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181.ずぶ濡れ意気軒昂

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「なるほど。確かによく見れば建物たてものから小さいのが飛び出して来ている」

と、目をらしたアスマが言った。

夕焼け雲の下、ラハマと並んで最終城壁から外征がいせい隊の戦闘を見てもらっている。遠望えんぼうする外征がいぜい隊は、槍衾やりぶすま隙間すきまからイーリンさんの剣が小型人獣をつ中、矢を回収している。

「どう? お願いできそう?」

「うむ。まかせておけ。ただ残念ながら、あの役割なら騎馬より徒歩の方が良さそうだ」

と、アスマは少し残念そうに笑った。思う存分、愛馬と駆けたい気持ちがにじんでいる。

そこに空色そらいろ髪の女剣士ヨウシャさんが姿を見せた。スイランさんのお母さんだ。

「フェイロン様から言われて、志願しがんいたしました」

と言ったヨウシャさんも、並んで外征がいせい隊をながめた。アスマたちをむかえることを「めっちゃ複雑」と言ったヨウシャさんだけに、少しドキドキしたけど問題はなさそうだ。

というか、「の練習相手に」とささやかれたヨウシャさんと、「惚れたのだ」とつぶやかれたアスマが並んでることの方が、なんだかドキドキする。

――なんと、破廉恥はれんちな!

というラハマの言葉を思い返して落ち着こうとするんだけど、それにはラハマも一緒に思い返されてしまう。

顔が赤くなってるのは、毎度のことだけど夕陽のせいと思ってもらいたい。

日が落ちる直前から、久しぶりの雨になった。

雨中の戦闘になったけど、アスマもラハマも変わらず強い。ずぶ濡れになりながらランスをみ続けている。

薬師くすしのリンシンさんとホンファ、それにユエが身体を冷やし過ぎないように薬湯やくとうくばって回ってくれてるのが見えた。

んながそれぞれに知恵をしぼって、戦闘を支えようとしてくれている。

新婚ホヤホヤのエジャも城壁上で剣を振るっているし、ヨウシャさんも強い。確かに剣筋けんすじがイーリンさんによく似ているようにも見える。外征がいせい隊に志願してくれたのも納得だ。

望楼ぼうろうで見守る俺のそばに、シアユンさんが立った。

「ヨウシャ殿にはイーリンと共に、マレビト様の護衛ごえいに回っていただきます。外征がいせい隊との負担を考えた司馬兼剣士長フェイロン様からお申し出がありました」

「そうですか。……アスマとラハマはどうしたらいいと思います?」

「本人たちと話し合うのがよろしいかと。意気いき軒昂けんこうに見えますし、槍兵も弓兵きゅうへい外征がいせいと戦闘の両方をになっております」

「そうか。そうですね」

「それに剣士は、この闘いの最初から前線に立ち続け疲労ひろう蓄積ちくせきしております。同列どうれつに考えなくてもよろしいかと」

最近になってようやくオフ日が取れるようになったとはいえ、確かにその通りだ。超人的な強さで忘れそうになるけど、大事なことだ。今もずぶ濡れになりながら全力で闘ってくれている。

シアユンさんがクスッと笑った。

「今の私。少し太保たいほっぽかったですね」

本来は王様の相談役だという『太保たいほ』。シアユンさんの今の役職だけど、大袈裟おおげさに感じてるままなんだろう。いやいや、今に限らず、ずっとシアユンさんには助けられ続けてますよ。

ふと西側城壁に目を落とすと、荷運にはこやぐらの上で熱湯をかすジンリーの薄紫うすむらさき色の髪が目に入った。

15歳。日本だと中3のジンリーもずぶ濡れになりながら、戦闘を支えてくれてる。

回廊かいろう決戦けっせんで勝負を決めたい。

そのおもいを強くしながら、今晩も戦況せんきょうを夜明けまで見守った――。
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