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第13話 内緒の時間
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夢中になって走っている内に、家にたどり着いていた。
「シアラ様、お帰りなさいませ」
侍女が迎えてくれる。
「旦那さまも奥さまも、まだお帰りになっていません。先にお風呂に入ってはいかがでしょうか? その間に夕食の準備を済ませておきますので……」
「ごめんなさい、今日は夕食は結構です」
「えっ、具合でも悪いのですか?」
「平気よ。ちょっと疲れているだけ」
少し早口でそう言って、私は階段を上がって行く。自分の部屋に入ってドアを閉めると、そのままベッドに倒れ込んだ。こんな風にだらしない真似、今まで1度もしたことはない。一体、私はどうしてしまったと言うのだろうか?
いや、分かっている、原因は。オルさんとマミさんがまさか、あんな風になっているのを見て、ショックを受けたのだ。
それくらい、私はオルさんのことが……好きになっていたのだ。
◇
あれから、私はずっと部屋のベッドに横たわっていた。途中、私のことを心配してくれた両親がドアの向こうから声をかけてくれた。けど、私は部屋から出ることはせず、今もこうして無為な時を過ごしている。けど、許して欲しい。私だって、人間だから。いつだって、何事にも動じないクールな令嬢ではいられないのだ。何だかんだ、私も弱い女……
コンコン、と音がした。部屋のドアがノックされたのかと思ったけど違った。その音は、窓の方から聞こえていた。まさか、不審者? いや、だとしたら、こんな風にわざわざ合図を出さない。
私は少し考えてから、ハッとした。まさか――
「――やあ」
カーテンを開けると、そこに人が居てギョッとした。でも、なぜだろう。すぐに嬉しさの方が溢れてしまう。
「……オルさん」
思わず涙がこぼれてしまいそうになるのを、必死で堪えた。
「ごめんね、勝手に来てしまって」
彼は眉尻を下げて言う。
「けど、誤解されたくなくて」
「誤解って……マミさんとのことですか?」
「うん。俺、あの時はじめてあの子に会って、いきなり誘われて……でも、ちゃんと断ったんだ。けど、しつこく絡まれて……その場面をちょうど、君に見られたから」
「そう、だったんですか……」
「って言われても、信用できないよな」
オルさんは苦笑する。
「……別に、あなたは私の物ではないので、仮にマミさんと何かあろうとも、とやかく言う筋合いはありません」
「シアラ……寂しいな」
「けど……私、すごく落ち込みました」
「えっ?」
私は窓を開けた。
「私、オルさんのことが好きみたいです、すごく……今まで、男の人にそんな感情を抱いたことが初めてで……だから、すごく戸惑って……」
訥々と喋る私のことを、彼が抱き締めてくれた。
「……ありがとう、シアラ。俺、すごく嬉しいよ」
「オルさん……」
「あ、これ。俺がプレゼントした髪飾り……ちゃんと着けてくれているんだ」
彼はそれを愛おしそうに撫でながら言ってくれる。
「はい……似合いますか?」
「ああ、似合っているよ」
月明かりに照らされながら、私たちは見つめ合う。
「シアラ……」
「オルさん……」
そこからは、誰にも言えない内緒の時間だった。
「シアラ様、お帰りなさいませ」
侍女が迎えてくれる。
「旦那さまも奥さまも、まだお帰りになっていません。先にお風呂に入ってはいかがでしょうか? その間に夕食の準備を済ませておきますので……」
「ごめんなさい、今日は夕食は結構です」
「えっ、具合でも悪いのですか?」
「平気よ。ちょっと疲れているだけ」
少し早口でそう言って、私は階段を上がって行く。自分の部屋に入ってドアを閉めると、そのままベッドに倒れ込んだ。こんな風にだらしない真似、今まで1度もしたことはない。一体、私はどうしてしまったと言うのだろうか?
いや、分かっている、原因は。オルさんとマミさんがまさか、あんな風になっているのを見て、ショックを受けたのだ。
それくらい、私はオルさんのことが……好きになっていたのだ。
◇
あれから、私はずっと部屋のベッドに横たわっていた。途中、私のことを心配してくれた両親がドアの向こうから声をかけてくれた。けど、私は部屋から出ることはせず、今もこうして無為な時を過ごしている。けど、許して欲しい。私だって、人間だから。いつだって、何事にも動じないクールな令嬢ではいられないのだ。何だかんだ、私も弱い女……
コンコン、と音がした。部屋のドアがノックされたのかと思ったけど違った。その音は、窓の方から聞こえていた。まさか、不審者? いや、だとしたら、こんな風にわざわざ合図を出さない。
私は少し考えてから、ハッとした。まさか――
「――やあ」
カーテンを開けると、そこに人が居てギョッとした。でも、なぜだろう。すぐに嬉しさの方が溢れてしまう。
「……オルさん」
思わず涙がこぼれてしまいそうになるのを、必死で堪えた。
「ごめんね、勝手に来てしまって」
彼は眉尻を下げて言う。
「けど、誤解されたくなくて」
「誤解って……マミさんとのことですか?」
「うん。俺、あの時はじめてあの子に会って、いきなり誘われて……でも、ちゃんと断ったんだ。けど、しつこく絡まれて……その場面をちょうど、君に見られたから」
「そう、だったんですか……」
「って言われても、信用できないよな」
オルさんは苦笑する。
「……別に、あなたは私の物ではないので、仮にマミさんと何かあろうとも、とやかく言う筋合いはありません」
「シアラ……寂しいな」
「けど……私、すごく落ち込みました」
「えっ?」
私は窓を開けた。
「私、オルさんのことが好きみたいです、すごく……今まで、男の人にそんな感情を抱いたことが初めてで……だから、すごく戸惑って……」
訥々と喋る私のことを、彼が抱き締めてくれた。
「……ありがとう、シアラ。俺、すごく嬉しいよ」
「オルさん……」
「あ、これ。俺がプレゼントした髪飾り……ちゃんと着けてくれているんだ」
彼はそれを愛おしそうに撫でながら言ってくれる。
「はい……似合いますか?」
「ああ、似合っているよ」
月明かりに照らされながら、私たちは見つめ合う。
「シアラ……」
「オルさん……」
そこからは、誰にも言えない内緒の時間だった。
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