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お前桃井さんの事どう思う?

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 で、収録後、俺は久しぶりに優の寮室に行くことに。

「お、いつもより更に部屋が片付いているじゃん!」

 俺は玄関で靴を脱ぎながら部屋を見渡す。

 正面に見えるシンプルな木造りの学習机。

 その隣に置いてある本棚の中には、沢山の参考書や小説は綺麗に整理整頓されている。

(あれ? 良く見ると、ウサ天使びょこたんのポスターが剥がされている?)

「ああ、俺の部屋で、いつでも打ち合わせ出来るようにな」

 ああ、桃井さんを意識したからか。

 俺は察した。

「しかし珍しいな? 今日はストイックファイターの対戦は無しだなんて」
「ああ、お前のVの事も含め、色々話したい事もあるしな、まあ座れよ?」

「そっか……」

 俺はよいしょっと畳の上に腰かける。

 わざわざ2人でなければ話せない内容か……。

 桃井さんの件も入ってると俺は予想しているが、はたして?

「その……桃井さんとのVのレクチャーどうだった?」

(い、いきなり? それに、ど、どうって言われてもな?)

「流石は数年やっている大物先輩Vかなって……。人を頼るのが上手だし、すっげー楽しそうにゲームをプレイするのが印象的だったかな」

 後は、「なんかソレがカッコイイやら可愛らしいって思えた」……ってのは優には伏せといたがいいな。

 ……うん。

「……他には?」
「……えっ⁈」

 思わずドキッとする俺。

「ソレが先輩としてカッコイイかなーって……」

 俺は思っている事を小出しにして、何とか誤魔化す作戦に出る。  

「そうか、そうだよな……。桃井さん、Vしている時は輝いているよな……」

 優は納得し、深く頷いている。

「うん……」

 その様子を見て、安堵する俺。

(よ、よしっ! この件はひとまず解決したので、話を別の話題に持っていこうっ!)

「あの、俺のVの件なんだけどさ。何でそんなに急いでいるの……?」
「ああ、なんでも瑠璃さんの話によると、社長直々の命令だそうな」

「ふーん……」

 正直、那岐社長とは少ししか話していないので、何故急いでいるのか分からない。

 俺に分かっているのは、お金を積んででも急ぐ何かがあるって事だけ。

「その件はなるようにしかならないから置いておくとして……。なあ、お前は桃井さんの事どう思っているんだ?」
「えっ!」

(こ、コイツ、詰めてきやがった。あ、でも俺は優みたいに恋愛の事詰めて考えた事あんまりなかったんだよな。最近俺は瑠璃さんのカッコイイ姿や私服姿もいいなって思えて……。でも、その瑠璃さんの姿には例の天使の姿が被っていて……。結局、最終的にはあの天使の話を優にしないといけないんだよな)

 俺は腕組みをし、白壁を穴が開くんじゃないかってくらい見つめる。

「……どうした? 何をそんなに悩んでるんだ?」
「あ、うん。お前が言っていた桃井さんに関係する事でな」

「……何?」

 刹那、食い入るように俺を見つめる優。

(あ、コイツに桃井さんの話をするのはまずかったな。あー……めんどくせー……どうしよ?)

 と言っても、言葉に出してしまったのは仕方ない、コイツも真正面から来ているんだ。

(しゃーない! 俺も優に正直に話すしかないか)

 俺は腹をくくり、深呼吸と共に優を真剣に見つめる。

「なあ? 優お前、俺が天使に会ったと言ったら、信じるか?」
「……証拠があれば俺は信じる」

 真剣な眼差しで俺を見つめる優。

「あ、あれ?」 

 思ったより素直な反応で、逆にソレに驚く俺。

 コイツのことだから「寝言は寝てから言え」とか言われると構えていたんだがなあ。

 ま、まあ話が早くていいか……。

「えっとコレ……」

 俺は首にかけているペンダントから、大事にしまっている天使の羽を取り出し、優に見せる。

「……これは?」
「綺麗な七色に光る天使の羽」

 俺はそっと優にそれを手渡す。

「綺麗だな、とてもこの世のものとは思えん……」

 それを頭上に掲げ、感嘆のため息をつく優。

「だろ?」 
 
「だが、これが天使の羽という証拠はない。他には何か証明出来る物はないのか?」
「ええ……⁈ じゃ、えっと……」

 俺は真剣に熟考する。

(証拠っていわれてもな……)

 ……あ、よく考えたら……。

「天使から教わった歌があるんだけど……」
「な、なにっ! ほ、本当か?」

 優は突然、俺の両肩に手をやる。

(な、なんだ? 何か優の反応がさっきからおかしいぞ……?)

 上手く言葉に出来ないけど、なにかおかしい。

 ……ま、いっか。
 
「あ、うん……。歌ってみせようか?」
 
 俺の言葉に対し、静かに頷く優……。

 俺は数分間のボイストレーニングをし、体をリラックスさせ高らかに歌っていく。

「……我らはこの星に集う。6人の賢者により、招かれる我ら……。見知らぬ大地に戸惑う」
「⁈ ……ま、間違いない、これは【導きの歌】……」 

 那岐社長と全く同じ反応をし、なにやら驚愕している優。

(……だけど、そんなの俺には関係ない。天使の歌を証明する為に、そして俺のここ数年の歌の成果を優に聞いてもらう為に、最後まで歌いきるまでだ。だって、俺は歌い手だから……)

 それから数分後、俺は無事全て歌い終える……。

 気が付くと、優は自然と立ち上がり、俺に対し熱い拍手をしていた。

 それだけじゃない、眼には涙を浮かべ、泣いていたのだ。

「す、すまんが、お、俺は猛列に感動している……」
「あ、ありがとう……」

 優の態度に対し、素直に礼を述べるしかなかった。

「お、お前がこれだけ人の心を震わせる歌を歌えるだなんて、お前がどれほど歌を研鑽してきたかと思うとつい涙がな……」
「あ、う、うん……」

 優に言われた言葉が嬉しくて……な、なんだか俺までつられて目頭が熱くなってきた……。

 優はクールな性格をしているが、その裏、激情家だ……。

 だから好きになった物はトコトン貫くし、認めた相手に対しても称賛を忘れない。

「し、社長が褒めてたぞ……。『無紅君の歌声は天性の物で、ご両親から授かった賜物だと』」
「う、うん、あ、ありが……とう」

 優の言葉を聞き、俺は感極まってたまらず泣いてしまった……。

 社長がプロのオペラ歌手だって、いつか忘れたけど瑠璃さんから聞いていたから……。

 そんな人からそんな言葉をいただけて、もう嬉しくて嬉しくて……。

「そして、この歌は間違いなく【導きの歌】。何も知らないお前が知るわけがない歌。それにお前の左目の【天使の刻印】」

 社長も言っていた、その【導きの歌】がいまいちよく分からないんだけどな……。

 あと【天使の刻印】?

 俺はふと、優の目に映った俺の瞳を見る。

(な、ナニコレ……⁈ な、何かエメラルドグリーンに光った刻印が見えるんですが?)

 しこたま驚いた俺は、ちょっとしたパニック状態になっていた!

「だから俺は、お前が天使と会ったことを信じるよ」
「あ……うん……」

 非常に申し訳ないが、俺は自分の【天使の刻印】とやらにビックリしていて、もうそれどころではなくなっていた……。
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