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197.祖霊の託宣(1)

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「今日は顔も洗ってあげようか?」

と、寄せて上げるメイファンのもう丁重ていちょうに断って大浴場から上がった。

祖霊廟それいびょうでシアユンさんとって、だんに向き合う。アスマが回収してくれた呪符じゅふを納めた箱にも祈りを捧げる。

「それでは、よろしいでしょうか?」

と言うシアユンさんに、緊張気味ぎみうなずいた。

シアユンさんはおごそかな所作しょさで箱のひもき、呪符じゅふを取り出す。ウンランさんの家宝で3代マレビトの子孫だけが使える【託宣たくせん】の呪符じゅふ。シアユンさんが頭上ずじょうに押しいただくと、ブワッと大きな気配がした。

人ならぬモノの気配で祖霊廟それいびょうの小さな部屋がくされる。

……これが、呪術じゅじゅつ。これが、祖霊。

現れた祖霊の気配はひとつなのに、男であって女であって、年寄りであって子どもである。大きなひとつの意志が感じられる。

〈3代マレビト様の血を引く者よ……〉

と、祖霊の声がした。

シアユンさんが呪符じゅふ平伏へいふくした。

「はっ。祖霊よ、お出ましいただき恐悦きょうえつ至極しごくぞんじます。私はシュダン侯爵家こうしゃくけ長女、ジーウォ公より太保たいほにんを受けます、シアユンと申します」

〈さすれば、シアユンよ……。3つ問うがよい……〉

耳から聞こえる音だけじゃなく、たましいひびいてくるような声。これは……、超常ちょうじょう現象げんしょうだわ……。

「ありがとうございます。早速でございますが、ひとつ目。人獣じんじゅう如何いかにして退しりぞけられましょうか?」

かつて、リーファ姫が「人獣じんじゅう退しりぞるか?」と祖霊に問うて「いずれ退ける」という【託宣たくせん】をている。

知りたいのは『どうすれば退けられるか?』だ。

〈マレビトにしたがえ〉

「はっ」

と、シアユンさんがかしこまった。

〈4代マレビト様は必ず道をひらく〉

お、おお……。答えになってるような、なってないような……。

俺の進んでる道、俺が選んでる方法で間違いないってことでいいのかな……?

「ありがとうございます。それでは、ふたつ目」

本当はもっと詳しく聞きたいけど、それで『質問権しつもんけん』を消費するのはやめておこうと、シアユンさんと打ち合わせてある。

「ジーウォの城内に叛意はんいのある者、もしくはぞくはおりましょうや?」

宮城きゅうじょう1階の解体、それに囚人しゅうじん釈放しゃくほう、城の中を警戒しないといけないかどうかは、今後を大きく左右する。重大な関心事かんしんじと言っていい。

〈いない〉

と、祖霊の返答はあっさりしたものだった。肩の力がふっと抜けるほどに安心してしまった。

〈4代マレビト様が見事にまとめ上げている。懸念けねんにはおよばぬ〉

「はっ。ありがとうございます」

シアユンさんに合わせて、俺も深々と頭を下げた。アスマに弓の腕前うでまえめられたミンユーの気持ちだった。俺のやってきたことを、間違いじゃないって祖霊から認められたようで嬉しい。

「それでは、最後。みっつ目の問いでございます」

最後はシアユンさんが最も気にしていることを問おうと話し合った。

「リーファ姫は目覚めましょうや?」

〈ふむ……〉

と、祖霊が初めて、少し考えるような気配をさせた。

〈4代マレビト様の召喚に用いた呪符じゅふをリーファ姫にかざせ〉

あのものみたいに長い呪符じゅふ……。第2城壁のやぐらきっぱなしなんじゃ……?

〈月の満ちけに合わせ、満月の最初の晩、欠け始める最初の晩、欠け切った新月の最初の晩、満ち始める最初の晩。このたびしか機会きかいはない〉

28日に1回のチャンスってこと……?

〈月が中天ちゅうてんのぼわずかな頃合ころあい、4代マレビト様がひとりでリーファ姫の頭上ずじょう呪符じゅふをかざす。さすれば天帝てんてい加護かごにより、答えをられよう〉

天帝てんてい……? なんか、新しい単語出てきた。

「祖霊よ。ありがとうございました」

と、シアユンさんはもう一度、拝礼はいれいした。

終わりか。なんか、あっけなかったけど、知りたいことは知れたかな……?

〈4代マレビト様よ……。そこにおられるのであろう……?〉

「え? あ、はい」

〈召喚に応じて下さり、御礼おれい申し上げる〉

「いえいえ、そんな……」

なんか、神様的な存在にへりくだられたら反応に困るな。

〈時が満ちるまで、ご自身の純潔じゅんけつを守られよ……〉

「えっ?」

ちょっと頬が赤くなる。

「と、時って?」

〈その時が来れば、必ず分かられる。そして、天帝てんていに会ってくだされ……。愛されぬわれらを愛してくだされ……〉

祖霊の気配が消えた――。
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