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今力強く羽ばたく時

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「私は……貴方を絶対に死なせはしないっ!」

 桃井陽菜の華奢な背に、2枚の小さな小さな両翼の白き翼が現れる!

 力丸はうっすらと青く光るシールドを静かに展開し、陽菜がしようとしてることを静かに見守る。

「……陽菜ちゃん! それじゃまだ足りない! 思いの深さが両翼の翼になる! だから!」

 その力丸の言葉を聞いているのか、陽菜は次の行動を静かに移す。

「私はね……きっと貴方の事が好き……。狂おしい程に……。誰よりも、だから死なせたくないと感じる程に」

 陽菜は、そっと優しく優の真紅に染まった唇に、自分の唇を重ねる……。

「……わ、わあ……」

 藤花はその狂おしい情事を近くで見てしまい、赤面し思わず悲鳴を上げしてしまう。

 ……呼応するように陽菜の背が大きく盛り上がる。

「う……うう……」

 その思いはまるでこぼれ落ちる涙の様に……。

「ああああ……ッ!」

 それはまるで絶望を切り裂く、思いを呼びよこす希望のように……!

「私は……桜井 陽菜は……。青井 優と永遠の契約を結びます!」

 小さなか弱いヒナが、大きく空を飛び立つ成鳥に変わる様に……。

 大きな大きな両翼の白い翼が、青井優の体をゆっくりとゆっくりと覆っていく……。

「今は私が、貴方を命がけで守るから……」

 【邪槍使いの強敵】達を警戒しながら、儀式をゆっくりと見守る力丸。

「見事だ。文字通りヒナから大天使へと成長出来たな……。ま、まあ、キスはやり過ぎだけど……」 

 「あとは陽菜ちゃんが優君との儀式を終えるまで、闘夜君がアイツを抑えてくれれば……」と力丸は思う。

「おーおー桜井さん。おとなしい顔してやるじゃん! じゃあ俺もそろそろ本気ださないとなあ?」
「抜かせ! 今も既に本気の癖に強がるな!」

 青き両翼の刃を構え飛翔する闘夜に対し、激昂する【邪槍使いの強敵】。

 その怒りの為か、持っていた大剣からは紅蓮の炎が燃え上がる!

「これはそもそも俺の武器じゃない……」
「……」

 闘夜の言葉から何かを感じ取ったのであろうか、【邪槍使いの強敵】は急に押し黙る。

「……私を呼んだか……?」
「ハハ……お前タイミングよすぎだろ瑠璃?」

 驚いた事に、闘夜のいる真下に瑠璃がいつの間にか立っている。

「瑠璃さん、いつの間にこちらに帰ったんですか? 社長と一緒に地上でドンパチやっているって聞いたんですが?」
「それがな色々あって、こいつらの転送装置に巻き込まれてな。私だけ先にここに飛ばされたってわけさ」

 力丸達にとってこの情報は朗報ではあったが、同時にこれはまずい情報でもある。

「相手の千の大軍のうち9割強を社長達が滅した。残り1割弱の精鋭部隊がこちらに強硬突破して転送してきてるはずだ。……いや、既にお前達が大半を滅しているか」 
「……え?」

 瑠璃のこの話は力丸にとって朗報であった。
 
「瑠璃、お前何時から俺の存在に気が付いていたんだ?」
「キミがファンタジークエストをプレイしていた時からさ……」

 瑠璃は瞬時に羽ばたき、闘夜の側に舞う……。

「そっか……お前ゲームマスターだから、ログとか見たらいつもの俺と違うのが分るよな……」
「そういうことだ……」

「なあ瑠璃教えてくれよ? お前は一体何者なんだ?」
「私か……? 私はあの方の影……キミと同類の理解者という事だけ。今言える事はそれだけさ……」

 瑠璃は闘夜に気が付いたあの時の事を静かに思い出す。

 そう、あれは数年前の出来事……。

   ♢ 

 アルカディアアドベンチャーの前作、ファンタジークエストの出来事だったと記憶している。

「瑠璃さんお疲れ様でした!」
「うん! 無紅君、今日は前半動きが崩れたけど、後半の30分くらい? の動きは素晴らしかったね」

「……えっ! 俺無我夢中で記憶に無いので良く分からなかったですが……。ま、まあお役に立てたなら何より! では失礼します!」
「そうか……またな」

 VRゲームファンタジークエストの世界からオフになる白野無紅。

 いや、彼だけでなく夜分遅い関係で、自分以外のギルドメンバーはもう誰も残っていない……。

 右上のゲーム画面に表示されている時計を見ると、なるほどすっかり日をまたぎ1時となっている。

 休み明けの平日だしな……仕方が無い。私と違い仕事と兼ねていないのだから……。

 瑠璃は一人始まりの酒場で考える……。

 たまに無紅に戦士などの前衛を任せて見ることがある。

 これは詩人など後衛縛りをしていると、動きが悪い意味で特化して来る。

 別職をプレイすることで、刺激になるし、何よりも新しい本職への動きに繋がったりするからだ。

 今日はたまたまその前衛を無紅に任せる日だったのだが。

 明らかに今までと動きが違う……。

 そう、まるで別人のような反応速度と俊敏さ。

 それに神がかった戦闘スタイル。

 その証拠に初見であたった強敵のモンスターをあっさり切り倒しているのだ!

 瑠璃はこのゲームの開発者であり、自らがこのゲームの上位プレイヤーである事を知っている。

 その瑠璃をして、間違いなくトップに君臨出来るプレイヤーと確信させる動きを無紅は見せたのだ。

 この才能、眠らせておくのは勿体ない。

 そして、瑠璃は考える。

 何か無紅の動きが変わる法則性があるはずだ。

 瑠璃はファンタジークエストの世界からオフし、そのまま職場の作業室で無紅の数年にわたるプレイ履歴データを様々な角度で徹底的に分析していく。

 PC画面とにらめっこし、それから数時間後……。

 ほう……基本1カ月に1回周期の22時前後にそれらしき挙動が散見されるな……。

 動きがひと際鈍くなった後、別人なようなキレのある動きになる。

 時間は30分前後、今日と同じ。

 そういえば、彼は心臓が生まれつき悪いと言っていたな……。

 心臓の電気伝達不足による意識障害が生じ、結果本人の動きは当然鈍くなる。

 その為、体の危険を察知した脳がバックアップに切り替わり、一時的に超人的な動きを得る。

 おそらく体のリミッターが外れていると予想されるが。

 でなければあんな人外な動きは不可能だ。

 瑠璃は数百年間という長い間、人類に溶け込み様々な知識を得ていた。

 当然、人の身を知る為に医学についても深く勉強していた。

 知識だけでなく、沢山の人を見て来たので経験則からの確証があった。

 おそらく私と似た者同士だろうし、もし人格があるなら会って見たい……。

 それから数年間かけ、瑠璃は無紅をじっくり観察するのだが、その間に嬉しいアクシデントが訪れる。

 瑠璃の主人と無紅がファーストコンタクトを取ったのだ!

 そして、無紅以外のもう一人の人格を主人が儀式により認識したのだ。

 そうか……やはりアイツと私は似た者……影なるもの同士……。

 いつか、いつか……きっと彼と会える日が来るだろう……。

 時が来れば……きっと……。

 そして後日、瑠璃は優が闘夜について似たような推理をしていたことを知る事になる。

   ♢

 瑠璃は闘夜を見て思うのだ。

 そして時は来たと……。

「はは……瑠璃は俺と似たような立ち位置にいると言うワケか。まあいい……。それなら日陰者同士、仲良く俺の武器になってくれるか?」
「ああ……その為に私は来たんだ」

 瑠璃は闘夜の元に向い静かに飛翔する。

 まるで静かに踊る輪舞のように重なり合う、闘夜と瑠璃。

「力丸さんコレ返すぜ……。ありがとな」
「ああ……」

 闘夜は借りていた2刀の青き刃を無造作に放り投げ、力丸に返す。

 ……と同時に背に担いでいたリュックから、1刀の青きブレードとシールドを取り出し、闘夜は強く念じる。

「我が刻印に答え、刻印契約に基づき、汝あるべき姿に変化せよ!」

 一瞬、ほんの一瞬だけ、黒い閃光が周囲を眩く照らす……。

 その黒き光が収束し、闘夜の左手には鈍く光る青黒い楕円の盾が、右手にはまるで三日月のような青黒い刀が握られていた。

「……何だそれは⁈」
 
 それを静かに見ていた、【邪槍使いの強敵】は思わず叫ぶ。

「……まあ、戦ってからのお楽しみってことで!」

 早速だが、有言実行とばかりに、闘夜は上空から左手に持っていた楕円の盾を投げ飛ばす!

 軽くスナップを利かせて飛んでいく青黒い盾は、猛スピードで【邪槍使いの強敵】めがけて飛んでいく! 

 なるほど、武器に翼はついていないが、瑠璃さんが持っている【エンゼリックパワー】を利用して、闘夜は宙に浮いているというわけか……。

 力丸は一人、闘夜の戦闘スタイルを冷静に分析していた。

「……早いが避けれぬスピードじゃない」

 当然の様にアッサリとそれを避ける、【邪槍使いの強敵】。

「馬鹿こっちだ!」
「……何ッ⁈」

 危険を察知し、大剣で背後から生まれた何かをパリィする【邪槍使いの強敵】。

 気が付くと、いつの間にか【邪槍使いの強敵】の背後にいる闘夜。

 傍から見てる力丸からも、闘夜が瞬間移動したような感覚に陥る。

 これはどんなカラクリなんだ? と。

「……おいおい大丈夫か? まだこれで終わりじゃないぞ?」

 力丸は再び彼らの戦いを注視する。

 今度は【邪槍使いの強敵】の正面に先程交わした楕円の盾が再び猛スピードで迫る。

「く、くそっ!」

 それを【邪槍使いの強敵】瞬時に避けるが……。

「がっ!」

 またもや死角から、鋭い闘夜の突きが繰り出される!

 ついには【邪槍使いの強敵】の顔の頬をかすり、赤い鮮血がほとばしる。

「ほらほら! どうしたどうした! どんどん早くなるぞ? そのデカイ剣は飾りか? ああ……?」

 おそらく飾りではないが、本来の自分の武器じゃないのであろう。

 力丸は、2人の戦いを見て、瞬時に分析を終えていた。
 
 そして、実戦で、しかも秒単位で強くなっていく闘夜の戦闘センスに力丸は脱帽していた。

「何という卓越した戦闘センス……。刻印の常時解放もそうだが、その場一瞬であれだけ色々考えてあの武器を作ってしまうなんて……」

 おそらく闘夜のあの能力は、本来敵を追い詰めるための物じゃない。

 力丸は気が付いてしまう。

 闘夜の武器はその場しのぎで作った、桃井陽菜が無事に儀式を終えるための産物だという事に。
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