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2.なんちゃって裏稼業
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灼熱の太陽が、俺に降り注ぐ。
ここに無様な姿で吊るされて、もう何時間経っただろう?
逆さまで見る空は、存外に美しい。目の覚めるような青がいつしかオレンジに変わり、ただ眺めるしかできない俺の心にこの空は滲みる。
が、そろそろ限界だ。
体の中から出るもん出尽くして、もう血も涙も一滴も残っちゃいない。
俺にそんなものが最初からあったかどうかはわからんが。
いや、俺を知る者は確実に、「おまえにそんなものはない」と言うだろう。
まさかこのまま、ここで朽ち果てるのか……?
せめて最後に、ひなたに会いたかった。
ひなた。
泣き虫だったおまえが、最近は笑顔を見せるようになってくれた。薄汚れた俺を見ても、嫌な顔一つせず、抱き締めてくれた。
あぁ、ひなた。おまえが泣いていないか心配だ。俺がいないとすぐに姿を探すだろう?
おまえのためだったら、いくらでも俺は汚れていいんだ。
俺はおまえに買われたのだから。
この体、どうにでも好きにしてくれという気持ちは嘘じゃない。
もう一度、もう一度会いたい。ただひとりの主であり娘であり、愛おしい人。
おまえが望むのなら、俺は喜んでここを去ろう。要らなくなったら捨ててくれ。それは嘘偽りない本心だ。
だが、こんな別れ方は嫌だ。無様だと笑われてもいい、ひなたに会いたい。
誰か……誰か助けてくれ……!!
吊るされ続け醜態を晒してなお、俺は心の中で声を上げた。
誰にも届くことのない、叫び声を……。
――ガラッ!!
突然やってきた女の手が、不躾に俺の体を弄る。
やめろ、俺に触れるな!
俺に触れていいのは、ひなただけだ!
俺はひなたのものなんだ!!
だがこの悲鳴が、女に届くことはない。
Tシャツに短パン姿の女は、俺が干からびているのを確認しにきただけだった。
しばらく全身をくまなくチェックされた後、俺は再び同じ場所に吊るされた。一瞬でも解放されると思った自分に嫌気がさす。
あぁ、ひなた。俺はもう帰れそうにない。
もうどうにでもなれ。
そう思ったとき、女は冷めた声で言った。
「ひなた~、やっぱりまだ乾いてへんわクマちゃん。もっと脱水せなあかんかったかな~」
「クマちゃ、ねんね?」
俺はそのまま、夜まで干され続けた……
ようやく解放されたとき、ひなたはぐっすり眠っていた。
傍らに置かれた俺を、無意識にぎゅうっと抱きしめる。
あぁ、ようやく帰ってこられた。
「クマちゃ~」
ただひとつ言えるのは
離れ離れになったあとの再会は、ことのほか嬉しいものである。
ここに無様な姿で吊るされて、もう何時間経っただろう?
逆さまで見る空は、存外に美しい。目の覚めるような青がいつしかオレンジに変わり、ただ眺めるしかできない俺の心にこの空は滲みる。
が、そろそろ限界だ。
体の中から出るもん出尽くして、もう血も涙も一滴も残っちゃいない。
俺にそんなものが最初からあったかどうかはわからんが。
いや、俺を知る者は確実に、「おまえにそんなものはない」と言うだろう。
まさかこのまま、ここで朽ち果てるのか……?
せめて最後に、ひなたに会いたかった。
ひなた。
泣き虫だったおまえが、最近は笑顔を見せるようになってくれた。薄汚れた俺を見ても、嫌な顔一つせず、抱き締めてくれた。
あぁ、ひなた。おまえが泣いていないか心配だ。俺がいないとすぐに姿を探すだろう?
おまえのためだったら、いくらでも俺は汚れていいんだ。
俺はおまえに買われたのだから。
この体、どうにでも好きにしてくれという気持ちは嘘じゃない。
もう一度、もう一度会いたい。ただひとりの主であり娘であり、愛おしい人。
おまえが望むのなら、俺は喜んでここを去ろう。要らなくなったら捨ててくれ。それは嘘偽りない本心だ。
だが、こんな別れ方は嫌だ。無様だと笑われてもいい、ひなたに会いたい。
誰か……誰か助けてくれ……!!
吊るされ続け醜態を晒してなお、俺は心の中で声を上げた。
誰にも届くことのない、叫び声を……。
――ガラッ!!
突然やってきた女の手が、不躾に俺の体を弄る。
やめろ、俺に触れるな!
俺に触れていいのは、ひなただけだ!
俺はひなたのものなんだ!!
だがこの悲鳴が、女に届くことはない。
Tシャツに短パン姿の女は、俺が干からびているのを確認しにきただけだった。
しばらく全身をくまなくチェックされた後、俺は再び同じ場所に吊るされた。一瞬でも解放されると思った自分に嫌気がさす。
あぁ、ひなた。俺はもう帰れそうにない。
もうどうにでもなれ。
そう思ったとき、女は冷めた声で言った。
「ひなた~、やっぱりまだ乾いてへんわクマちゃん。もっと脱水せなあかんかったかな~」
「クマちゃ、ねんね?」
俺はそのまま、夜まで干され続けた……
ようやく解放されたとき、ひなたはぐっすり眠っていた。
傍らに置かれた俺を、無意識にぎゅうっと抱きしめる。
あぁ、ようやく帰ってこられた。
「クマちゃ~」
ただひとつ言えるのは
離れ離れになったあとの再会は、ことのほか嬉しいものである。
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