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162.司馬府の白黒(2)

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ヤ、ヤーモン……、したんだ……。

いや、とも思ってなかったけど、急に目の前のマッチョな短髪の青年が大人に見える。

「よ、良かったです……、よ」

と、ヤーモンは顔を赤くした。

フェイロンさんは少し遠い目をして、悲しげな微笑ほほえみを浮かべた。

「エジャは、良い女です」

……エ、エジャなんだ。お相手。あの柿色かきいろの髪をした、……豊かな膨らみの。

「ただ、エジャは恋人だった剣士を、第3城壁の陥落かんらく時に亡くしましてな……。気丈きじょうに振る舞っておりましたが……。親友だったヤーモンとむすばれるのなら、亡くなった剣士も浮かばれましょう」

そうか。エジャにも、そんなことがあったんだ……。

ヤーモンがんだんだ、あの膨らみ。とか、想像してたのをちょっと後悔した。

「今のこの城の状況では空虚くうきょひびくかもしれんが……、幸せにしてやれよ」

と言うフェイロンさんに、ヤーモンが力強くうなずいた。

「はい。中途半端な気持ちではありません」

「うむ。それでこそダーシャンの剣士。いや、ジーウォの兵士長よ」

「この闘いを勝ち抜いたあかつきには、結婚しようと約束しております」

「そうかそうか。ならば勝ち抜かねばな」

「はいっ!」

「ヤーモンとエジャの結婚のうたげで、浴びるほど酒をむことを楽しみとして、今晩もまわしき人獣じんじゅうどもを斬りまくろう」

俺はヤーモンの目を、ジッと見詰めた。

「いや。むしろ、スグにでも結婚しませんか?」

「え?」

「もちろん、ヤーモンとエジャの気持ちが一番大切です。でも、もし、お二人の気持ちが許してくれるなら、城の皆でお祝いさせてほしい」

フェイロンさんが「ふむ」と言って、口を開いた。

「なるほど。良いかもしれませんな」

「明日……、は無理にしても、明後日。明後日にも結婚式を挙げませんか?」

「いや、そんな急に……」

と、ヤーモンは目を白黒させている。

「もちろん、お二人の気持ちが大切です。よく話し合ってほしい。一生の大事ですから。ただ、今のこの城で、無条件にお祝いできる場は、必ず皆を勇気づけると思うんです」

ヤーモンの空気が変わった。ぐに俺の目を見詰め返している。

今は兵士たちをひきいる身のヤーモンだ。俺の意図がすぐに伝わったことが分かる。

元々は農民や商人やただのチンピラでしかなかった兵士たちは、決死の覚悟で毎晩城壁に立ってくれている。絶望しか見えないような人獣じんじゅうの大波に、はげまし合い、ふるい立たせ合い、なんとか立ち向かっている。

たとえ一瞬でも、絶望を忘れ、新しい門出を祝福する気持ちにめられたなら、おそおび疲弊ひへいした心をいやしてくれる時間になる。

「お二人をお祝いすることで、未来を考えられる。心をひとつにできる。お二人の必ず勝ち抜こうという気持ちを、もし良かったら、皆にも分けてあげてほしい」

俺はヤーモンに深く頭を下げた。

「マレビト様のお気持ちは、よく分かりました。頭を上げてください」

と、ヤーモンが言った。

「エジャと話をさせてもらってもいいですか?」

「もちろんです! エジャの気持ちを大切にしてあげてください。もしダメでも、俺はなんとも思いません! 結婚は、なにより二人のものであるべきですから」
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