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232.天帝の願い
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シーシに急かされた俺とリーファは、2人切りで大浴場に入った。
いつも賑やかだった広い大浴場がとても静かで、経験したことのない照れ臭さに顔を赤くしてしまう。
チラッとリーファの豊かな胸の膨らみを見てしまう。
「み、皆んなと同じように、やってほしい……?」
と、泡立てた手拭いを手にしたリーファが、顔を真っ赤にして聞いてきた。
「う、ううん……」
「そう……?」
「そ、そういうのは……、ベッドの方がいい……、かな……?」
と、俺の言葉に2人でまた顔の赤みを増してしまった。
お互いに手拭いで背中を流し合い、湯船に浸かる。2人だと、やっぱり湯船が広いんだけど、ちょこんと並ぶ。
そして、寝室に戻って、お互いの肌の温もりをゆっくりと確認し合い、俺たちは結ばれた――。
リーファが小さく「あっ!」と、何かに気付いたような声を発すると、俺の視界に渦巻く輪のような紋様がいくつも見えた。
それは突然に、ハッキリと感知することが出来た。
――これが、呪力か。
紋様は相互に作用しながら蠢き、この世界の理が解った。それは分解したおもちゃの中身の歯車を見て「こうやって動いてるんだ!」と、理解していくような不思議な感覚だった。
紋様はリーファの周りも取り囲んでいて、やがて極彩色の光を放ち始めた。
光は俺たちの身体を浮かべ、天井もすり抜け、ゆっくりと夜空を昇っていく。手を握り合っているリーファの顔を見ると、自分にも分からないというように首を振った。
「超常現象・オブ・超常現象」
と、思わず呟くとリーファに笑われた。
「呪力と呪術の異世界、ダーシャンへようこそ」
と、おどけるリーファに、空に浮かびながら2人で爆笑してしまった。
分からないことは笑い飛ばしておくしかない。引き離されないように、しっかりと手を握り合って、あとは遊覧飛行を楽しむように夜空を昇り続けた。
地面と雲の中間くらいまで昇ったとき、リーファが「そうだ!」と言った。
「佐藤さんが言ってたの。一度、地球に転生した私の魂は、マレビトとしての属性も持って異世界に帰るんじゃないかなって」
「なるほど」
「マレビトとマレビトの属性も持った私とで結ばれる霊縁は、思わぬ奇跡を起こすかもねって」
「これがそうってこと……?」
「分からないけど……、そうだったらスゴいね」
「そっか。スゴいな」
と、微笑み合った俺たちの身体は昇り続け、やがて上の方に、明るい光が見えてきて、俺たちの身体がそれに引き寄せられていることが分かった。
俺たちを包んでいた極彩色の光は眩しい光の中に溶け込み、その先に全身が青白く輝く一人の女性が見えた。
「四人目の四文字様かや?」
と、俺に問うた女性は、目を布のようなもので覆われ、肘掛けのある立派な椅子に座っている。
俺の頭に『マ・レ・ビ・ト』の四文字が浮かんだ。そして、俺は4人目だ。
「たぶん、そうです……。貴女は……?」
「妾は、天帝である」
リーファと顔を見合わせてしまったけど、違和感はない。なにしろ眩しいくらいに身体が光ってる。天帝は顔を上げ、鼻をスンスンするような仕草をした。
「隣の女子も四文字の匂いがするのう。其方と四文字様が結んだ霊縁の力が余って、妾のところまで昇ってきてくれたか……。それでは、あまり時間がないのう……」
天帝の両腕には沢山の鎖がかかっていて、カチャリと音がした。
「四人目の四文字様。どうか、神を殺してたもれ……」
「え?」
「700年前、一人目の四文字様を召喚した妾は、天に据えられ混沌としていた世の理を混沌としたまま預けられた。以来、訳も分からず森羅万象を巡らせてきた」
「訳も分からず、ですか……?」
と、リーファが聞いた。
「そうじゃ。この世はあまりにも混沌としておった。それを、四文字様が少しずつ解き明かしてくださり、解ったことだけでどうにか巡らせておる。しかし、700年もおればこの世界を創り賜うた神の意志も感じる。神は我らを終わらせようとしておる……」
――神は人間の滅びを望み賜うた。
アスマやラハマの口から語られた、リヴァントの教えが脳裏をよぎった。
「此度の危難は苦しかったのう。人間が殆どおらんようになった……」
目隠しされた天帝の顔が、天を仰いだ。
「神を殺してたもれ」
「どうすれば……?」
「すべての理を解き明かせば、神をも殺せよう」
天帝は両腕にかかった鎖を少し持ち上げて見せた。
「もうあと僅か……。四文字様よ。四文字様は四文字故に四人目で打ち止めであろう。神に愛されぬ我らを救ってたもれ。我が子らに二度と危難を味あわせることのないよう、神を殺してたもれ」
青白く輝く空間に、少し色味が差してきた。
「時間じゃのう……」
「あの……」
「なんじゃ?」
「どうして俺だったんでしょうか? どうして俺が選ばれたんでしょうか?」
天帝は寂しげな笑みを浮かべた。
「神に愛されぬ妾たちは愛に飢えておる。故に、本当に愛してくれる者を呼んでしまう。だが、前の四文字様には悪いことをした。生きておる人間は、愚か故……。それでも4つの理を解き明かしてくださった」
リーファが天帝に尋ねた。
「残った理は?」
「あと、22じゃ……」
と、天帝は両腕の鎖をカチャリと鳴らした。
極彩色の光が再び俺たちを包んで、天帝の姿は見えなくなり、俺たちはゆっくりと降下し始めた。
地上に戻って数日――。
俺はリーファに見送られて、アスマと2人、北に向かって旅に出た――。
いつも賑やかだった広い大浴場がとても静かで、経験したことのない照れ臭さに顔を赤くしてしまう。
チラッとリーファの豊かな胸の膨らみを見てしまう。
「み、皆んなと同じように、やってほしい……?」
と、泡立てた手拭いを手にしたリーファが、顔を真っ赤にして聞いてきた。
「う、ううん……」
「そう……?」
「そ、そういうのは……、ベッドの方がいい……、かな……?」
と、俺の言葉に2人でまた顔の赤みを増してしまった。
お互いに手拭いで背中を流し合い、湯船に浸かる。2人だと、やっぱり湯船が広いんだけど、ちょこんと並ぶ。
そして、寝室に戻って、お互いの肌の温もりをゆっくりと確認し合い、俺たちは結ばれた――。
リーファが小さく「あっ!」と、何かに気付いたような声を発すると、俺の視界に渦巻く輪のような紋様がいくつも見えた。
それは突然に、ハッキリと感知することが出来た。
――これが、呪力か。
紋様は相互に作用しながら蠢き、この世界の理が解った。それは分解したおもちゃの中身の歯車を見て「こうやって動いてるんだ!」と、理解していくような不思議な感覚だった。
紋様はリーファの周りも取り囲んでいて、やがて極彩色の光を放ち始めた。
光は俺たちの身体を浮かべ、天井もすり抜け、ゆっくりと夜空を昇っていく。手を握り合っているリーファの顔を見ると、自分にも分からないというように首を振った。
「超常現象・オブ・超常現象」
と、思わず呟くとリーファに笑われた。
「呪力と呪術の異世界、ダーシャンへようこそ」
と、おどけるリーファに、空に浮かびながら2人で爆笑してしまった。
分からないことは笑い飛ばしておくしかない。引き離されないように、しっかりと手を握り合って、あとは遊覧飛行を楽しむように夜空を昇り続けた。
地面と雲の中間くらいまで昇ったとき、リーファが「そうだ!」と言った。
「佐藤さんが言ってたの。一度、地球に転生した私の魂は、マレビトとしての属性も持って異世界に帰るんじゃないかなって」
「なるほど」
「マレビトとマレビトの属性も持った私とで結ばれる霊縁は、思わぬ奇跡を起こすかもねって」
「これがそうってこと……?」
「分からないけど……、そうだったらスゴいね」
「そっか。スゴいな」
と、微笑み合った俺たちの身体は昇り続け、やがて上の方に、明るい光が見えてきて、俺たちの身体がそれに引き寄せられていることが分かった。
俺たちを包んでいた極彩色の光は眩しい光の中に溶け込み、その先に全身が青白く輝く一人の女性が見えた。
「四人目の四文字様かや?」
と、俺に問うた女性は、目を布のようなもので覆われ、肘掛けのある立派な椅子に座っている。
俺の頭に『マ・レ・ビ・ト』の四文字が浮かんだ。そして、俺は4人目だ。
「たぶん、そうです……。貴女は……?」
「妾は、天帝である」
リーファと顔を見合わせてしまったけど、違和感はない。なにしろ眩しいくらいに身体が光ってる。天帝は顔を上げ、鼻をスンスンするような仕草をした。
「隣の女子も四文字の匂いがするのう。其方と四文字様が結んだ霊縁の力が余って、妾のところまで昇ってきてくれたか……。それでは、あまり時間がないのう……」
天帝の両腕には沢山の鎖がかかっていて、カチャリと音がした。
「四人目の四文字様。どうか、神を殺してたもれ……」
「え?」
「700年前、一人目の四文字様を召喚した妾は、天に据えられ混沌としていた世の理を混沌としたまま預けられた。以来、訳も分からず森羅万象を巡らせてきた」
「訳も分からず、ですか……?」
と、リーファが聞いた。
「そうじゃ。この世はあまりにも混沌としておった。それを、四文字様が少しずつ解き明かしてくださり、解ったことだけでどうにか巡らせておる。しかし、700年もおればこの世界を創り賜うた神の意志も感じる。神は我らを終わらせようとしておる……」
――神は人間の滅びを望み賜うた。
アスマやラハマの口から語られた、リヴァントの教えが脳裏をよぎった。
「此度の危難は苦しかったのう。人間が殆どおらんようになった……」
目隠しされた天帝の顔が、天を仰いだ。
「神を殺してたもれ」
「どうすれば……?」
「すべての理を解き明かせば、神をも殺せよう」
天帝は両腕にかかった鎖を少し持ち上げて見せた。
「もうあと僅か……。四文字様よ。四文字様は四文字故に四人目で打ち止めであろう。神に愛されぬ我らを救ってたもれ。我が子らに二度と危難を味あわせることのないよう、神を殺してたもれ」
青白く輝く空間に、少し色味が差してきた。
「時間じゃのう……」
「あの……」
「なんじゃ?」
「どうして俺だったんでしょうか? どうして俺が選ばれたんでしょうか?」
天帝は寂しげな笑みを浮かべた。
「神に愛されぬ妾たちは愛に飢えておる。故に、本当に愛してくれる者を呼んでしまう。だが、前の四文字様には悪いことをした。生きておる人間は、愚か故……。それでも4つの理を解き明かしてくださった」
リーファが天帝に尋ねた。
「残った理は?」
「あと、22じゃ……」
と、天帝は両腕の鎖をカチャリと鳴らした。
極彩色の光が再び俺たちを包んで、天帝の姿は見えなくなり、俺たちはゆっくりと降下し始めた。
地上に戻って数日――。
俺はリーファに見送られて、アスマと2人、北に向かって旅に出た――。
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