますね……」

 聞いた話では、このお店の場所は城下街から離れているし、坂道の陰と場所が場所だけに商売に適した場所ではない。

 また、この人が体質上岩肌を好むものだから、現状ここしか店を開けない。

 だから当然客も来にくいし、この人がまたぶっきらぼうだから更に儲からないっていう……。
 
 俺は店内に展示されてある、細やかで繊細な装飾品の数々を見て、感嘆のため息をつく。

(うーん、これほどの才能勿体ない……。あ、そうだ!)

「あの、もし良かったら俺と商売相手になって貰えませんか?」
「えっ! その内容詳しく教えてもらえませんか?」

(よしよし、食いついてきた……)

「実はですね……」

 俺は今日商人ギルドに加入した事、更にはナーガンに出されたテストの内容などを簡単に話す。

「……なるほど、正直商人は苦手ですが、アグニスさんの知人である杉尾さんなら信用出来ますので俺で良ければ……」
「た、助かります! で、申し訳ないんですが、先程お話させて頂いた他に腕の良い職人を紹介していただきたいのですよね?」

「確か武器防具屋7人と魔道具6人でしたっけ?」
「はい……」

(餅は餅屋……。職人気質のこの人の紹介なら100%信用出来るしね……) 

「心当たりはありますので、明日までにお願いしときましょう!」
「あ、ありがとうございます! めっちゃ助かります!」

(や、やったー! とんとん拍子で上手くいった! ただ、無料で色々やってもらうのもアレだしな……。あっ……そうだ!)

 俺はいい考えが脳裏に瞬時に浮かぶ。

「あの……色々お願いした謝礼とこれからの商売相手としての前金を含めて、一番良い指輪を購入したいんですが……」

(うん、これならお互いウィンウィンだし、この人も気を使わなくていいだろうしな! 金ならしばらく使ってないし、ここいらの店ごと買い占めれるくらい沢山ある!)

「お、おお……そうでしたな、失念してました! えっと……では折角なので、贈られる方のお名前、髪の色、性格、好きな色など教えて頂ければ!」

(流石職人、判断材料を仕入れて合う指輪をチョイスしてくれると……。細かいが、そのこだわりが逆に信用出来る!)

「えっと、名前はレノア、髪は赤。性格は優しく明るい、天真爛漫かな? 好きな色は多分オレンジ?」
「ふむふむ……成程……。って、レ、レノア? も、もしや、そのお嬢さんはアグニスさんの?」

「そうです、フルネームはレイン=ノア。アグニスギルド長の娘ですね……」
「や、やはり! では、しばらくお待ち下さい!」

 猛ダッシュで店内奥のもう一つの部屋に入り、何かを探しに行くバグナバクナ。

(あーあ……この感じ、結局気を使わせてしまったか……。でも、名前は教えない訳にはいかなかったし、仕方ないかあ……)
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