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198.祖霊の託宣(2)
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シアユンさんが崩れるように、片手を床に突いた。
「大丈夫ですか!?」
「少し緊張してしまいました……」
シアユンさんは額に汗を浮かべて、困ったような微笑みを俺に向けた。
汗を拭ってあげて、シアユンさんが落ち着くのを待った。いつも氷の女王のように冷厳としたシアユンさんのこんな姿を見るのは初めてだった。
なにか霊力とか魔力的なものを持っていかれたというより、祖霊という存在が大きく、極度の緊張を強いられてたんだろう。
祖霊から【託宣】を得るという話は、シアユンさんの判断で、皆んなには伏せてある。
確かに、シアユンさんをしてもこれだけの反応を示すのなら、【託宣】の内容に関わらず、どれだけ動揺させるか分からない。
「祖霊は、4代マレビト様が必ず道を開くと申されました」
落ち着いたシアユンさんが、口を開いた。
「回廊決戦を挑むことに、間違いはないかと存じます」
「なるほど。力強いことです」
「ただ、油断は禁物です。全力で事にあたり【託宣】を実現させねばなりません」
「そうですね。分かりました」
城内に叛意を抱く者はいないと示されたけど、ウンランさんたちの釈放は、シアユンさんが納得いくまで話をした後と確認した。
そして、リーファ姫だ……。
「満月の最初の晩って、明日の晩ですよね? 昼に回廊決戦を挑んで、第2城壁を奪還して櫓で呪符を回収して……。カツカツだなぁ……」
シアユンさんが、申し訳なさそうな顔をした。
「満月の最初の晩は、明後日でございます……」
「あれ?」
「28日かけて満ちる月の、明日は28日目。29日目からが満月です……」
「そういうことか。……俺、回廊決戦の打ち合わせのとき、自信満々に明日が満月って言いましたよね?」
「訂正するほどでもないかと思い……。ほぼ、満月ですし……」
うわ。微妙に恥ずかしいやつ。
「じゃ、じゃあ、まあ……」
「はい……」
「今晩の戦闘後に判断しても、1日余裕があるんですね?」
「そういうことになります」
「そ、祖霊は、はっきり目覚めるとは言ってくれなかったけど、呪術師のリーファ姫が復帰してくれたら、大きな戦力になりますもんねっ」
恥ずかしさを紛らわそうと、早口になってしまう。
「はいっ」
と、シアユンさんは嬉しそうに頷いた。目覚めるとは言われなかったけども、目覚めないとも言われなかった。しかも、具体的な方法も示された。
――リーファ姫の魂は生きている。
かつて、この推論にシアユンさんは嬉し泣きに、泣き崩れてしまった。それほどにリーファ姫のことを敬愛している。
第2城壁奪還。
ここに、全てがかかっている。
第2城壁が奪還できなければ、第3城壁も外城壁もない。眠り続けるリーファ姫の謎も、第2城壁の奪還で解けるかもしれない。
明後日の満月を逃せば、次のチャンスは満月が欠け始める28日後ということになる。そうなると食糧が尽きる直前だ。
明日。
明日、第2城壁を奪還して、一歩前に進みたい。
決意を固くしてシアユンさんを見ると、全身を真っ赤にしてる……。
えっ?
なんか、エロな要素ありましたっけ? シアユンさんがこういう感じになっちゃうのって……。
――時が満ちるまで、ご自身の純潔を守られよ。
あっ、あれか。
祖霊が俺に〈純潔を守れ〉って言ってたやつ。
いまいち意味が分からなかったけど、今のところそんな気も起きないし、シアユンさんが真っ赤になることないんだけど……。
「ところで、天帝ってなんですか?」
祖霊の【託宣】に出て来て意味の分からなかった単語を、シアユンさんに尋ねた。真っ赤だったシアユンさんが、スゥッと抜けるような白い肌に戻っていく。
あ。こんな風に変化するんだ。と、マジマジと観察してしまった。
「天帝とは天にあって森羅万象の巡りを支配されている、至高の存在でございます」
「簡単に言うと、神様ってことですか?」
「その通りです。されど我ら人間では天帝の言葉を解することは出来ず、祖霊を通じてそのお力を分けていただきます。我らが呪力と呼ぶものも、祖霊を介して天帝よりいただくものなのです」
「へえ。そんな存在が」
「人間の中では天子たる国王のみが拝せるものとされ、王都の王宮には天帝廟がございます」
「祖霊は、天帝に会えって言ってましたよね……?」
「今は分からずとも、いずれ分かる日も来ようかと」
シアユンさんで分からないなら、今悩んでも仕方ない。
今晩の戦闘を見て、夜明けには回廊決戦を挑むかどうかの判断を迫られる。準備不足で始めないといけないのはいつものことだ。
だけど、祖霊の言葉で覚悟を固めることが出来た。きっと勝つ。皆んなの力を合わせて、勝ち抜く――。
「大丈夫ですか!?」
「少し緊張してしまいました……」
シアユンさんは額に汗を浮かべて、困ったような微笑みを俺に向けた。
汗を拭ってあげて、シアユンさんが落ち着くのを待った。いつも氷の女王のように冷厳としたシアユンさんのこんな姿を見るのは初めてだった。
なにか霊力とか魔力的なものを持っていかれたというより、祖霊という存在が大きく、極度の緊張を強いられてたんだろう。
祖霊から【託宣】を得るという話は、シアユンさんの判断で、皆んなには伏せてある。
確かに、シアユンさんをしてもこれだけの反応を示すのなら、【託宣】の内容に関わらず、どれだけ動揺させるか分からない。
「祖霊は、4代マレビト様が必ず道を開くと申されました」
落ち着いたシアユンさんが、口を開いた。
「回廊決戦を挑むことに、間違いはないかと存じます」
「なるほど。力強いことです」
「ただ、油断は禁物です。全力で事にあたり【託宣】を実現させねばなりません」
「そうですね。分かりました」
城内に叛意を抱く者はいないと示されたけど、ウンランさんたちの釈放は、シアユンさんが納得いくまで話をした後と確認した。
そして、リーファ姫だ……。
「満月の最初の晩って、明日の晩ですよね? 昼に回廊決戦を挑んで、第2城壁を奪還して櫓で呪符を回収して……。カツカツだなぁ……」
シアユンさんが、申し訳なさそうな顔をした。
「満月の最初の晩は、明後日でございます……」
「あれ?」
「28日かけて満ちる月の、明日は28日目。29日目からが満月です……」
「そういうことか。……俺、回廊決戦の打ち合わせのとき、自信満々に明日が満月って言いましたよね?」
「訂正するほどでもないかと思い……。ほぼ、満月ですし……」
うわ。微妙に恥ずかしいやつ。
「じゃ、じゃあ、まあ……」
「はい……」
「今晩の戦闘後に判断しても、1日余裕があるんですね?」
「そういうことになります」
「そ、祖霊は、はっきり目覚めるとは言ってくれなかったけど、呪術師のリーファ姫が復帰してくれたら、大きな戦力になりますもんねっ」
恥ずかしさを紛らわそうと、早口になってしまう。
「はいっ」
と、シアユンさんは嬉しそうに頷いた。目覚めるとは言われなかったけども、目覚めないとも言われなかった。しかも、具体的な方法も示された。
――リーファ姫の魂は生きている。
かつて、この推論にシアユンさんは嬉し泣きに、泣き崩れてしまった。それほどにリーファ姫のことを敬愛している。
第2城壁奪還。
ここに、全てがかかっている。
第2城壁が奪還できなければ、第3城壁も外城壁もない。眠り続けるリーファ姫の謎も、第2城壁の奪還で解けるかもしれない。
明後日の満月を逃せば、次のチャンスは満月が欠け始める28日後ということになる。そうなると食糧が尽きる直前だ。
明日。
明日、第2城壁を奪還して、一歩前に進みたい。
決意を固くしてシアユンさんを見ると、全身を真っ赤にしてる……。
えっ?
なんか、エロな要素ありましたっけ? シアユンさんがこういう感じになっちゃうのって……。
――時が満ちるまで、ご自身の純潔を守られよ。
あっ、あれか。
祖霊が俺に〈純潔を守れ〉って言ってたやつ。
いまいち意味が分からなかったけど、今のところそんな気も起きないし、シアユンさんが真っ赤になることないんだけど……。
「ところで、天帝ってなんですか?」
祖霊の【託宣】に出て来て意味の分からなかった単語を、シアユンさんに尋ねた。真っ赤だったシアユンさんが、スゥッと抜けるような白い肌に戻っていく。
あ。こんな風に変化するんだ。と、マジマジと観察してしまった。
「天帝とは天にあって森羅万象の巡りを支配されている、至高の存在でございます」
「簡単に言うと、神様ってことですか?」
「その通りです。されど我ら人間では天帝の言葉を解することは出来ず、祖霊を通じてそのお力を分けていただきます。我らが呪力と呼ぶものも、祖霊を介して天帝よりいただくものなのです」
「へえ。そんな存在が」
「人間の中では天子たる国王のみが拝せるものとされ、王都の王宮には天帝廟がございます」
「祖霊は、天帝に会えって言ってましたよね……?」
「今は分からずとも、いずれ分かる日も来ようかと」
シアユンさんで分からないなら、今悩んでも仕方ない。
今晩の戦闘を見て、夜明けには回廊決戦を挑むかどうかの判断を迫られる。準備不足で始めないといけないのはいつものことだ。
だけど、祖霊の言葉で覚悟を固めることが出来た。きっと勝つ。皆んなの力を合わせて、勝ち抜く――。
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