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第18話 この世の誰よりも

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 この場に誰よりも勇ましく立つ彼は、私と出会ったいかにも旅人風の格好ではなく……正に次期国王としてふさわしい、風格のある出で立ちでした。

 そのギャップとたくましさに、私は感動せずにはいられません。

「まず、みなに詫びたい。俺のワガママで、勝手に王太子をやめて、親愛なる家族、そして国民のみなに大変迷惑をおかけした。ここに謝罪する」

 ゼリオル様は深々と頭を下げた。

「……だが、俺は決して己が楽しむためだけに、放浪の旅に出た訳ではない」

 彼は頭を上げた。この場に集う大勢を前に、怯むことなく真っ直ぐに見つめて。

「この世は戦国。今は均衡状態が保たれているが、それがいつ崩れるかも分からない。王族はどうしても内に籠ってしまう所がある。外交も、外交官に任せてしまったりする。ただ、王として、国内外の事情はよく知っておかなければならない。だから、俺はより広く深くこの世界を知るために、旅に出たのだ」

 まだ、語り始めたばかりなのに、みんな彼に見惚れていた。男は尊敬の眼差しを、女は……何かキラキラした目で彼を見ていらっしゃるわ。まあ、仕方のないことですけど。特に、マミさんは……いえ、もう見るのはやめましょう。

「とは言え、無理を通して放浪の旅に出たことは間違いない。そんな俺は例え戻ったとしても、王にはなれない。ただそれでも、俺が得た知識を次期国王に授けてやれば良いと思っていた」

 彼は瞑目した。

「でも、ありがたいことに、国王も王妃も、俺のことを次期国王として迎えてくれた。家臣たちも……ただし、まだ国民のみなの声を聞いていない」

 彼は両手を広げた。

「俺は丸腰だ。気に食わぬなら、槍でも矢でも、何でも投げて刺してくれ」

 その場がどよめく。

「安心しろ。仮にそうしたとしても、反逆罪にはさせない」

 ゼリオル様がニカッと笑うと、その場が静まり返った。

 みな、新たな国王の破天荒さに驚きつつも……小さな拍手が起きて、それがやがて大きく広がって行った。

「……ありがとう、みんな」

 彼は少しホッとしたように微笑む。

「それからもう1つ、大事な話をしておきたい」

 彼の目が、先ほどよりも真剣味を帯びた。

「みな、もうお気付きだろう? 俺が王になるためには、王妃が必要だと」

 みながざわつく。

「勝手ながら、もう相手は決めているんだ。彼女しかいない」

 彼は言う。

「けど、もし断られたら……う~ん、恥ずかしいな」

 少しお茶目に悶えたりするけど、

「まあ、それならそれで、仕方がない。けど、俺が彼女を愛していることに変わりはない」

 そして、彼の目が――私を捉えた。

「シアラ……シアラ・マークレイン」

 ドクン、と心臓が高鳴る。

「俺はお前を愛している。この世の誰よりも」

 遠くから差し伸べられるその手を、今すぐに掴みたかった。


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