上 下
229 / 297

226.里佳の事情⑦

しおりを挟む
勇吾との7回目の交信をえて、私は病室のベッドにしずめた。

初代マレビト、佐藤さんの経営する病院は、こじんまりしているけど、清掃せいそうが行き届いていて気持ちがいい。

「困ったことがあれば、いつでもおいで。一応、ボクの子孫しそんわけだしね」

と、言ってくれた佐藤さんに甘えて入院させてもらった。

その笑顔はとってもキュートで、リーファの遠い祖先が変態色魔ではなく、品のある素敵な中年紳士おじさまであったことに、妙な安心感を覚えていた。

勇吾はこれから3代マレビトをさがす冒険の旅に出てくれる。リーファの眠りを覚ますために危険をおかす彼氏だなんて、お姫様気分だ。

実際、お姫様なんだけど。

翌日は勇吾の言った通り、交信がなかった。急に不安で一杯いっぱいになったけど、佐藤さんが仕事の合間あいまに話し相手になってくれた。

「ダーシャンと地球こっちでは、自然しぜん法則ほうそくがまったく違うんだ」

「へえ……」

「数学、苦手じゃなかった?」

「苦手でした!!!」

物事ものごと認識にんしきするのに、ダーシャンの回路かいろが残ってるんだと思うなあ、たぶん」

なんということだ。あの苦労は異世界生まれのせいだったのか……。

「たぶん、遺伝子いでんしの数も違ってたんじゃないかって思うんだ。向こうには機器きき試液しやくもないから確かめようがないんだけど」

佐藤さんは地球に帰ってからも、色々と考え続けていたそうだ。

「それだけ刺激的しげきてきな14年だったからね」

と、なつかしむ目をした。

リーファが勇吾を召喚した呪術じゅじゅつがどう働いていたかの推論すいろんにも付き合ってくれた。

「考えられるのは2つだね」

「2つですか」

「ひとつは、対象のマレビトが生まれた時点まで時間をさかのぼって、近くに生まれた。だから、彼氏さんが召喚された時点で相互そうごの時間が動き始めた」

「なるほど」

「もう一つは、実際に召喚されるまで、時間の流れが止まっていた。虚数きょすう時間みたいなものかな?」

「虚数時間かぁ……」

数学は苦手なのです……。受験に間に合わせるので精一杯で……。

「でも、ボクは時間をさかのぼったって考える方が好きかな。ロマンチックで」

「え?」

「里佳さんのたましいがこっちに飛んでくるでしょ?」

「あ、はい」

「それからマレビトを見付けて、一目ひとめれするんだ」

「えぇ――?」

「それで、幼い頃から見守ろうって決めて時間をさかのぼるんだ。ビューン! って。……ロマンチックじゃない?」

「ふふっ。ほんとですね。SFみたい」

佐藤さんは私の緊張や不安をほぐすように、雑談に付き合ってくれた。

それに、理系でお医者さんでもある佐藤さんの異世界ダーシャンへの考察こうさつ興味きょうみぶかく、勇吾からの交信がない1日のさみしさと不安をめてくれた。

さらに翌日の晩。手鏡てかがみが光り始めて、勇吾からの交信がとどいた。

「3代マレビトを連れて帰れたよ」

と、おだやかな表情で伝えてくれた。

「ちょうど今日、ジーウォに帰り着けたんだ」

「そう……」

私に会いたい一心で、56日におよぶ大変な旅をしてくれたんだと思う。胸がまった。

「この交信が終わったら、スグにリーファ姫の目を覚ましてもらうけど……」

「分かった」

「それでいい?」

「うん。嬉しい」

「あの……、異世界こっちの1時間って、地球そっちでは2分くらいだから、ほんとにスグになるけど……」

「あ、そか」

下手へたしたら数秒ってことになると思うんだけど、せっかく交信できたし、なにか準備あるなら待つけど?」

「えっと、そだね。佐藤さんにだけメールしときたいから5分ほしい」

「分かった、合わせるよ」

「待たせて、ごめんね」

「ごめんは、もういいよ」

と、勇吾は笑った。

それから交信が途切とぎれるまで、勇吾の旅の話を聞いたけど、2人ともうわの空だった。なにしろ、間もなく実際に会えるのだ。

「じゃあ、また後で」

「うん……。また、後で」

と、交信を終えた。

そして、私は佐藤さんに「いってきます」とメールを打ち、ベッドに横になった。

……5分は、長かったな。

ドキドキしたまま病室の天井てんじょうを見上げてその時を待ち、ちょっと不安になったころ、白い光につつまれていった。

やがて光がおさまっていき、真っ暗な部屋で目を開けると勇吾の気配がした。

「里佳?」

と、私の顔をのぞき込む、勇吾の影。

私は寝台しんだいから飛び起きて、勇吾にき着いた。

「勇吾……」

勇吾は私を優しく抱きめ、そっと頭をでてくれた。

「おはよう」

勇吾の言葉に涙があふれて来て、私も強く抱き締め返した。

「ふふっ。おはよう」

こうして、私ことダーシャン王国第4王女リーファ姫はジーウォ城に帰還きかんたした。

マレビト召喚から261日目の、まん丸に満ちた満月が照らす、明るい夜のことだった――。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

男女貞操逆転世界で、自己肯定感低めのお人好し男が、自分も周りも幸せにするお話

カムラ
ファンタジー
※下の方に感想を送る際の注意事項などがございます! お気に入り登録は積極的にしていただけると嬉しいです! ーーーーーーーーーーーーーーーーーー あらすじ    学生時代、冤罪によってセクハラの罪を着せられ、肩身の狭い人生を送ってきた30歳の男、大野真人(おおのまさと)。  ある日仕事を終え、1人暮らしのアパートに戻り眠りについた。  そこで不思議な夢を見たと思ったら、目を覚ますと全く知らない場所だった。  混乱していると部屋の扉が開き、そこには目を見張るほどの美女がいて…!?  これは自己肯定感が低いお人好し男が、転生した男女貞操逆転世界で幸せになるお話。 ※本番はまぁまぁ先ですが、#6くらいから結構Hな描写が増えます。 割とガッツリ性描写は書いてますので、苦手な方は気をつけて! ♡つきの話は性描写ありです! ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 誤字報告、明らかな矛盾点、良かったよ!、続きが気になる! みたいな感想は大歓迎です! どんどん送ってください! 逆に、否定的な感想は書かないようにお願いします。 受け取り手によって変わりそうな箇所などは報告しなくて大丈夫です!(言い回しとか、言葉の意味の違いとか) 作者のモチベを上げてくれるような感想お待ちしております!

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています

もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。 使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...