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165.はにかみ会同(1)
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残念ながらまだ手枷を嵌めて連行されてきたアスマ達を席に着かせ、手枷を外す。
居並ぶ重臣たち。
ひと眠りした後、召集した【重臣会同】にアスマ達にも出席してもらった。
ただ、その多くは純潔の乙女でもあり、既にアスマ達3人と大浴場で面識を得ている。
初めて会うのは司馬兼剣士長のフェイロンさん、村長のフーチャオさん、兵士長のヤーモン、薬師のリンシンさんの4人。
けれど、ホンファから既に聞いていたであろうリンシンさんの表情は柔らかい。
俺が紹介し、アスマ達の想いを伝え、ジーウォの臣民として迎えること、アスマとラハマの2人に兵士団に加わってもらうことを諮った。
みんなが大きな反対をしない中、新司徒のスイランさんが静かに手を挙げた。
「私は既に、アスマ殿たちの人となりを知り、マレビト様に心服されていることにも得心がいっております。3人がジーウォの臣民となることに異存はございません」
と、スイランさんはアスマたちに目を向けた。
「しかし、剣士だった私の父は、北の蛮族……、いえ、貴国との戦で討たれて死にました」
初耳だった。俺がフェイロンさんに目で確認すると、静かに頷いた。
「けれど、父が斬った貴国の武人もおりましょう。長い歴史の中で積み重なった想いを乗り越えることは容易いことではありません」
アスマたちも、厳しい表情で頷いた。
「それでもなお……。ジーウォ公に登られたマレビト様の下でしたら、心をひとつに合わせられるものと、固く信じております。どうか、マレビト様のために、よろしくお願い申し上げます」
と、スイランさんが頭を下げると、アスマ達も深く頭を下げ、それに応えた。
その時、顎に手を当てたまま難しい顔をしていたフーチャオさんが、二カッと笑った。
「リヴァントのヤツらは、そう悪いヤツらばかりじゃねぇぜ」
え?
「俺は若い頃、アテもなく放浪の旅をしてたからな、リヴァントにも暫くいたことがある」
「なんと……」
と、アスマたちも驚きを隠せない。
「と言っても、隅っこの村だ。村の爺さん連中は、都の連中は腐ってるってボヤいてたな」
「お恥ずかしい話だ」
と、アスマが目を伏せた。
「まあ、都っていうのは、どこも似たり寄ったりだ。なあ、太保様」
シアユンさんは、黙ったままニッコリと微笑んで見せた。
「生きてりゃ、色々ある。ジーウォは元々、ただの荒れ地だった流れ者の街だ。生まれ育った者も、そんなに代を遡れる訳じゃねぇ。ゼロからでもイチからでも、人生を生き直すにはピッタリの街さ」
アスマが噛みしめるように、小さく頷いた。
「マレビト様が主となられて、ますますそんな街になってると思うぜ、俺はな」
重臣の皆さんも、それぞれに微笑みを浮かべて頷いてくれている。
フーチャオさんが、話を続けた。敢えて軽い調子で話しているのが分かる。
「人獣どもが現われて、半分以上がやられた。今のこの街で心に傷を負ってないヤツはいねぇ。皆、生き直さないと、やってられねぇんだ。リヴァントから来られたお三方。俺は歓迎するぜ。一緒に傷を背負って、生き直そうや」
フーチャオさんは立ち上がり、アスマに握手を求めた。
アスマはフーチャオさんの目をしっかりと見詰め、その手を強く握った。
――あれから24日。
木陰で白い犬を抱いたフーチャオさんと固い握手を交わした日のことを思い出していた。
フーチャオさんの握手には、なにか特別な力があるんじゃないかって思ってしまう。
アスマの目には、微かに涙が浮かんでいた。
ラハマとマリームも、そのアスマの背中を見詰めて瞳が潤んで見える。
スイランさんも少し目元を赤くし、フーチャオさんとアスマの握手をジッと見ている。
彼女たちの、いや、ここにいる皆のこれまでの人生を、どれだけ解っているか。そんなことは解ったつもりになる方が失礼だ。
ただ、今この時。想いをひとつに出来た。その一歩一歩を積み重ねていきたい――。
居並ぶ重臣たち。
ひと眠りした後、召集した【重臣会同】にアスマ達にも出席してもらった。
ただ、その多くは純潔の乙女でもあり、既にアスマ達3人と大浴場で面識を得ている。
初めて会うのは司馬兼剣士長のフェイロンさん、村長のフーチャオさん、兵士長のヤーモン、薬師のリンシンさんの4人。
けれど、ホンファから既に聞いていたであろうリンシンさんの表情は柔らかい。
俺が紹介し、アスマ達の想いを伝え、ジーウォの臣民として迎えること、アスマとラハマの2人に兵士団に加わってもらうことを諮った。
みんなが大きな反対をしない中、新司徒のスイランさんが静かに手を挙げた。
「私は既に、アスマ殿たちの人となりを知り、マレビト様に心服されていることにも得心がいっております。3人がジーウォの臣民となることに異存はございません」
と、スイランさんはアスマたちに目を向けた。
「しかし、剣士だった私の父は、北の蛮族……、いえ、貴国との戦で討たれて死にました」
初耳だった。俺がフェイロンさんに目で確認すると、静かに頷いた。
「けれど、父が斬った貴国の武人もおりましょう。長い歴史の中で積み重なった想いを乗り越えることは容易いことではありません」
アスマたちも、厳しい表情で頷いた。
「それでもなお……。ジーウォ公に登られたマレビト様の下でしたら、心をひとつに合わせられるものと、固く信じております。どうか、マレビト様のために、よろしくお願い申し上げます」
と、スイランさんが頭を下げると、アスマ達も深く頭を下げ、それに応えた。
その時、顎に手を当てたまま難しい顔をしていたフーチャオさんが、二カッと笑った。
「リヴァントのヤツらは、そう悪いヤツらばかりじゃねぇぜ」
え?
「俺は若い頃、アテもなく放浪の旅をしてたからな、リヴァントにも暫くいたことがある」
「なんと……」
と、アスマたちも驚きを隠せない。
「と言っても、隅っこの村だ。村の爺さん連中は、都の連中は腐ってるってボヤいてたな」
「お恥ずかしい話だ」
と、アスマが目を伏せた。
「まあ、都っていうのは、どこも似たり寄ったりだ。なあ、太保様」
シアユンさんは、黙ったままニッコリと微笑んで見せた。
「生きてりゃ、色々ある。ジーウォは元々、ただの荒れ地だった流れ者の街だ。生まれ育った者も、そんなに代を遡れる訳じゃねぇ。ゼロからでもイチからでも、人生を生き直すにはピッタリの街さ」
アスマが噛みしめるように、小さく頷いた。
「マレビト様が主となられて、ますますそんな街になってると思うぜ、俺はな」
重臣の皆さんも、それぞれに微笑みを浮かべて頷いてくれている。
フーチャオさんが、話を続けた。敢えて軽い調子で話しているのが分かる。
「人獣どもが現われて、半分以上がやられた。今のこの街で心に傷を負ってないヤツはいねぇ。皆、生き直さないと、やってられねぇんだ。リヴァントから来られたお三方。俺は歓迎するぜ。一緒に傷を背負って、生き直そうや」
フーチャオさんは立ち上がり、アスマに握手を求めた。
アスマはフーチャオさんの目をしっかりと見詰め、その手を強く握った。
――あれから24日。
木陰で白い犬を抱いたフーチャオさんと固い握手を交わした日のことを思い出していた。
フーチャオさんの握手には、なにか特別な力があるんじゃないかって思ってしまう。
アスマの目には、微かに涙が浮かんでいた。
ラハマとマリームも、そのアスマの背中を見詰めて瞳が潤んで見える。
スイランさんも少し目元を赤くし、フーチャオさんとアスマの握手をジッと見ている。
彼女たちの、いや、ここにいる皆のこれまでの人生を、どれだけ解っているか。そんなことは解ったつもりになる方が失礼だ。
ただ、今この時。想いをひとつに出来た。その一歩一歩を積み重ねていきたい――。
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