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219.帰還の方法

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「だから……、純潔じゅんけつ乙女おとめと……」

と、里佳が複雑な表情で言った。

「いや、でも……」

「マレビトが呪力じゅりょく発現はつげんすれば、天帝てんていに働きかけられるんだって」

「うん……」

4回目の交信。初代マレビトと遭遇そうぐうしたという里佳は、純潔じゅんけつ乙女おとめと子供をつくり呪力じゅりょくを発現させることを「お願い」してきた。

いや、でも……。せっかくと言うか、せっかく、ここまでせずに、人獣じんじゅう退しりぞけてきたのに……。

それをとうの里佳からすすめられたことに、激しく戸惑とまどってしまった。

「そしたら勇吾は戻れるだろうって、佐藤さんが」

初代マレビトは佐藤さんっていうのか。急に親近感しんきんかんくな。

「老師が見付かれば、発現した呪力じゅりょく制御せいぎょ手解てほどきしてもらえると思うんだけど……」

「まだ、探しに行けてないんだ」

「そっか……」

気まずい沈黙ちんもくが流れた。

俺の主観しゅかんでは『お付き合い』を始めてまだ3ヶ月。里佳にすると4日目。ほかの女子とするって話は、お互いなんとも気まずい。

「いや……」

と、俺が沈黙を破ると、里佳も俺の方を見詰めた。

「でも、俺が本当に望んでないと、呪力じゅりょくは発現しないんだよね?」

「あ。それはそうだけど……」

「今、そんな気にはなれないよ。里佳がいいんだもん」

「バカ……」

と、里佳がほほを赤らめた。

「今の俺がそうしても、ただの浮気になっちゃうでしょ?」

「うーん……」

「しかも、したくもないのにするって、かなり鬼畜きちくじゃない?」

「でも、勇吾が帰れなくなっちゃう……」

「別の方法がないか、考えよう」

「別の方法って?」

「今は分からないけど、きっと何かあるよ! そうだ。まずは老師さんを探してみるよ。相談したら、なにかいいアイデアを持ってるかもしれない」

「うーん……」

「もう!」

と、子どものようにねて見せた。

「なによ?」

「せっかく付き合えたんだから、もうちょっとイチャイチャさせてよ!」

「ふふっ。ホントだ。私もイチャイチャしたい」

2人で笑い合って、くだらない話題をさがした。高校生活の思い出、中学の頃、小学生の頃、赤ん坊の頃。俺と里佳の間で思い出話を始めたら話題には事欠ことかかない。

そして、交信の時間が終わろうとしたとき、あることに気が付いた。

「里佳がリーファ姫の身体からだに戻れたらいいんじゃない?」

「えっ?」

「リ、リーファ姫って……、純潔じゅんけつですよね……?」

「あ……、はい……。そうです……」

「俺の純潔はじめては……、里佳が……、いいです……」

「あ、うん……。ありがと……」

「だから、里佳をこっちに呼び戻す方法を老師に相談するので、どう?」

「なるほど……、いいかも……」

「冬が本格的になる前に、老師を探し出すよ!」

「そうね。ジーウォはかなり雪深くなるから、早めに出発した方がいいかも」

「分かった!」

というところで、4回目の交信は途絶とだえた。

「好きだよ」

と、真っ暗な寝室で眠るリーファ姫に話しかけた。

翌朝、すぐにアスマに相談した。

「うむ。我らは雪でも冬でも大丈夫だ。なにせ北の蛮族だからな」

と、笑ってくれた。

重臣じゅうしん会同かいどう招集しょうしゅうし、俺を含む老師ろうし探索たんさくたいを組織することを宣言して準備にかかった。

防寒具ぼうかんぐや武器、それに馬を用意してもらい、2日後には東に向けて出発した。

リーファ姫と交信出来ていることは侍女3人以外にはせたままだったので、老師の呪術じゅじゅつがあれば復興ふっこうに役立つという名目めいもくを立てた。それに、んなに約束した『王都の救援きゅうえん』もたさなければならない。もちろん、ほとんどんなあきらめている。口にする人もいない。けれど、王都の状態を確認に行くくらいはしないといけない。

老師探索隊は俺とアスマ、ラハマ、メイファン、ミンユーの馬に乗れる5人になった。

マリームも行きたがったけど、はぐれ人獣じんじゅう遭遇そうぐうする可能性もある。戦闘になったときのことを考えて、ジーウォ城に残るようアスマが説得した。

ほほを切るような冷たい風を受けながら、5騎で駆けて行く。

遠駆とおがけはいいな!」

と、アスマが嬉しそうに笑った――。
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