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243.里佳の事情⑪

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「第3城壁を奪還だっかんした時の絶望せつぼうかんときたらなかったですよ」

と、クゥアイが笑って言った。

部屋に遊びに来てくれる乙女たちは、私が人獣じんじゅうとの闘いの話をせがむと、いやがることなく聞かせてくれる。

「見渡す限り人獣じんじゅう人獣じんじゅう人獣じんじゅう……。確かにとおーっくに、はしっこは見えてたんです。だけど、終わりはあんなに先かあ――って」

この可憐かれんな銀髪の娘は今は農家に戻ったけど、槍の名手なんだそうだ。みなの信頼も厚い。

「もうその頃には1対1なら、やられることないって自信ついてましたけど、あれだけの数におそいかかられたら、ちょっとのミスが大ケガに繋がるし、下手したら命を落としちゃうし」

「うん、そうだよねえ」

「だから、ギリギリの綱渡つなわたりにはれてるんですよ。私たち」

と、頼もしく笑う。

乙女たちそれぞれの立ち位置で、勇吾の見え方は少しずつ違う。

それが、あの闘いに立ち会えなかった私にも、当時の勇吾の姿を立体的に浮かび上がらせてくれる。間違いなく苦しかった闘いを私も追体験ついたいけんさせてもらってる。

ただ、共通して語られるのは勇吾への深い尊敬の念だ。

それが嬉しくてたまらない。

「えへへっ。こんな風にリーファ妃とお話できるようになるなんて、今でも不思議な感じです」

と、クゥアイが照れ笑いをして、ふかした甘いいもをパクッと食べた。

れたての野菜を手土産に私の部屋に遊びに来てくれている。横に座るツイファもホフホフ言いながら食べている。

女子同士でキャイキャイする時間が自分を満たしてくれるのは、日本での18年間で上書きされた価値観だ。乙女たちがよく付き合ってくれている。

「背中をする順番を、マレビト様からたずねられたことは一度もないんです」

と、クゥアイがほほを赤くした。

「ご用事があるときは別ですけど、ずっと私たちにまかせてくださいました」

ツイファも首を縦に振った。

「マレビト様は何事なにごとも、大きな方針をさだめたら、あとはみなにお任せくださいます。ですから、私どもも懸命けんめいに考えます」

「そうかあ。勇吾は分からないことは分からないって言えるからなあ」

「「そうなんです!」」
「「そうなのです!」」

と、2人が声をそろえた。

そして、顔を見合わせて微笑ほほえみ合った。

今、勇吾の寝室を訪れる順番は、彼女たち自身が決めている。

よくよく考えてみれば、22のことわりに対して22人ちょうどしかいない。しかも、既にのある女子だけを選抜してしまっている。それ以外の女子に、勇吾の気持ちも身体からだもテコでも動かないだろう。

「本当は……」

と、クゥアイがほほを赤くしたままで言った。

呪力じゅりょくがどうとか、もう関係なかったんです。ただ、一度でいいからマレビト様と結ばれてみたかった」

綱渡りのような状況を、彼女たち自身が切りひらいていこうとしてくれている。私と勇吾の未来のために。そして、自分自身のために。

たがいに先を争うでもなく、確実な戦略と嗅覚きゅうかくで寝室に送り出し、おもむく。

視界をふさいでいた第3城壁を奪還したとき、勇吾と乙女たちの目にうつったのは絶望だったとクゥアイは言った。けれど、彼女は槍を振るってそれを乗り越えた。

今、残りわずかとなったことわりかした先に、私と勇吾と乙女たちにどんな風景が待っているんだろう?

「クゥアイのお芋、ホントに美味しい。手が止まりません」

と、ツイファが笑うと、クゥアイも嬉しげに胸を張る。

「でしょう? 愛情込めて育てているのです」

たとえどんな未来が待ち受けていても、んなと一緒なら励まし合って乗り越えられる。

そう思えるハーレムチームを作り上げた勇吾は、やっぱりスゴい男だ――。
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