乳だけ立派なバカ女に婚約者の王太子を奪われました。別にそんなバカ男はいらないから復讐するつもりは無かったけど……

三葉 空

文字の大きさ
上 下
17 / 24

第17話 我が名は……

しおりを挟む
 こんなにドキドキするのは、人生で初めてかもしれない。

 あの晩、彼に抱かれた時よりも、より一層ドキドキしているかもしれない。

「シアラ、そのドレスよく似合っているわよ」

「ありがとう、お母さま。エリーも、よく似合っているわ」

「えへへ。公爵子息さまにも、褒めてもらったの」

「そうか、そうか、良かったな」

 馬車の中で、家族みんなが笑顔になっている。元から仲のいい家族だったけど、こんな風に幸福をもたらしてくれたのは……




      ◇




 宮殿に着くと、私たちはとても丁重にもてなしてもらいました。

「マークレイン公爵方、よくぞお越し下さった」

「そんな、陛下自ら……恐縮の至りでございます」

「気にするでない。そなた達には大変ご迷惑をおかけしたからな」

 国王は神妙な面持ちで言います。

「陛下、そろそろ準備のお時間です」

 執事に呼ばれた。

「ああ、分かった。では、また後ほど」

 国王がこの場を後にする。私たちは一礼をしてから、

「来賓席にご案内いたします」

「ありがとう」

 その場にやって来ると、名だたる貴族たちが集っていた。

「おお、これはマークレイン公爵」

「これはこれは、ディズロッド公爵。我が娘のエリーが色々とお世話になっているようで」

「いやいや、こちらこそ。ロイ、こっちに来なさい」

 呼ばれて、スラッとした美男子がやって来る。まずは一礼をしてから、

「ごあいさつが遅れて申し訳ございません。ロイ・ディズロッドでございます。エリーさんとの婚約を認めていただき、大変感謝いたします」

 彼はそう言って、エリーとアイコンタクトをする。はにかむ妹の様子を見て、私も何だか胸がキュンとしてしまう。

「いやいや、こちらこそ。ディズロッド家の後継者に見初めてもらえるなんて、父親として鼻が高いですよ」

「また近い内に、改めて懇親会でも開きましょう」

「ええ、そうですね」

 などと和やかに会話する親たちの様子を見守っていると、見覚えのある顔を見つけて胸がざわついた。

 ここ、来賓席ではない、一般の立ち見の場所に姿を見つけた。

 マミ・ミューズレイさんの姿を。

「んっ? シアラ、どうした……って、おい、あれは」

 お父さまが気付く。

「なぜ、あのアバズレがここにいるんだ!?」

 その声に気付いたのか、マミさんはこちらに振り向き、私の姿を見るとわずかに目を丸くしつつも、すぐにニタリと笑います。

 何だか、ちょっと嫌な予感が……ふいに、あの時の光景が蘇ってしまう。

 彼女がオルさんに抱き付いていた時の姿を。あれは私の勘違いだったって、もうちゃんと分かっているけど……

「ご安心下さい、シアラ様」

 ふと、案内してくれた執事が言い添えてくれる。

「えっ?」

「あの女は、新たな王を狙って来たのでしょうが……無駄な話です。本来であれば、立ち見さえ許されない立場。それでも呼ばれたのは……罰を受けるためです。本人は、気付いていないようですがね」

「罰……ですか?」

「ええ。それから、もう1人いますので。どうぞ、お楽しみに……と、陛下が申しておりました」

「そ、そうですか」

 私は苦笑してしまう。まあ、それも楽しみでないと言ったら嘘になるけど。

 でも、それ以上に――

「――間もなく、王族が登壇いたします。みなさま、どうか静粛にお願いいたします!」

 この場を守護する騎士団長の声が響き渡ると、みな静まり返った。

 厳かな空気の中、コッコッ、と靴音を鳴らして、王族がやって来た。

 国王と王妃、そして――

「……あっ」

 はためくマントにまず目が行く。

 けど、すぐにそのスラッとしつつもたくましい体付き、凛々しくも穏やかで爽やかなその面立ちを見て、私は――

「――我が名はゼリオル・ストラティス!」

 彼は勇ましく声を轟かせる。

「みんな、俺の話を聞いて欲しい。少しだけ、長くなるがな」

 もう分かっていました。あなたは……

「……オルさん……ゼリオル様」

 しかと、彼の勇姿を見届けたいのに。

 私の視界は涙でぼやけてしまった。


しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

結婚から数ヶ月が経った頃、夫が裏でこそこそ女性と会っていることを知りました。その話はどうやら事実のようなので、離婚します。

四季
恋愛
結婚から数ヶ月が経った頃、夫が裏でこそこそ女性と会っていることを知りました。その話はどうやら事実のようなので、離婚します。

皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~

桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」 ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言? ◆本編◆ 婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。 物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。 そして攻略者達の後日談の三部作です。 ◆番外編◆ 番外編を随時更新しています。 全てタイトルの人物が主役となっています。 ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。 なろう様にも掲載中です。

婚約者がなぜか妹の主張を信じ込んでしまっていましたが、どうやらそこにはあるものが関係していたようで……?

四季
恋愛
婚約者がなぜか妹の主張を信じ込んでしまっていましたが……?

いちゃつきを見せつけて楽しいですか?

四季
恋愛
それなりに大きな力を持つ王国に第一王女として生まれた私ーーリルリナ・グランシェには婚約者がいた。 だが、婚約者に寄ってくる女性がいて……。

【完結】「幼馴染が皇子様になって迎えに来てくれた」

まほりろ
恋愛
腹違いの妹を長年に渡りいじめていた罪に問われた私は、第一王子に婚約破棄され、侯爵令嬢の身分を剥奪され、塔の最上階に閉じ込められていた。 私が腹違いの妹のマダリンをいじめたという事実はない。  私が断罪され兵士に取り押さえられたときマダリンは、第一王子のワルデマー殿下に抱きしめられにやにやと笑っていた。 私は妹にはめられたのだ。 牢屋の中で絶望していた私の前に現れたのは、幼い頃私に使えていた執事見習いのレイだった。 「迎えに来ましたよ、メリセントお嬢様」 そう言って、彼はニッコリとほほ笑んだ ※他のサイトにも投稿してます。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

王子様、あなたの不貞を私は知っております

岡暁舟
恋愛
第一王子アンソニーの婚約者、正妻として名高い公爵令嬢のクレアは、アンソニーが自分のことをそこまで本気に愛していないことを知っている。彼が夢中になっているのは、同じ公爵令嬢だが、自分よりも大部下品なソーニャだった。 「私は知っております。王子様の不貞を……」 場合によっては離縁……様々な危険をはらんでいたが、クレアはなぜか余裕で? 本編終了しました。明日以降、続編を新たに書いていきます。

両親から溺愛されている妹に婚約者を奪われました。えっと、その婚約者には隠し事があるようなのですが、大丈夫でしょうか?

水上
恋愛
「悪いけど、君との婚約は破棄する。そして私は、君の妹であるキティと新たに婚約を結ぶことにした」 「え……」  子爵令嬢であるマリア・ブリガムは、子爵令息である婚約者のハンク・ワーナーに婚約破棄を言い渡された。  しかし、私たちは政略結婚のために婚約していたので、特に問題はなかった。  昔から私のものを何でも奪う妹が、まさか婚約者まで奪うとは思っていなかったので、多少驚いたという程度のことだった。 「残念だったわね、お姉さま。婚約者を奪われて悔しいでしょうけれど、これが現実よ」  いえいえ、べつに悔しくなんてありませんよ。  むしろ、政略結婚のために嫌々婚約していたので、お礼を言いたいくらいです。  そしてその後、私には新たな縁談の話が舞い込んできた。  妹は既に婚約しているので、私から新たに婚約者を奪うこともできない。  私は家族から解放され、新たな人生を歩みだそうとしていた。  一方で、私から婚約者を奪った妹は後に、婚約者には『とある隠し事』があることを知るのだった……。

公爵令嬢エイプリルは嘘がお嫌い〜断罪を告げてきた王太子様の嘘を暴いて差し上げましょう〜

星里有乃
恋愛
「公爵令嬢エイプリル・カコクセナイト、今日をもって婚約は破棄、魔女裁判の刑に処す!」 「ふっ……わたくし、嘘は嫌いですの。虚言症の馬鹿な異母妹と、婚約者のクズに振り回される毎日で気が狂いそうだったのは事実ですが。それも今日でおしまい、エイプリル・フールの嘘は午前中まで……」  公爵令嬢エイプリル・カコセクナイトは、新年度の初日に行われたパーティーで婚約者のフェナス王太子から断罪を言い渡される。迫り来る魔女裁判に恐怖で震えているのかと思われていたエイプリルだったが、フェナス王太子こそが嘘をついているとパーティー会場で告発し始めた。 * エイプリルフールを題材にした作品です。更新期間は2023年04月01日・02日の二日間を予定しております。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。

処理中です...