8 / 19
第一章 代筆屋と客じゃない客
第八片 コレクター
しおりを挟む
「またあいつか」
「ええ、そのようです」
港に通じる河川のはずれ、下水道につながる水路の脇でひとりの娼婦の惨殺死体が見つかった。布にくるまれた死体を検分したルベルトは、うげっと顔を歪ませてすぐに布を元に戻した。
「また眼球か……」
ルベルトが言っているのは、死体から持ち去られた一部のことだ。娼婦の死体は執拗に切り付けられた挙句、両方の眼球を奪われていた。死体の上には、弔いか飾りつけか、ライトグリーンの花びらが何枚も落とされている。
ロイは淡々と現状を説明した。
「昨夜遅く、客らしき男性と店を出たのが目撃されています。娼婦仲間からうらやましがられるくらい綺麗な金緑色の瞳をしていたようですよ。宝石のクリソベリルに例える客もいたとか。最近は金払いのいい常連客がついていたらしく、本人は身請けも期待していたと聞いています」
死体に乗せられていた花びらは、彼女の瞳の色と同じ色にわざわざ染められていた。今回の被害者は、黄緑色の小さな花びらだった。染められているという点から、行き当たりばったりの犯行ではなく計画的であることがうかがえる。
花びらの種類や、もとの色が何色なのかはまったくわかっていない。ルベルトの部下が何人も花屋を訪ねているが、それらしき花は見つからず仕舞いだった。
「身請けなんて夢のまた夢だろう。夢を見るなとはいえねぇが、その結果コレはさすがに同情するな。……この4か月でもう5件目だろ。毎度、目を奪うだけでなく全身を切り付けるとは変態さんもマメなこった」
「相変わらず切り方にもこだわりがあるようですね。皮膚の下にある筋肉の流れに沿って、明らかにわざと決まった法則で切り付けている。よほど生真面目な人間なのでしょう」
ふたりは水路付近から路地へとつながる階段を上がり、ほかの兵に挨拶をして移動する。黒の隊服はすでに下水のにおいを絡めてしまったようで、ルベルトが袖の部分をクンクンにおうと顔を顰めた。
「とりあえずいったん戻るぞ。あの様子じゃロクな情報は出てこないだろうしな」
「ええ、すでに娼館のおかみや女たちには聞き取り済みです。昨日の客が変態さんなのか、それとも客と分かれた後に殺られたか……。そのあたりも含めて引き続き探ります」
「ああ、よろしく頼む」
夜中から降り出した雨は小降りになっていて、曇り空にはところどころに光の筋が差し込んでいた。大通りに出ると彼らは二手に分かれる。ルベルトはレナンの中心部へ、ロイは時計塔通りへと向かった。
「ええ、そのようです」
港に通じる河川のはずれ、下水道につながる水路の脇でひとりの娼婦の惨殺死体が見つかった。布にくるまれた死体を検分したルベルトは、うげっと顔を歪ませてすぐに布を元に戻した。
「また眼球か……」
ルベルトが言っているのは、死体から持ち去られた一部のことだ。娼婦の死体は執拗に切り付けられた挙句、両方の眼球を奪われていた。死体の上には、弔いか飾りつけか、ライトグリーンの花びらが何枚も落とされている。
ロイは淡々と現状を説明した。
「昨夜遅く、客らしき男性と店を出たのが目撃されています。娼婦仲間からうらやましがられるくらい綺麗な金緑色の瞳をしていたようですよ。宝石のクリソベリルに例える客もいたとか。最近は金払いのいい常連客がついていたらしく、本人は身請けも期待していたと聞いています」
死体に乗せられていた花びらは、彼女の瞳の色と同じ色にわざわざ染められていた。今回の被害者は、黄緑色の小さな花びらだった。染められているという点から、行き当たりばったりの犯行ではなく計画的であることがうかがえる。
花びらの種類や、もとの色が何色なのかはまったくわかっていない。ルベルトの部下が何人も花屋を訪ねているが、それらしき花は見つからず仕舞いだった。
「身請けなんて夢のまた夢だろう。夢を見るなとはいえねぇが、その結果コレはさすがに同情するな。……この4か月でもう5件目だろ。毎度、目を奪うだけでなく全身を切り付けるとは変態さんもマメなこった」
「相変わらず切り方にもこだわりがあるようですね。皮膚の下にある筋肉の流れに沿って、明らかにわざと決まった法則で切り付けている。よほど生真面目な人間なのでしょう」
ふたりは水路付近から路地へとつながる階段を上がり、ほかの兵に挨拶をして移動する。黒の隊服はすでに下水のにおいを絡めてしまったようで、ルベルトが袖の部分をクンクンにおうと顔を顰めた。
「とりあえずいったん戻るぞ。あの様子じゃロクな情報は出てこないだろうしな」
「ええ、すでに娼館のおかみや女たちには聞き取り済みです。昨日の客が変態さんなのか、それとも客と分かれた後に殺られたか……。そのあたりも含めて引き続き探ります」
「ああ、よろしく頼む」
夜中から降り出した雨は小降りになっていて、曇り空にはところどころに光の筋が差し込んでいた。大通りに出ると彼らは二手に分かれる。ルベルトはレナンの中心部へ、ロイは時計塔通りへと向かった。
0
お気に入りに追加
438
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる