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第16話 想いが溢れる、笑顔も溢れる
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今の私はすこぶる調子が良い。
愛しい彼はまた風のようにいなくなってしまったけど。でも、不思議と悲しくない。
それはあの晩、彼に抱いてもらって満足したからではなく(いや、その彼との行為はとても気持ちの良いものでしたが)、彼がいつでもそばで見守ってくれているような、そんな温かみを常々感じているのです。
「う~ん……」
仕事の間、私は紙と向き合って唸っています。それは彼に対する手紙です。たった一言だけど、とても胸にこみ上げるメッセージをいただいたので。是非とも、お返しがしたくなったのです。けど、こんな風にラブレターを書くのは初めてだから、戸惑ってしまいます。お仕事の報告書なら、スラスラと書けるのに……本当に、恋って苦しい。けど……それ以上に楽しい。彼の温もりを思い出す度に、また体が熱くなって……
「って、私のバカ。こんな風に発情してばかりじゃ、彼に幻滅されちゃうかも」
こんな風に私はずっと、オルさんのことばかり考えていた。
コンコン、とノックがされる。
「あ、はい」
返事をすると、ドアが開く。
「シアラお嬢様、失礼いたします。旦那様と奥様がお呼びです」
「分かりました、すぐに行きます」
そう言いつつ、私は書きかけの手紙を慌てて机の引き出しにしまった。
部屋を出ると、侍女と一緒に廊下を歩いて階段を下って行く。
「おお、シアラ。仕事中に悪いな」
お父さまが言う。
「いえ、ちょうど小休憩していたので……けど、どうされましたか?」
「ああ、実はビッグニュースだ。かつて、この国の王太子が放浪の旅に出てしまったことはしっているだろう?」
「ええ、まあ……とても、次期国王としてふさわしい資質を持った方だったんですよね?」
「そうだ。お前のことを蔑ろにしたあのゴミ王太子とは大違いのな」
「そうよ、あんなゴミ野郎、死んじゃえば良いのに」
「あはは……」
「それでな、何と……その元王太子が、帰って来たらしい」
「えっ?」
胸がドクンとした。
「しかもご丁寧に、本人直筆で我が家に招待状が届いた」
「招待状……?」
「ああ。あのバカ王太子、弟の方はお前のような優秀な女を袖にしたからな。当然、次期国王にはなれない。その兄がまた正式に王太子……いや、王位を継承するための戴冠式を行ってしまうらしい」
「やはり、国王さまも王妃さまも、嬉しいのよ。真に王になるべき息子が帰って来てくれて」
両親もまるで我が子のことのように、嬉しそうに話す。けど、私は……
「あの、ちょっとその招待状、見せてもらえませんか?」
「んっ? ああ、良いよ」
私は受け取ると、その文字を見た。しばし、じっと……そして、震えた。
「お、おい、シアラ? 一体どうした? まさか、泣いているのか?」
「あなた、私たちがあのバカ王太子のことを話題にしたからじゃないの?」
「ああ、だとしたら、すまん。お前は強い女だが、1人の女だ。傷付けられた心はそう簡単に癒えていなかったのか……」
両親が気遣ってくれるけど、
「……違います、そうじゃありません。これはうれし涙です」
「「えっ?」」
2人そろって目を丸くします。
「お父さま、お母さま。この日は、とびきり素敵なドレスを着たいです」
私が言うと、キョトンとしていた2人だけど、
「おお、良いぞ! お前がワガママを言うなんて、珍しいな!」
「良いわよ、いくらでも買ってあげるからね~!」
「ありがとう。あ、当日はエリーも来るかしら?」
「ええ、あの子も呼びましょう。あなたと一緒に、素敵なドレスを用意してあげないと」
「お前もオシャレしような」
「ありがとう、あなた」
少し前までは私の婚約破棄のことで嫌な空気が漂っていたけど。
今はこうして、みんなが笑顔になれている。
それも、これも……
「……早く、会いたいです」
愛しい彼はまた風のようにいなくなってしまったけど。でも、不思議と悲しくない。
それはあの晩、彼に抱いてもらって満足したからではなく(いや、その彼との行為はとても気持ちの良いものでしたが)、彼がいつでもそばで見守ってくれているような、そんな温かみを常々感じているのです。
「う~ん……」
仕事の間、私は紙と向き合って唸っています。それは彼に対する手紙です。たった一言だけど、とても胸にこみ上げるメッセージをいただいたので。是非とも、お返しがしたくなったのです。けど、こんな風にラブレターを書くのは初めてだから、戸惑ってしまいます。お仕事の報告書なら、スラスラと書けるのに……本当に、恋って苦しい。けど……それ以上に楽しい。彼の温もりを思い出す度に、また体が熱くなって……
「って、私のバカ。こんな風に発情してばかりじゃ、彼に幻滅されちゃうかも」
こんな風に私はずっと、オルさんのことばかり考えていた。
コンコン、とノックがされる。
「あ、はい」
返事をすると、ドアが開く。
「シアラお嬢様、失礼いたします。旦那様と奥様がお呼びです」
「分かりました、すぐに行きます」
そう言いつつ、私は書きかけの手紙を慌てて机の引き出しにしまった。
部屋を出ると、侍女と一緒に廊下を歩いて階段を下って行く。
「おお、シアラ。仕事中に悪いな」
お父さまが言う。
「いえ、ちょうど小休憩していたので……けど、どうされましたか?」
「ああ、実はビッグニュースだ。かつて、この国の王太子が放浪の旅に出てしまったことはしっているだろう?」
「ええ、まあ……とても、次期国王としてふさわしい資質を持った方だったんですよね?」
「そうだ。お前のことを蔑ろにしたあのゴミ王太子とは大違いのな」
「そうよ、あんなゴミ野郎、死んじゃえば良いのに」
「あはは……」
「それでな、何と……その元王太子が、帰って来たらしい」
「えっ?」
胸がドクンとした。
「しかもご丁寧に、本人直筆で我が家に招待状が届いた」
「招待状……?」
「ああ。あのバカ王太子、弟の方はお前のような優秀な女を袖にしたからな。当然、次期国王にはなれない。その兄がまた正式に王太子……いや、王位を継承するための戴冠式を行ってしまうらしい」
「やはり、国王さまも王妃さまも、嬉しいのよ。真に王になるべき息子が帰って来てくれて」
両親もまるで我が子のことのように、嬉しそうに話す。けど、私は……
「あの、ちょっとその招待状、見せてもらえませんか?」
「んっ? ああ、良いよ」
私は受け取ると、その文字を見た。しばし、じっと……そして、震えた。
「お、おい、シアラ? 一体どうした? まさか、泣いているのか?」
「あなた、私たちがあのバカ王太子のことを話題にしたからじゃないの?」
「ああ、だとしたら、すまん。お前は強い女だが、1人の女だ。傷付けられた心はそう簡単に癒えていなかったのか……」
両親が気遣ってくれるけど、
「……違います、そうじゃありません。これはうれし涙です」
「「えっ?」」
2人そろって目を丸くします。
「お父さま、お母さま。この日は、とびきり素敵なドレスを着たいです」
私が言うと、キョトンとしていた2人だけど、
「おお、良いぞ! お前がワガママを言うなんて、珍しいな!」
「良いわよ、いくらでも買ってあげるからね~!」
「ありがとう。あ、当日はエリーも来るかしら?」
「ええ、あの子も呼びましょう。あなたと一緒に、素敵なドレスを用意してあげないと」
「お前もオシャレしような」
「ありがとう、あなた」
少し前までは私の婚約破棄のことで嫌な空気が漂っていたけど。
今はこうして、みんなが笑顔になれている。
それも、これも……
「……早く、会いたいです」
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