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234.霊縁(1)アスマ

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「我があるじよ。私に口説くどかれてくれ」

と、アスマが真面目な顔で言うので、吹き出してしまった。

「一度、リヴァントの様子を見に行きたい。我があるじも一緒に行ってくれぬか?」

「分かった、いいよ。俺も見てみたいし」

「我があるじは私が必ず守る。2人で行っても良いだろうか?」

「もう口説くどき始めてる?」

「そ、そうだ。ダメだろうか?」

「いいよ。2人旅しよう」

本当なら正妃リーファの許しを求める場面かもしれない。けど、それはそれでリーファの負担になる気がして、俺1人で決めた。

「旅の間に我があるじが、その……、そういう気持ちにならないなら、私は一旦いったん、引き下がる」

一旦いったんなんだ?」

「最後まであきらめてはいけないと、我があるじに教わった」

支度じたくをして、リーファと側室そくしつたちに見送られてアスマの故郷ふるさとに向けて出発した。

女子同士どうしで何か話が付いてるなって気配を感じて、苦笑いしてしまった。

「リーファ殿のことは、みなに任せておけばいい」

と、馬上のアスマが言った。急ぐ旅でもないのでゆっくりと歩かせている。

側室そくしつみな、あの極限きょくげん状態だったジーウォ城で、我があるじ御心おこころを支えてきた忠臣ちゅうしんでもある」

「そうか。そうだね」

みな、きっとリーファ殿の御心おこころも支えてくれよう」

俺はリーファが望むなら、あと22の霊縁れいえんを結んでもいいという気持ちにかたむいていた。

みな、我があるじが愛して止まないリーファ殿のことを、同じように大切に思っている」

「そうか……」

「我があるじとリーファ殿、どちらを好きなのか自分でも分からなくなるほどだ」

と、アスマは笑ったけど、俺が気になっているのは3代マレビトの山口さんのことだ。

――頑張って好きになって、限界がきた。

と、山口さんは言っていた。好きになるって頑張ることじゃない。心がちぎれてしまったのも分かる。

「だから、リーファ殿のことは安心して、みなまかせておけばいい」

と笑うアスマは、やっぱり抜群にスタイルがいいし美人の褐色巨乳女子だ。

でも、俺が望まずにちゃったら、霊縁れいえんは結ばれず大切な純潔はじめてをヤラレ損にさせてしまう……。

「俺って、めんどくさいよな?」

「ああ、めんどくさいぞ。こんな美人たちを前にして、自分からは2度乳を揉んでくれただけだからな」

と、アスマはカラカラ笑った。

「いや、アレもだいぶ、やらされた感があったけどね」

「そういうところだぞ? めんどくさいのは」

「ははっ、そうか。それは申し訳ない」

夜は焚火たきびそばで寄り添って、満月が浮かぶ夜空を見上げた。

「ここ来る……?」

「腕枕をしてくれるのか……?」

「うん。イヤ?」

「イ、イヤではない……。失礼する……」

「あったかいな」

「そ、そうだな……」

里佳リーファとは付き合ってすぐ遠距離異世界間恋愛で、再会してからは2人とも立場も責任も生じてしまってた。

恋人っぽいことをするのは、アスマとが初めてだった。

「我があるじこそ、イヤではないのか……?」

「ううん、イヤじゃない」

「そうか……、なら、いいのだが」

腕の中にいるのは、やっぱり女の子で、あの鬼強おにつよかったアスマの姿と重ならない。2人で黙って夜空を見上げた。

数日旅してたどり着いたリヴァントの首都は、やはり無人だった。

「いけ好かない連中だったが、人獣じんじゅうに喰われたと思うとつらいものだな」

「そうだね」

玉座ぎょくざにあしらわれた紋章もんしょうだけナイフでけずり取ったアスマと、首都を後にした。

リヴァント国内をゆっくりと旅して回る。

川で身体からだを洗い、せっかくだからと言うアスマに、むにんっと背中をもらった。

「て、照れてしまうなっ」

「なにを今さら言うのだ」

――むにんっ(下)。

「外だし、2人だし」

「我があるじがイヤならめるが……」

――むにんっ(上)。

「イヤじゃないです……」

「本当は好きなのだろう?」

と、ほほを赤くしたアスマが意地悪いじわるに笑った。

――むにんっ(下)。

「はい……」

じょ、女王様っぽくなってきてません……?

北の果てにある『氷の宮殿』を見せてもらい、ジーウォへの帰途きとについた晩、俺の腕の中でアスマがつぶやいた。

「抱いてくれて、私は良いのだぞ……」

胸がキュッとなって、そのまま結ばれた――。

俺の視界で常に渦巻うずまいている紋様もんようの輪が一つ増え、霊縁れいえんが結ばれたことが分かった。

息が荒いまま、俺の肩に顔を乗せているアスマが微笑ほほえんだ。

「なかなか……、良い、ものなのだな……」

「そか、良かった……」

醜聞しゅうぶんまみれの王宮で育ち、どこかけがらわしく思っていた。……私の純潔はじめてが我があるじで良かった」

と、ほほを赤くするアスマを、思わずギュッと抱き締めてしまった。

心のツルペタ姉さんが俺にインタビューしてくる。

「決め手は、なんだったのだ?」

「あの、何事も性急せいきゅうに進めたがるアスマが、俺の気持ちに寄り添って、ゆっくり時間をかけてくれたところですかね?」

「最後は待ち切れずに求められたようですけど?」

「そこも可愛かわいいなって思ってしまいました」

「放送席! 現場からは以上なのだ」

帰りもゆったりと馬を走らせ、初夏に向かう季節の移ろいを楽しみ、毎晩てしまった。アスマは毎晩、可愛いくて綺麗きれいだった。

リーファとた回数より多くなってたのは、ちょっと気になったけど……。

ジーウォ城に帰り着いたのは夜だったけど、リーファと純潔じゅんけつ乙女おとめたちが笑顔で出迎えてくれた。

「おかえり!」

と、リーファは俺とアスマを力一杯に抱き締めてくれた。

夜空には明日から欠け始める満月が、明るく輝いていた――。
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