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お前Vtuberになれ

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 20XX年……。

 近いようで遠い未来。

 地球は未曾有の災害により人類が住めなくなり、人類は止む無く地下に移住し、潜伏することになる。 

 その災害被害により、世界規模で人口は大幅に減少。

 生き残りは一割弱と言われているため、不幸中の幸いか、食糧難や居住場所での揉め事はなく、割と平和に暮らせる環境であるのが現状。

 これはそんな未来に起こった、少年達のとある物語……。

 …………。

 ……。

「……えっと次、白野 無紅さん」

 受付のカウンターから俺の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。

「無紅さん? いませんか――――――?」
 
 声の感じからして20代だろうか? 黒髪ミディアムショートの白いスーツに身を包んだ清楚なお姉さんが、張りのある優しい声で俺の名前を呼んでいる。
 
「は、はいっ!」

 俺は少し緊張しているからか、多少ギクシャクしながらロビーのソファーから立ち上がる。

 立ち上がるためにソファーに置いた手も、そのためか少し汗が滲んでいるのが自分でもわかる。

 返事した自分の声も、少しうわずっているしね……。

「ふふ……そんなに緊張しなくてもいいんですよ? 自然体でリラックスして面接してくださいね。あ、どうぞこちらの面接室へ……」

 緊張した俺に向かって、お姉さんはニコリと笑い優しい言葉をかけてくれてますが……。

(いやいや、緊張しない方が無理だろ!)
 
 俺は心の中で、受け付けのお姉さんに向かって激しく突っ込んだ!

 だ、だって、だって俺……今Vtuber事務所のあの【国津アルカディア】にいるんだもん……。

 国津アルカディア……日本の多数存在するVtuber事務所の一角。

 一流Vtuberの中では年間1億円以上稼ぐ人物もいると聞く……。

 更にはアニメの主題歌や声優も兼ねてる人も数人いると聞いている。

 ……だったよな?

 俺は面接のために知人から聞いた情報を思いだす。

 周囲をグルリと見回すと、天井から壁、そしてソファーや受付の場所、全て白色で統一されている。

 確かホームページで閲覧した情報によると、『国津アルカディアの会社シンボルである6つの天使の羽の色が白だから』だそうな。

 更に緊張をほぐす為に、高層ビルの窓からチラリと、外を覗くが……。
 
 子供のオモチャよろしくミニカーの大きさに見える様々な車、それに人とおぼしき豆粒上の何かが、多数下の道路を行きかっているのが見える。

(え、えっと、ここ何階だったっけ……? あと、なんで俺なんかがここに来たんだっけな……?)

 い、いかん余計緊張してきた。

 俺はボーッとなり白みがかる意識の中、何故自分がここに来たか……思い出していた……。

   ♢

 これは俺が面接にいく、数日前のこと……。

「うーむ困ったもんだ……」

 俺は家の畳にゴロリと寝そべりながら、深海より深いんじゃないかと思われる、ため息をグチと共に吐く。

「……何がだ?」

 俺の悩みにめんどくさそうに反応する、親友の青井 優。

 コイツも俺の隣にゴロリと横たわり、仲良く寝そべっている。

 何故二人仲良く寝そべっているかだって?

 実は俺と優は今しがた、VR対戦格闘ゲームストイックファイターで対戦した後だからだ。

 その証拠に俺と優の服装は私服ではなく、VRゲーム専用の灰色のスーツを着ている状態だ。

 このスーツはバイクのライダースーツにとても似ており、というかまんま見た目はソレであったりする。

 違うのは中身。

 最新のVR技術が施されたバイクのヘルメット状のソレは対戦画面を映すモニターに。

 スーツは感触や衝撃をリアルに装着したものに伝えるようになっていたりする。

 ちなみに対戦結果は10戦5戦5敗の引き分けの末、ラスト1回勝負で仲良くダブルKOし、今に至るって訳だ。

(コンチキショウ! たくよお、今日こそ優と勝敗に白黒つけれると思ったのによお……)

 最近勝敗は勝ったり負けたりのシーソーゲームだったりするんだなこれが……。

 なお、ストイックファイターとは、3Dモードと2Dモードが楽しめるVR格闘ゲーム。

 俺達がプレイしていたのは、本格格闘も真っ青の3Dモードな! その本格っぷりに、最近では自衛隊や警察官も教習で取り入れてるだとか……。

「……とりあえず、このままじゃ蒸れるし、メットとろうぜ」
「そうだな……」

 俺達はVRメットを取り、引き続きそのまま畳の上に転がる。

 フワリと優の茶髪が畳の上に落ちる。

 俺はそのままジッと優の顔を見つめる。

 俺とは違い端正な顔立ちにスラリとした長身。

 困った事に頭も良いし、運動も出来る。

 しかもムカつく事に俺の好きなゲームも上手いときている。

 それに比べて俺は……。

 俺は優に背を向けゴロリと転がる。

「どうした無紅?」

 そんな俺の態度に対し、察しの良い優は俺に言葉を投げかけるが……。

「……なんでもねーよ。腰をひねるストレッチで、たまたまこの体制になっただけだ」

 とは言ったものの、当然ウソである。

 そんなくだらない嫉妬、言葉には絶対だしたくねーしな……。

「あ、そんなことよりさ、俺の悩み聞いてくれよ」

 ということで、俺は咄嗟に話題を変えることにした。

「あ、ああ……さっきのタメ息の件か?」
「そうそう!」

 俺は優の言葉に反応し、クルリと体制を元の向きに戻し、深く頷く。

「で、なんだ? 言ってみろ」
「期末テストの成績が悪かった」

 優はフッと小馬鹿にしたように、俺を鼻で笑う。

「いつものことじゃないか」
「馬鹿っ違うっ! 高校2年の現在の期末テストが悪かったから困っているんだよ!」

 俺は床から飛び起き、優に指さしながら怒りをあらわにする。

「そりゃそうだろ? お前テスト勉強はいつも一夜漬けだろ?」
「う……」

 俺は図星をつかれ、軽く呻きうつ向く。

「そのゲームに向ける情熱の10%を勉強にも向けたら成績は大分変ると俺は思うんだがな?」

 優はメガネをクイッと指で押さえながら俺をジト目で見つめる。

「ゲームは別腹っ!」
「全くもって意味がわからん……」

 俺の開き直りの言葉に対し、冷たくあしらう優。

「だいたい、お前は将来どうしたいんだ?」
「え? あ、俺は……」

 優の妙に重い言葉に、俺は言葉を詰まらせる。

 そうである、俺たちは現在高校2年生。

 来年からは3年生になり、大学受験や就職活動を考えないといけない時期になってしまう。

(う、うう……考えただけでも胃が痛くなってきた……)

「……お前だけ答えさせるのはフェアじゃないな」
「あ、まあな……」

 優は深く息を吸い込みゆっくりと立ち上がる。

「俺は……将来警官になるつもりだ」

 ポンと俺の肩を軽く叩く優。

「そ、そうか……」

 俺はその言葉が本当である事を知っていた。

(だってさあ、事あるごとにコイツいつもこの事を言っているしなあ……)

 同じクラスの人間も全員知っているほどだ。

 実際コイツは文武両道であるから、普通にエリートコースは間違いないと、クラスの担任からのお墨付きの判定も頂いているしね。

「で、お前はどうしたいんだ?」

 真剣な眼で俺を見つめる優。

(ああっ! くそっ! 困ったなあ……) 

 こうなるとコイツは答えを言うまで絶対に諦めない。

 観念した俺は思っている事をまとめて言葉に出してみた。

「え、あ……俺はゲームが好きだからゲームに携われる何かになりたいと思っている……」
「そうか……」

 優は静かに目をつぶり、熟考する。

「……で、何か就職につながりそうな事は出来そうなのか?」
「え、うーん……」

 俺は海より深く悩む。

「埒が明かない……。消去法で出来ないものから消していくぞ」
「お、おうっ!」

 さすが俺の親友、とても頼もしい。

 とりあえずなりたい職業を上げていく俺。

「プロゲーマー」
「やる気と知識もあるし素質はあるが、お前の場合あがり症で大会の結果がだせてないからな」

「ダメか……」
「そうだな、今はな……。保留して次」

 気落ちする俺に肩ポンし、慰める優。

「プランナー」
「アレはゲームの基盤となる計画書を作り、それを進めていくものだぞ? 計画性が無いお前には無理だ。しかもコミュ能力も低いし、まとめる能力もない。次」 

(ひ、ヒドイ言われようだ)

 俺は少し傷ついた……。

 そんな感じで色々話していくが、駄目だしされるばっかりっていう……。

 とほほ……。

「テスター」
「うん、それあってんじゃないかな?」

「え? そう?」

 今までにない優の好反応に、俺は少し嬉しくなる。

「お前のゲーム好きと特化した豊富な知識いきそうだしな。丁度【アルカディアアドベンチャー】のテスター募集していた気がするし、それで関わって面接有利にしとけばいいんじゃないか?」
「あ、それ実は落ちた……」

 俺は深くため息をつく。

「あ、まあ人気のゲームだし、競争率が高いとな……」

 再び優は俺に軽く肩ポンし、慰める。

 ちなみに、俺の高校は『バイトは社会勉強の一環になる』という理由で許されている。
 
「あ、そうだ、無紅! お前ゲーム実況はどうなった?」
「あ、うーん……動画再生数は数か月で3千とそこそこ。毎週1回の放送を始めての24個の動画ともな」

「……始めて半年でソレは悪くないな。して、登録者数は?」
「400くらい……?」

 俺は目を細め、不満げな表情をする。

「確か千人以上登録者がいないと収益は見込めないんだっけ?」
「そうなんだよ……。俺トーク苦手だしなあ。それでリピーターが長く留まってくれないわけ……」

「フム……そうか……惜しいな。何とかお前のそれらの長所を活かせるものは無いか……って、あ……!」
「ん? ナニナニ? どした優?」

 俺は優の突然の大声に驚く。

「いい方法があるぞ。お前っVtuberになれ」
「は? はあああああ――――――――――――っ?」

 俺の絶叫が六畳間のくそ狭い自室に、けたたましく響きわたる。

「じ、冗談だよな……?」
「いや、割と本気だ。お前Vtuberのオーディション受けてこい」

「い、いやいやいや……。Vtuberってお前……動画業界のアイドルみたいなものやん……」

 ゲームしか取り柄のない、しかも頭も容姿も悪い俺には無理な話……。

「そうだ、でもVtuberは、おまえ自身が映る訳じゃない……」
「あ、そうか! ゲームのキャラクターのように3Dのアバターが俺の代理で映るってわけだ。あ、で、でも……」

「でも?」
「俺、ゲームくらいしか取り柄がないし……」

 俺はもにょりながら小声で優に答える。

「お前、歌も上手かったじゃないか」
「え……」

 目をパチパチし驚く俺。

「音楽の担任も、歌だけはお前を褒めちぎっていたぞ」
「マ?」

 優の言葉に俺は目を大きくし、めっさ驚く。

「ああ……本当だ。先生だけじゃなく俺もお前の歌には不思議な魅力があると思っている」
「て、照れますな……」

 劣等感の塊である俺は、正直褒め慣れてない。

 なのですっげー照れる。

「俺は音楽の事はよくわからんが、お前の歌は聞いていると何だか勇気が湧いてくる……。不思議とそんな温かい気分にさせてくれるんだよ」
「そ、そうか……。とても有難い感想ありがとよ……」

 辛口の優がここまで俺の歌を褒めちぎってくれるのは正直とても嬉しい。

(コイツは本当の事しか言わない堅物だしね……)

「で、でもよう……俺口ベタなんだよな……」
「ああ……そこは気にしなくていい」

「え? なんで?」
「受かれば会社がバックアップしてくれる。ほら動画でもマネージャーが付いているのよく見るだろう?」

「お、おお……」
「それに配信していれば次第にトークスキルも上がっていくんじゃないか?」

「な、なるほそ……」

 さ、流石我が軍師……もとい親友! できる子は違う!

 正直そのアドバイスの深さに目から鱗状態の俺だった。

 それはさておき、問題は……。

「友よ、俺が仮にVtuberのオーディションを受けるとして受かると思うか?」
「思う」

「そ、即答⁈」 

 間髪入れずの優のその反応に、驚く俺。

「理由はな、お前がゲームが好きで『ゲームに関わる仕事になにかしろ就きたい』と明確な回答を持っていたこと、それに……」
「それに?」

 俺は食い入るように優に回答を求める。

「動画配信経験があり、自分で努力し、ある程度の結果は出していること」
「うん」

「様々なゲーム大会に積極的でており、結果実績は出せていないがマスタークラスの実力を持っていること」
「うんうん!」

 俺は優の素晴らしいまとめと分析に目を輝かせる。

「Vtuberとして最も武器になると言われている、先生お墨付きの歌の上手さがある。以上だ」
「そ、そうか……。あ、ありがとう」

 感動のあまり、俺は思わずパチパチと手を叩いしまう。

 ちょっとした、スタンディングオベーション状態だ。

(す、すばらしい……。本当にありがてえアドバイスを優からもらった……)

 マジで俺は心の底からそう思っていた。

「よ、よーし! じゃ早速休日に面接に行くとしますか!」
「ん? お前面接に行く事務所は決めているのか?」

「うん、【国津アルカディア】にしようかと」
「な、なにっ!」

「理由はさ、大きいVtuber事務所の1つであること」
「なるほど。大きいとこに入るのは間違いじゃないしな。他の理由は?」

「あ、うーん……。数年前にVRゲームの名作【ファンタジークエスト】作った会社だからさ。俺あのゲームのファンなんだよな」
「ああ……あの世界規模でプレイヤーが10万人以上いたアレな。『プレイヤーの心躍らせる音楽と壮大な世界観が大好評』と専門雑誌に書かれているのを俺は見た」

「そうそう。あ、今のファンタジークエストの話で思い出したけど、そのゲームで知り合った知人にもVtuverになるように勧められたんだよな」
「ほお……? なんて人だ?」

「瑠璃さん。ゲームでのハンドルネームだから本名じゃないかもだけど」
「!」

 優の驚き具合に、俺は目を細める。

「もしかして、優の知り合い……とか?」
「い、いや……?」

 優は言葉とは裏腹に、窓の外を誤魔化すように眺める。

「なあ、無紅よ……。今日も人工太陽が眩しいよな……? 夜中だというのにな……」
「まあ、ここは地下都市だからね。何十年前かの災害で地上には住めなくなり、俺達はやむなく地下に住むようになったって歴史で習ったじゃないか」

「……そう、災害でな」

 優は意味深な一言をボソリと呟く。

 その一言に俺は思わず会話を止めてしまう。

 優は何が言いたいのだろうと……。

「すまん……時間もそろそろアレだし俺は帰るな……。ソレはそうとお前ちゃんと面接の練習しとけよ?」
「お、おう……じゃあな。優今日は色々ありがとうな!」

 俺の言葉をよそに、優は背を向け頭上で手をこちらにヒラヒラと振り、玄関から出ていく。

   ♢

 優は玄関から出て、螺旋階段をゆっくりと降りていく。

 懐から携帯を取り、おもむろに電話をかける優。

「……あ、もしもし瑠璃さん? 俺です優です。今話せるなら少し仕事の件でお話したいことがあるんですが……」
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