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「では、今日はここまでにしとこう」
「はい!」

 俺達はゲームからログアウトし、深緑の森から白壁のただっぴろいテストルームに戻される。

 先程白熱した戦闘をした後だったからか、いまいち現実に戻ってきた実感が湧かない。

(アルカディアアドベンチャー楽しすぎだろ!)

「どうだった?」

「えっと、痛みがある分、スリリングでしたね。まさかマッサージ機能をあんな風に使うなんて」
「レア種のビームも風圧を感じたから、すっげー怖かったし、リアルを感じました。」

 俺達は興奮しながら、感想を交互に瑠璃さんに語って行く。

「ふふ、創作者の一人としては嬉しい誉め言葉だな」

 瑠璃さんは俺達の感想に、満足そうに笑みを浮かべる。

「あ、あと今更なんですが」
「なんだ……?」

「体力を回復するヒーラーが欲しいですよね」
「確かに」

「おい……お前達、用意はいいか?」

 瑠璃さんの言葉に途端、現実に戻される俺。

 とりあえず今は考えている場合じゃない!

「はいっ!」

 返事と共に、気合を入れる俺達。

 VRメットのスイッチと共に、気持ちの切り替えもしたいところ。

 目の前に現れる爽やかな風、さわさわと揺れる緑の草木。

 耳を澄ますと、鳥の甲高い鳴き声も聴こえてくる……。

 この感じ、無事初期ステージの森に飛ばされた模様。

「わ、うわあ……す、凄い! デジタル感が消えてファンタジークエストより、更にリアル感がでてるね!」
「ふふ、喜んでもらえて何よりだ」

 そっか、桃井さんは初プレイだから。

「ところでお姉ちゃん。私の武器は?」

 あ、そういえば俺の詩人専用の武器も無いんだよなあ。

「すまんが後衛の武器はまだ実装されていないんだ」   
「そ、そっかあ、残念」

「ま、まあホラ、俺の武器も無いけど、楽しみに取っとくという事で、ね!」

 その時、俺達の話をまるで遮るように、例の巨大バチの集団が無数の風を切る羽音と共に襲いかかってくる! 

 が、レベルが上がっている俺達は、ソレをあっという間に消滅させる!

「わ、わあ! みんな凄い強いなあ! 正直、私の回復魔法必要なさそう」
「安心しろ陽菜。これから強めのレア種が出る」

 少し残念そうな桃井さんに対し、忠告を入れる瑠璃さん。

 桃井さんが例のホログラムイベントを起動させると、やかましいほどの異音と共に、昨日同様巨大バチのレア種達が登場する!

(なるほど、昨日の巨大バチレア種まではPTに入っている人全員のチュートリアルとして何回も出来る訳か)

 武器が強化出来るレア種の討伐。

 前衛職以外でも、銃レベルは上げておけば火力アップになり、戦力は上がるわけだし。

 出遅れ組の救済措置ってとこだろうけど、上手く考えたよな。

 それから数分後……。

「やはりヒーラーがいると安定しますね。桃井さんホント助かります」
「だな」 

「そ、そんな、皆がいるからだよ。私だけじゃ倒せないし」

 照れくさそうに手をブンブカ振りながら、器用にも回復魔法を俺達にかけていく桃井さん。

 俺達は前回とは違い、ヒーラーが加わったことにより、安定した戦いで難なくレア種の討伐を終えた。

 ちな、現在の桃井さんのレベルは3。

 残り俺達3人のレベルはザコハチを倒した段階で4になっていた。

「正直、ヒーラー志望は少ないんだ。本当に助かるよ、陽菜」

 瑠璃さんの言う通り、実際どのオンラインゲームでもヒーラーは実際少ない。

「わ、私の場合、アクションが苦手だし、純粋に回復するのが好きだからね」
「ふふ、そうだったな。日奈は生粋のヒーラー思考だから……な」 

 レア種のコアで武器を強化させながら、桃井さんの髪を愛おし気に撫でている瑠璃さん。

 揺れる木々の中、陽光を浴びた2人の美少女の姿……。

 それはまるで、1枚の絵画のようで……。

「と、尊い……」
「な、なんかいいね……」

 俺と優はその様子を眺め、満足げに頷くのだった……。
 
 俺の言葉に深く頷く優。

 現状はレベルアップしたら体力は回復するが、これから先はそんなに簡単にレベルアップはしないだろう。

 今のところ回復アイテムもないみたいだしね。

「ああ、安心しろ。それについては手は打ってある」
「は、はあ……」

「そのことで明日、新しいメンツを紹介する。まあ、今日は疲れているだろうし、もう休め。じゃあな……」

 俺らは瑠璃さんに一礼し、テストルームからでる。

 んで、俺らは帰宅途中に優と反省会して帰ることに。

 時間は夜21時というのに、この世界では人工太陽の関係で明るく、赤々とビル群を照らしている……。

(アルカディアアドベンチャーの世界に行って感じたが、ずっと太陽が昇っているのってよくよく考えたらおかしいよな)

「しかし、わかっていたけどシンガーはやることなくて地味だな」
「まあ、今回は仕事だから我慢しとけ。俺と瑠璃さんのレベルが上がったら、お前も前衛の武器レベルあげればいいと思うし」

 確かに、このゲームシステムだと、武器レベル上げの時間の関係で前衛は絞った方が良さげだ。

「だな、じゃまた明日な」
「ああ」

 帰宅後、俺は布団の中で眠りにつきながらゲームでの森の出来事を思い出す。

(……あの森何処か見覚えがあるんだよな……どこだっけ? な……)

 ……目が覚め、次の日の放課後。

 俺達は今日も国津アルカディアのテストルームに来ていた。

「では、2人に新しいテスターを紹介する」
「ど、どうも桃井 陽菜です」

 俺と優は目をしこたま驚いている状態だ。

「え、えっ! 桃井さん?」
「え、えへへ、どうも……」

 地面を見つめ、照れ臭そうにしている桃井さん。

「知っての通り、コイツは生粋のヒーラー向きでな」
「で、でしたね……」

 俺は知っていた。

 瑠璃さんの言葉通り、ファンタジークエストでも桃井さんはヒーラーしかレベル上げしていなかった事実を。

 しかも、5年間という長い年月でだ。

「そ、そのごめんなさい。この間2人にこの話するの忘れてて」
「そ、そうですか。それでこの間……」

 納得したのか大きく頷く優。

 この前は色んなアクシデントがあり、そんな話する間もね。

 何はともあれ、桃井さんが来てくれたのは色々心強い!

 特にオンラインゲームの場合、知った仲だと色々連携が上手くいくのは理解出来ている。

「まあVの件もあるし、このままこっちでも組み込んだほうがいいと考えてな」
「え、えへへ……お姉ちゃん。その件についてはご、ごめんなさい」

 瑠璃さんは苦笑しながら、桃井さんの頭にそっと手を置く。

 まるでヒナのようにシュンとしている桃井さん。

 なんだか、その様子がとても可愛らしく俺は感じた……って。

(……あ、あれ? お、俺はあの時の天使のことが気になっているのに)

 ファンタジークエストでの花見イベントの時でも桃井さんのことが少し気になって。

 それに……。

「ま、まあ、そんなに言わなくても。な、なあ無紅?」
「あ……ああ」

 それに、優は桃井さんに間違いなく好意を持っている。

 だって、コイツの目線は今も桃井さん一筋だから……。

 俺は自分の気持ちを確かめるように、胸につけている銀のペンダントを強く、強く握りしめる。
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