上 下
200 / 297

197.祖霊の託宣(1)

しおりを挟む
「今日は顔も洗ってあげようか?」

と、寄せて上げるメイファンのもう丁重ていちょうに断って大浴場から上がった。

祖霊廟それいびょうでシアユンさんとって、だんに向き合う。アスマが回収してくれた呪符じゅふを納めた箱にも祈りを捧げる。

「それでは、よろしいでしょうか?」

と言うシアユンさんに、緊張気味ぎみうなずいた。

シアユンさんはおごそかな所作しょさで箱のひもき、呪符じゅふを取り出す。ウンランさんの家宝で3代マレビトの子孫だけが使える【託宣たくせん】の呪符じゅふ。シアユンさんが頭上ずじょうに押しいただくと、ブワッと大きな気配がした。

人ならぬモノの気配で祖霊廟それいびょうの小さな部屋がくされる。

……これが、呪術じゅじゅつ。これが、祖霊。

現れた祖霊の気配はひとつなのに、男であって女であって、年寄りであって子どもである。大きなひとつの意志が感じられる。

〈3代マレビト様の血を引く者よ……〉

と、祖霊の声がした。

シアユンさんが呪符じゅふ平伏へいふくした。

「はっ。祖霊よ、お出ましいただき恐悦きょうえつ至極しごくぞんじます。私はシュダン侯爵家こうしゃくけ長女、ジーウォ公より太保たいほにんを受けます、シアユンと申します」

〈さすれば、シアユンよ……。3つ問うがよい……〉

耳から聞こえる音だけじゃなく、たましいひびいてくるような声。これは……、超常ちょうじょう現象げんしょうだわ……。

「ありがとうございます。早速でございますが、ひとつ目。人獣じんじゅう如何いかにして退しりぞけられましょうか?」

かつて、リーファ姫が「人獣じんじゅう退しりぞるか?」と祖霊に問うて「いずれ退ける」という【託宣たくせん】をている。

知りたいのは『どうすれば退けられるか?』だ。

〈マレビトにしたがえ〉

「はっ」

と、シアユンさんがかしこまった。

〈4代マレビト様は必ず道をひらく〉

お、おお……。答えになってるような、なってないような……。

俺の進んでる道、俺が選んでる方法で間違いないってことでいいのかな……?

「ありがとうございます。それでは、ふたつ目」

本当はもっと詳しく聞きたいけど、それで『質問権しつもんけん』を消費するのはやめておこうと、シアユンさんと打ち合わせてある。

「ジーウォの城内に叛意はんいのある者、もしくはぞくはおりましょうや?」

宮城きゅうじょう1階の解体、それに囚人しゅうじん釈放しゃくほう、城の中を警戒しないといけないかどうかは、今後を大きく左右する。重大な関心事かんしんじと言っていい。

〈いない〉

と、祖霊の返答はあっさりしたものだった。肩の力がふっと抜けるほどに安心してしまった。

〈4代マレビト様が見事にまとめ上げている。懸念けねんにはおよばぬ〉

「はっ。ありがとうございます」

シアユンさんに合わせて、俺も深々と頭を下げた。アスマに弓の腕前うでまえめられたミンユーの気持ちだった。俺のやってきたことを、間違いじゃないって祖霊から認められたようで嬉しい。

「それでは、最後。みっつ目の問いでございます」

最後はシアユンさんが最も気にしていることを問おうと話し合った。

「リーファ姫は目覚めましょうや?」

〈ふむ……〉

と、祖霊が初めて、少し考えるような気配をさせた。

〈4代マレビト様の召喚に用いた呪符じゅふをリーファ姫にかざせ〉

あのものみたいに長い呪符じゅふ……。第2城壁のやぐらきっぱなしなんじゃ……?

〈月の満ちけに合わせ、満月の最初の晩、欠け始める最初の晩、欠け切った新月の最初の晩、満ち始める最初の晩。このたびしか機会きかいはない〉

28日に1回のチャンスってこと……?

〈月が中天ちゅうてんのぼわずかな頃合ころあい、4代マレビト様がひとりでリーファ姫の頭上ずじょう呪符じゅふをかざす。さすれば天帝てんてい加護かごにより、答えをられよう〉

天帝てんてい……? なんか、新しい単語出てきた。

「祖霊よ。ありがとうございました」

と、シアユンさんはもう一度、拝礼はいれいした。

終わりか。なんか、あっけなかったけど、知りたいことは知れたかな……?

〈4代マレビト様よ……。そこにおられるのであろう……?〉

「え? あ、はい」

〈召喚に応じて下さり、御礼おれい申し上げる〉

「いえいえ、そんな……」

なんか、神様的な存在にへりくだられたら反応に困るな。

〈時が満ちるまで、ご自身の純潔じゅんけつを守られよ……〉

「えっ?」

ちょっと頬が赤くなる。

「と、時って?」

〈その時が来れば、必ず分かられる。そして、天帝てんていに会ってくだされ……。愛されぬわれらを愛してくだされ……〉

祖霊の気配が消えた――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

貞操逆転世界ではキモデブの俺の遺伝子を美少女達が狙っている!!!!

お小遣い月3万
恋愛
 貞操逆転世界ではキモデブのおっさんでもラブコメ無双である。  美少女達が俺の遺伝子を狙っていて、ハーレムどころの騒ぎじゃない。  幼馴染の美少女も、アイドル似の美少女も俺のことを狙っている。  痴女も変態女も俺のことを狙っている。  イモっこいお嬢様ですら俺のことを狙っている。  お前も俺のことを狙っているのか!    美少女達とイチャイチャしたり、痴女に拉致されたり、変態女に襲われて逃げたり、貞操逆転世界は男性にとっては大変である。  逆にモテすぎて困る。  絶対にヤレる美少女達が俺を落とすために、迫って来る。    俺は32歳の童貞だった。アダルトビデオに登場するようなブリーフ親父に似ている。しかも体重は100キロである。  働いたら負け、という名言があるように、俺は誰にも負けていなかった。  だけどある日、両親が死んで、勝ち続けるための資金源が無くなってしまった。  自殺も考えたけど死ぬのは怖い。だけど働きたくない。  俺の元へ政府の人間がやって来た。  将来、日本になにかあった時のためにコールドスリープする人間を探しているらしい。コールドスリープというのは冷凍保存のことである。  つまり絶望的な未来が来なければ、永遠に冷凍庫の隅っこで眠り続けるらしい。  俺は死んでも働きたくないので冷凍保存されることになった。    目覚めたら、そこは貞操逆転世界だった。  日本にとっては絶望的な未来だったのだ。男性は俺しかいない。  そんな日本を再生させるために、俺が解凍されたのだ。  つまり俺は日本を救う正義のヒーローだった。  じゃんじゃんセッ◯スしまくって女の子を孕ませるのが、正義のヒーローの俺の役目だった。  目覚めた俺は32歳なのに17歳という設定で高校に通い始める。謎展開である。学園ラブコメが始まってしまう。  もしかしたら学生の頃のトラウマを払拭させるために17歳という設定を押し付けられているのかもしれない。    そして俺は初恋である幼馴染の遺伝子を持った女の子と同じクラスになった。  あの時ヤリたかったあんな事やこんな事をしまくれる。絶対に幼馴染とヤレるラブコメ。  目覚めたらハーレムどころの騒ぎじゃなかった。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

剣と弓の世界で俺だけ魔法を使える~最強ゆえに余裕がある追放生活~

初雪空
ファンタジー
ランストック伯爵家にいた、ジン。 彼はいつまでも弱く、レベル1のまま。 ある日、兄ギュンターとの決闘に負けたことで追放。 「お前のような弱者は不要だ!」 「はーい!」 ジンは、意外に素直。 貧弱なモヤシと思われていたジンは、この世界で唯一の魔法使い。 それも、直接戦闘ができるほどの……。 ただのジンになった彼は、世界を支配できるほどの力を持ったまま、旅に出た。 問題があるとすれば……。 世界で初めての存在ゆえ、誰も理解できず。 「ファイアーボール!」と言う必要もない。 ただ物質を強化して、逆に消し、あるいは瞬間移動。 そして、ジンも自分を理解させる気がない。 「理解させたら、ランストック伯爵家で飼い殺しだ……」 狙って追放された彼は、今日も自由に過ごす。 この物語はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ないことをご承知おきください。 また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。 ※ カクヨム、小説家になろう、ハーメルンにも連載中

処理中です...