上 下
191 / 297

189.忌み子の系譜(3)

しおりを挟む
「確かに3代様生存説せいぞんせつひそかに語りがれて参りました」

と、シアユンさんが言った。

ウンランさんの話を聞いた後、自分をたすけるために家宝を差し出したと伝えられたズハンさんは、大泣きに泣いてしまい、詳しい話を聞くことが出来なかった。

そのまま普段より遅く大浴場に向かったら、んなすでに湯船にかってたけど、シーシが待ちかまえてて、飛びかられるように、背中をた。

いつも以上に、くにっくにっとキレ良くてるあいだじゅう、カンナの素晴らしさについて熱く語られた。役に立ったのなら良かった。

そして、脱衣所で祖霊それい祭祀さいしに向かうシアユンさんを呼び止めたら、んなから「つ、ついに!」「一番槍はシアユン様が……」「やっぱり」と、盛大せいだいに誤解された。

それだけ俺が思いめた顔をしてたのかもしれないけど、顔を真っ赤にして否定したら生温なまあたたかい目で見られてしまった。

エジャとヤーモンの結婚式で、祖霊をまつだんを見て興味もそそられていたので、初めて祖霊廟それいびょうに足をれ、シアユンさんの祭祀さいしを見させてもらってた。

そして、シアユンさんと向き合っている。

の……。そうでありましたか」

と、俺の話を聞いたシアユンさんは目をせた。

荘厳そうごん装飾そうしょくされた部屋には、おこうのいいにおいが立ちめている。シアユンさんの胸に抱かれたときに、ふっと香った匂いだった。

「シアユンさんは、ウンランさんの話を信じていいと思いますか?」

「私は信じられると思います。まず、自らが忌み子の家系であることを打ち明けられたこと。わざわざ不名誉を明かされる理由が思い当たりません」

「なるほど……」

詐称さしょうしたところで、ウンラン殿にとくのない詐称です。次に、言い方は申し訳ないのですが、大夫たいふごときに真心まごころを示される。王都で爵位しゃくいにあった方とは思えない優しさです」

大夫たいふっていうのは、そんなに低い身分なんですか……?」

「王都では特にそうです」

「そこまでは信じたとして、呪符じゅふの件はどうです?」

現物げんぶつを見るまでは、なんとも言えませんが、恐らくものがあるのは本当でしょう」

「と言うと?」

「わざわざ外にかこっためかけの存在をかす理由がありません。子爵ししゃくともなればそばに置いても何の問題もないところ。よほど身分の低い者だったのでしょう」

シアユンさんがここまで断言するからには、信じてもいいのかな。

「……ダーシャンの貴族というのは見栄みえほこりの化け物です」

と、シアユンさんがいつも以上に氷のような居住いずまいを見せた。ちょっと背筋にゾクッとしたものが走る。

「少しでもすきを見せれば足元をすくわれます。王都の状況がどうあれ、侯爵こうしゃく家の人間である私に伝わることが分かっていて言ったことには意味があります」

「忌み子の家系だと公になれば、失脚しっきゃくするというようなことですか……?」

おっしゃる通りです。たとえごとでも、そのようなことを申す者はダーシャンの貴族ではありません。その話の中で、呪符じゅふの件だけがいつわりというのは、ちょっと考えにくいと判断しております」

なるほど。お貴族の価値観で判断すると、そうなるってことか。

3代マレビトが生きてる云々うんぬんは、後回しにしても、祖霊のが聞けるっていう呪符じゅふにはかれる。

回廊かいろう決戦で第2城壁を奪還するまで待つか、外征がいせい隊に探索たんさくを依頼するかということになりますね」

と、シアユンさんが俺の考えを察したように微笑ほほえんだ。

「アスマ殿でしょう」

「アスマ……?」

「ええ。アスマ殿ならば呪符じゅふのなんたるかをご存じありません。みょうに構えることなくこと遂行すいこうして下さるでしょう。また、マレビト様をおしたいされる気持ちも充分。アスマ殿の隊にひそかにおめいじになるのが、よろしいかと」

したいされる気持ちも充分と言われると、恋心を利用してるようで後ろめたくもなるけど……。

いやいや。俺は里佳1人にフラれただけで、ずっとグジグジしてるけど、目の前にいるシアユンさんだって俺に純潔じゅんけつささげようとしてる。大浴場ハーレム風呂の女子たちんなそうだ。恋心がどうとか言い出したら、だれにもたのみごとなんか出来なくなる。

確かにお願いするならアスマが良さそうだ。悩んでても仕方ない。出来ることはやろう。

思わず、ふふっと笑うとシアユンさんが不思議そうに俺の顔を見た。

その表情! 可愛いですよっ!

祖霊に話を聞けたら、なにかいいアイデアもらえるかもしれないし!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)

@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」 このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。 「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。 男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。 「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。 青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。 ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。 「カクヨム」さんが先行投稿になります。

俺だけ異世界行ける件〜会社をクビになった俺は異世界で最強となり、現実世界で気ままにスローライフを送る〜

平山和人
ファンタジー
平凡なサラリーマンである新城直人は不況の煽りで会社をクビになってしまう。 都会での暮らしに疲れた直人は、田舎の実家へと戻ることにした。 ある日、祖父の物置を掃除したら変わった鏡を見つける。その鏡は異世界へと繋がっていた。 さらに祖父が異世界を救った勇者であることが判明し、物置にあった武器やアイテムで直人はドラゴンをも一撃で倒す力を手に入れる。 こうして直人は異世界で魔物を倒して金を稼ぎ、現実では働かずにのんびり生きるスローライフ生活を始めるのであった。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

処理中です...