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203.回廊決戦!(3)

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中天まうえを過ぎる頃、回廊かいろうが第2城壁の城門に到達した。

やりぶすまを作る外征がいせい隊が、城門の中と回廊かいろう両脇りょうわきとに分断ぶんだんされる、一番危険なタイミングが来た。

城門の中はアスマやイーリンさんたちが守り、回廊かいろうの両脇には剣士団が突入とつにゅうしていく。

望楼ぼうろうに戻った俺は、手すりを強く握りめて見守る。

回廊かいろうよりはばの広い城門を、厚い板でふさいでいく。職人も回廊かいろうの壁に守られない位置で作業せざるをない。

シーシの姿が見えた。

小さなシーシよりはるかに高い城門が、みるみるうちにふさがれていく。

あの獰猛どうもう人獣じんじゅううなりり声や、剣とつめはじき合う戦闘音にかこまれてる中、冷静に作業を続ける職人さんたち。たのもしさしか感じない。

伝令をお願いしてるツイファさんとユーフォンさんがけ込んで来た。

「すべての城門。ふさがりました! 城門側の槍兵およびアスマ殿たちも全員無事、回廊かいろうの中に撤収てっしゅういたしました!」

「よしっ!」

と、こぶしにぎった。

「よしっ! よしっ!」

思わず、何度も声にしてしまう。

「続いて、第2城壁上の掃討そうとうを開始しております」

最終城壁から第2城壁に向けて長弓ながゆみ兵が斉射せいしゃを始めたのが見えた。同時に城門から回廊かいろうが上に伸び始めた。城壁を登る櫓が組まれていく。

今度は人獣じんじゅうが飛び降りて来ないかを警戒しながらの作業になる。

アスマとラハマがランス――騎槍きそうに武器を持ちえて、組まれていくやぐらに立ち、作業している職人さんの頭上をまもっている。

北側では槍をかまえたクゥアイとヨウシャさん、南側ではイーリンさんも上を警戒している。

飛び降りて来るなら、一瞬だ。

緊迫感きんぱくかんに心臓がけそうになる。

第2城壁の向こう側で凶暴化きょうぼうかしてしまった人獣じんじゅうが、よじのぼって来るのも見える。

緊張きんちょうの時間が続く。

「軽食です」

と、マリームが饅頭まんじゅうを運んで来てくれた。

「ありがとう」と、口にすると少し塩味が強い。疲労ひろうに合わせて調整ちょうせいしてくれているのが分かる。

「アスマとラハマ、見て行く?」

と、マリームに声をけると「では、少しだけ」と、並んで手すりを握った。

褐色の横顔からは真剣な視線がはなたれているけど、そこには信頼の色しかない。アスマとラハマの強さに一切いっさいうたがいを持っていないのが分かる。

「お2人の雄姿ゆうし堪能たんのう出来ました!」

と、笑顔で頭を下げたマリームが望楼ぼうろうりる頃、城門側のやぐらが城壁の高さに到達した。

「よしっ!」

もう一度、拳を握り締める。

剣士団が第2城壁上に突入を開始し、続いて、短弓兵も突入していく。

第3城壁がわも警戒しながら、最終城壁と第2城壁の間の掃討戦そうとうせんが始まった。両側から大量の矢を射掛いかけ、剣士も剣をるっている。

急いで望楼ぼうろうりると、撤収てっしゅうしてきたアスマの姿が見えた。

「大丈夫? ケガはない?」

「ああ、大丈夫だ。さすがに少し疲れたがな」

と、褐色の肌に流れる汗を輝かせながら、会心かいしんの笑顔を見せてくれた。

俺が固く手を握ると、肩をポンポンと叩いてくれた。

「我があるじは、優しいな」

「ニシシ。そうなのだ! マレビト様は優し過ぎるくらいに、優しいのだ!」

と、同じく一旦いったん撤収して来たシーシが笑った。シーシも全身汗だくで服が身体に張り付いている。

「想定より、ちょっとのだ」

「いや、スゴかったよ! スムーズに進む作業に見惚みとれてしまった」

「ニシシ! められるのはいいね!」

と、シーシがアスマに照れ笑いを向けた。

「そうだな。我があるじに、もっとめてもらいたくなる」

「ニシシ! 北の女王様もマレビト様にメロメロなのだ!」

「なっ。か、からかわないでくれ」

と、ほほを赤くするアスマに、シーシが耳打ちした。

「ボクもなのだ」

空が夕陽ゆうひに染まり始める頃、城壁かん掃討戦そうとうせんを終えた。

第2城壁は、奪還した。

実に36日ぶりのことだ。

だけど、感慨かんがいにふけっている時間はない。シーシたち司空府しくうふの職人は、第2城壁の四角よすみやぐら玉篝火サーチライトの設置を始めている。

日が落ちれば、ぶっつけ本番の第2城壁防衛戦ぼうえいせんが始まる。

慌ただしさはむしろ増し、緊張きんちょうけない。

そんな中、俺はシアユンさんと第2城壁南西なんせいかどやぐらに向かう。

回廊かいろうを抜けて見上げた空は、夕焼けでまっていた。まるで、俺たちの勝利を祝福してくれているように――。
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