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Vtuber下準備始動!

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 アルカディアアドベンチャーで、ポンコツ巨大キメラを倒した翌日の放課後……。

「お、お邪魔します!」
「どうぞー!」

 玄関でめっさ緊張する俺達。

 対して大変元気が良い桃井さんの返事が、居間の方から聞こえてくる。

 国津アルカディアの一角に瑠璃さん達の住まいがあり、俺達はそこにお邪魔しているのだ!

 理由は昨日のアルカディアアドベンチャー反省会及びVtuberのレクチャーのため。

「な、なあ優? 俺、汗臭くないかな?」
「安心しろ。シャワー浴びてシトラス香がする汗止めスプレーで対策してきたろ!」

 正直、同年代の異性の家に上がるのは初めてだったので、緊張のあまり変な汗が出まくり状態の俺達。

「……そんなに緊張しなくてもいいだろう? 知った仲だし遠慮はするな」
「は、はい……」

(そ、そんな事言われてもな……)

 俺達は玄関から居間に移動し、周囲をグルリと見回す。 

 俺達の住んでいる1LDKのクソ狭い部屋と違い、居間だけで瑠璃さん達との生活環境の違いを思い知らされる。

 まず、18畳の広い間取りに、白壁には抽象的な絵画が複数飾られている。

 その中に、10人は座れそうな、白いフッカフッカのベッドソファーが配置され、中央には木目のオシャレなダイニングテーブルが置かれている。

 後は、PCやらタンスやらが配置され、空いた空間には、程よくこじゃれた観葉植物が置かれている状況だ。

(……何というか、その……オシャレすぎる……)

 これで緊張するなと言われても、無理な話だと俺は思う。

 「私のように座れ」とお手本のように柔らかそうなソファーに優雅に腰かける瑠璃さん。

 いつも見慣れた白スーツと違い、薄い生地のVネックカーディガンと黒シャツ、それに下半身の黒デニムがとても魅力的だ。

 幸か不幸かその動作により、瑠璃さんのボリューミーな胸元が、たゆんたゆんバウンドしていいるのを俺達は見てしまう。

「……ッ!」

 俺達は第3の足が起立しそうになったので、音速の速さかなと思える程のスピードで有無を言わさずソファーに慌てて座り込む。

「……どうした? 2人とも顔が真っ赤だが何かあったのか?」

 瑠璃さんは唐突に、立ち上がり、俺達2人の額に優しく手を当てる……。

(は、はわわ……や、やわらけえし、何やらあったけえ……)

 それに何だろう、何だか大人の女性特有の香水の香りが、この動作で散布されて、頭がクラクラくる……。

「瑠璃さん。あ、あの、む、胸元が……」

 おそらく本人は悪気はかけらもないであろう。

 が、普段着に着替えた瑠璃さんのソレは解放された熟れた果実の如く、Yの字ラインの素肌が露出し、凶悪なまでの色気をかもし出している。

「あ? ああ、普段着だから、スーツから解放されたらこうなる。正直スーツはきつくてかなわん」

 ソレが不服だと言わんばかりに、眉間に若干しわを寄せ、何気なく髪をかき分ける仕草をする瑠璃さん。 

(や、やべえ、これが大人の魅力か……)

 俺は何故かこの時天使の儀式の一連を思い出してしまう……。

「お、おいっ! 無紅ッ! こ、このままでは色々マズイので反省会を始めるぞっ!」

 顔を真っ赤にしたメガネが小声で何か言ってますが……。

(そ、そういえばそうだったな!)

 俺は優の話で我に返る。

「皆おまたせー!」

 まるで、子供の様に元気な声で、居間に入って来る桜井さん。

(うん! 可愛らしい薄ピンクのワンピースがとてもよく似合っている)

 優もその様子にご満悦で、満足げに深く頷いている模様。

 そして、ナイスタイミング!

「では、始めますか!」

 桜井さんが瑠璃さんの隣に座り込んだのを確認し、俺は待ちきれずにその言葉を放つ。

「そうだな……手順的にアルカディアアドベンチャーの話からしていこうか」

 テーブルの上に置かれたポテチを軽く口に入れ、瑠璃さんが口火を切る。

(まあ確かに、4人とも共通の話題がある内容から話した方が良いしね)

「私的には今の所ゲームバランスはおかしくないと思うんだがどうだろうか?」
「そうですね。俺も異議なしです」

「同じく!」

 優の言葉に、俺と桃井さんも頷く。

 正直敵も、強くも無く弱くもないといった感想。

「正直、まだ初期の森ですし、レベルも20なのでこれから色々選択肢が広がって面白くなっていくのかなと」

 俺の言葉に頷く、優と桃井さん。

「はは、そうだな。開発者としての立場からは、期待して待っててとしか言えないな」

 ひっかかったところといえば、ヒーラーとシンガーのプレイヤーがいなかったとこくらいだが。

 正直、現在テストプレイ段階なんで、細かいことはいいかなと俺は思っていた。

 後はフラグ男があの後デートにいけたかとか、巨大キメラの盾の使い方だとかをお菓子をむしゃりながら、楽しく雑談することに……。

 で、数十分後……。

「じゃ、そろそろ無紅君のV活動の方向性について話し合ってみましょうか!」

 ジュースを美味しそうに飲み干し、最初に口火を切る桃井さん。

 って、いつもあまり喋らない桃井さんが?

(い、以外だ……)

「う、うん」 

 その熱量に思わずたじろぐ俺。

 Vになって具体的にしたい事……。

 歌に自分の気持ちを乗せ 、発信したい事か……。

「う、うーん……。ゲームが好きでなろうとしているんだけど、ソレをどう言葉に表せばいいかなって……」
「なるほどな。お前ソレ苦手だしな」

 流石、優、俺のことはよく理解出来ている。

「と、いうことでどうすればいいかなって、迷っているんですよね」

 ……しばらく沈黙と、お菓子の租借音だけが周囲に静かに響き渡る。

「……んとね、参考になるかわからないけどね私の場合」
「うん」

 ポテチを口にほおばり、ソレを吟味するようにゆっくりかみ砕いて行く桃井さん。

「無紅君も知っての通り、ピンク色とウサギが好きなの。ちなみにウサギは垂れ耳が好き」
「うん、良く知っているよ」

 実際、桃井さんはファンタジークエストのアバターではずっと来ていたし、靴もウサギ柄だしね。

「で、ピンクの垂れ耳ウサギを着た少女だけじゃ、キャラのインパクトが無いから天使の羽根をつけたんだよね? お姉ちゃん?」
「ああ、そうだな……。それで【ウサ天使ぴょこたん】にいくことにしたんだっけ」

 瑠璃さんは優雅に紅茶をすすりながら、ゆっくりと頷いている。

「んで、私はオンライン系のゲームが好きだったから、ソレについて他のプレイヤーさんと楽しく喋っていたら、いつのまにか人気がでて、声優のお仕事もきて今にいたるかな?」
「え? 桃井さんの場合、歌の位置づけは?」

「あ、私の場合、可愛いウサギが好きってことが伝わればいいので、歌はVのたしなみで歌っているだけなの。だから無紅君みたいには上手く歌わなくっていいかなって」
「確かに、そもそも歌を歌っていないVも沢山いますしね」

 桃井さんの言葉に軽く頷く優。

 な、なるほど……。

 桃井さんの場合、愛くるしい性格と嫌味の無い気持ちのいいトークでリピーターを会得出来ている。

 声優もやっている実績も加わり、不動の人気を得たってわけか。

 女性の場合、可愛いは正義でいけるけど、男性の場合はショタ以外厳しいしな……。

「あ、ありがとう桃井さん! 実績もあるしとても参考になるよ!」
「そ、そんなあ……て、照れるなあ……」 

 桃井さんは照れているのか、俺の正面で顔を真っ赤にししている。

「さ、流石桃井さん、Vの世界で上位陣に入っている方の言葉の重みが違います!」

 その様子を見て、優も負けじとヨイショする。

「えへへ……優君は褒めるの美味いなあ……」

 満面の笑みで頬に手を当て、照れ隠しをしている桃井さん。

 この姿は正直、とても可愛らしい。

 一方、瑠璃さんはそんな俺達の様子を片目で見ながら、楽しそうに頷ている。

「無紅君、陽菜の言葉は参考になっただろう?」 
「は、はい!」

「面接の時に君が私達に見せた覚悟は間違いなく本物なんだ。だからソレを陽菜のようにコツコツと表現していくのもアリなんじゃないのか?」
「あ……」

 答えを探す為に、好きな事や得意な事を使って表現していくか。

(なんかそういうのって、いいね……)
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