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221.聖堂の騎士
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ジーウォの冬は寒かった。
北の辺境を守る城なだけはある。シーシが融雪装置を作ってくれて、城内に積もる雪は少なかったけど、第3城壁から見晴らす景色は一面の銀世界だ。
融雪装置とクゥアイたち農民の皆さんの奮闘で、余裕はないけど食糧の心配はなくなった。
「う、うーむ……。待った」
「待ったは使い切ってますよ?」
「そ、そうでしたか……。うーむ」
フェイロンさんに将棋を教えたら、どハマりした。人獣たちとの闘いを経て、戦略や戦術の存在に気が付いた心にブッ刺さったみたいだ。
雪に閉ざされた城内で出来ることは少ない。剣士団でも静かなブームになっている。
兵士団は「屯田兵」に移行した。定期的に訓練だけは続けているけど、基本的には元の生活に戻りつつある。
「やはり、実際にお目覚めになるまでは伏せておくべきでしょう」
と、シアユンさんたち侍女3人の助言で、里佳との交信や、リーファ姫を目覚めさせるための動きは伏せている。
「私もですが、やはり根底には身分意識があります。その頂点に位置されるリーファ姫にまつわる事は、余計な刺激となってしまうやもしれません」
「城が一丸となってる今の雰囲気が壊れてしまうかも? ってことですか?」
「そうです。大夫や宮城勤めの役人たち。そういった者が、たとえば『復権の好機』などと考えるやもしれません」
「それは困りますね」
「実際にお目覚めになれば、リーファ姫ご自身のお言葉で鎮めることも出来ましょう。それまでは……」
という訳で、大浴場イベントも続いている。やむを得ないことだ。
老師は元いた山奥に帰ってしまった。
冬だし、せめて春までの逗留を強く勧めたんだけど「宮仕えは疲れました」と言い、『探知の呪符』を2枚残してくれた。
3代マレビトの所在を示す1枚と、もう1枚は老師自身の所在を示す。
「老い先短い身ですが、困りごとがありましたら、いつでも訪ねて来てくだされ」
と、笑われては、それ以上に引き止めることは出来なかった。
そして、地球の暦なら2月頃にあたる冬本番に、6回目の交信を迎えた。
「スゴい! 推戴されたんだ!」
遅ればせながらジーウォ公に即位したことを伝えると、里佳は手放しに喜んでくれた。
3代マレビト探しは春待ちだし、ようやく喫緊の課題のない状態で里佳と『積もる話』が出来てる。
といっても限られた僅かな時間のことだ。大浴場の話をしている時間なんかない。やむを得ないことだ。
付き合いたてのイチャイチャ会話を楽しんで、6回目の交信を終えた。
それからしばらくして、元リヴァント聖堂王国の皆さんから招待を受けた。
「アスマ、ナフィーサ、それに皆さん。お招きありがとうございます」
「いや、こちらこそ、重臣一同の皆様にお運びいだだき感謝する」
第2城壁の北側に、小さいけどアスマたちの神様の聖堂を作った。信仰を取り上げるつもりはないという約束を果たせて良かった。
さすがに祖霊廟もある最終城壁内という訳にはいかなかったけど、故地リヴァントの方角に建ててもらった。
その落成の祝いに重臣10名と一緒にお邪魔したのだ。
「ニシシ。いい出来でしょ?」
と、『褒めて顔』をしてくるシーシの力作だ。
「いやあ、まったく考え方や美学の違う建物を作るのは楽しかったのだ」
「さすがはシーシ殿であった。まさか、ここまでリヴァント様式を再現してくださるとは……。いや、心から感服した」
と、アスマも感激している。
俺にそっと近寄って来たラハマは、目を潤ませていた。
「我が主よ。我は聖堂の騎士と名乗っても良いのだろうか……?」
「もちろん! あの闘いの最中、ラハマとアスマは躊躇せず人獣の群れの中に飛び込んで、ジンリーを救けてくれた」
「うむ。そんなこともあったな」
「自分の命を顧みずジンリーを救った高潔な『聖堂騎士』の行いは、皆んなの心を打った」
「そうか……」
「聖堂騎士はジーウォでは尊敬の対象だよ。胸を張って名乗るといいよ」
「……その名に恥じぬよう、精進しよう。感謝する」
フェイロンさんたちも、涙ぐむラハマを温かい視線で見守っていた。
そして、マリームの「聖職者は懲り懲りでございます!」の一言で、住民みんなで管理することも決まった。ちなみにマリームの言葉に元リヴァントの生き残り全員が爆笑してたので、よっぽどだったんだろう。
危機を乗り越え、平穏を取り戻していく中で、これからも皆んなが仲良くやっていけそうな光景に、ホッとしていた。
そして、やや寒さが緩んで来た頃、剣士団に戻っていたイーリンさんを呼び出した。
いよいよ3代マレビト探索の準備に着手した――。
北の辺境を守る城なだけはある。シーシが融雪装置を作ってくれて、城内に積もる雪は少なかったけど、第3城壁から見晴らす景色は一面の銀世界だ。
融雪装置とクゥアイたち農民の皆さんの奮闘で、余裕はないけど食糧の心配はなくなった。
「う、うーむ……。待った」
「待ったは使い切ってますよ?」
「そ、そうでしたか……。うーむ」
フェイロンさんに将棋を教えたら、どハマりした。人獣たちとの闘いを経て、戦略や戦術の存在に気が付いた心にブッ刺さったみたいだ。
雪に閉ざされた城内で出来ることは少ない。剣士団でも静かなブームになっている。
兵士団は「屯田兵」に移行した。定期的に訓練だけは続けているけど、基本的には元の生活に戻りつつある。
「やはり、実際にお目覚めになるまでは伏せておくべきでしょう」
と、シアユンさんたち侍女3人の助言で、里佳との交信や、リーファ姫を目覚めさせるための動きは伏せている。
「私もですが、やはり根底には身分意識があります。その頂点に位置されるリーファ姫にまつわる事は、余計な刺激となってしまうやもしれません」
「城が一丸となってる今の雰囲気が壊れてしまうかも? ってことですか?」
「そうです。大夫や宮城勤めの役人たち。そういった者が、たとえば『復権の好機』などと考えるやもしれません」
「それは困りますね」
「実際にお目覚めになれば、リーファ姫ご自身のお言葉で鎮めることも出来ましょう。それまでは……」
という訳で、大浴場イベントも続いている。やむを得ないことだ。
老師は元いた山奥に帰ってしまった。
冬だし、せめて春までの逗留を強く勧めたんだけど「宮仕えは疲れました」と言い、『探知の呪符』を2枚残してくれた。
3代マレビトの所在を示す1枚と、もう1枚は老師自身の所在を示す。
「老い先短い身ですが、困りごとがありましたら、いつでも訪ねて来てくだされ」
と、笑われては、それ以上に引き止めることは出来なかった。
そして、地球の暦なら2月頃にあたる冬本番に、6回目の交信を迎えた。
「スゴい! 推戴されたんだ!」
遅ればせながらジーウォ公に即位したことを伝えると、里佳は手放しに喜んでくれた。
3代マレビト探しは春待ちだし、ようやく喫緊の課題のない状態で里佳と『積もる話』が出来てる。
といっても限られた僅かな時間のことだ。大浴場の話をしている時間なんかない。やむを得ないことだ。
付き合いたてのイチャイチャ会話を楽しんで、6回目の交信を終えた。
それからしばらくして、元リヴァント聖堂王国の皆さんから招待を受けた。
「アスマ、ナフィーサ、それに皆さん。お招きありがとうございます」
「いや、こちらこそ、重臣一同の皆様にお運びいだだき感謝する」
第2城壁の北側に、小さいけどアスマたちの神様の聖堂を作った。信仰を取り上げるつもりはないという約束を果たせて良かった。
さすがに祖霊廟もある最終城壁内という訳にはいかなかったけど、故地リヴァントの方角に建ててもらった。
その落成の祝いに重臣10名と一緒にお邪魔したのだ。
「ニシシ。いい出来でしょ?」
と、『褒めて顔』をしてくるシーシの力作だ。
「いやあ、まったく考え方や美学の違う建物を作るのは楽しかったのだ」
「さすがはシーシ殿であった。まさか、ここまでリヴァント様式を再現してくださるとは……。いや、心から感服した」
と、アスマも感激している。
俺にそっと近寄って来たラハマは、目を潤ませていた。
「我が主よ。我は聖堂の騎士と名乗っても良いのだろうか……?」
「もちろん! あの闘いの最中、ラハマとアスマは躊躇せず人獣の群れの中に飛び込んで、ジンリーを救けてくれた」
「うむ。そんなこともあったな」
「自分の命を顧みずジンリーを救った高潔な『聖堂騎士』の行いは、皆んなの心を打った」
「そうか……」
「聖堂騎士はジーウォでは尊敬の対象だよ。胸を張って名乗るといいよ」
「……その名に恥じぬよう、精進しよう。感謝する」
フェイロンさんたちも、涙ぐむラハマを温かい視線で見守っていた。
そして、マリームの「聖職者は懲り懲りでございます!」の一言で、住民みんなで管理することも決まった。ちなみにマリームの言葉に元リヴァントの生き残り全員が爆笑してたので、よっぽどだったんだろう。
危機を乗り越え、平穏を取り戻していく中で、これからも皆んなが仲良くやっていけそうな光景に、ホッとしていた。
そして、やや寒さが緩んで来た頃、剣士団に戻っていたイーリンさんを呼び出した。
いよいよ3代マレビト探索の準備に着手した――。
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