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231.里佳の事情⑧
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勇吾が私を正妃とし、側室を取ることに同意してくれた後、純潔の乙女たちと1人ずつ向き合った。
私の中には日本で育った18年の価値観と、ダーシャンで育った18年の価値観が混在している。里佳でもあり、リーファでもある。
勇吾が好きだ!! 独占したい!!!
という気持ちも、もちろんある。
だけど、私がマレビトを召喚しなかったら、この国はあのまま終わらせることも出来たのだ。生き残らせてしまった者たちへの責任も感じている。
「し、失礼いたします……」
と、最初に案内されて来たのは、ピンク色の髪をした狩人の女子。メイファンだった。
平伏しようとするメイファンを止め、手を取って微笑みを投げ掛ける。
「どうか、大浴場のときと同じようにして下さい」
「は、はい……」
と、1対1で向き合うと、まだまだ恐縮させてしまうのは、やむを得ない。メイファンのせいではない。
手を握らせてもらったまま、目を見てゆっくりと話しかける。
「え――っ!!!」
と、メイファンが喜びの声を上げてくれたのは、私が里佳であり勇吾の幼馴染であることを告げたときだ。
そして、お互いの気持ちを確認し合ったことを伝えると、目に涙を浮かべてくれた。
「良かった……。マレビト様、ホントに良かったね……」
と、すすり泣くメイファン。
このように純潔の乙女たちが勇吾のことを大切に想い、勇吾を助けてくれなければ、勇吾もまた人獣に喰われて終わっていたかもしれないのだ。
「私が言うのも変なんですけど、マレビト様のことをよろしくお願いしますね」
と、メイファンは私の手をキュッと握ってくれた。そして――、
「ホントにホントに、マレビト様は幼馴染さんのことが大好きで大好きで堪らないんです!!!」
と、私に勇吾のことを頼んでくるメイファンに、感謝の気持ちしか湧いてこないのだ。
「これまで、マレビト様をよくぞ支えて下さいました。メイファンが長弓で助け、大浴場で癒してくださらなければ、今日の平穏はありませんでした」
「いや、そんなあ」
と、頬を赤くして照れ笑いするメイファンのことが可愛くて仕方ない。いや、生き残ったジーウォの住民の誰もが愛おしい。
メイファンの手をギュッと強く握り返した。
「メイファンがお嫌でなければ、これからはマレビト様、ジーウォ公を側室として支えていただけませんか?」
「えっ……?」
「マレビト様にもご了承いただいておりますし、正妃となる私もそれを望んでおります」
「でも……」
「どうか遠慮することなく、なんでも仰って下さい」
「私、平民ですし……。公の側室なんて……、そんな……」
「メイファンはマレビト様がお嫌い?」
「そんなこと! ……ないです」
私がにっこりと微笑んで見詰めると、メイファンは頬を赤くして目線を下げる。
「…………好き……です」
「ね。それなら、遠慮することはありません。マレビト様を支えてこられたメイファンには、身分など関係なくその資格は充分にあります」
「ほんとに……、いいんですか……?」
「はい。それに、その方がマレビト様が建国されたジーウォ公国らしいと思いませんか?」
「…………夢みたい」
と、目には涙が込み上げ小さく嗚咽を漏らしたメイファンを、そっと抱き寄せた。
「これからは、私もメイファンと一緒にマレビト様のことを支えさせてくださいね」
私の言葉に、わんわん泣き出したメイファンの背をさすり、私も貰い泣きしてしまう。
◇
今のジーウォ城は皆、忙しい。
都合の付いた者から順に私の部屋に案内されてくる。その一人ひとりの手を取って語らい、涙し、抱き合う。
――分かりました。
――ありがとうございます。
――側室になるのだ!
――お願い致します。
皆、私の申し出に即断即決していく。
勇吾への愛の深さだけではなく、そうしなければ、あの人獣の災禍の中を生き残れなかったのだ。過酷な日々が身に付けさせた所作に、また感謝の気持ちが湧き上がる。
もちろん、勇吾に身体を捧げることが不本意だった娘もいる。
世間体や親の命令で不承不承、あの大浴場に参じていたのだ。雰囲気に合わせてキャッキャとしながらも、目立たないよう 息を潜めてやり過ごしてきたのだ。
そういう娘たちには、既にシキタリを果たしたと宣言してあげた。
毎日一緒に入浴し、キャッキャと楽しげな雰囲気をつくってくれただけでも、どれだけ勇吾の張り詰めた心を癒やしてくれたことだろう。
シキタリの守護者たる王族の私から許されたとあれば、これからは大手を振って自分の人生を自由に生きられるだろう。彼女たちの幸せを祈らずにはいられない。
最後になったシアユンは、全身を真っ赤にして固まってしまった。
――こんな可愛いところもあったんだ。
「これからも仲良くしてね」
と、抱き締めると、そっと抱き締め返してくれた。
私の知るダーシャンに住民をすべて集めて布告するような文化や制度はない。けれど、ジーウォの住民は23人の花嫁が並ぶ私たちの結婚を温かく祝ってくれた。
思わず皆んなに手を振ると、振り返してくれる。
私も勇吾がつくったジーウォ公国の一員になれたようで、胸がいっぱいになった。
私の身体は2つある――。
世界の理を超えてマレビトを召喚した代償だ。今はまだ、どちらの世界に2人の未来を見付けたらいいのか分からない。そんな未来があるのかも分からない。
ただ、今はこの身に受ける祝福を、素直に喜んでいたい。
「ニシシ! 初夜くらい2人でお風呂に入ればいいのだ!」
って、シーシに言われて勇吾と2人、顔を真っ赤にしてしまった。
広い大浴場で背中を流し合い、そして、寝室に戻り、結ばれた――。
――あっ! 子どもが出来た。
と、分かった。この世界では女性が望めば自由に妊娠出来る。なんて簡単で便利な身体! あえて言うけど雑な世界!
勇吾が祖霊と霊縁で結ばれたことが分かり、膨大な呪力が駆け巡る。その呪力が私をも包み込んでいく。
――えっ? 私にも?
と、驚いていると、私たちを包む呪力が極彩色の光を放ち始めた。
その極彩色の光に護られるように、ゆっくりと私たちの身体が浮かび、天井もすり抜け、夜空を昇り始めた――。
私の中には日本で育った18年の価値観と、ダーシャンで育った18年の価値観が混在している。里佳でもあり、リーファでもある。
勇吾が好きだ!! 独占したい!!!
という気持ちも、もちろんある。
だけど、私がマレビトを召喚しなかったら、この国はあのまま終わらせることも出来たのだ。生き残らせてしまった者たちへの責任も感じている。
「し、失礼いたします……」
と、最初に案内されて来たのは、ピンク色の髪をした狩人の女子。メイファンだった。
平伏しようとするメイファンを止め、手を取って微笑みを投げ掛ける。
「どうか、大浴場のときと同じようにして下さい」
「は、はい……」
と、1対1で向き合うと、まだまだ恐縮させてしまうのは、やむを得ない。メイファンのせいではない。
手を握らせてもらったまま、目を見てゆっくりと話しかける。
「え――っ!!!」
と、メイファンが喜びの声を上げてくれたのは、私が里佳であり勇吾の幼馴染であることを告げたときだ。
そして、お互いの気持ちを確認し合ったことを伝えると、目に涙を浮かべてくれた。
「良かった……。マレビト様、ホントに良かったね……」
と、すすり泣くメイファン。
このように純潔の乙女たちが勇吾のことを大切に想い、勇吾を助けてくれなければ、勇吾もまた人獣に喰われて終わっていたかもしれないのだ。
「私が言うのも変なんですけど、マレビト様のことをよろしくお願いしますね」
と、メイファンは私の手をキュッと握ってくれた。そして――、
「ホントにホントに、マレビト様は幼馴染さんのことが大好きで大好きで堪らないんです!!!」
と、私に勇吾のことを頼んでくるメイファンに、感謝の気持ちしか湧いてこないのだ。
「これまで、マレビト様をよくぞ支えて下さいました。メイファンが長弓で助け、大浴場で癒してくださらなければ、今日の平穏はありませんでした」
「いや、そんなあ」
と、頬を赤くして照れ笑いするメイファンのことが可愛くて仕方ない。いや、生き残ったジーウォの住民の誰もが愛おしい。
メイファンの手をギュッと強く握り返した。
「メイファンがお嫌でなければ、これからはマレビト様、ジーウォ公を側室として支えていただけませんか?」
「えっ……?」
「マレビト様にもご了承いただいておりますし、正妃となる私もそれを望んでおります」
「でも……」
「どうか遠慮することなく、なんでも仰って下さい」
「私、平民ですし……。公の側室なんて……、そんな……」
「メイファンはマレビト様がお嫌い?」
「そんなこと! ……ないです」
私がにっこりと微笑んで見詰めると、メイファンは頬を赤くして目線を下げる。
「…………好き……です」
「ね。それなら、遠慮することはありません。マレビト様を支えてこられたメイファンには、身分など関係なくその資格は充分にあります」
「ほんとに……、いいんですか……?」
「はい。それに、その方がマレビト様が建国されたジーウォ公国らしいと思いませんか?」
「…………夢みたい」
と、目には涙が込み上げ小さく嗚咽を漏らしたメイファンを、そっと抱き寄せた。
「これからは、私もメイファンと一緒にマレビト様のことを支えさせてくださいね」
私の言葉に、わんわん泣き出したメイファンの背をさすり、私も貰い泣きしてしまう。
◇
今のジーウォ城は皆、忙しい。
都合の付いた者から順に私の部屋に案内されてくる。その一人ひとりの手を取って語らい、涙し、抱き合う。
――分かりました。
――ありがとうございます。
――側室になるのだ!
――お願い致します。
皆、私の申し出に即断即決していく。
勇吾への愛の深さだけではなく、そうしなければ、あの人獣の災禍の中を生き残れなかったのだ。過酷な日々が身に付けさせた所作に、また感謝の気持ちが湧き上がる。
もちろん、勇吾に身体を捧げることが不本意だった娘もいる。
世間体や親の命令で不承不承、あの大浴場に参じていたのだ。雰囲気に合わせてキャッキャとしながらも、目立たないよう 息を潜めてやり過ごしてきたのだ。
そういう娘たちには、既にシキタリを果たしたと宣言してあげた。
毎日一緒に入浴し、キャッキャと楽しげな雰囲気をつくってくれただけでも、どれだけ勇吾の張り詰めた心を癒やしてくれたことだろう。
シキタリの守護者たる王族の私から許されたとあれば、これからは大手を振って自分の人生を自由に生きられるだろう。彼女たちの幸せを祈らずにはいられない。
最後になったシアユンは、全身を真っ赤にして固まってしまった。
――こんな可愛いところもあったんだ。
「これからも仲良くしてね」
と、抱き締めると、そっと抱き締め返してくれた。
私の知るダーシャンに住民をすべて集めて布告するような文化や制度はない。けれど、ジーウォの住民は23人の花嫁が並ぶ私たちの結婚を温かく祝ってくれた。
思わず皆んなに手を振ると、振り返してくれる。
私も勇吾がつくったジーウォ公国の一員になれたようで、胸がいっぱいになった。
私の身体は2つある――。
世界の理を超えてマレビトを召喚した代償だ。今はまだ、どちらの世界に2人の未来を見付けたらいいのか分からない。そんな未来があるのかも分からない。
ただ、今はこの身に受ける祝福を、素直に喜んでいたい。
「ニシシ! 初夜くらい2人でお風呂に入ればいいのだ!」
って、シーシに言われて勇吾と2人、顔を真っ赤にしてしまった。
広い大浴場で背中を流し合い、そして、寝室に戻り、結ばれた――。
――あっ! 子どもが出来た。
と、分かった。この世界では女性が望めば自由に妊娠出来る。なんて簡単で便利な身体! あえて言うけど雑な世界!
勇吾が祖霊と霊縁で結ばれたことが分かり、膨大な呪力が駆け巡る。その呪力が私をも包み込んでいく。
――えっ? 私にも?
と、驚いていると、私たちを包む呪力が極彩色の光を放ち始めた。
その極彩色の光に護られるように、ゆっくりと私たちの身体が浮かび、天井もすり抜け、夜空を昇り始めた――。
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