上 下
204 / 297

201.回廊決戦!(1)

しおりを挟む
長い1日が始まった。

城門が開き、外征がいせい隊が四方しほう出陣しゅつじんし、最終城壁に沿って移動していく。

最終城壁と第2城壁の城門はズレている。外敵がいてき侵入しんにゅうふせぐのににかなっている。

ただ、そのために回廊かいろうのスタート地点もズレる。

もちろん、すで人獣じんじゅうとの戦闘は始まっている。アスマやイーリンさんのやいばに反射した朝の陽光が望楼ぼうろうにまで届く。

「マレビト様。シーシ殿が……」

と、シアユンさんがゆびした方を見ると、南側城壁でシーシが大きく手を振っている。

俺が手を振り返すと、シーシは縄梯子なわばしごで最終城壁をり始めた。その下では外征がいせい隊が陣をって、人獣じんじゅうふせいでいる。同時に資材の降下こうかも始まる。

シーシの真紅しんくの髪が壁に隠れて見えなくなると、思わず左隣に立つシアユンさんの手を握ってしまった。

「あ……、すみません」

「いえ。大丈夫ですよ」

と、シアユンさんは優しく俺の左手を握り返してくれた。

右手には今朝の大浴場ハーレム風呂での、くにっていうシーシの感触がよみがえってる。無事に帰って来てくれっていう、俺のになっている。

両手をギュッと握りめたとき、伝令でんれいむ。

「南側城壁、東側城壁。とも回廊かいろう建設の第一段階始まりました!」

と、南側と東側の伝令をお願いしているツイファさんが報告してくれた。

望楼ぼうろうからではこまかなことまでは分からない。作戦の要所ようしょ要所ようしょ不測ふそく事態じたいが起きた時、伝令をお願いしている。

続いて北側と西側の伝令をお願いしているユーフォンさんからも同様の報告があった。

さすがにではない。

第一段階ではまず、城壁の外側にやぐらを組む。人や資材をろしていくためのやぐらだ。

地面にくいを打ち込む音が、カコーン! カコーン! と、ひびき始めた。

南側広場にはフェイロンさん、ヤーモン、ミンリンさん、それにフーチャオさんが陣取じんどる作戦本部が置かれ、いそがしく人が出入りしている。

シアユンさんに左手をキュッと強く握られた。優しげに微笑んでいる。

「マレビト様。気をめていると続きません」

「あ」

「お茶をおれしましょうか?」

初めて人獣じんじゅうとの闘いを観戦した晩と同じように微笑ほほえんでくれた。

「お願いします」

と、シアユンさんの手をはなすと、少し心細さを感じてしまった。

いや。まだ、始まったばかり。

東側ではアスマの半月刀はんげつとうが次々に人獣じんじゅうっている。南側にはイーリンさん。西側にラハマ。北にヨウシャさん。

それぞれに、強い。

城壁の上からは長弓ながゆみ短弓たんきゅう連弩れんどの弓兵が援護えんご射撃しゃげきを続けている。そして、出番を待つ剣士たち。なんと心強い光景こうけいか。信じて落ち着こう。

「どうぞ。温かいうちに」

と、シアユンさんが差し出してくれたお茶に口をつける。流し込むお茶のうるおいで、のどかわいていたんだと分かる。

組み上げられびてきたやぐらから、シーシの真紅しんくの髪が見えた。資材と職人さんたちがやぐらを使って、城壁の外に続々ぞくぞくろされ始めた。

いよいよ、回廊かいろうの前進が始まる――。

と、同時に人獣じんじゅう凶暴化きょうぼうか次第しだいに広がっている。城壁をよじ登ろうとするヤツも出てきて、短弓たんきゅう兵と剣士が対処たいしょを始めた。

しかし、ほとんどは回廊かいろう建設の先端せんたいを守る外征がいせい隊に向かっているか、共食ともぐいを起こしている。

回廊かいろう両脇りょうわきの壁が、城壁しに見えてきた。

寸法を合わせてある資材を、はめ込むだけで組み上がっていく回廊かいろうの壁。職人さんの掛け声に合わせて外征がいせい隊もジリジリと前進を続ける。

壁がった先端せんたんにシーシの真紅しんく髪と、ジンリーの薄紫うすむらさき髪が見えた。

「ジンリーは手元に置いたのか……」

「シーシ殿はむすめのように可愛がられてましたから」

と、シアユンさんが目を細めた。

「息もピッタリだ」

「本当に心強い限りです」

その2人の頭が屋根でおおわわれ隠れた。そしてまた、壁を立てる姿が見える。

壁を建て、屋根で覆う。

この繰り返しで、徐々に徐々に前進を続けていく。

盾で防ぎ槍で防ぐクゥアイの背中も見えた。朝日に銀髪がえている。

もう一度、シアユンさんの手を握ってしまった。シアユンさんは何も言わずに握り返してくれる。

最前線の緊迫感きんぱくかん望楼ぼうろうにまで届くかのようだった――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺がカノジョに寝取られた理由

下城米雪
ライト文芸
その夜、知らない男の上に半裸で跨る幼馴染の姿を見た俺は…… ※完結。予約投稿済。最終話は6月27日公開

クラスで一人だけ男子な僕のズボンが盗まれたので仕方無くチ○ポ丸出しで居たら何故か女子がたくさん集まって来た

pelonsan
恋愛
 ここは私立嵐爛学校(しりつらんらんがっこう)、略して乱交、もとい嵐校(らんこう) ━━。  僕の名前は 竿乃 玉之介(さおの たまのすけ)。  昨日この嵐校に転校してきた至極普通の二年生。  去年まで女子校だったらしくクラスメイトが女子ばかりで不安だったんだけど、皆優しく迎えてくれて ほっとしていた矢先の翌日…… ※表紙画像は自由使用可能なAI画像生成サイトで制作したものを加工しました。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える

ジャック
ファンタジー
私立三界高校2年3組において司馬は孤立する。このクラスにおいて王角龍騎というリーダーシップのあるイケメンと学園2大美女と呼ばれる住野桜と清水桃花が居るクラスであった。司馬に唯一話しかけるのが桜であり、クラスはそれを疎ましく思っていた。そんなある日クラスが異世界のラクル帝国へ転生してしまう。勇者、賢者、聖女、剣聖、など強い職業がクラスで選ばれる中司馬は無であり、属性も無であった。1人弱い中帝国で過ごす。そんなある日、八大ダンジョンと呼ばれるラギルダンジョンに挑む。そこで、帝国となかまに裏切りを受け─ これは、全てに絶望したこの世界で唯一の「無」職の少年がどん底からはい上がり、世界を変えるまでの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 カクヨム様、小説家になろう様にも連載させてもらっています。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

処理中です...