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第一章 代筆屋と客じゃない客

第八片 コレクター

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「またあいつか」

「ええ、そのようです」

港に通じる河川のはずれ、下水道につながる水路の脇でひとりの娼婦の惨殺死体が見つかった。布にくるまれた死体を検分したルベルトは、うげっと顔を歪ませてすぐに布を元に戻した。

「また眼球か……」

ルベルトが言っているのは、死体から持ち去られた一部のことだ。娼婦の死体は執拗に切り付けられた挙句、両方の眼球を奪われていた。死体の上には、弔いか飾りつけか、ライトグリーンの花びらが何枚も落とされている。

ロイは淡々と現状を説明した。

「昨夜遅く、客らしき男性と店を出たのが目撃されています。娼婦仲間からうらやましがられるくらい綺麗な金緑色の瞳をしていたようですよ。宝石のクリソベリルに例える客もいたとか。最近は金払いのいい常連客がついていたらしく、本人は身請けも期待していたと聞いています」

死体に乗せられていた花びらは、彼女の瞳の色と同じ色にわざわざ染められていた。今回の被害者は、黄緑色の小さな花びらだった。染められているという点から、行き当たりばったりの犯行ではなく計画的であることがうかがえる。

花びらの種類や、もとの色が何色なのかはまったくわかっていない。ルベルトの部下が何人も花屋を訪ねているが、それらしき花は見つからず仕舞いだった。


「身請けなんて夢のまた夢だろう。夢を見るなとはいえねぇが、その結果コレはさすがに同情するな。……この4か月でもう5件目だろ。毎度、目を奪うだけでなく全身を切り付けるとは変態さんコレクターもマメなこった」

「相変わらず切り方にもこだわりがあるようですね。皮膚の下にある筋肉の流れに沿って、明らかにわざと決まった法則で切り付けている。よほど生真面目な人間なのでしょう」

ふたりは水路付近から路地へとつながる階段を上がり、ほかの兵に挨拶をして移動する。黒の隊服はすでに下水のにおいを絡めてしまったようで、ルベルトが袖の部分をクンクンにおうと顔を顰めた。

「とりあえずいったん戻るぞ。あの様子じゃロクな情報は出てこないだろうしな」

「ええ、すでに娼館のおかみや女たちには聞き取り済みです。昨日の客が変態さんコレクターなのか、それとも客と分かれた後にられたか……。そのあたりも含めて引き続き探ります」

「ああ、よろしく頼む」


夜中から降り出した雨は小降りになっていて、曇り空にはところどころに光の筋が差し込んでいた。大通りに出ると彼らは二手に分かれる。ルベルトはレナンの中心部へ、ロイは時計塔通りへと向かった。

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