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238.里佳の事情⑩

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「マレビト様は、ホントは全体像を把握はあくしてから物事ものごとを動かしたい性格だと思うのだ」

と、上機嫌のシーシが言った。

「あ、分かるぅ! 勇吾マレビト、そういうとこあるよね」

人獣じんじゅうのことも城のことも分からないことだらけで、相当そうとうなストレスに耐えながら頑張ってくれたと思うのだ」

勇吾が私の部屋に来ない晩には時々、純潔じゅんけつ乙女おとめたちが遊びに来てくれる。

今晩はシーシとアスマがヤガタ芋焼酎じょうちゅうわしている。

「だから、この世のことわりを、ぜーんぶっかすというのは、人獣じんじゅうたちへの復讐ふくしゅうでもあるのだ!」

「ホントだあ!」

と、私がこたえると、アスマがまゆを寄せて渋い顔で酒をあおった。

「だいたい、人獣あいつらはなんだったんだ?」

「アスマは祖霊や呪力じゅりょくを信じられるようになったのか?」

「信じるも何も、どれだけリヴァントの騎士がダーシャンのまじないに苦しめられたと思っているんだ? それに、だな……」

「なんなのだ?」

「実際に、その、私でも霊縁れいえんとやらがつながったというなら……、ダーシャンの祖霊は私たちの祖霊でもあるんだろう」

「アスマ、顔が真っ赤なのだ」

「ホントだあ!」

と、私も笑いながら焼酎をめる。こっちダーシャンでは成人だし、ちょっとくらいいいよね。

「し、仕方ないだろう」

と、ねて見せる北の元女王も可愛かわいくて仕方ない。こんなに世界がボロボロになる前に仲良く出来たら、もっと良かったのに。

実は3人とも妊婦なんだけど、この世界には流産という概念がいねんがない。お腹も膨らまず、ベストなプロポーションを維持いじしたまま時が満ちたらスルリと出てくる。

というわけで、まったく気遣きづかいなしに女3人、酒を楽しんでいる。

大変、楽でよろしいのだけど、なんとも雑な世界だ。早くことわりをすべて解明かいめいしてみたい。

「シーシにも見えるのか? この世のことわりというのは」

「ニッシッシッシッ。見えないのだ」

「なんだ、思わせぶりに笑うから、見えるのかと思うじゃないか」

「見えるのは、王国にも公国にも唯一残った呪術じゅじゅつ師のリーファ妃と、あとはマレビト様だけなのだ」

「そうか。どんな風に見えるんだ?」

と、アスマが私にたずねた。

「うーん。説明が難しいんだけど……、グルグルめぐってる感じ? でも、それだけじゃ見えててもわけ分かんなくて……。あっ、水車あるじゃない?」

「うむ」

「水車を知らない人が見たら、なんだこのグルグル回る丸いのは? ってなると思うのね」

「そうだな。知らない人が見たらな」

「で、使い方や意味を知ったら、使えるようになって、とても便利。ことわりっていうか呪力じゅりょくも同じなのよ。見えてるだけじゃ使いものにならないの」

「ふむ、よく分からんがスゴそうだな」

「ふふっ、そうね。あとシーシの話じゃないけど、全体像が見えてないから理解出来ないところも沢山たくさんあるわ」

「なるほどなのだ。水車の軸だけ見ても、ただの棒なのだ」

「そうそれ! そんな感じ」

彼女たちはんな、百年来ひゃくねんらいの親友のように私を受け入れてくれてる。

私が目覚めたのは人獣じんじゅうとの闘いが終わって150日以上った後のことだ。一番大変な時にスヤスヤ眠っていた私がを感じないよう、いつも彼女たちが気をくばってくれてるのが分かる。

そんな彼女たちが一人また一人とおもいをげる度、ホッとして喜んでしまう。

「負けヒロインのいない世界もいいじゃない! ねえ、そう思わない?」

「負けヒロインとは何なのだ?」

「負けヒロインは……、あれよ……、負けヒロインなのよ……」

「アスマ。おきさき様はちょっとっ払ったみたいだから、そろそろおひらきにするのだ」

「なんだよ。とままって行ってよお」

「仕方ないおきさき様なのだ」

私たち2人だけのハッピーエンドじゃないのって、それはそれで素敵よね!

――こうなったら、なにがなんでもハッピーエンドだっ!

って、ヤーモンとエジャっていう子たちの結婚式で決意したって、勇吾も言ってたなぁ……。

んなで幸せになるのだ……」

「おきさき様、ボクの口マネはめるのだ」

と、私の腕の中でシーシが抗議こうぎしている。アスマも隣で横になって微笑ほほえんでいる。

んな勇吾が幸せで満たしてくれて、私の男はスゴいヤツで、私も幸せなのだ。

私の幸せは普通の23倍なのだ――!

シーシの口マネ……。

こんな日々が、いつまでも続けばいいのになあ――。
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