上 下
13 / 24

第13話 内緒の時間

しおりを挟む
 夢中になって走っている内に、家にたどり着いていた。

「シアラ様、お帰りなさいませ」

 侍女が迎えてくれる。

「旦那さまも奥さまも、まだお帰りになっていません。先にお風呂に入ってはいかがでしょうか? その間に夕食の準備を済ませておきますので……」

「ごめんなさい、今日は夕食は結構です」

「えっ、具合でも悪いのですか?」

「平気よ。ちょっと疲れているだけ」

 少し早口でそう言って、私は階段を上がって行く。自分の部屋に入ってドアを閉めると、そのままベッドに倒れ込んだ。こんな風にだらしない真似、今まで1度もしたことはない。一体、私はどうしてしまったと言うのだろうか?

 いや、分かっている、原因は。オルさんとマミさんがまさか、あんな風になっているのを見て、ショックを受けたのだ。

 それくらい、私はオルさんのことが……好きになっていたのだ。




      ◇




 あれから、私はずっと部屋のベッドに横たわっていた。途中、私のことを心配してくれた両親がドアの向こうから声をかけてくれた。けど、私は部屋から出ることはせず、今もこうして無為な時を過ごしている。けど、許して欲しい。私だって、人間だから。いつだって、何事にも動じないクールな令嬢ではいられないのだ。何だかんだ、私も弱い女……

 コンコン、と音がした。部屋のドアがノックされたのかと思ったけど違った。その音は、窓の方から聞こえていた。まさか、不審者? いや、だとしたら、こんな風にわざわざ合図を出さない。

 私は少し考えてから、ハッとした。まさか――

「――やあ」

 カーテンを開けると、そこに人が居てギョッとした。でも、なぜだろう。すぐに嬉しさの方が溢れてしまう。

「……オルさん」

 思わず涙がこぼれてしまいそうになるのを、必死で堪えた。

「ごめんね、勝手に来てしまって」

 彼は眉尻を下げて言う。

「けど、誤解されたくなくて」

「誤解って……マミさんとのことですか?」

「うん。俺、あの時はじめてあの子に会って、いきなり誘われて……でも、ちゃんと断ったんだ。けど、しつこく絡まれて……その場面をちょうど、君に見られたから」

「そう、だったんですか……」

「って言われても、信用できないよな」

 オルさんは苦笑する。

「……別に、あなたは私の物ではないので、仮にマミさんと何かあろうとも、とやかく言う筋合いはありません」

「シアラ……寂しいな」

「けど……私、すごく落ち込みました」

「えっ?」

 私は窓を開けた。

「私、オルさんのことが好きみたいです、すごく……今まで、男の人にそんな感情を抱いたことが初めてで……だから、すごく戸惑って……」

 訥々と喋る私のことを、彼が抱き締めてくれた。

「……ありがとう、シアラ。俺、すごく嬉しいよ」

「オルさん……」

「あ、これ。俺がプレゼントした髪飾り……ちゃんと着けてくれているんだ」

 彼はそれを愛おしそうに撫でながら言ってくれる。

「はい……似合いますか?」

「ああ、似合っているよ」

 月明かりに照らされながら、私たちは見つめ合う。

「シアラ……」

「オルさん……」

 そこからは、誰にも言えない内緒の時間だった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。 ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。 なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。 アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。 ※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います ☆HOTランキング20位(2021.6.21) 感謝です*.* HOTランキング5位(2021.6.22)

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

妹に婚約者を寝取られましたが、私には不必要なのでどうぞご自由に。

酒本 アズサ
恋愛
伯爵家の長女で跡取り娘だった私。 いつもなら朝からうるさい異母妹の部屋を訪れると、そこには私の婚約者と裸で寝ている異母妹。 どうやら私から奪い取るのが目的だったようだけれど、今回の事は私にとって渡りに舟だったのよね。 婚約者という足かせから解放されて、侯爵家の母の実家へ養女として迎えられる事に。 これまで母の実家から受けていた援助も、私がいなくなれば当然なくなりますから頑張ってください。 面倒な家族から解放されて、私幸せになります!

[完結]本当にバカね

シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。 この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。 貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちたら婚約者。 入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。 私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

【短編】捨てられた公爵令嬢ですが今さら謝られても「もう遅い」

みねバイヤーン
恋愛
「すまなかった、ヤシュナ。この通りだ、どうか王都に戻って助けてくれないか」 ザイード第一王子が、婚約破棄して捨てた公爵家令嬢ヤシュナに深々と頭を垂れた。 「お断りします。あなた方が私に対して行った数々の仕打ち、決して許すことはありません。今さら謝ったところで、もう遅い。ばーーーーーか」 王家と四大公爵の子女は、王国を守る御神体を毎日清める義務がある。ところが聖女ベルが現れたときから、朝の清めはヤシュナと弟のカルルクのみが行なっている。務めを果たさず、自分を使い潰す気の王家にヤシュナは切れた。王家に対するざまぁの準備は着々と進んでいる。

【完結】婚約者の母が「息子の子供を妊娠した」と血相変えてやって来た〜私の子供として育てて欲しい?絶対に無理なので婚約破棄させてください!

冬月光輝
恋愛
イースロン伯爵家の令嬢であるシェリルは王族とも懇意にしている公爵家の嫡男であるナッシュから熱烈なアプローチを受けて求婚される。 見た目もよく、王立学園を次席で卒業するほど頭も良い彼は貴族の令嬢たちの憧れの的であったが、何故か浮ついた話は無く縁談も全て断っていたらしいので、シェリルは自分で良いのか不思議に思うが彼の婚約者となることを了承した。 「君のような女性を待っていた。その泣きぼくろも、鼻筋も全て理想だよ」 やたらとシェリルの容姿を褒めるナッシュ。 褒められて悪い気がしなかったが、両家の顔合わせの日、ナッシュの母親デイジーと自分の容姿が似ていることに気付き少しだけ彼女は嫌な予感を抱く。 さらに婚約してひと月が経過した頃……デイジーが血相を変えてシェリルの元を訪ねた。 「ナッシュの子を妊娠した。あなたの子として育ててくれない?」 シェリルは一瞬で婚約破棄して逃げ出すことを決意する。

両親も義両親も婚約者も妹に奪われましたが、評判はわたしのものでした

朝山みどり
恋愛
婚約者のおじいさまの看病をやっている間に妹と婚約者が仲良くなった。子供ができたという妹を両親も義両親も大事にしてわたしを放り出した。 わたしはひとりで家を町を出た。すると彼らの生活は一変した。

待つわけないでしょ。新しい婚約者と幸せになります!

風見ゆうみ
恋愛
「1番愛しているのは君だ。だから、今から何が起こっても僕を信じて、僕が迎えに行くのを待っていてくれ」彼は、辺境伯の長女である私、リアラにそうお願いしたあと、パーティー会場に戻るなり「僕、タントス・ミゲルはここにいる、リアラ・フセラブルとの婚約を破棄し、公爵令嬢であるビアンカ・エッジホールとの婚約を宣言する」と叫んだ。 婚約破棄した上に公爵令嬢と婚約? 憤慨した私が婚約破棄を受けて、新しい婚約者を探していると、婚約者を奪った公爵令嬢の元婚約者であるルーザー・クレミナルが私の元へ訪ねてくる。 アグリタ国の第5王子である彼は整った顔立ちだけれど、戦好きで女性嫌い、直属の傭兵部隊を持ち、冷酷な人間だと貴族の中では有名な人物。そんな彼が私との婚約を持ちかけてくる。話してみると、そう悪い人でもなさそうだし、白い結婚を前提に婚約する事にしたのだけど、違うところから待ったがかかり…。 ※暴力表現が多いです。喧嘩が強い令嬢です。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法も存在します。 格闘シーンがお好きでない方、浮気男に過剰に反応される方は読む事をお控え下さい。感想をいただけるのは大変嬉しいのですが、感想欄での感情的な批判、暴言などはご遠慮願います。

処理中です...