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アルカディアアドベンチャースタート

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 ……低音の電子音と共に、目の前の画面が切り替わる。

 刺すように明るい陽射し。

 周囲を見渡すと、大小の草木が散見される。

 よく見ると、さわさわと緩やかに揺れているその枝葉と草花。

 風の流れを感じている?

「えっ! 何で風の流れが?」

 俺は思わず疑問を声に出してしまう。

「驚いたか? 弊社の最新技術でな、VRスーツから風を送り込み、より、リアリティを追求しているからだ」 
「ただ、そのせいで、結構予算食ったから開発が遅れたんですよね? 瑠璃さん」

「はは、そう悪態つくな優」

 俺の周囲に同時にインした2人が瞬時に現れる。

 2人が着ている服は……アレ? 今さっき着ていた服のマンマですが……?

 俺も自身を見ると、当然私服のマンマだ。

「あの瑠璃さんコレ?」
「ああ、このゲームはさっきも言った通り、リアリティを重視しているんだ」

「えっ! じゃあ武器は? というかそもそも、このゲームどんな世界観なんです?」
「そうだな、このゲームはな……ガイアという世界」

「そこに謎の生物集合体、通称【バイオロジカルメテオ】が飛来する」

 瑠璃さんと優は俺の前を歩きながら説明していく。

「その【バイオロジカルメテオ】は鉱物状の菌生物のようなものでな。ガイアの生物に寄生していきその結果……」

 甲高い奇声と共に、赤ん坊と同じくらいの巨大なハチが襲い掛かって来るではないか!

 近距離から聞こえる異音と共に、まるでソコにいなかったのように消滅する巨大バチ。

 よく見ると、両手に見たこともない最新式? の銃を構えている優。

 何か黒色の銃を主体として、ゲーミングPCのように青白く光っているんですが……?

 しかもその銃口から、ビーム状の何かが巨大バチに向かって飛んで行った気がするんですが……?

「優まだ来るぞ! 気を抜くな!」
「はいっ!」

 いつの間にか剣? いや、青白くうっすらと光るビームサーベルか? を構えている瑠璃さん。

 瑠璃さんの言った通り、頭上から無数の羽音が聞こえ、数匹の巨大バチが俺達に襲い掛かって来る!

 お、俺も戦いたい!

「お、俺に出来ることは!」
「お前に今、武器はいらん! 歌えっ無紅! バフ系の歌がカーソルにあるだろう!」

「おうっ!」

 俺は急いで、画面の右側にあるカーソルを見る。

 詠唱者を中心とし、範囲内の対象者の攻撃力を上げる【インクリスドアタックパワー】。

 詠唱者を中心とし、範囲内の対象者の防御力を上げる【インクリスドディフェンス】。

 初期で俺が歌える曲はこの2曲バフ系のみ。

 俺は迷わず【インクリスドアタックパワー】を歌う。

 歌の効果が発動したのか、途端に青白い光に包まれる俺達。

 と、同時に右下のボディマークに赤い炎のマークが付与される。

(ふむふむ、なるほど、火力アップの効果が付いたのが分かるってわけか)

「正解だな。防御力が低い初期に最初に上げるのは火力」

 瑠璃さんの呟きと共に、切れ味がました光り輝くブレードが巨大バチをやすやすと切り裂いていく。

 同様、優にも同じ効果があったのか、先ほどと違い少ない弾数で消滅していく巨大バチ。

 効果内容はとても地味だけど、モンスターが多ければ多いほど、効果は当然大きくなる。

「って、イタタ……!」

 前衛2人の攻撃をかいくぐり、一匹の巨大バチから刺されている俺。

(え、ええっ! こ、これ? VRのはずなのに若干刺されている箇所に衝撃を感じるんですが⁈)

 多分、先程の瑠璃さんの言葉を借りるなら「リアリティの追求」だろうけど。

 何回かハチの攻撃を避けてるけど、ぜ、全部は無理!

 瑠璃さん達と違って、俺は初プレイだから攻撃パターンとかまだわからないしね。

 よく見たら右下にある俺の体力ゲージがドンドン減っていっているんですが……。

(こ、こりゃイカン!)

 俺はたまらず、攻撃を避けながら、防御力を上げる【インクリスドディフェンス】を歌う。

 先ほどと同様に、俺達の周囲が青白く光る。

 と、同時に画面右下のボディマークに青い盾マークが付与追加される。

 よし! これで少しモンスター達からののダメージが軽減されるだろう。

「って……今気が付いたんだけど、ハチの腹部にある青い宝石のような結晶体があるんだけど? なんだろうなアレ?」 
「【バイオロジカルメテオコア】だ」

 俺の問いに答え、銃を乱射していく優。

 その光輝く結晶体を狙うと、一撃で巨大バチは消滅していく。

「見ての通り、このモンスター達の弱点だ……」

 瑠璃さんの素早い突きにより、最後の一体が消滅する。

「ふう……」

 ひとまず落ち着いたので、安堵する俺。

「えっと、このモンスター達の目的、いや【バイオロジカルメテオ】は何でガイアに飛来したんだろ?」
「いい質問だ」

 瑠璃さんは静かに頷き、前方の地面に設置されている物を指指す。

 それは子供くらいの大きさの赤い楕円形状のカプセルであり、何やら真ん中にオセロの黒丸のようなボタンが……?
 
「コレ、押して大丈夫だよな?」
「ああ、ゲームでお約束のチュートリアルだ」

 ですよね。

 優の言葉に納得した俺は、迷わずボタンを押す。

 異音とともに、俺の目の前にホログラムが突然浮き上がる。

 迷彩服に、銃を腰に下げた屈強な男の姿が投影される。

 何故か顔だけモザイク状になっているのは、まだ開発途中だからだろうな、うん。

「おお⁈ コレもしかして、ホログラムが内容話してくれるやつ?」
「そうだ。世界観や戦い方など全て説明してくれるからよく聞いておけよ?」

「はいっ!」

 ホログラム軍人は瑠璃さんの言う通り、淡々と喋りだす。

「戦場にようこそ! 歓迎するぞ、若き新しい戦士達よ! ああ、悠長に説明する暇はないのでよく聞いておくように!」

 世界観設定スキーの俺はワクワクしながら説明を待つ。

「数百年前にガイアに飛来した【バイオロジカルメテオ】。何故こいつが飛来してきたかは現在、謎だ」

 ふむふむ。

「わかっていることは、コイツがとてもヤバイやつという事。現在、世界中がピンチってことだけだ。何故なら、【バイオロジカルメテオ】が寄生した生物は危険なモンスターとして俺達を襲ってくるからな」

 ホログラムは両手を広げ、お手上げのジェスチャーをしている。

(ああ、それでさっきのハチは巨大化して、俺達に襲いかかってきたってわけか)

「しかも、困った事に生半可な人類の兵器は効かない。そこで、このモンスター達様に開発された兵器の1つがコレだ」

 顔モザイクの軍人は、腰から無造作に銃を抜く。

 良く見ると優の武器と同じ、黒の銃身にスジ上に青白く光る銃。

「コレらを強化して、奴らを人海戦術で地道に駆除していく。今はコレしかない」

(なるほど、とりあえず、ドンドンコアモンスターを倒して、レベルアップして、武器強化して、強くなっていけばいいということかな?)

 今気が付いたけど、いつの間にか俺のレベルは1から2に上がっていた。

 さっきのハチの群れ倒して上がったんだろう。

「えっと、この武器の強化方法はだな……。お、丁度いいところにおでましだ」

 せわしい無数の羽音がなにやら聞こえてくる。

(ん……? なんか音が妙に羽音が大きくないか?)

 気が付くと目の前には、先ほど戦った巨大バチ数匹とそいつらより、二回りほど大きい巨大バチが俺達に襲いかかってくるではないか! 

「って、デッカ! それにあのデカイ奴のコアの色なんか濃ゆくね?」
「とりあえず、倒すぞ! 優っ、コアは狙うなよ!」
 
「了解っ! 無紅っデバフ頼む!」

 2人は大声で叫び、武器を構え迎撃態勢にうつる。

「おうっ!」

 俺も2人に応え、負けじと叫ぶ!

 俺は後方に素早く下がり、早口で【インクリスドアタックパワー】等を歌う。

 今、無意識で行ったけど、なんかレベルが上昇したことにより、少しだけ早く歌えるようになったっぽい。

「サンキュー無紅!」

 デバフ効果を得た前衛2人は轟く異音と共に、あっという間にデカ目の巨大バチ以外を消滅させる。

「これで後はデカ目のレア種だけだな!」
「はい! 無紅っ! 遠距離攻撃に気をつけろっ!」

 優が叫んだその瞬間レア種の体がうっすらと青白く光る!

 仲間を倒された怒りからか、奇声とも怒声ともとれる異音を放つレア種。

 その瞬間! なんと腹部から青白い針? 

 い、いや? 優が銃から放つものと似たビームがこちら目掛けて飛んでくるではないか!

「う、うわわっ!」

 俺は驚きながらも、それらを何とかかわす!

「無紅っ! お前は回避に専念しろっ!」
「わ、わかってる!」

 叫びながら、銃を撃ちまくる優に全力で逃げながら応える俺。

 木の陰に隠れれば、なんとかしのげるけど、コイツがすばしっこくて、すぐ回り込まれてイタチごっになるっていう。

 ま、まあ、さっきのハチ達と攻撃パターンは同じだから、何とか凌げますけどね。

 しかし、おとり役として役に立っている皮肉に、俺は少し喜んでいた。

 優の攻撃が効いているのか、奇声を上げたじろぐレア種。

「優っ怯んでいる今がチャンス! チャージショットだ!」
「はいっ!」

 瑠璃さんのアドバイスを聞き、優は銃口をレア種に向け、トリガーを引いたまま構えている。

 数秒たち、驚いたことに銃身がレア種の攻撃同様、青白く光っていく!

 優がトリガーを戻すと同時に、今までにないエネルギーの塊が銃口から発射される!

 チャージショット。

 名前の通り、エネルギー弾の威力を溜めて放つ、必殺の一撃ってとこか。

 一発で通常弾の数十倍はある威力はありそうな気がするが、果たして?

 うなりを上げ、ソレはレア種の頭部をやすやすと貫く!

 不気味な断末魔とともに、静かに地面に落下するレア種。

「や、やったのか?」
「ああ」

 俺の言葉に対し、瑠璃さんは先ほど起動した、ホログラムを指さす。

 ちなみに今ので、またレベルアップしたようで俺達のレベルは2から3になっていた。

「うむ、上出来だ! そいつの結晶付近で強化したい武器をかざすがいい」

 ホログラムの音声に頷く、瑠璃さん。

「優、今回はお前の武器を強化するといい」

 刀身を収め、ソレを腰に下げる瑠璃さん。

「え? 俺のでいいんですか?」
「ああ、遠距離武器の方が応用が利くし、先に強化した方が良い。それに」

「それに?」 
「私の方がこのゲームは上手い……」

「はは……そういう事にしときますよ」

 苦笑し、レア種の死骸に近づき銃をかざす優。

 すると不思議な事に、途端に銃身は青白く輝きだす!

「う、うわっ! ま、まぶしっ!」

 慌てて目を閉じる俺。

 ほどなく、その光は静かに消滅する。

「ソレでいい。武器のレベルもアップしただろう?」
「ああ」

 優はホログラムに対し、静かに頷く。

 俺も優の武器のレベルを確認したが、1から2へレベルアップしているのを確認した。

「そんな感じで、レベルと武器を10まで上げたらまた、ボタンを押せ。じゃあな……」

 役目を終えたからか、ホログラムは静かに自動消滅し、辺りは何事もなかったように静まり返るのだった。
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