上 下
20 / 24

第20話 お詫びの時間

しおりを挟む
 兄弟は睨み合う。私はそれを、見守る他ない。

「おい、さっきからカッコつけてんじゃねえよ、クソ野郎が。お前がなぁ~、お前さえいなければ、俺はなぁ~!」

「国王になれていたか?」

「ああ、そうだよ!」

「けど、お前は自分の身勝手さで、有能なシアラを切り捨てた。せっかく、父上と母上が必死に彼女の両親に頼み込んでくれたのに」

「まあ、確かにシアラは有能だよ。何だかんだ、美人でスタイルも良いし。けど……マミの方がおっぱいデカいんだもん!」

 シーン、と静まり返る。誰しもが『何言ってんだ、こいつ?』みたいな顔をしている。

 当人のマミさんは、いつの間にか姿を消していた。賢明な判断だと思います。

 もし私が彼女の立場なら、もう生きていられません。

「だから、せっくすとかするのめっちゃ気持ち良かったしな! しかも、俺たった1発で当てたんだぜ? さすが王族だろ? まあ、マミは何か流産しちゃったんだけどさ~」

「お前は本当にバカだな。いや、愚かだ」

「はああぁ~?」

「大切な我が子の命が失われたのに、よくそんなヘラヘラと語れるな。神経を疑うぞ」

「う、うるせえ! まだ生まれる前だから良いだろうが!」

 バキッ!

「……えっ?」

 どたっと尻もちを突いたホリミック様は、呆然とする。

 殴られた頬を撫でながら。

「いッ……痛いじゃないか!?」

「今までお前が傷付けた来た人たちの痛みに比べれば、マシだろ。むしろ、足りないくらいだろ?」

「この……おい、みんな見たか!? こんな暴力野郎が国王だなんて、笑っちゃうだろ? お前は王の器じゃないんだよ! なあ、みんなもそう思うだろ!?」

 ホリミック様が喚きますが、誰も同意を示しません。

「な、何でだよ……」

「ホリミック」

 尻もちをついたままの彼にゼリオル様は歩み寄る。

「ま、また暴力を振るうつもりか?」

「すまなかった」

「えっ?……ハッ、自分の罪を認めるか?」

「ああ。お前みたいなバカを信じて、国を託したのが間違いだった。お前はバカでワガママだけど、心根は優しいやつだと思っていたが……どうやら、見込み違いだったようだ」

「う、うるせぇ!」

 立ち上がったホリミック様は、ゼリオル様に殴りかかります。

 けど、ひょいと軽い身のこなしで避けられた。

「逃げんな!」

 再び向かって行きますが、またしてもあっさりとかわされてしまう。

「ホリミック、最後に兄として、お前に頼みがある」

「あぁ!?」

「シアラに、ひいては国民のみなに謝れ。お前の今までの愚行の数々を恥じて、詫びろ」

 ゼリオル様に真っ直ぐ言われて、ホリミック様はたじろぐ。

「うっ……い、嫌だ。何で俺が、謝らないといけないんだ?」

「そんなに謝りたくないのか?」

「ああ、そうだよ! 謝るつもりなんてないね!」

「……そうか。兄として、最後の頼みだったのに」

「ふん、うるせえよ!」

「じゃあ、命令だ」

「はっ?」

 ポカンとするホリミック様を素通りして、国王がゼリオル様に歩み寄る。

「これをお前に、次期国王に」

 王冠を授けた。ゼリオル様は、丁重に受け取る。

「しかと、頂戴いたします」

 ゼリオル様は王冠を載せた。

「あっ……あっ……」

 ホリミック様は口をパクパクとしている。

「改めて、国王として命じる。ホリミック、今までの愚行を謝罪しろ」

「いや、でも……」

「王の命令に逆らうのか? いくら兄弟でも、許されないぞ?」

 普段の柔らかで飄々とした彼とは違う、正に威厳漂う王の風格に、私はゾクゾクしてしまいます。いえ、決して変な趣味に目覚めた訳ではなく……

「ぐっ……!」

 ホリミック様は、ひどく歯ぎしりをした。それから……

「……どーも、すみませんでした」

「そんな詫びの仕方があるか!」

「ひッ! そ、そんな大声で怒鳴るなよ」

「頭が高い、平伏せ。俺たち王族とシアラと国民のみなさまに」

「あ、兄上とシアラはまだしも、何で下らない庶民共にまで……」

「シュッ!」

 ゼリオル様は、目にも止まらぬ速度で蹴りを繰り出す。

 それはホリミック様に命中しませんが、風圧にすっかり当てられてしまいます。

「風穴を開けてやろうか?」

 冷酷に告げるゼリオル様を前に、ホリミック様はがくりと両膝を突きます。

「……申し訳ありませんでした」

 深々と頭を下げる。

「父上と母上に」

「……申し訳ありませんでした」

 深々と頭を下げる。

「ふん」

「はぁ」

 両親はため息を漏らすばかり。

「はい、次はシアラに」

 ゼリオル様が言うと、ホリミック様は膝を突いたまま、私の方を見た。

「……申し訳ありませんでした」

 深々と頭を下げる。

「あ、はい」

「シアラ、もっと言ってやっても良いぞ? まあ、このバカには何を言っても時間の無駄だろうけど」

「えっと……じゃあ、1つだけ。本当に、あなたはゼリオル様の弟なのですか?」

「ガッ……ガガガガガ」

「ぶふッ」

 壊れたブリキみたいな音を発する弟の背後で、兄は顔を逸らし口を押えて笑いを堪えている。

「おい、ホリミック。最後に国民のみなさまに詫びろ」

 また、ゼリオル様が落ち着き払った声で言う。

 ホリミック様はまた膝を突いた姿勢のまま、国民のみなさまと向き合う。

「ぐぎぎ……な、なぜ王族のこの俺が……」

「詫びろ! ホリミック!」

 また兄に一喝を入れられて、

「も……申し訳ありませんでしたあああああああああああああああぁ!」

 半ばキレ気味に額を地面にこすりつける勢いで、全国民に向けて謝罪をされました。


しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~

桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」 ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言? ◆本編◆ 婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。 物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。 そして攻略者達の後日談の三部作です。 ◆番外編◆ 番外編を随時更新しています。 全てタイトルの人物が主役となっています。 ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。 なろう様にも掲載中です。

大好きな彼女と幸せになってください

四季
恋愛
王女ルシエラには婚約者がいる。その名はオリバー、王子である。身分としては問題ない二人。だが、二人の関係は、望ましいとは到底言えそうにないもので……。

婚約破棄をしてくれた王太子殿下、ありがとうございました

hikari
恋愛
オイフィア王国の王太子グラニオン4世に婚約破棄された公爵令嬢アーデルヘイトは王国の聖女の任務も解かれる。 家に戻るも、父であり、オルウェン公爵家当主のカリオンに勘当され家から追い出される。行き場の無い中、豪商に助けられ、聖女として平民の生活を送る。 ざまぁ要素あり。

(完結)大聖女を頑張っていた私が悪役令嬢であると勝手に決めつけられて婚約破棄されてしまいました。その子に任せたらあなたの人生は終わりですよ。

しまうま弁当
恋愛
メドリス伯爵家の第一令嬢であるマリーは突然婚約者のフェルド第一王太子から「真実の愛を見つけたんだ」と言われて婚約破棄を宣言されるのでした。 フェルド王太子の新しいお相手はマグカルタ男爵家のスザンヌだったのですが、そのスザンヌが私の事を悪役令嬢と言い出して、私を大聖女の地位から追い出そうとしたのです。 マリーはフェルドにスザンヌを大聖女にしたらあなたの人生が終わってしまいますよと忠告したが、フェルドは全くマリーの言う事に耳を傾けませんでした。 そしてマリー具体的な理由は何も言われずにマリーが悪役令嬢に見えるというフワッとした理由で大聖女の地位まで追い出されてしまうのでした。 大聖女の地位を追われ婚約破棄をされたマリーは幼馴染で公爵家の跡取りであるミハエル・グスタリアの所に身を寄せるのでした。 一方マリーを婚約破棄してご満悦のフェルドはスザンヌを大聖女につかせるのでした。 スザンヌも自信満々で大聖女の地位を受けるのでした。 そこからフェルドとスザンヌの転落人生が始まる事も知らずに。

本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

四季
恋愛
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。

四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」 突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。

愛するひとの幸せのためなら、涙を隠して身を引いてみせる。それが女というものでございます。殿下、後生ですから私のことを忘れないでくださいませ。

石河 翠
恋愛
プリムローズは、卒業を控えた第二王子ジョシュアに学園の七不思議について尋ねられた。 七不思議には恋愛成就のお呪い的なものも含まれている。きっと好きなひとに告白するつもりなのだ。そう推測したプリムローズは、涙を隠し調査への協力を申し出た。 しかし彼が本当に調べたかったのは、卒業パーティーで王族が婚約を破棄する理由だった。断罪劇はやり返され必ず元サヤにおさまるのに、繰り返される茶番。 実は恒例の断罪劇には、とある真実が隠されていて……。 愛するひとの幸せを望み生贄になることを笑って受け入れたヒロインと、ヒロインのために途絶えた魔術を復活させた一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25663244)をお借りしております。

処理中です...