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神話の一撃

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「る、瑠璃さんっ! ひ、日野隊長は何をしようとしているんですか?」

 優等生の優は感じ取っているんだろう……尋常じゃないエネルギーが日野さんの刀身に集まってきているのを……。

「大人しく見ているがいい……滅多に見れない神話の一撃が見れるぞ……」
「し……神話の、い、一撃……⁉」

 何とも仰々しい瑠璃さんのその一言に、俺達クロノ小隊は思わずおののいてしまう……。

「……オトリ役の猛者達! 被弾して優の盾が壊れた者は直ちに後ろに下がれ!」
「応っ!」

 瑠璃さんの指示に従い、被弾した3期生の猛者達は素早く俺達のいる後方に下がっていく。

「くそっ! コイツ……固すぎだろ……」
「だな……何とか一撃入れて、そこを集中攻撃してもあっという間に傷が塞がっていく……」

 先程から回避重視で稀に攻撃を加えていた盾役のメンツ達だが、巨大ワーム状のモンスターは致命傷を負わせる事が出来ない模様……。

 3期生や豪山パイセンという火力自慢の人達でもだ……。

 この巨大ワーム……超瞬間再生能力があるっぽいし……。

 歴戦の猛者中の猛者である日野さんは、ソレを瞬時に感じ取り、とっておきの大技で何とかしようとしているのかなと俺はやっと理解出来た。

 それはさておき、俺は再び日野さんに注目する。
 
 さっきの技でも、超強いコアモンスター達を軽く一掃したというのに……。

 この感じ……先程放った凄まじい一撃を軽く超える技を放つということか……。

 おそらく瑠璃さんは、今から繰り出そうしている日野さんの大技に巻き込ませないように、下げれるメンバーだけとりあえず下げさせる感じなんだろう。

 日野さんが刀身に尋常じゃないエネルギーを蓄えている間、少しずつだが3期生の猛者達がこちらに戻ってきている。

 うん……人一倍頑丈な豪山パイセンは白い天使の刻印に覆われ、一種のスーパーアーマー状態になっているので、最前線で見事に盾として機能している。

 ……というか、3期生達と何やら口論しているバカでかい声が聞こえるんですが……?

「おやおや……? 3期生の先輩達? 随分数が減りましたなあ……?」
「ぬ、抜かせっ! 天使の刻印などというインチキ技に頼りおって!」

 彼らは軽口を叩きながらも、巨大ワームの攻撃を避けたり、武器で受け流したりしている。

 正直俺達から見て、頭おかしいとしか思えない頑丈さだ……。

 命のやり取りしている間も、余裕すら感じさせる身のこなしをしているしね。

「……は? 生涯のパートナーはちゃんと選ぶべきだと思うんですが? そこで勝負がついているんじゃないですかね? 大先輩……?」
「ぬ、ぬかせっ! 若造がっ! こうなったら誰が一番最後まで残れるか勝負しようじゃないか? なあ? 皆っ!」

「応っ!」
「あ……? おもしれえ……。じゃ、来月の支給金全部かけるか? ……ああん?」

 というか、3期生の猛者達と誰が一番後まで盾として残れるか、口論しだしたんですけど……。

 血気盛ん過ぎるだろ……豪山パイセン……。

「ご、豪山センパイ……。また喧嘩ですか……」
「はわわ……」

 豪山パイセンの無礼講過ぎる発言に、おたおたする優と桜井さん。

 ま、まあ、いつものことだし……なあ……?

 俺はすっかり、様式美となったこれらのやり取りに慣れてしまっていたので、腕組してそれを傍観していた。

「まあ……いいじゃないか……。ということで、私は豪山に1口いこうかな……」
「る、瑠璃さん……。立場上止めないと……!」

 とんでもない事をいう瑠璃さんに、焦ってあたふたする優……。

 あ、ちな、瑠璃さんの言う1口は、価値的に10万円に値する。

 俺達が固定で毎月頂いている支給金額が、現在は50万円なので、結構な金額だ。

「立場上だからこそだ。士気が上がるなら利用しない手はない。なにしろ今は死地にいるんだぞ?」
「はは……ま、まあそうですね……」

 合理主義らし瑠璃さんの発言に、俺は思わず苦笑してしまう。

 でも、言っている事は正しいし、俺のもう1人の師匠である力丸さんもきっと同じ事をしただろう。

 死地にいるからこそ、命の保証の次に戦意の向上は優先されるのだ……。

 なにしろ大戦中の戦意喪失した兵は、敵より厄介というしね……。

 学校という、緩くも甘い鳥籠から出て最近理解出来てきたが、今は俺達は戦場にいるんだと……。

 慣れというものは、本当に怖いなと……しみじみと俺は感じるのであった……。

「あ、じゃあ私も豪山先輩に1口!」
「え? 桜井さんまで……? じ、じゃあ俺は3期生の黄雀先輩に……」
「じゃあ俺は……豪山パイセンに1口で……」

 という事で、何やら「誰が盾として踏ん張れるか? チキチキレース!」がクロノ小隊で発生してしまったので、俺は豪山パイセンを全力で応援することになる。

 あれから数十分後……。

 盾役は我らがクロノ小隊の盾役兼アタッカーの豪山パイセンと、3期生のリーダー格の黄雀さんほか数名が、なんとか最前線で踏ん張っていた……。

「いいぞ! 豪山! 後少しだ踏ん張れ!」
「豪山先輩っ! 多少被弾しても私がヒールするから頑張って!」

「黄雀さんっ! 3期生の意地を……先駆者の根性を見せてくださいっ!」

 ……そのなんというか……周囲の熱い応援……? を俺は聞きながら、何だか目頭が熱くなってきた……。

 あ……感動してじゃなく、目に透けて見える欲望丸出しの我が小隊の声援に、思わず泣き笑いしてしまったからである!

 ま、まあ、それだけ信用しているという事ではあるが……。

 正直、日野さんと瑠璃さんという重鎮がいる時点で、安心できるんだよなあ……。

「瑠璃ッ!」
「承知しました……。聞けッ、皆の衆ッ! 全力で日野隊長の後方に下がれ! 死ぬ気でだ!」

 その時、日野さんの小声と、それとは対照的な瑠璃さんの気合の入った大声が周囲に響き渡る!

 ……途端にひりつく周囲の状況に、俺達も思わずたじろぎ、数歩下がってしまうほどだ……!

 更には、とんでもない早さで俺達の元に走って来る、盾役のメンツ達……。

「や、やべえ……。なんか数か月前の一撃を思い出して、背中がぞわぞわする……」

 あの豪山パイセンをして、そんな弱気な発言をさせる迫力が、今の日野さんの刀身にはあった……。

 紅蓮の炎のように……いや俺達の真上に昇る太陽のプロミネンスが如き凄まじき熱量……!

「あ、熱っ……!」

 その熱さに思わず言葉が漏れてしまう俺達……。

「まだだ……まだ下がれっ! お前達ッ! 死にたいのか!」
「は、はいいいっ!」

 前方から凄まじいスピードで追ってくる、巨大ワームの群れ……。

 更には瑠璃さんの罵声……極めつけは、それすらも凌駕し、恐怖を感じさせる日野さんの刀身の凄まじきエネルギー!

 俺達は更に後方に、砂場をこれでもかというくらい蹴り上げて、下がっていく!

「……お、おおおおおおおおおおおおっ!」

 俺達が後方に下がったその一瞬……!

 日野さんの凄まじき気合が後方から聞こえてくる!

 それが何なのか、見て見たい……!

 そう思った俺は急いで振り返り、その様子を見る!

 真紅に染まった刀に纏いし、灼熱のプロミネンス……。

 腰から自然体抜かれたソレは、目にも見えないスピードで日野さんの体を中心に頭上から円を描いて行く様に見えた……。

「あ、あれは……まるで」
「た、太陽……みたい……」

 俺同様、いつの間にか優達も俺の隣で日野さんの御姿を見ていた……。

「ざ、残像現象……」

 後から追いついた豪山パイセンも、思わず感嘆の声を漏らす……。

 あれか……あまりの速さに、残像が後から見えるってアレか……。

 ホントマジスゲエな日野さん……。

 その太陽のような凄まじいエネルギーの球体が宙を浮かんでいる……。

「あ、あああああああああああああああっ!」

 間を置く暇もなく、一瞬でその球体を凄まじいまでの気合で切りつけていく日野隊長!

 その一閃ごとに、プロミネンス状の巨大な龍が……いや、鳳凰が……白虎が……麒麟が……数多の神獣達が巨大ワーム達に向い、あっという間に飲み込んでいく!

 その神々しい神話の一撃に、奇声を上げることなく、再生する間もなく……消えていく巨大ワーム達……。

 しかも、それだけでなく、そのはるか遠くにある山々をも易々と消し去っていく、凄まじい一撃……。 

 俺達は……黙って、いや呆然としてソレを眺めていたのだった……。

  それから数時間後……。

 俺達は瑠璃さんと桃井さんの住まいに来ていた……。

 当然、クロノ小隊の開拓任務の反省会ってのが目的だったりする。

「……日野隊長のあの凄まじい一撃は何だったんですか……?」

 俺達はソファーに腰かけ、くつろぎながら会話をしていた。

「あれはな……対多数強敵用の日野隊長のとっておきの技の1つだ……。【紅蓮神獣滅殺剣 表】だったな確か……。まあ、無紅君のバフでかなり火力アップしていたから全盛期並みの破壊力があったようだがな……」
「はは……そうですか……。そこら辺は素直に喜んどきます……」

 瑠璃さんから褒められ、少し照れる俺。

 それはさておき……まだとっておきがあるのか……。

 表の技があるってことは、裏もあるわけだしね。

 日野さんの場合、豪山パイセンに使った強化版のタイマン用のどぎつい技など、色々ありそうではあるかなと……。

「6つのマスターコアから派生した破片から育った【パーツコアモンスター】用ですか?」
「流石は優、よく覚えていたな。その通りだ……」

「ところで瑠璃さん、その【パーツコアモンスター】って何匹いるの?」 
「そうだな……昔、日本と言われた土地には後8匹近くいるらしいな……」

「ええ? あんなのがそんなに?」
「そうだ……そいつらを全部駆逐しないとコアモンスター達は完全に消滅しない……それに……」

「……そ、それに?」
「……すまない、社長から電話だ……」

 何か重要な事を言いかけて、瑠璃さんは居間から急いで出て行ってしまう。

「……まじか、まだあんなヤバイ強さのモンスターが8匹以上いるのかよ……」
「ええ? それ以上いるの?」

 豪山パイセンの言葉にツッコミをいれる藤花先輩。

 いやまあ、日本だけでもって瑠璃さんの話だしね……。

 それに6だからね……。

 世界規模でアイツラみたいなのが、まだわんさかいるってことだろう……。

 それに瑠璃さんがさっきいいかけた言葉……まだ何かあるってことか。

「くそ……だとすると、まだ、まだ……強くならないといけねえなあ……」 
「そうですね……」
「うん……」

 俺達は今まで以上に強くならないといけない事をひしひしと実感していた……。

 そう、あの日野さんみたいにならないといけないわけだよな……。

「しかし、道のりは遠いですね……」

 優はポツリと力なく呟く……。

 確かに、あの強さの領域に近づくのは至難の業ではない……。

 でも……でもな……。

「まあね、でも俺達はまだ若いし、伸びしろがある……。やれることを地道にやっていけば……いつかは俺達も……。いや、ああなりたいし、追い越したいよな!」
「くははっ! 生意気にもなかなか言うじゃないか! ええ? 後輩!」

「へー……ポジティブ――――――……」

 俺の言葉に俺の背を力いっぱい叩きまくる、豪山パイセンと藤山先輩。

 ……褒めてくれるのは有難いんですが、バシバシ叩かれるとスッゲー痛いんですけど……?

「流石、無紅……名前の通りいい意味で無垢だなお前は……」
「うんうん……でもそれがいいんだよね!」

 こうして俺達は仲良く笑いながら、引き続き反省会を続けるのだった……。

 ま、まあ、デバフ系以外にも何とかこう……使える技を覚えないとだけどね……。

 間違いなく役には立っているけど、こうなんというか……他力本願ぽくてさ……。

 重要な触媒にはなっているとは感じてるし、実感もしているけど……。
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