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218.生存者の来訪

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戦勝せんしょううたげを開いた――。

里佳と3回目の交信が出来た数日後、城外に残っていた人獣じんじゅう掃討そうとうを終えた日のことだった。

んなで泣いて笑って、大騒おおさわぎをした。

あの不味まずくてたまらなかったヤガタいもだけど、発酵はっこうさせると美味うまい酒がつくれることが分かった。ヤガタいも焼酎じょうちゅうで、んな上機嫌に酔っぱらって一晩中、盛り上がった。

それからしばらくして、城門にひとりの女性が現われた。

「ナフィーサ!!!」

と、さけんだアスマがって、女性を強くめた。

リヴァント聖堂王国の傀儡かいらい女王にえられていたはずのアスマの妹だった。

寒風かんぷうきすさぶ中、ナフィーサはあられもない下着姿で、それは降伏こうふくしるしだった。やはり人獣じんじゅうおそわれたリヴァント聖堂王国は壊滅かいめつしていて、ナフィーサはわずかに脱出できた国民12人とあてもなく放浪ほうろうしていた。

「ジーウォ公……。どうか、我らをおすくいください……」

と、ナフィーサは平伏して身をふるわせている。

俺は肌のあらわな背中に上着をかけ、ナフィーサの手を取った。

「よく生きてたどり着かれました。お姉さんのアスマには大変にお世話になりました。俺たちが生き残れたのはアスマのおかげでもあります」

ナフィーサの横で一緒に平伏していたアスマも顔を上げた。

「我があるじ……」

「もちろん歓迎かんげいします。せっかく生き残れたんです。一緒に今後のことを考えてください」

近くの森でいきひそめていた12人もまねき入れ、温かいかゆを振る舞った。

アスマ、ラハマ、マリームの活躍もあって、ジーウォ城のんなから北の蛮族への偏見へんけんは消えていた。それに城内には人手が足りない。のがれて来れたのは子供や老人ばかりだったけど、温かく迎え入れることが出来た。

そして、ナフィーサの口から語られた城外の様子は悲惨ひさんそのものだった。

「途中、見かけた村や街はどこも、人の気配がしませんでした……」

冬に向かう北の僻地へきちから寒さをのがれて、南下する中で人間を見かけることはなかったという。

また、ナフィーサの話では、ある時、不意ふい人獣じんじゅうたちが南に向かって去って行ったという。それは、きっとジーウォに向かったに違いない。

あらかた人間をくした人獣じんじゅうが、より人の多いジーウォに集まった。

それはつまり、この世界で生き残っている人間は、ジーウォの約1200人だけなんじゃないかと想像させ、ひどく気が滅入めいるものだった。

「確かに老師は東にいらっしゃるはずですが……」

と、シアユンさんは言いよどんだ。ナフィーサたちのもたらした城外の情報は、想像を暗い方にかたむけさせる。

「けど、ナフィーサたちはジーウォまで辿たどり着くことが出来ました」

「それもそうですね」

「リーファ姫の師匠ししょうなら人獣じんじゅうたちを退しりぞけているかもしれません」

「確かに、マレビト様のおっしゃる通りです。希望は持ち続けましょう」

シアユンさんが、ふふっと小さく笑った。

「ダメですね。希望を持ち続けることの大切さを、あれだけマレビト様から教わったというのに。これからも私たちをみちびいてくださいね」

老師の捜索そうさくにも出たかったけど、城の冬支度ふゆじたくも急がれた。それにまだ、時々だけど『はぐれ人獣じんじゅう』とでも呼ぶべき人獣じんじゅうもウロついていた。

「ニシシ! これでどうだ!」

と、シーシが外城壁上の回廊かいろうに、かえった金属の板を付けてくれた。

ジーウォ城はピカピカの金属におおわれた要塞ようさいし、夜間に凶暴化きょうぼうかして現れるはぐれ人獣じんじゅうも登ってこれなくなった。

すっかり金属加工の楽しさに目覚めたシーシのお陰で、俺たちは、ようやく夜にグッスリ寝ることが出来るようになった。そして――。

――あっ。こうなりますか。

夜の就寝しゅうしん前に時間を移した大浴場ハーレム風呂に、褐色かっしょくの肌をあらわにナフィーサが現われた。

「ナフィーサも純潔じゅんけつゆえ……」

と、アスマが連れて来た。

人獣じんじゅう退しりぞけ、俺的にはちょっぴり意味を見失みうしなっていた大浴場ハーレム風呂だけど、終了を言い出すタイミングも見失ってる。まだまだ、人心じんしんの安定を図らねばならぬし。決して楽しみにしているから続いているわけではない。

純潔じゅんけつ乙女おとめがジーウォ公に身体からだささげるのは、ダーシャンが大切にしてきたシキタリとうかがいました……」

と、ナフィーサがほほを赤らめると、女子たちがんな満足気まんぞくげにうんうんうなずいている。

この雰囲気ではめるにめられない……、よね? これは、やむをないことなのです。

しかし、ナフィーサ……、デカ!!! ユエといい勝負……。

騎士ではないというナフィーサの体付きは、腰はシュッとスリムだけど、アスマに比べるとふわふわで、感触もやわやわだった……。

そんなこんなで、召喚されてから100日以上が経過けいかして、初めておだやかな日々を過ごしている。もちろんまだまだ食糧はメイファンたちの狩猟しゅりょうだのみのカツカツだし、安穏あんのんらせてるわけではない。

それでも、アスマやラハマから馬の乗り方を習ったり、ミンユーから弓の使い方を習ったり、楽しい時間を過ごせている。

そして、召喚から121日目。ウキウキと迎えた、里佳と4回目の交信が出来る夜。

里佳の口から出た「お願い」に、俺は言葉を失った――。
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