178 / 297
176.置かれた大浴場(1)
しおりを挟む
アスマとラハマの初参戦を見届け、大浴場に向かう前、地下牢に寄った。
「牛肉のシチューは美味かったが、年寄りには脂がこたえたわい」
と、ウンランさんが牢の木格子越しに、苦笑混じりで言った。
ウンランさんとズハンさんを拘束して10日。王族の命を狙ったのだ。本来なら首を刎ねるべきところを、俺の立っての希望で助けた。
助けた責任を感じるところもあるので、ちょくちょく顔を見に来るようにしている。
孫のシャオリンには累を及ばせず、爵位の継承を認めたからか、少し態度が軟化している。
ただ、地下牢は全て独房で互いの部屋の声は聞こえない。アスマたちが臣従したことも、ウンランさんとズハンさんは知らないでいる。
「どうだ、マレビト様? 考えてくれたか? ズハンを出してやってほしい。あいつは、儂に巻き込まれただけなんじゃ」
と、最近はこればかりを言う。
「ズハンを出してくれたら、とっておきの情報を教えてやるぞ? どうだ?」
と繰り返すのだけど、苦笑いしか返せない。
第一、当のズハンさんの態度に変化はない。
「この種なしマレビトがっ」
と、ヒドイ言葉で罵ってくる。「そもそも、ヤってねぇ」と言い返したいところだけど、馬鹿馬鹿しいのでグッと堪えている。
ウンランさんには「先に情報を教えてくれたら考えますよ」と、毎回言って地下牢を離れる。
――むにんっ。
と、今朝の大浴場では、初戦闘を終えたばかりのアスマが流してくれる。
「人獣は、怖いな」
――むにゅん(左腕/上)。
「怖い……」
と、応えたミンユーは左腕をはさんで滑らせている。
――くにっ(右腕/下)。
右腕に抱き着いて、顔を真っ赤に全身を泡だらけで滑らせてるクゥアイも含めて、3人は昨夜の戦闘で同じ小隊を組んだ。
昨夜の戦闘では、結婚式で最高の笑顔を見せたエジャとヤーモンも無事に戻った。
あの笑顔は、ベタなフラグにはならなかった。こうなったら、なにがなんでもハッピーエンドだっ! っ思えた夜明けだった。
――むにんっ(背中/上)。
「よく分かった……」
と、アスマが堅い口調で言った。
――むにんっ(背中/上)。
「我が国リヴァントも無事ではあるまい。あれだけの数が、ここだけで収まっているとは到底思えぬ。否、我が国はジーウォ公国であった……。さて、リヴァントは何と呼べば良いかな……」
「故郷でいいんじゃないですか?」
――むにんっ(背中/下)。
「うむっ。故郷、よい響きだ。これからはそう呼ばせてもらおう」
と、アスマは少し安堵するように言った。
生まれ故郷を想う気持ちを取り上げたり、貶させたりするようなことはしませんよ。隠れキリシタンの踏み絵じゃないんだから。
――むにゅん(左腕/上)。
「昨夜は初めて連弩も使ってみた」
と、頬を薄く赤色にしたミンユーが言った。
「あれ? 短弓の調子が悪いの?」
――むにゅん(左腕/下)。
「そうじゃない……。ミンリンさんの発表を聞いて、連弩兵も要になると思った」
「なるほど」
――むにゅん(左腕/上)。
「狙いの付け方や、効率良い挙動。実戦で使ってみないと、教えられないし、一緒に考えてもあげられない、と思った」
連弩は素人が矢を放てるようになるけど、ミンユー級になると、短弓の方が速くて正確だ。敢えてチェンジを求めることはしてなかった。
――むにんっ(背中/下)。
「発表された作戦もスゴいが、あの連弩もすごいな。我が主が作ったと聞いたぞ?」
と、アスマが賞賛する声音で言ってくれた。
「いやいや、俺は最初の最初だけ。仕上げたのはシーシだし、シーシが作ってくれた武器だよ」
――むにんっ(背中/上)。
「その最初を作れるのがスゴいではないか」
滑りが上に来た時、俺の耳に吐息をかけるのが流行りになってるんスか? とても、こそばゆくてムズムズしてしまう。
――くにっ(右腕/上)。
「アスマさん! お、お願いが……」
クゥアイがやっと声を出したと思ったら、顔を真っ赤にしたまま、なんのお願いだろう――?
「牛肉のシチューは美味かったが、年寄りには脂がこたえたわい」
と、ウンランさんが牢の木格子越しに、苦笑混じりで言った。
ウンランさんとズハンさんを拘束して10日。王族の命を狙ったのだ。本来なら首を刎ねるべきところを、俺の立っての希望で助けた。
助けた責任を感じるところもあるので、ちょくちょく顔を見に来るようにしている。
孫のシャオリンには累を及ばせず、爵位の継承を認めたからか、少し態度が軟化している。
ただ、地下牢は全て独房で互いの部屋の声は聞こえない。アスマたちが臣従したことも、ウンランさんとズハンさんは知らないでいる。
「どうだ、マレビト様? 考えてくれたか? ズハンを出してやってほしい。あいつは、儂に巻き込まれただけなんじゃ」
と、最近はこればかりを言う。
「ズハンを出してくれたら、とっておきの情報を教えてやるぞ? どうだ?」
と繰り返すのだけど、苦笑いしか返せない。
第一、当のズハンさんの態度に変化はない。
「この種なしマレビトがっ」
と、ヒドイ言葉で罵ってくる。「そもそも、ヤってねぇ」と言い返したいところだけど、馬鹿馬鹿しいのでグッと堪えている。
ウンランさんには「先に情報を教えてくれたら考えますよ」と、毎回言って地下牢を離れる。
――むにんっ。
と、今朝の大浴場では、初戦闘を終えたばかりのアスマが流してくれる。
「人獣は、怖いな」
――むにゅん(左腕/上)。
「怖い……」
と、応えたミンユーは左腕をはさんで滑らせている。
――くにっ(右腕/下)。
右腕に抱き着いて、顔を真っ赤に全身を泡だらけで滑らせてるクゥアイも含めて、3人は昨夜の戦闘で同じ小隊を組んだ。
昨夜の戦闘では、結婚式で最高の笑顔を見せたエジャとヤーモンも無事に戻った。
あの笑顔は、ベタなフラグにはならなかった。こうなったら、なにがなんでもハッピーエンドだっ! っ思えた夜明けだった。
――むにんっ(背中/上)。
「よく分かった……」
と、アスマが堅い口調で言った。
――むにんっ(背中/上)。
「我が国リヴァントも無事ではあるまい。あれだけの数が、ここだけで収まっているとは到底思えぬ。否、我が国はジーウォ公国であった……。さて、リヴァントは何と呼べば良いかな……」
「故郷でいいんじゃないですか?」
――むにんっ(背中/下)。
「うむっ。故郷、よい響きだ。これからはそう呼ばせてもらおう」
と、アスマは少し安堵するように言った。
生まれ故郷を想う気持ちを取り上げたり、貶させたりするようなことはしませんよ。隠れキリシタンの踏み絵じゃないんだから。
――むにゅん(左腕/上)。
「昨夜は初めて連弩も使ってみた」
と、頬を薄く赤色にしたミンユーが言った。
「あれ? 短弓の調子が悪いの?」
――むにゅん(左腕/下)。
「そうじゃない……。ミンリンさんの発表を聞いて、連弩兵も要になると思った」
「なるほど」
――むにゅん(左腕/上)。
「狙いの付け方や、効率良い挙動。実戦で使ってみないと、教えられないし、一緒に考えてもあげられない、と思った」
連弩は素人が矢を放てるようになるけど、ミンユー級になると、短弓の方が速くて正確だ。敢えてチェンジを求めることはしてなかった。
――むにんっ(背中/下)。
「発表された作戦もスゴいが、あの連弩もすごいな。我が主が作ったと聞いたぞ?」
と、アスマが賞賛する声音で言ってくれた。
「いやいや、俺は最初の最初だけ。仕上げたのはシーシだし、シーシが作ってくれた武器だよ」
――むにんっ(背中/上)。
「その最初を作れるのがスゴいではないか」
滑りが上に来た時、俺の耳に吐息をかけるのが流行りになってるんスか? とても、こそばゆくてムズムズしてしまう。
――くにっ(右腕/上)。
「アスマさん! お、お願いが……」
クゥアイがやっと声を出したと思ったら、顔を真っ赤にしたまま、なんのお願いだろう――?
2
お気に入りに追加
756
あなたにおすすめの小説
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。
異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!
マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です
病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。
ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。
「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」
異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。
「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」
―――異世界と健康への不安が募りつつ
憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか?
魔法に魔物、お貴族様。
夢と現実の狭間のような日々の中で、
転生者サラが自身の夢を叶えるために
新ニコルとして我が道をつきすすむ!
『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』
※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。
※非現実色強めな内容です。
※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。
男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)
@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」
このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。
「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。
男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。
「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。
青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。
ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。
「カクヨム」さんが先行投稿になります。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
俺だけ異世界行ける件〜会社をクビになった俺は異世界で最強となり、現実世界で気ままにスローライフを送る〜
平山和人
ファンタジー
平凡なサラリーマンである新城直人は不況の煽りで会社をクビになってしまう。
都会での暮らしに疲れた直人は、田舎の実家へと戻ることにした。
ある日、祖父の物置を掃除したら変わった鏡を見つける。その鏡は異世界へと繋がっていた。
さらに祖父が異世界を救った勇者であることが判明し、物置にあった武器やアイテムで直人はドラゴンをも一撃で倒す力を手に入れる。
こうして直人は異世界で魔物を倒して金を稼ぎ、現実では働かずにのんびり生きるスローライフ生活を始めるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる