242 / 297
238.里佳の事情⑩
しおりを挟む
「マレビト様は、ホントは全体像を把握してから物事を動かしたい性格だと思うのだ」
と、上機嫌のシーシが言った。
「あ、分かるぅ! 勇吾、そういうとこあるよね」
「人獣のことも城のことも分からないことだらけで、相当なストレスに耐えながら頑張ってくれたと思うのだ」
勇吾が私の部屋に来ない晩には時々、純潔ではなくなった乙女たちが遊びに来てくれる。
今晩はシーシとアスマがヤガタ芋焼酎を酌み交わしている。
「だから、この世の理を、ぜーんぶっ解き明かすというのは、人獣たちへの復讐でもあるのだ!」
「ホントだあ!」
と、私が応えると、アスマが眉を寄せて渋い顔で酒をあおった。
「だいたい、人獣はなんだったんだ?」
「アスマは祖霊や呪力を信じられるようになったのか?」
「信じるも何も、どれだけリヴァントの騎士がダーシャンの呪いに苦しめられたと思っているんだ? それに、だな……」
「なんなのだ?」
「実際に、その、私でも霊縁とやらが繋がったというなら……、ダーシャンの祖霊は私たちの祖霊でもあるんだろう」
「アスマ、顔が真っ赤なのだ」
「ホントだあ!」
と、私も笑いながら焼酎を舐める。こっちでは成人だし、ちょっとくらいいいよね。
「し、仕方ないだろう」
と、拗ねて見せる北の元女王も可愛くて仕方ない。こんなに世界がボロボロになる前に仲良く出来たら、もっと良かったのに。
実は3人とも妊婦なんだけど、この世界には流産という概念がない。お腹も膨らまず、ベストなプロポーションを維持したまま時が満ちたらスルリと出てくる。
という訳で、まったく気遣いなしに女3人、酒を楽しんでいる。
大変、楽でよろしいのだけど、なんとも雑な世界だ。早く理をすべて解明してみたい。
「シーシにも見えるのか? この世の理というのは」
「ニッシッシッシッ。見えないのだ」
「なんだ、思わせぶりに笑うから、見えるのかと思うじゃないか」
「見えるのは、王国にも公国にも唯一残った呪術師のリーファ妃と、あとはマレビト様だけなのだ」
「そうか。どんな風に見えるんだ?」
と、アスマが私に尋ねた。
「うーん。説明が難しいんだけど……、グルグル巡ってる感じ? でも、それだけじゃ見えてても訳分かんなくて……。あっ、水車あるじゃない?」
「うむ」
「水車を知らない人が見たら、なんだこのグルグル回る丸いのは? ってなると思うのね」
「そうだな。知らない人が見たらな」
「で、使い方や意味を知ったら、使えるようになって、とても便利。理っていうか呪力も同じなのよ。見えてるだけじゃ使いものにならないの」
「ふむ、よく分からんがスゴそうだな」
「ふふっ、そうね。あとシーシの話じゃないけど、全体像が見えてないから理解出来ないところも沢山あるわ」
「なるほどなのだ。水車の軸だけ見ても、ただの棒なのだ」
「そうそれ! そんな感じ」
彼女たちは皆んな、百年来の親友のように私を受け入れてくれてる。
私が目覚めたのは人獣との闘いが終わって150日以上経った後のことだ。一番大変な時にスヤスヤ眠っていた私が引け目を感じないよう、いつも彼女たちが気を配ってくれてるのが分かる。
そんな彼女たちが一人また一人と想いを遂げる度、ホッとして喜んでしまう。
「負けヒロインのいない世界もいいじゃない! ねえ、そう思わない?」
「負けヒロインとは何なのだ?」
「負けヒロインは……、あれよ……、負けヒロインなのよ……」
「アスマ。お妃様はちょっと酔っ払ったみたいだから、そろそろお開きにするのだ」
「なんだよ。泊まって行ってよお」
「仕方ないお妃様なのだ」
私たち2人だけのハッピーエンドじゃないのって、それはそれで素敵よね!
――こうなったら、なにがなんでもハッピーエンドだっ!
って、ヤーモンとエジャっていう子たちの結婚式で決意したって、勇吾も言ってたなぁ……。
「皆んなで幸せになるのだ……」
「お妃様、ボクの口マネは止めるのだ」
と、私の腕の中でシーシが抗議している。アスマも隣で横になって微笑んでいる。
皆んな勇吾が幸せで満たしてくれて、私の男はスゴいヤツで、私も幸せなのだ。
私の幸せは普通の23倍なのだ――!
シーシの口マネ……。
こんな日々が、いつまでも続けばいいのになあ――。
と、上機嫌のシーシが言った。
「あ、分かるぅ! 勇吾、そういうとこあるよね」
「人獣のことも城のことも分からないことだらけで、相当なストレスに耐えながら頑張ってくれたと思うのだ」
勇吾が私の部屋に来ない晩には時々、純潔ではなくなった乙女たちが遊びに来てくれる。
今晩はシーシとアスマがヤガタ芋焼酎を酌み交わしている。
「だから、この世の理を、ぜーんぶっ解き明かすというのは、人獣たちへの復讐でもあるのだ!」
「ホントだあ!」
と、私が応えると、アスマが眉を寄せて渋い顔で酒をあおった。
「だいたい、人獣はなんだったんだ?」
「アスマは祖霊や呪力を信じられるようになったのか?」
「信じるも何も、どれだけリヴァントの騎士がダーシャンの呪いに苦しめられたと思っているんだ? それに、だな……」
「なんなのだ?」
「実際に、その、私でも霊縁とやらが繋がったというなら……、ダーシャンの祖霊は私たちの祖霊でもあるんだろう」
「アスマ、顔が真っ赤なのだ」
「ホントだあ!」
と、私も笑いながら焼酎を舐める。こっちでは成人だし、ちょっとくらいいいよね。
「し、仕方ないだろう」
と、拗ねて見せる北の元女王も可愛くて仕方ない。こんなに世界がボロボロになる前に仲良く出来たら、もっと良かったのに。
実は3人とも妊婦なんだけど、この世界には流産という概念がない。お腹も膨らまず、ベストなプロポーションを維持したまま時が満ちたらスルリと出てくる。
という訳で、まったく気遣いなしに女3人、酒を楽しんでいる。
大変、楽でよろしいのだけど、なんとも雑な世界だ。早く理をすべて解明してみたい。
「シーシにも見えるのか? この世の理というのは」
「ニッシッシッシッ。見えないのだ」
「なんだ、思わせぶりに笑うから、見えるのかと思うじゃないか」
「見えるのは、王国にも公国にも唯一残った呪術師のリーファ妃と、あとはマレビト様だけなのだ」
「そうか。どんな風に見えるんだ?」
と、アスマが私に尋ねた。
「うーん。説明が難しいんだけど……、グルグル巡ってる感じ? でも、それだけじゃ見えてても訳分かんなくて……。あっ、水車あるじゃない?」
「うむ」
「水車を知らない人が見たら、なんだこのグルグル回る丸いのは? ってなると思うのね」
「そうだな。知らない人が見たらな」
「で、使い方や意味を知ったら、使えるようになって、とても便利。理っていうか呪力も同じなのよ。見えてるだけじゃ使いものにならないの」
「ふむ、よく分からんがスゴそうだな」
「ふふっ、そうね。あとシーシの話じゃないけど、全体像が見えてないから理解出来ないところも沢山あるわ」
「なるほどなのだ。水車の軸だけ見ても、ただの棒なのだ」
「そうそれ! そんな感じ」
彼女たちは皆んな、百年来の親友のように私を受け入れてくれてる。
私が目覚めたのは人獣との闘いが終わって150日以上経った後のことだ。一番大変な時にスヤスヤ眠っていた私が引け目を感じないよう、いつも彼女たちが気を配ってくれてるのが分かる。
そんな彼女たちが一人また一人と想いを遂げる度、ホッとして喜んでしまう。
「負けヒロインのいない世界もいいじゃない! ねえ、そう思わない?」
「負けヒロインとは何なのだ?」
「負けヒロインは……、あれよ……、負けヒロインなのよ……」
「アスマ。お妃様はちょっと酔っ払ったみたいだから、そろそろお開きにするのだ」
「なんだよ。泊まって行ってよお」
「仕方ないお妃様なのだ」
私たち2人だけのハッピーエンドじゃないのって、それはそれで素敵よね!
――こうなったら、なにがなんでもハッピーエンドだっ!
って、ヤーモンとエジャっていう子たちの結婚式で決意したって、勇吾も言ってたなぁ……。
「皆んなで幸せになるのだ……」
「お妃様、ボクの口マネは止めるのだ」
と、私の腕の中でシーシが抗議している。アスマも隣で横になって微笑んでいる。
皆んな勇吾が幸せで満たしてくれて、私の男はスゴいヤツで、私も幸せなのだ。
私の幸せは普通の23倍なのだ――!
シーシの口マネ……。
こんな日々が、いつまでも続けばいいのになあ――。
1
お気に入りに追加
581
あなたにおすすめの小説
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
聖女なので公爵子息と結婚しました。でも彼には好きな人がいるそうです。
MIRICO
恋愛
癒しの力を持つ聖女、エヴリーヌ。彼女は聖女の嫁ぎ制度により、公爵子息であるカリス・ヴォルテールに嫁ぐことになった。しかしカリスは、ブラシェーロ公爵子息に嫁ぐ聖女、アティを愛していたのだ。
カリスはエヴリーヌに二年後の離婚を願う。王の命令で結婚することになったが、愛する人がいるためエヴリーヌを幸せにできないからだ。
勝手に決められた結婚なのに、二年で離婚!?
アティを愛していても、他の公爵子息の妻となったアティと結婚するわけにもいかない。離婚した後は独身のまま、後継者も親戚の子に渡すことを辞さない。そんなカリスの切実な純情の前に、エヴリーヌは二年後の離婚を承諾した。
なんてやつ。そうは思ったけれど、カリスは心優しく、二年後の離婚が決まってもエヴリーヌを蔑ろにしない、誠実な男だった。
やめて、優しくしないで。私が好きになっちゃうから!!
ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。
ご感想お返事ネタバレになりそうなので控えさせていただきます。
【完結】魔王様、今度も過保護すぎです!
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「お生まれになりました! お嬢様です!!」
長い紆余曲折を経て結ばれた魔王ルシファーは、魔王妃リリスが産んだ愛娘に夢中になっていく。子育ては二度目、余裕だと思ったのに予想外の事件ばかり起きて!?
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
魔王夫妻のなれそめは【魔王様、溺愛しすぎです!】を頑張って読破してください(o´-ω-)o)ペコッ
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
※2023/06/04 完結
※2022/05/13 第10回ネット小説大賞、一次選考通過
※2021/12/25 小説家になろう ハイファンタジー日間 56位
※2021/12/24 エブリスタ トレンド1位
※2021/12/24 アルファポリス HOT 71位
※2021/12/24 連載開始
(完)妹が全てを奪う時、私は声を失った。
青空一夏
恋愛
継母は私(エイヴリー・オマリ伯爵令嬢)から母親を奪い(私の実の母は父と継母の浮気を苦にして病気になり亡くなった)
妹は私から父親の愛を奪い、婚約者も奪った。
そればかりか、妹は私が描いた絵さえも自分が描いたと言い張った。
その絵は国王陛下に評価され、賞をいただいたものだった。
私は嘘つきよばわりされ、ショックのあまり声を失った。
誰か助けて・・・・・・そこへ私の初恋の人が現れて・・・・・・
聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!
山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」
────何言ってんのコイツ?
あれ? 私に言ってるんじゃないの?
ていうか、ここはどこ?
ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ!
推しに会いに行かねばならんのだよ!!
俺の世界を旅した物語
凛。
ファンタジー
自身の人生をかけて目的を達するため、
世界を探求し続けていた「颯」は、ある日突如として智慧の神サクヤによって『魔術の世界』に飛ばされた。
神からの命令で神殺しをする羽目になった颯は、
それすらも楽しみ、
飽くなき探求心を満たすため様々な場所を旅し、自由に生きる。
これは"あの世界の物語"が完結するまでを記した小説である。
転移したらダンジョンの下層だった
Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。
もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。
そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる